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【独自取材】「SEIBU Kuala Lumpur(西武クアラルンプール)」湯谷社長に聞いた! 開業1周年の現在地 ジャパンラグジュアリーに“勝機”あり<前編>

2023年11月29日、マレーシア・クアラルンプールの一等地に出店した「SEIBU Kuala Lumpur(西武クアラルンプール、以下SEIBU KL)」は開業から1周年を迎えました。マレーシア随一のラグジュアリー百貨店として、マレーシア初出店のブランドを含む700以上のブランドを展開し、特に、国内初のラグジュアリーレザーセレクションや日本食のエッセンスを取り入れたプレミアムフードホールなどが高感度層から高い支持を受けています。また、マレーシア政府主導の大規模都市開発プロジェクト「The Exchange TRX(ザ・エクスチェンジTRX、以下TRX)」の目玉として出店し、利便性と話題性において群を抜いています。
今後の成長が期待される注目エリアに、日本の百貨店「SEIBU」の、前例のない初出店を実現した湯谷社長。激動の1年を終え、どのような課題や成果が見えてきたのでしょうか。クアラルンプールにおける商機や日本のカルチャー戦略について、日本企業がマレーシア進出を検討する際の参考となるよう、特別インタビューを実施しました。
●こちらはアパレルウェブ・イノベーション・レポートVOL.73の転載記事です。
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■今回はこの方に聞いた!
湯谷 信治氏
SOGO (K.L.) DEPARTMENT STORE SDN. BHD.
SEIBU MANAGING DIRECTOR
ゆたにのぶはる●1983年に「伊勢丹」に入社し、ヤング婦人服部に配属。バイヤーを経て1996年にマレーシアに出向しMD開発と店舗開発に携わる。2009年に現地法人社長に就任。2016年に海外事業部営業統括部長を経て、2019年に早期退職。同年に「SOGO KL」に入社し、マレーシ ア初となる「SEIBU Kuala Lumpur」の出店に携わる。2023年11月開業から現在に至るまで運営全体を統括。
SEIBU Kuala Lumpur公式サイト
■富裕層向け・日本食にビジネスチャンスあり
湯谷社長から見たクアラルンプールの印象・魅力とは?
湯谷氏:これまで、前職の「伊勢丹」時代を含め17年間マレーシアに滞在しています。初めてマレーシアへ出向した1996年当時には都心型の大型モールは存在していませんでしたが、1998年にマレーシアのランドマークといえる都市型高級モール「Suria KLCC(スリアKLCC)」が開業して以降、30年間で多くの大型商業施設が開発されました。モール競争が激化し、新しい価値を提供できないモールや小売事業者は淘汰されていきました。
2024年度AILマレーシア視察研修の様子。
湯谷社長直々に「TRX」と「SEIBU KL」館内を案内いただいた(編集部撮影)
マレーシア市場は、若くエネルギッシュで、変化が激しく挑戦しがいがあります。スピード感と実行力が非常に重要で、決定したことを即座に行動に移すことが求められます。投資環境においても将来性が見込まれ、失敗のリスクが比較的小さいことも魅力です。
大切なのは、私たちが現地に住み、働いている理由を常に考えること、そして、マレーシアにどう貢献できるかを意識して行動することだと考えます。現在、マーケットは成熟し競争は激しくなってきましたが、その中でも特に、富裕層向けのビジネスや日本食をはじめとする日本特有の文化や技術の提供に、新たなビジネスチャンスがあると感じています。
【モール概要】The Exchange TRX(ザ・エクスチェンジTRX)
「TRX」のメインイベントスペース(編集部撮影)
オーストラリアの世界的な不動産開発企業Lendlease(ランドリース)社とマレーシア政府が共同で進めた金融特区の開発プロジェクト。約28万㎡の広大な敷地に、オフィス・高層レジデンス・ホテル・ショッピングモールが一体となった、大規模な商業エリア。特に、ショッピングモールには、ハイエンドブランドを含む450のテナントが入居し、マレーシア国内でもトップクラスのラグジュアリーモールとして注目を集める。
【モール概要】SEIBU Kuala Lumpur(西武クアラルンプール)
「SEIBU KL」のメインエントランス(編集部撮影)
日本の「そごう西武」と商標使用契約を結び、現地資本100%で運営するマレーシア随一のラグジュアリー百貨店。4つの核となる主要カテゴリの他、100以上のエクスクルーシブブランドや国内初進出ブランドを揃え、特別なショッピング体験を提供している。
<SEIBU KLの主要カテゴリ>
1.ビューティー:国内最大規模の化粧品ブランドやハイエンドフレグランスを展開。
2.ラグジュアリー:宝飾品や高級レザーグッズを取り揃えたエリア。
3.ファッション:インターナショナルデザイナーズやコンテンポラリーファッションを展開。
4.プレミアムフードホール:日本のコンセプトやエッセンスを取り入れた食品エリア。
「SEIBU KL」の出店経緯について
湯谷氏:まず「TRX」の開発背景ですが、当初は多くのデベロッパーが参入を希望する期待値の高いプロジェクトでした。開発者は、同エリアが「クアラルンプールの中心地であること」「金融関連オフィスが集積していること」「高級ハイタワーレジデンスの開発が進んでいくこと」、そして、中国・シンガポール・インドネシアから「多くの観光客が訪れること」といった要素から、高い購買力を持つ市場に可能性が見込めると判断。そこで、「インターナショナル」「マレーシア初」「ラグジュアリー」をキーワードに、出店企業が募集されたのです。
「The Exchange TRX」と「SEIBU Kuala Lumpur」の基本データ
(湯谷氏提供情報より編集部作成)
そうした中で「SEIBU KL」の出店に至った経緯は、弊社が運営する百貨店「SOGO(そごう)」がすでにマレーシアに出店しており、前述したキーワードを満たす「SEIBU」ブランドでの新規出店を提案したことがきっかけとなりました。国際的なラグジュアリーブランドや日本のエッセンスを取り入れ、“高級百貨店”としての展開を提案しました。この方向性が開発者であるLendlease(ランドリース)社のモール構想と合致し、複数の応募企業の中から「SEIBU KL」が選定されました。
「SEIBU KL」の市場や「TRX」における位置付けは?
湯谷氏:東南アジア市場の大きな特徴は、日本のような「エリア(新宿・渋谷・銀座など)」基準ではなく、「モールマーケット」が主流であることです。10万㎡を超える施設には、ラグジュアリー・ファッション・スポーツブランド・レストラン・スーパーマーケット・映画館などが集約され、モール自体が一つの巨大市場となります。そのため、「どのエリアに出店するかで」はなく「どのモールに出店するか」が最も重要であり、モールのブランド力・マ ーケティング力・話題性が集客を大きく左右します。
マレーシア初出店の「Apple Store」(編集部撮影)
また、モールのブランド力を支えるのは、インターナショナルラグジュアリーブランド・アンカーテナント・セミアンカーテナント・飲食レストランの存在です。「TRX」では、インターナショナルブランドをほぼ網羅しています。アンカーテナントとして「国内初出店のSEIBU」、セミアンカーテナントとしてはカップルシートなどを備えた高級シアターやマレーシア初出店の「Apple Store(アップルストア)」などが入居しています。その中で「SEIBU KL」は 、ラグジュアリーモールの核として重要な役割を担っています。
■「SEIBU KL」のターゲット・カテゴリ戦略
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APPARELWEB INNOVATION LAB.|アパレルウェブ・イノベーション・ラボ
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