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OpenAI × Stripe × Etsy、そしてShopifyも ――「Instant Checkout(インスタント チェックアウト)」が示すエージェントコマースの本格始動

ニューヨーク・ファッションウィークが一段落する頃、街のスーパーマーケットにはハロウィン用の巨大なかぼちゃやお菓子が並び始めます。それと同時に、ホリデーショッピングの兆しを街中で感じ始めるのは、すでにマーケットが次の商戦期を見据えて動き出しているからかもしれません。
新機能「Instant Checkout(インスタント チェックアウト)」 ChatGPTで“そのまま購入”できる新体験
OpenAI(オープンAI)は、米国時間10月1日、チャット画面上で商品の検索から購入まで完結できる新機能「Buy it in ChatGPT(バイ イット イン チャットGPT)」を正式に発表しました。
この発表によりChatGPTは、日常的な“検索・発見ツール”から“購買の起点”へと進化しようとしています。その第一歩として、Stripe(ストライプ)と共同開発した「Agentic Commerce Protocol(エージェンティック コマース プロトコル)」を活用し、チャット画面上で商品を直接購入できる「Instant Checkout(インスタント チェックアウト)機能を米国で提供開始しました。
EtsyからShopifyへ、広がる“AI購買エコシステム”
まずは米国内の「Etsy(エッツィー)」セラーの商品購入からスタートし、今後は「Glossier(グロシエ)」「SKIMS(スキムズ)」「Spanx(スパンクス)」「Vuori(ヴオリ)」など、100万を超えるShopify(ショッピファイ)出店マーチャント(販売事業者)へと拡大される予定です。現在は単品購入のみ対応ですが、複数商品をまとめ買いできるカート機能や、対象地域・販売者の拡大も計画されています。
さらに、「Instant Checkout」を支えるコマース基盤「Agentic Commerce Protocol」はオープンソース化され、より多くのマーチャントや開発者が利用できるようになります。
筆者が年明けに参加した「NRF Retail’s Big Show 2025(NRF リテールズ ビッグ ショー)や、各種ビジネスイベントでも、“エージェント・コマース”は何かと注目を集める話題でした。多くの人が日常的に利用しつつある「ChatGPT」は、レコメンドから購入・決済までを一気通貫で実現する新たな購買プラットフォームへと進化しています。
OpenAI公式YouTubeチャンネルより
実際にEtsyで「Instant Checkout」機能を試してみた
支払い方法は、クレジットカード、Apple Pay、Google Pay、Link by Stripeから選択可能。購入後は販売者から確認メールが届き、アプリ内で注文状況も確認できます。
STEP.1|チャットで商品の提案を依頼
筆者が尋ねると、「ChatGPT」は「Etsy」上の高評価商品を提案。
-筆者:“Can you find high rated Gingerbread house embroidery pattern on Etsy?(エッツィー上で、評価の高いジンジャーブレッドハウスの刺繍の図柄を探してください)”
-ChatGPT:“Yes – here are a few high-rated Gingerbread house embroidery / cross stich / machine embroidery pattern I found on Etsy. (high rating means lots of positive reviews(はい、これらがエッツィーで探したいくつかの評価が高いジンジャーブレッドハウスの刺繍、クロスステッチ、機械刺繍の図案です)”
STEP.2|検索結果には筆者好みの提案がなく、質問を変更して再検索
-筆者:“How about Christmas tree embroidery at Etsy(例えばクリスマスツリーの刺繍をエッツィーで探してみてくれる?)”
–ChatGPT:検索結果(画像)
筆者が実際に購入してみた商品
STEP.3|チャット上の「Buy」ボタンで購入完了
表示されたおすすめのクリスマスツリーの刺繍の図案の中から購入したいものを選択すると、「Etsy」に出品されている商品詳細ページが表示され、「Buy(購入)」ボタンが確認できました。チャット上の「Buy」ボタンをクリックすると決済画面へ進み、決済方法を選択して完了。購入完了画面が表示され、登録しているメールアドレスにも購入完了メール通知が届きます。
年末商戦期に向けて広がる、新たな購買体験の可能性
10月中旬時点では、「Instant Checkout」機能は米国のみ、かつマーチャントも米国拠点に限定されています。現状は1取り引きにつき1点の商品購入ですが、将来的には複数商品の同時購入に対応されていくようです。
たとえば“I’m looking for lip gloss from Glossier(グロシエのリップグロスを探しています)”と検索すると、「Glossier.com」「Sephora(セフォラ)」「Kohl’s(コールズ)」などの購入選択肢が表示されます。現段階ではBuyボタンではなく、「Visit(サイトへ)」ボタンが表示され、外部サイトへ誘導される形ですが、「Instant Checkout」の対象ブランドが増えれば、購買動線はさらに短縮されるでしょう。チャット上で自身の言葉で商品検索し、それに対して求める情報が提案され、「Apple Pay」などの使い慣れた決済方法で買い物が完了できれば、大変便利な印象です。
今後、「Shopify」のすべてのマーチャントで同機能が利用可能となった場合、ブラックフライデーやサイバーマンデー、そしてホリデーショッピング(年末商戦)といった年間最大の販促イベントの時期に、どこまで利用が拡大するかが注目されます。ご存知の方も多いと思いますが、「Shopify」では毎年「BFCM(ブラックフライデー・サイバーマンデー)」期間中に、世界中の売上をリアルタイムで可視化するライブマップを公開しています。2024年度は、総売上高に加え、トップ商品カテゴリーや販売トップ都市、「Shopify Pay(ショッピファイ ペイ)」の利用率といった複数のデータがハイライトとして報告されました。もしこの「Instant Checkout」が「BFCM」に合わせて本格稼働すれば、新たな購買データが業界の注目指標となる可能性があります。
次回NRF2026 世界最大の小売の祭典にShopify CEOが登壇予定
2026年1月、ニューヨーク・マンハッタンで開催されるエキスポ&カンファレンス「NRF Retail‘s Big Show 2026」では、ShopifyのCEO、Harley Finkelstein(ハーレイ フィンケルスタイン)氏の登壇が予定されています。セッションの内容は未定ながら、あくまで筆者の期待ではありますが、今回のエージェント・コマースに関連したテーマで、「Glossier」「SKIMS」などの人気ブランドとの豪華対談が実現されるかもしれません。もしNRFの場で「Instant Checkout」の最新動向が発表されるとすれば、それは“エージェント・コマース元年”の象徴的な瞬間となるでしょう。
NRF:2026 Retail’s Big Show 概要
開催期間:2026年1月11日(日)〜13日(火)
会場:ジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センター(ニューヨーク)
主催:National Retail Federation(全米小売業協会)
公式:https://nrfbigshow.nrf.com/
関連イベント:【AIL主催】NRF 2026 & NY小売市場視察ツアー| 世界最大の小売カンファレンスと最前線リテールを体感
執筆者
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RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG