アパレルウェブ・イノベーション・ラボでは、イノベーターや有識者を招きビジネスインプットや“発見”をお届けする会員向けリアルイベントを定期開催。本企画では、イベントで得られたナレッジや交流会の様子をAIL編集部がレポートしていきます。
2025年3月のイベントテーマは、「超江戸社会から学ぶ、日本の在り方」。多くの企業が未来のあるべき姿を描きにくくなっている現在。江戸社会や、江戸町人のライフスタイルという独自の切り口から、未来の社会創造に活かせるヒントを解説していきます。また、企業経営においては、社会や環境の変化、AIなど最新技術の発展に踊らされることなく、「バックキャスティング」の思考法で長期的な経営ビジョンを描いていくことが重要です。
“どのような社会・企業を目指すべきか”といった未来ビジョンを描く手法について、生成AIや最新テクノロジー、江戸文化などの事例を交えてD4DR株式会社 代表取締役社長の藤元健太郎氏にお話いただきました。セミナーの要点と交流会の様子をお届けします。
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D4DR株式会社 代表取締役社長/コンサルタント藤元 健太郎氏による登壇の様子
■イベント登壇者プロフィール
藤元 健太郎氏|D4DR株式会社 代表取締役社長・コンサルタント
ふじもとけんたろう●野村総合研究所を経てD4DR株式会社代表。1993年からeビジネスに取り組み、広くITによるイノベーション、新規事業開発、マーケティング戦略、未来社会シナリオ作成などの分野でコンサルティングを展開。スタートアップ経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経Think!エキスパート・日経MJ・Newsweek日本版でコラム連載中。近著に『ニューノーマル時代のビジネス革命』(日経BP出版)。
D4DR株式会社コーポレートサイト
近年のAIの進化はまるで“カンブリア大爆発”
セミナー冒頭で、生成AIなどの技術進化について言及した藤元氏。ここ数年、AIシステムは、画像認識や音声認識といった機械学習の一種であるディープラーニング、翻訳機能やチャットボットにみられる自然言語処理、テキストや画像などの複数のデータを同時に処理するAIマルチモーダル学習など、目覚ましい発展を遂げています。
それらはすでに人間が理解し得る領域を超えているともいわれ、最近では、複数のAI技術を連携させた高度な「AIエージェント」を構成することで、より複雑なタスクをAI自らが判断し自律的に実行できるようになりつつあります。今後はロボットとAIが融合していくことで、古代カンブリア紀に発生した生物の大進化“カンブリア大爆発”に相当するような世界になる、と藤元氏は例えます。
実は、機械学習モデルの検証は1980年代にはすでに始まっていました。そこから、今は技術進化の過程で蓄積された膨大なデータが揃い、汎用AIを搭載したロボットの登場を経て、まさに未来の進化に必要なすべての材料が揃った状態だといいます。今後は“カンブリア大爆発”のように多種多様な進化がさらに爆発的に増えるだろう、と藤元氏は予測します。
バックキャスティングアプローチ 未来から考える現在とは
AI技術が進化すると同時に、求められる人材像も変化しています。現在は“注意深さ・ミスがないこと”“責任感・まじめさ”などが重視されていますが、経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」によると、これからは、“問題発見力”“的確な予測ができること”“革新性”などが一層求められるようになるといいます。そこで重要になるのが「バックキャスティングアプローチ」だと藤元氏は強調します。これは、未来の望ましい状態や目標を先に設定し、そこから逆算して現在何をすべきかを計画するという思考法です。
バックキャスティングアプローチとは、あるべき未来を描き、
そこから逆算して現在おこなうべき行動を決める手法(藤元氏登壇資料より引用)
最近では、中学校など教育の場においても、バックキャスティングアプローチが授業に取り入れられています。未来を“自分事”として捉えることで、勉強に取り組む姿勢が変わります。“教科書を読んで授業を受ける”という受動的な姿勢ではなく、“未来を考えることで能動的な学びを得る”ことができるのです。さらに、そこへAI学習を取り入れることで時間や場所に制限なく学べるようになります。
バックキャスティングアプローチの例をあげると、多くの著名なIT事業の経営者や投資家は、まだ実用化がされていない核融合発電事業へ投資を行っています。AIの普及により、膨大なエネルギーを必要とするITサービスと持続可能な未来社会の両立には、革新的な発電が不可欠だからです。
他にも、米国の起業家Elon Musk(イーロン・マスク)氏が創業した電気自動車「Tesla(テスラ)」の登場は、自動車業界に大きな衝撃を与えました。「Tesla」が採用した“ギガキャスト”と呼ばれる製造方法は、業界の常識を越えていたからです。イーロン氏は「Tesla」以外にも、有人宇宙船や衛星通信サービスなど、様々な事業を展開しています。ここに、イーロン氏によるバックキャスティングのアプローチが見て取れます。これは、同氏が描く“人類が持続可能であるために火星に移住する”という、未来の壮大なグランドデザインを実現するために、今でき得ることとして様々な事業を展開しているのです。日本でも3年の中期経営計画を廃止する企業も現れており、これからは10年後(長期)を見据えた経営計画がより重要になるでしょう。
中世の産業革命から生まれた工業化社会が終わりを告げ、IT革命や情報化社会が進行する現在。どのように次なる社会を想像していくべきでしょうか。藤元氏は、そのヒントは過去、特に“江戸社会”にあると提言します。
江戸町人のライフスタイルから学ぶ、セミパブリック空間
執筆者
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APPARELWEB INNOVATION LAB.(アパレルウェブ・イノベーション・ラボ)
アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)とは、ファッション・小売関連企業の経営層に向けて“イノベーションのヒント”を届けるため、アパレルウェブが2017年10月にスタートした法人会員制サービス。小売、メーカー、商社、デベロッパー、ベンダー企業など幅広い企業会員が集うコミュニティでは、各種セミナーや交流イベントを定期開催。メールマガジン、Webメディア、会員レポート冊子などを通じて毎週オリジナルのビジネスコンテンツを発信。