
生成AIを活用したショッピング体験が小売業界で広がっています。OpenAIはChatGPT上で商品発見に特化した「ショッピング リサーチ)」を発表し、「Target(ターゲット)」はChatGPT内に複数商品や生鮮食品の購入にも対応した公式アプリをローンチ。慎重なマインドが広がるホリデー商戦の最中、AIによる新たな販売チャネルに対する小売各社の動向を解説していきます。
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クイックサマリー
進むAIショッピング――ChatGPTの新機能「Shopping Research」
OpenAIは、ChatGPT上で新たなショッピング機能「Shopping Research(ショッピング リサーチ)」を開始しました。同機能は、ユーザーの好みやニーズに合わせて商品をオンラインで調査し、レビュー分析や比較検討迄行うAIエージェントです。
ChatGPT新機能「Shopping Research」による商品検討イメージ(OpenAI公式サイト内動画より)
同機能では、「300ドル以下のドレスを探している」「特定の人物へのプレゼント」といった質問を入力すると、予算、サイズ、優先事項などの条件がクイズ形式で提示され、ユーザーの選択・回答に基づいて、推奨商品や購入ガイドが生成されます。気に入った商品はスワイプで保存できるなど、インタラクティブな操作性も特徴です。
なお、「Shopping Research」は、「Amazon(アマゾン)」に出品されている商品情報をほとんど扱いません。これはOpenAIがウェブサイトのアクセス制御ファイル(robots.txt)を遵守する方針を示しており、Amazonが自社サイトへのAIクローラーのアクセスをブロックしているためです。
AI対応で分かれる小売業者 Amazonは非対応、WalmartやShopifyは積極連携
ChatGPT上でAmazon商品一覧を要求すると、「Amazonのライブ製品リストを表示できません」といった回答が表示されます。一方で、「Walmart(ウォルマート)」や「Best Buy(ベストバイ)」など他の小売業者の商品情報は豊富に上がってくるため、Amazonの制約による影響は限定的であると専門家は分析しています。
Amazonのように、外部AIエージェントによる介入を拒否し、自社AI「Rufus(ルーファス)」や自動購入機能の開発に注力する一方、「Walmart」「Etsy(エッツィー)」「Shopify(ショッピファイ)」などの小売業者では、ChatGPTとの連携を積極的に進めています。
OpenAIは、「特定パートナーを優遇せず、関連性と信頼性に基づき推奨する」と強調。品質に疑問のある格安越境ECサイト「Temu(テームー)」のようなサイトからの商品推奨は積極的に行わず、現在は“商品発見”に特化しているものの、将来的には決済機能との統合も視野に入れるとしています。
Target、ChatGPT 内に公式アプリ開設――複数購入や生鮮対応で差別化
米小売大手「Target(ターゲット)」は、OpenAIとの連携を強化し、ChatGPT上で動作する公式アプリのベータ版を公開しました。ユーザーはChatGPTと対話しながら、生鮮食品の購入、複数商品の同時購入、店舗受け取り(BOPIS)、配送方法の選択などが可能となります。
「Target」がChatGPT上にローンチした公式アプリのイメージ(Target公式プレスリリースより)
また、会員プログラム「Target Circle(ターゲット サークル)」とアカウント連携を行うと、好みや購入履歴にもとづきパーソナライズされたレコメンドの受取も可能となり、生成AIを活用した新たな購買体験の実現に取り組んでいます。
特に差別化となる機能が、「生鮮食品対応」と「複数商品の同時購入」です。同社が競合とする「Walmart」では、ChatGPTショッピング機能「Instant Checkout(インスタントチェックアウト)」と連携しているものの、あくまで単品購入が中心であり、それに対し「Target」では一歩先ゆく購買体験を提供しているといえます。
直近決算で1.9%の商品売上減となり売上減少が続く同社にとって、同アプリは売上の重要な回復策として位置づけられています。デジタル体験向上のための施策は喫緊の課題とされ、近い将来、「当日配送オプション」の追加など機能拡充が計画されています。
この取り組みについて同社CEO、Michael Fiddelke(マイケル フィデルケ)氏は、「ChatGPT上で最も柔軟な購買体験を提供する小売の一つになる」と述べています。また、CIO(最高情報責任者)、Prat Vemana(プラット・ヴェマナ)氏は、“数百万人が利用するChatGPTのような新興プラットフォーム上で顧客接点を築く重要性”を強調しています。ホリデー商戦を機にAIショッピング戦略を本格化させていく同社では、今後AIショッピングによる「商品発見」を、店舗での買い物と同じような手軽さで、友人との会話のように自然で楽しい体験として提供していくことを目指しています。
ホリデー商戦とZ世代――鍵を握る“AI×価値観”の変化
1年で最も盛り上がる米国のホリデー商戦が始まっていますが、今年は、消費マインドが慎重な傾向にあり、特にZ世代の動向が市場を左右しています。Deloitte(デロイト)の調査によると、全体消費が前年比10%減と予測される中、Z世代は34%の大幅な支出減が見込まれています。
2030年には購買力が12兆ドルに達するといわれるZ世代の心をつかむには「安さ」よりも「リアルなつながり」や「信頼性」の提供が不可欠です。彼らは実店舗体験を重視し、約7割が週1で店舗に足を運ぶ一方、リテールメディアやAIへの受容度も高く、6割以上が関連広告を許容、4割以上が商品検索にAIを活用しています。
Coca-Cola(コカ・コーラ)やGoogleなどがAIを用いたホリデー広告施策を展開するなど、企業側は「AI活用」と「価値観への寄り添い」を両立したアプローチが求められています。この潮流は、OpenAIやTargetが進めるAIショッピング体験の拡充とも強く連動します。Z世代が求める“効率・リアル・パーソナル”を満たせるチャネルとして、AIエージェントは今後さらに存在感を増していくでしょう。
AIを活用したCoca-Colaのホリデー広告(Coca-Cola公式YouTubeチャンネルより)
激化するAIショッピングの覇権争い
現時点でAIショッピングエージェントの利用は、対象国やユーザーによって限定的ですが、OpenAI、Perplexity(パープレキシティ)、Amazonといった巨頭企業が「デフォルトAIショッピングエージェント」の座を巡って競争を激化させています。今後、AIが独立系ブランドや小売業者にとっても既存チャネルに依存しない新販路として期待が高まっています。ホリデー商戦という最大の商機での、各社のAI活用動向に引き続き注目していきます。
参照:
https://openai.com/index/chatgpt-shopping-research/
https://www.modernretail.co/technology/openais-new-chatgpt-shopping-tool-promises-in-depth-research-just-not-for-amazon-products/
https://corporate.target.com/news-features/article/2025/11/target-chatgpt
https://www.marketingdive.com/news/target-launches-chatgpt-openai-app-multi-item-baskets-fresh-food/806051/
https://www.retaildive.com/news/gen-z-reshaping-holiday-marketing/805979/
執筆者
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