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配送に新たな選択肢と付加価値を 売り手・買い手・運び手の想いを繋ぐ「シェアバッグ®」を通じて「comvey」が目指すカルチャー形成【編集部独自取材】

AIL編集部
AIR Vol.69転載記事
執筆者

2024年注目トピックの一つ、物流の「2024問題」

 2024年4月1日以降、働き方改革法案によってドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限され、それによる関連問題が発生すると懸念されています。それらさまざまな問題の総称が物流の「2024問題」と呼ばれています。

 法施行の背景には、長年にわたって日本の代表的な社会問題の1つとされてきたドライバーの人手不足や、高齢化による労働力不足、EC市場の急成長による配送件数の増加など、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。その影響は、物流業界はもちろん、建設、医療、小売業界など幅広く波及すると言われています。

配送に新たな選択肢と付加価値を

 

 そこで、今回AIL編集部では、物流を“顧客接点”と捉え、新たな選択肢や付加価値を創出することでロイヤル顧客醸成のきっかけに繋げていく画期的なサービスを取材。

 「美しい物流をつくる」をビジョンに掲げる「comvey(コンベイ)」では、繰り返し使えるエコな梱包材「シェアバッグ」を独自に開発し、エンドユーザーやEC事業者に対して配送オプションへの新たな選択肢やオペレーションシステムを提供しています。

 サステナビリティの観点では、過剰梱包や梱包資材のごみ問題も物流業界が直面している課題です。では、売り手・買い手・運び手が無理のない持続可能な循環のもとで繋がっていける物流とはどのようなものでしょうか。「comvey」が目指す新たなカルチャー形成や事業展望について、代表取締役 梶田 伸吾氏(以下、梶田氏)に伺いました。

■今回お話を聞いた方

梶田 伸吾氏
comvey 代表取締役


かじたしんご●1992 年、タイ · バンコク生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、2016 年に伊藤忠商事入社。物流ビジネス部 · 物流物資部にて新規事業企画、事業会社出向等を経験。物流分野の課題解決に取り組みたいという想いから、2022 年 6月「comvey」を設立。
 
「comvey」公式ウェブサイト
「comvey」公式Instagram
お問い合わせ先:support@comvey.jp

 

comvey」の「シェアバッグ」とサービス利用イメージ

「comvey(コンベイ)」とはどのようなサービスでしょうか? サービス開発に至ったきっかけを含めて教えてください。

梶田氏:

 「comvey」では、繰り返し使えるエコな梱包材である「シェアバッグ」と、それを運用するオペレーションシステムを主にアパレルEC事業者向けに提供しています。

 「comvey」のシステムが導入されたECサイトでは、エンドユーザーは商品配送のオプションで「シェアバッグ」を選択することができ、商品を受け取り後、「シェアバッグ」は全国の郵便ポストに投函することで返却できる仕組みとなっています。「シェアバッグ」を選択いただいたエンドユーザーには現在1オーダーあたり250円のご負担をいただいていますが、ポスト投函による返送が完了すると、次回のショッピングで利用できる500円クーポンを配布しており、リピート購入を促すきっかけを醸成しています。

導入済のECサイトでは
「シェアバッグ」を選択し返却が済んだユーザーにクーポン券を配布

 

 サービス開発を思考したきっかけは前職時代にありました。物流事業に関わっていたのですが、B2Bの現場ではリターナブルボックスなどと呼ばれる再利用可能な梱包材が普及しているのに対し、B2Cでは段ボールなど使い捨ての梱包材の利用が一般的な常識となっていたのです。この違いに違和感を覚え、のちに再利用可能なB2C向け梱包材の活用事例をリサーチしていく中で、フィンランドで展開されている「RePack(リパック)」などを知りました。以降、再利用可能な梱包材の国内展開の可能性を探り始めていきました。

商品到着後、「シェアバッグ🄬」はポスト投函で「comvey」宛に返送する

 

 そして検討過程でポイントとなったのが日本の郵便ポストの存在です。国内の郵便ポストの数はコンビニの数よりも多いと言われ世界トップクラスです。加えて、これほど全国に点在し、たった数日で郵便物を回収できる仕組みは他に類を見ない非常に優れた物流網だと言えます。そのシステムを利用することで、日本でもB2C向けの再利用可能な梱包材事業を展開できるのではないかと考えるようになり、繰り返し使えるエコな梱包材の「シェアバッグ」や、提供に紐づくオペレーションシステムの開発、ビジネスモデルの構築に至りました。

事業者とエンドユーザーには、それぞれどのような利用メリットがありますか?

梶田氏:

 EC事業者は、「シェアバッグ」を導入することで配送中に発生する梱包ゴミを最小限に抑えることができます。段ボール回収時やゴミ焼却時に発生するCO2も削減できるため、脱炭素化に貢献することにもなります。

 調査機関に協力してもらい、段ボールを10回リサイクルする場合と、一つの「シェアバッグ」を10回繰り返し使う場合を比較したことがあります。その結果、「シェアバッグ」では85%以上もCO2排出量を削減できるという結果が出ました。加えて、「シェアバッグ」の導入で、リピート購入や売上の増加促進、物流の新たな選択肢を提供することによるエンドユーザーのロイヤリティ向上といった利点をブランドに促しています。

 一方、エンドユーザーにとっては、梱包材の開封や処理に対するストレスを軽減します。従来の段ボールと異なり、ハサミやカッターを使わずに簡単に開封ができる点や、段ボールや梱包材の解体·保管·ゴミ出しのストレスから解放される点も「シェアバッグ」活用時の大きなメリットです。事実、私たちが想像していた以上に、過剰な梱包に対するエンドユーザーのストレスは大きく、それを解消するために「シェアバッグ」を選ぶ方が多くいらっしゃいます。

二次元コードで「シェアバッグ🄬」を管理する

 

 また、「シェアバッグ」を追跡するための管理システムでは、バッグの二次元コードを読み取ることで、バッグを誰が持っているか、どこにあるか、同一のバッグが配送で何回使用されたか、といったトラッキング情報を管理できるようになっています。エンドユーザーにとっては、返送時に「シェアバッグ」に付属している二次元コードを読み取り、登録してから郵便ポストに入れる、というひと手間がありますが、自分の行動が地球環境に貢献していると実感できて嬉しい瞬間だといったお声をいただいています。

前職の物流の現場では、どのような経験が「comvey」のコンセプトに繋がったのでしょうか?

梶田氏:

 在籍の約6年間で現場からマネジメントまでを経験し、物流の本質と向き合う中で強く感じたことがあります。それはモノを運ぶだけの「機能的なサービス」と思われがちな物流が、実は人と人を繋ぐ、互いに想いを伝え合える「付加価値のあるサービス」だということです。ただ、現実の物流は、売り手と買い手と運び手の三者が協力し合っているように見えて、実はお互いの本当のニーズを汲み取れきれず、ミスコミュニケーションが生じている場面が多くあるのではないかと考えています。

 例えば、EC事業者は、エンドユーザーには安心して商品を受け取りたいニーズがあると考え、極力クレームも避けるために、過剰梱包で配送することが多々あります。実際には、それを喜ぶエンドユーザーもいれば、過剰梱包によって開封や開封後の梱包材の処理にストレスを感じてしまうエンドユーザーもいるわけです。

 物流に関わる三者が協力し合える仕組みづくりを、「comvey」の事業を通じて目指していきたい。「comvey」のビジョンである「美しい物流をつくる」という言葉は、三者が互いに通じ合っている状態を意味しています。

事業開発の中で直面した課題や、特にこだわった部分についてお聞かせください。

梶田氏:

 まず、このサービスを支えるオペレーションシステムは、郵便ポストを利用することで成立しています。そのため、前提として郵便ポストの内部で「シェアバッグ」が他の郵便物と干渉しないよう、日本郵便様とは何十回もの打ち合わせを重ね、アドバイスをいただきながら「シェアバッグ」の構造をミリ単位で調整して開発に取り組みました。また、「シェアバッグ」に使う素材自体も耐久性、防水性、軽さ、リサイクル性、質感などさまざまな観点でベストなバランスを追求しており、最終的には自社のプロダクトデザイナーの手によって「comvey」の目指す世界観をプロダクトに落とし込んでいます。

国内工場の高い技術にこだわって「シェアバッグ」を生産

 

 「シェアバッグ」の生地は、国産のリサイクル可能なポリエチレン生地を使用しています。一般的にポリエチレン生地は外国産が多い中、弊社では国産にこだわりました。その理由は、生地の生産過程で発生するCO2量や原料の詳細に責任を持ちながらトレーサビリティを実現するためです。数十回以上繰り返し使用された「シェアバッグ」が寿命を迎えたときには、生地の提供元である国内工場(萩原工業)でのリサイクル技術を活用してペレット状に加工し、再生ペレットの一部をまた原料に混ぜ新しい「シェアバッグ」を再製造する、リサイカブルな仕組みも構築しています。

寿命を迎えた「シェアバッグ」はペレットに戻り、再び新しい「シェアバッグ」に生まれ変わる

社会貢献に参加するきっかけを作る

導入企業やエンドユーザーからはどのようなお声がありますか?

梶田氏:

 実際に弊社のサービスを導入いただいているEC事業者様には「SDGsやサステナビリティの価値観をエンドユーザーに押し付けるのではなく、あくまで選択肢を提供して自らの行動を促すことができる点が良い」と評価をいただいています。

 2023年5月にサービスを開始して、現在アパレルブランドを中心に3つのオンラインストアに導入いただいており、購入者の約20~30%が「シェアバッグ」を選択している状況です(2024年3月時点)。ユーザーアンケートを実施していると、「シェアバッグ」の選択理由として、クーポンによるお得感だけでなく、梱包ストレスを軽減できる点や気軽にSDGsに貢献できる点を挙げる方が多くいらっしゃいます。SDGsという言葉はよく聞くけれど、なかなか参加するきっかけがないという方にとって、買い物をするときに「シェアバッグ」を選ぶだけで自分も良い取り組みに参加できる、それが嬉しい、楽しいといった声をいただいております。

 「シェアバッグ」のクーポンは一般的なセールクーポンとは性質が異なり環境保護に協力いただいた御礼として配布し、自然な形でリピート購入に繋げられることもメリットです。

パレル ECサイトを中心に導入ブランド数を拡大中

 

今後描いている事業展望について教えてください。

梶田氏:

 まずは「comvey」のビジョンに共感いただいた事業者様と共にサービスを拡大していくことが第一です。毎月届く商品の梱包材として、既存の梱包材の代わりに「シェアバッグ」を使っていただくことで、事業者様にとってはコスト削減、CO2排出量の削減、物流倉庫のスペース確保にも繋がります。幸いなことに直近では新たに5、6社ほどの事業者様への導入も決まっています。

 まだ構想段階ではありますが、その他いくつかの新たな試みも検討しています。例えば「シェアバッグ」をECサイトだけではなく、実店舗でも使えるようにする。ECサイトで「シェアバッグ」を選んでいただくと、実店舗限定のクーポン券がもらえるといった実店舗への送客効果を高められるような施策も実施していきたいと考えています。また、アパレルECに限らず、アパレルやコスメのレンタルやサブスクリプションを展開している事業者様との提携も検討中です。

「シェアバッグ」を通じて、配送に新たな選択肢と付加価値を提供する

 

 現代の物流課題の一つは、事業者側が配送時のクレームリスク(例えば物流過程における商品破損など)に対して必要以上の不安を持ってしまい、本来ユーザーがもつ物流に対する潜在ニーズが置き去りになってしまっていた点です。これからは事業者側が、ユーザーに対して新たな物流の選択肢を提示することで、エンドユーザーが共感し、自発的に行動していける環境を創っていくことが重要ではないかと思います。

 また、最近のトレンドとしてCO2排出量の「見える化」に注目が集まりがちですが、それだけではなく、人々の行動様式に影響を与え、生活のワンシーンを変えていくことができるような、実態のある取り組みが必要だと思います。それはすなわち、新たな文化をつくっていくことでもあると思います。私たち「comvey」は自分たちの存在意義を「文化を創造する集団」と位置付け、物流を起点に売り手·買い手·運び手を繋ぎ、これからの社会に必要とされる文化をつくり、それが定着することを目指して事業を展開していきたいと思います。

【編集後記|まとめ】物流の「2024問題」を起点に考える新しい物流の付加価値

●ポイント●

自社の物流コスト、配送料金体系の見直しに加えて、サステナブルを起点に、
エンドユーザーに新たな物流の選択肢を与えることで付加価値をもたらす

 物流の「2024問題」において、とりわけ小売業界で議題として上がるのは、B2B間の資材配送のリードタイムの増加、物流コストの増加、B2C向けの配送日数の増加などがあるでしょう。EC事業者にとっては、配送料や配送オプションの見直しなど、顧客接点における改革が求められるかもしれません。法改正はすべての事業者にとって均一に課される課題ではありますが、自社の顧客に対していかに納得感のあるサービス説明を提供できるか、特に顧客コミュニケーションにおいても今後柔軟な対応が求められるでしょう。

 2024年1月1日、楽天グループが「急がない便(現時点では仮称)」の導入を検討したことが報じられました。これは運営するネット通販「楽天市場」での購入品の配達において、セール期間中に通常より遅い配達日を指定したエンドユーザーに対して一定の楽天ポイントを付与するサービスです。

 上記例は、「“一刻も早い配送”を希望していない潜在的エンドユーザーがいる」ことを示唆しているといえるでしょう。物流の「2024問題」がもたらす諸影響を緩和させるために、各社が配送オプションに関するエンドユーザーのリアルな意見や声を集め、新たな選択肢を設けることが今後は求められていくかもしれません。

執筆者

  • APPARELWEB INNOVATION LAB.(アパレルウェブ・イノベーション・ラボ)

    アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)とは、ファッション・小売関連企業の経営層に向けて“イノベーションのヒント”を届けるため、アパレルウェブが2017年10月にスタートした法人会員制サービス。小売、メーカー、商社、デベロッパー、ベンダー企業など幅広い企業会員が集うコミュニティでは、各種セミナーや交流イベントを定期開催。メールマガジン、Webメディア、会員レポート冊子などを通じて毎週オリジナルのビジネスコンテンツを発信。

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