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AILイノベーションノートVOL.4|マリーナベイ・サンズ出店! アジア圏の富裕層を日本品質で虜にする「ミキハウス」
会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきたいと考えています。
第4回でご紹介するのは、日本のベビー・子ども服ブランド「ミキハウス」。同社は2022年末、シンガポールのランドマークとして名高い統合型リゾート「Marina Bay Sands(マリーナベイ・サンズ)」に東南アジア初の旗艦店をオープン。現地法人を立ち上げ、同社の最高級レーベル「ゴールドレーベル」を東南アジア地域で唯一展開しています。活気づく東南アジア圏への新たな挑戦について、三起商行株式会社マーケティング本部 マーケティング部 部長 加藤 浩二氏に取材しました。
加藤 浩二氏
三起商行株式会社(ミキハウス)マーケティング本部 マーケティング部 部長
2014年以来、ミキハウスのブランディング、ファンづくりの現場で様々な施策に取り組んできた。広告・販促・PR・オウンドメディア・公式SNSの責任者を務める一方で、妊娠出産を控えたマタニティさん向けのプロジェクトのエグゼクティブマネジャーも兼任している。また、年間150回を超えるプレママ・プレパパセミナーのメインMC。会社では軟式野球部に所属。最近の興味は「畑で野菜作り」。一男二女の父親。
「MIKI HOUSE」公式サイト https://www.mikihouse.co.jp/
「ミキハウス」マリーナベイ・サンズ店の外観
―今回、マリーナベイ・サンズへの出店はどのようなきっかけで実現したのでしょうか?また、シンガポール出店を今後の東南アジア向け施策においてどのように活かしていくのでしょうか?
加藤氏:
2022年9月頃、世界的に有名なマリーナベイ・サンズからお声がけがあり、弊社代表とグローバル部門のトップが即出店を決断しました。まさに、タイミングに恵まれましたね。現在「ミキハウス」は海外で約100店舗を展開していますが、その多くは代理商に運営を任せています。現地法人としては、アメリカ、ヨーロッパ、中国の一部出店にとどまり、積極的に現地法人化する動きはあまりありませんでした。
しかし、2019年に中国・上海にある「上海国金中心商場(IFCモール)」へ直営の旗艦店を出店したことをきっかけに、同様の店舗モデルでの出店希望が増えていったのです。なぜなら代理商にとっては日本における商品展開や商品陳列の仕方、高い接客のノウハウなどを身近に学べるチャンスが多くなり、それらがファンづくり、ひいては売上へと繋がっていくからです。その背景もあって、今後はマリーナベイ・サンズ出店と同時に立ち上げたシンガポール現地法人をハブに、東南アジアへの新規出店および世界中の富裕層に向けて「ミキハウス」の目指すブランディングを行っていきたいと考えています。
また、昨夏に「ゴールドレーベル」という最高級レーベルを立ち上げました。「ミキハウス」に新しいエッセンスを取り入れ、これからのメインターゲットであるアジアの富裕層向けに新レーベルを提案することで、どのような動きが見られるか楽しみですね。
「ミキハウス」マリーナベイ・サンズ店の店内のようす
日本品質を適正価格で提供し、生産工場に還元する。「ゴールドレーベル」にかける想い
―「ゴールドレーベル」について、このタイミングで高価格帯シリーズを手掛けたことにはどのような背景とこだわりがあるのでしょうか。
加藤氏:
海外モールへの店舗展開ですと、「ミキハウス」はハイブランドが並ぶフロアに出店します。しかし、ハイブランドフロアで、クオリティと付加価値ともにふさわしいアイテムを取り扱っているにも関わらず、商品価格が安く見合っていない現状がありました。日本では子ども服は安価で展開されることが多く、弊社も含め実際には生産工場側に調整をしてもらっているという現状があります。弊社では自社工場を持っていないので、協力工場にもきちんと還元していかないといけない。
今後は最高級レーベルの展開を通じて、日本の技術で良い商品をしっかりと作り、適正な価格で販売していくことが大切だと考えています。この数年で、このような考えに大きく変わり、実現したのが「ゴールドレーベル」ですね。「ゴールドレーベル」は海島綿やカシミヤ、シルクなど希少性の高い高品質の素材を使用していることもあり生産数に限りがあります。そのため、取り扱い店舗を限定することでさらに付加価値を訴求しています。
「ゴールドレーベル」希少性の高い「海島綿」でできたベビーウェア
「ゴールドレーベル」のダウンコート
―シンガポールをはじめ東南アジアの富裕層へアプローチするためには、どのような取り組みをしていますか? また、お客様の反応はいかがですか?
加藤氏:
ポップアップショップやウインドウでの商品展示などを丁寧に一つひとつ準備し、「ゴールドレーベル」商品に実際に触れていただくことで良さをお伝えしています。実際に使用してもらうと品質の良さを実感いただけるシリーズですので、商品の素材や特徴について詳しく説明することで、納得して購入いただいています。実際に店頭で購入した海外のお客様には、お子様にとって“良いもの“を購入できたことに大変喜んでいただいており、また東南アジアで唯一、マリーナベイ・サンズ店でしか買えないシリーズという”特別感“に満足いただいています。
「ゴールドレーベル」ではアパレル、シューズ、食器など幅広いアイテムがラインアップ。
店舗は国内外で約30店舗のみでの取り扱い(公式ページより)
「8は継続、2は新規」 新しいことを取り入れつつ継続することでリアルなネットワークを繋いでいく
―加藤さんは日本国内でもプレママ・プレパパ向けセミナーを主催されていますが、マリーナベイ・サンズ店でもイベント展開予定はありますか? どのようなイベント企画かお聞かせください。
加藤氏:
そうですね。まずはマリーナベイ・サンズに「ミキハウス」があること、そして、「ミキハウス」というブランドを知っていただきたいと考えていますので、現地イベントを通じて店頭に足を運ぶきっかけを作れたらと思っています。イベント内容としては、映像やスライドによるブランド紹介、スタッフの“推し商品”をディスプレイ、そして「ミキハウス」と言えば「シューズ」が人気ですので、足サイズの測定会など。日本の“縁日”みたいに、参加いただいたお子さまやご家族が笑顔で帰ってもらえるようなイベントにできたらいいですね。現地イベントを通じてお客様に実際にブランドに触れてもらい、コツコツと積み上げていくようなプロ―モーションを描いています。
また、イベントは継続して年に2回程度は開催したいですね。良いコンテンツであれば口コミやお客様同士の情報交換でどんどん広がっていきます。仕事もイベントも継続させることが会社単位でも個人単位でも非常に難しい。私は部署の中で“10あるうち8は継続で、2は新規”と心掛けていますが、継続が本当に重要だと考えています。イベント運営も、新しいことを組み込みながらチャレンジし、毎年ブラッシュアップしていきたいと思います。
―今後の海外出店計画について教えていただけますか?また、直営店展開の可能性はありますか?
加藤氏:
弊社ではまだまだ国内の百貨店が最も売上を作っていますが、実際には海外客の購入も多いです。付加価値の高いものを日本のみならず世界中のお客様へ提案するために、海外出店はより前向きに検討していきたいと考えています。また、中には“自国にミキハウスを持っていきたい”という想いで入社してくれる社員も多く、例えば、台湾出身の社員が総経理として自国である台湾に戻り現地法人の立ち上げを実現してくれています。ありがたいことにデベロッパーからのオファーも多くありますので、形態は問わずいずれ海外展開は広がっていくと思いますね。
「ミキハウス」がここまで大きく成長したのも、小売店や代理商の協力が大きいので、直営店については現時点ではあまり視野に入れていません。現地法人化することで、本社の意向を反映した店舗づくりや発信が可能になるので、本社で柱をしっかり据えながら、小売店や代理商と情報やモノの流れを相互に生み出していけるような連携体制をつくり、アジア圏への販売を強化していこうと考えています。
―御社の長年の海外実績は、まさに現地パートナー(代理商)との関係構築の上に成り立っているのですね。これから海外進出する国内ブランドへアドバイスがあればお聞かせください。
加藤氏:
現地パートナーとのやり取りで大事にしていることは、今後の会社の方向性をしっかりとお伝えすることと、コミュニケーションを大事にすること、大きくこの二点です。パートナー選定の際は、一緒に「ミキハウス」というブランドを育て、広げられるような関係を築いていけるのか、見極めています。共通認識を最初に築くことができれば、途中で意見がぶつかったとしても、互いに目標を再共有でき、ブレない良好な関係構築ができると感じています。また、国内外で代表、事業部長、現場担当者などポジションにこだわることなく、分け隔てない定期的なコミュニケーションを日々取っていることも、海外で実績を築いていく秘訣だと思います。
【編集後記】おわりに
今回は、出店が決定してから約3か月のスピードで海外出店に至ったという話を聞きつけ、その経緯や今後の展望を「ミキハウス」加藤さんにお聞きしました。冒頭では、加藤さんの実体験がきっかけでスタートし、10年近く継続しているという「プレママ・プレパパ向けセミナー」のお話も取材。加藤さんが子育てに入った際に、「おむつの買い方も分からなかった」「自社サイトでは子供服の会社なのに、子育てに関する情報が何もなかった」そんなご自身の経験があって、毎年「継続」することを大切にイベントを通じてお客様と繋がってきたといいます。今では、1度のセミナーに数百人が集まる回も。商品・イベントを通じて、ママやパパのお悩みに寄り添い一緒に子どもと向き合っていく、そんなブランドの姿勢が国境や文化を越えて愛される理由だと、取材を通して感じました。
今夏より、マリーナベイ・サンズ店でのイベントなどを本格的に始動していくとのことで、現地やイベントのようすは引き続きAILでも注目していきたいと思います。本編では触れられなかった、「プレママ・プレパパ向けセミナー」が誕生するまでの経緯や店舗イベントについては、後日、アナザーストーリーとして更新予定。乞うご期待!(AIL編集部 小川)
取材協力
三起商行株式会社(ミキハウス)
マーケティング本部 マーケティング部 部長 加藤 浩二氏
https://www.mikihouse.co.jp/
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