米百貨店「Macy’s(メイシーズ)」は、2024年に50店舗を閉鎖し、今後3年間で150店舗を閉鎖することを発表しました。Business Insider(ビジネスインサイダー)社の集計によると、米国では少なくとも13の小売企業が2024年内に店舗閉鎖を発表しており、その数は最大で計2,055店舗に上るといいます。大手小売業者である「Walmart (ウォルマート)」などが拡大を続ける一方、小規模小売店の閉店が相次いでおり、今後5年間で米国の小売店は45,000店舗が閉鎖される可能性があると予測されています。
厳しい店舗運営や消費のデジタルシフトが進む中、長期の賃貸契約や高額な店舗設計費用など、進化のない店舗開設や運営プロセスに注目したのが、2018年にシカゴで創業したスタートアップ企業「Powered by LEAP(パワード・バイ・リープ)」です。同社は2023年に1,500万ドル(約23億円)の追加資金調達を受け、現在、シカゴ、ニューヨーク、サンフランシスコなど米国10都市に約100店舗を展開しています。
「Powered by LEAP」の何が新しい?
「Powered by LEAP」公式サイト
「LEAP」は、“実店舗をECのように運営する”ことを掲げ、RaaS(Retail asa Service)型プラットフォーマーとしてAIなどを駆使した数百万に及ぶ緻密なデータ分析に基づき、店舗運営に必要な不動産情報、内装、システムツール、人材などを、小売ブランドに提供しています。
ターゲットは新鋭D2Cブランドから「M.M.LaFleur(エムエムラフルール)」といったハイブランドまでさまざま。「LEAP」を利用することで、認知度向上や新規顧客獲得といった事業成長によりフォーカスすることができます。さらに「LEAP」では、リース契約が不要のため、初期費用を75%削減し、最短 3 か月で米国の一等地に店舗を立ち上げることが可能となります。
「LEAP」の利用方法については、まず公式サイトの「Find Spaces(物件検索)」から、賃貸可能な物件を選びます。興味のある物件を選択すると、それぞれの物件概要にはフロア面積や年間客足、世帯年収などの買い物客のデモグラフィック情報が記載されています。出店費用を知りたい場合は、ブランドサイトや年間収益を含む情報を提出した上での問い合わせが必要で、契約には一定の審査があることが推察されます。
「Find Spaces」よりリース可能な物件が確認できる(「LEAP」公式サイトより)
「LEAP」最出店エリア:ニューヨーク・ブリーカーストリートを訪問 ローカルに溶け込みエリア一帯を活性化
ニューヨーク・ウエストビレッジエリアのBleecker St.(ブリーカーストリート)。
奥方に「LEAP」による店舗がストリート沿いに約11店舗並ぶ(2024年10月撮影時、編集部撮影)
2024年10月、AIL編集部ではニューヨーク視察の一環で、「LEAP」による出店ブランドが集まるウエストビレッジエリアのブリーカーストリート沿いの「クラスター」を視察。ここでは、11ブランドの店舗を見て回りました。エントランスに「Powered by LEAP」の表記があることが特徴です。
出店ブランドのジャンルは多岐にわたり、ナチュラルフレグランスの「NEOM(ネオム)」、アクティブウェアの「SET Active(セットアクティブ)」、ゴルフブランドの「REDVANLY(レッドバンリー)」などが並びます。店舗の内装は「LEAP」が手掛けており、それぞれのブランドの世界観をよく表現した空間となっています。
「LEAP」による出店ブランドのエントランスドアにある「Powered by LEAP」の表記が目印
「NEOM」の外観と内観
「SET ACTIVE」の外観と内観
ランジェリーブランド「hanky panky(ハンキーパンキー)」の外観と内観
AIL編集部では、ビーズアクセサリーの「Little Words Project (リトルワーズプロジェクト)」で試しに購入体験。決済時はメールアドレスを入力し、レシートメールを受け取った後に自動的にメルマガが配信され、購入した店舗周辺の他の「LEAP」ブランドの紹介が送られてきました。「ブランド同士を繋ぐ“クロスポリネーション戦略”(蜂が異種の花に蜜を運ぶこと)」をポイントとする同社ならではの追客・集客メールマーケティングが展開されています。
また、店舗スタッフは基本的に「LEAP」からの派遣ですが、店舗を訪れているブランドのファウンダー兼CEOに店頭で出会えることもあり、そうした“期間限定”の店舗ならではの「新しい購入体験」が得られます。「Little WordsProject」は「LEAP」出店の2か月間で3,500人を超える新規顧客を獲得したといい、「LEAP」では、店舗を訪れた買い物客の85%以上が新規顧客で、そのうち16%が複数の「LEAP」店舗で買い回りをしたというデータもあります。
「Little Words Project」の店頭で出会えたブランドファウンダー兼CEOのエイドリアーナ氏
購入したノートに、気さくにサインとメッセージを書いてくれた(編集部撮影)
2年間で6店舗出店、店舗顧客の50%が新規 「LEAP」活用で驚異的な成長を遂げた「Frankies Bikinis(フランキーズビキニ)」
2012年にビキニD2Cブランドとして米国カリフォルニアで創立して以来、著名人とのコラボレーションなどを通じて人気を集め成長を遂げてきた「Frankies Bikinis(フランキーズビキニ)」。「LEAP」公式ブログによると、同ブランドは「LEAPと提携する前は、実店舗の開設に1~2年要していたが、LEAPが持つ小売店舗ネットワークやローカル市場のデモグラフィックのおかげで、同期間に計6店舗をオープンすることができた」といいます。
さらに、出店エリアの選定について、当初は、発祥の地であるサンフランシスコと程近いマリブが最適という分析結果となりましたが、そこからさらに「LEAP」のファーストパーティデータや市場分析により、対岸のニューヨークの流行の先端の地であるソーホーエリアにも適性があると判明。その結果を受け、賃貸契約を結んでからわずか 2 か月でソーホー店を開店したことで、効率的にいち早く市場参入できただけでなく、店舗の収益化も早まり、総売上のかなりの割合を実店舗が作り上げるような成果を遂げたといいます。
このように「LEAP」では、緻密なデータ分析によってブランドにとって最適な出店エリアや不動産を提案することで、ブランドの出店リスクを最小限に抑えた上での一等地への出店を実現しています。
「Frankies Bikinis」2年間の実績(公式ブログより参照)
- ✅マリブ、マイアミ、シカゴ、ベニス、ウエストビレッジ、ソーホーの一等地に計6店舗を展開
- ✅さらに数店舗展開を検討中
- ✅店舗顧客の50%以上が新規顧客
- ✅ピーク月の売上高は前年比30%増
- ✅実店舗の小売スペースが500%増加
「LEAP」では、公式サイトやメールマガジンを通じて、エリアごとに現在出店しているブランドリストをチェックすることができます。恐らく、最短で四半期ごとにリース契約ができる仕組みであることから、出店ブランドやリース情報は常に鮮度高くアップデートされています。ニューヨークを訪れた際には、是非一度、視察に訪れていただきたいリテールテックの取り組みの一つです。
参照:
https://www.leapinc.com/
https://www.businessinsider.com/stores-closing-in-2024-list
https://www.leapinc.com/blog/reimagining-brick-and-mortar-why-physical-retail-should-operate-more-like-e-commerce
https://www.leapinc.com/blog/how-frankies-bikinis-opened-6-retail-stores-in-2-years-with-leap
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APPARELWEB INNOVATION REPORT Vol.72 <2024 WINTER>
AIL in NYC 2024 Report 米国小売の4つのトレンドをみた 時代はオウンドリセールへ!
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