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【マーケットアイ vol.4】業界人が麻布台ヒルズに行くべき5つの理由
2023年11月24日に森ビルが開発した麻布台ヒルズが開業しました。「35年かけた開発」「日本一高いビル」「桁違いに高額なレジデンス」などで形容される同施設ですが、SC業界や流通業界にとってどのようなインパクトを与えるのでしょうか。本記事では、ここに行くべき5つの理由をお伝えし、商業史、SC史にどのように名を刻むのかを考察したいと思います。
本記事は株式会社アパレルウェブが運営するファッションポータルサイトapparel-web.comの転載記事です。
グリーン&ウェルネスに沿った環境作り
©Courtesy of Mori Building
まず驚くのが、8.1ヘクタールという敷地の広さです。六本木ヒルズの方が11.6ヘクタールと広いのですが、麻布台ヒルズの方が広く感じます「グリーン&ウェルネス」に沿った公園のような開けた風景だからでしょう。実は延床面積は六本木ヒルズより広いのですが、それは日本一高い超高層ビルがあるから。
この公園のようなSCづくりというのが今の日本のSCトレンドでもあります。その始まりは立川のグリーンスプリングスや渋谷のレイヤード宮下パーク。大阪のウメキタ開発も公園のような作りとなる予定です。大都市の中心地開発に緑地を大胆に入れるというのは自治体からも求められており、今後さらに増えていくでしょう。日本のSCの歴史のエポックとなる事例と言えます。
地上と地下のハイブリッド
麻布台ヒルズは地上と地下のハイブリッドでもあります。ハイブリッドモールとはエンクローズドモール(屋根のある箱型)とオープンモールを組み合わせたモールの類型ですが、麻布台ヒルズは豊かな緑の庭園の下に商業施設が広がっています。神谷町駅直結の地下からは食物販や軽飲食のフロアを抜けて、別区画に行くこともできますし、地上のプロムナードを歩きながらラグジュアリーブランド(来春オープン)を眺めながら行くことができます。
六本木ヒルズも地下を抜けて移動できますが、ほとんどが駐車場。また、レイヤード宮下パークは屋上を公園にしていますが、このように地下と地上でまるっきり異なる商業ゾーンをつくり上げている例は珍しく、新たなハイブリッドモール事例として伝えられていくようになると思います。
トーマス・ヘザヴィックがデザインした低層階
©Courtesy of Mori Building
トーマス・ヘザヴィックは米ニューヨーク・ハドソンヤードの巨大アートで今は新名所となった「ヴェッセル」をデザインした旬のデザイナーです。それ以外も、プランターとビルディングを一体化した上海のビル「1000 Trees」、ニューヨーク・マンハッタンの桟橋のプロジェクト「リトルアイランド」などで知られ、「自然と場所の関係性を考える」というアプローチで知られています。
森ビルのオウンドメディアHILLS LIFEのインタビューでは「グリッド状のトレリス(柵)やパーゴラ(つる棚)のような構造を取り入れ、そこに植物を植えるというアイデアです。低層部のルーフトップやファサードを含む敷地全体を緑化し、広場から続けて建物の上と下を歩き回ることができたら素晴らしいのではと考えた」と答えています。
神谷町駅から地上に上がるとすぐに現れるのが独特の造形。それらを眺めながら歩くと広場やラグジュアリーブランド、寺院などがあり、まさに新しい街の誕生を感じさせます。環境保全をベースに個性的なデザインを生み出す彼が手がけるSC開発は世界でますます増え、その中でもこの麻布台ヒルズは代表作となるでしょう。
ファッションテナントはSCのコンセプトを司るコアな存在に
TSIホールディングの「ルフィル」
ラグジュアリーブランドがまだオープンしていない現在は、タワープラザの2階にファッションテナントが集約されています。だからといって物足りなさはありません。なぜならそのフロアで一つのライフスタイルとファッションスタイルをまとめているからでしょう。
一言で表すなら「上質な大人」に特化したファッションです。出店企業はユナイテッドアローズ、TSIホールディング、アバハウス、トゥモローランドなど駅ビルやファッションビル開発では外せない企業ばかり。それらが新業態や新たな編集で出店しています。小属性の一点突破ともいうべき戦略です。
そして他フロアや他区画も食やインテリア、飲食などもブランディングを強め、ファッション化して全体での統一性を図っています。ファッションテナントは商業施設のメインプレイヤーでなくからコンセプトを司るコアな存在になったとも言えそうです。
非効率への挑戦
ここまで4つの理由を挙げてきましたが、何より注目したいのが「非効率への挑戦」でしょう。「迷いやすい導線」、「駅から一番遠い区画に物販集積」、「五月雨式のテナントオープン」、「同業種集積を求めないテナントミックス」・・・既存の商業施設のセオリーからすると掟破りのことばかりです。
これまでは「市場シェア主義」から始まり「効率主義」「収益主義」と重要指標を替えながら商業施設は進化してきました。今回は環境保全という大テーマを掲げ「非効率が生む新たな価値」というものに挑戦しているように見えます。
物販は最も神谷町駅から離れたタワープラザに集積
唯一のスポーツブランド「ルルレモン」 Courtesy of ululemon
ラグジュアリーは来春オープン
これらの掟やぶりを、「日本を代表する企業による開発」、「富裕な足元商圏」、「日本一高いビルをはじめとする名所づくりと観光客誘導」、「インバウンド増加」などの強みと機会を生かして、商業史の新たなページを開くことを期待したいと思います。
執筆者
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山中 健|Takeru Yamanaka
株式会社アパレルウェブ コンサルティングファーム主席研究員、apparel-web.com編集長
大手百貨店、外資系ブランドメーカー、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。アパレル業界を中心に、雑貨などのライフスタイル、百貨店、SCなど、幅広い業態に対しマーケティングやMD、リテール、海外進出のコンサルティングを手掛ける。トレンド分析、市場調査、戦略策定などのマクロなテーマから、個店支援、研修などの現場へのブレイクダウンまで様々なテーマのコンサルティングに対応可能。また、欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にapparel-web.com編集長就任。