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一夜でNVIDIA(エヌビディア)から90兆円を奪った! “中国版OpenAI”「DeepSeek(ディープシーク)」とはいったい何者?

ケルビン・アウ
AIL編集部により一部編集
執筆者

 2025年1月27日、NASDAQ(ナスダック)株式市場では、わずか一日で100兆円近くの市場価値が蒸発する事態が発生しました。中でも半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)社の株価は、近年の同社の最大値である17%下落を記録。一夜にして、AI・半導体関連のテック業界がパニック状態に陥りました。この予期せぬショックを起こしたのが、忽然と現れた“中国版OpenAI(オープンAI)”と呼ばれている大規模言語モデル(Large Language Model=LLM)の「DeepSeek(ディープシーク)」です。

 

オープンソースの「DeepSeek」のブラウザトップ画面。中国語では「深度求索」

 

 「DeepSeek」はなんと創業わずか2年。なぜ、無名だった中国のAI企業が、一晩にして世界のテック業界を震撼させたのでしょうか。その理由を簡単に説明すると、以下の4点が挙げられます。なお、以下の箇条書きは、情報元を参考に「DeepSeek」自体を利用して、「ポイントを分かりやすく解説しまとめて」もらった文章です。

「DeepSeekショック」の真相のポイント

  • ①型落ちGPUで高性能を実現し、ハイエンドGPUの必要性に疑問を投げかけた。
  • ②他の大手企業の100分の1以下のコストで同等のAIモデルを開発。
  • ③中国企業が米国の大規模プロジェクトに迅速に対抗する技術力を有することを示した。
  • ④オープンソースで幅広い環境に対応し、AI技術の普及を促進

 

 ②については、米フランシスコに拠点を置くAI開発企業のOpenAIが、過去3年間で開発事業に200億ドル(約3,000億円)以上を投資しているのに対し、「DeepSeek」では、わずか600万ドル(約9億円)のコストと2か月のトレーニングでOpenAIの高性能モデル「GPT-4」に並ぶ性能を開発したといいます。また、④についても、「DeepSeek」はオープンソース(無償で一般公開)であるため、開発者や企業が自由に利用・改良でき、それにより、AI技術のさらなる普及を加速させるといわれています。

 これらの成果により、「最新の高価なモデルの購入が本当に必要か?」という疑問が業界全体に広まったとともに、「DeepSeek」はAI業界で一躍注目を集める存在となりました。

2025年1月27日、NVIDIAの株価が17%暴落。
これは同社株価史上最大の下落で、一晩で約92兆円の時価総額が蒸発した(参照:Trading View

根底にあるのはAIをめぐる米中争い

 そもそも「DeepSeek」の誕生のきっかけは2019年に遡ります。「DeepSeek」は、中国のヘッジファンドHigh-Flyer Capital Management(ハイフライヤー・キャピタルマネジメント)が、株価指数の学習に向けた数学モデルを研究するために開発した大規模言語モデルです。

 そして、実は「DeepSeek」がAIをめぐる米中争いを表面化させているという一つの見識があります。それは、「DeepSeek」の登場したタイミングが、米国とStargate Project(スターゲイト・プロジェクト)社による5,000億ドル(約77兆円)にも及ぶ投資規模の国家AIプロジェクトが発表された直後だったことに起因しています。

 また、注目すべき点は、OpenAIや「Google Gemini(グーグル・ジェミニ、Google社が開発するAI)」をはじめとする、米国発のAIリード企業の多くがクローズドソース(有償)であることです。高機能かつオープンソースであるモデルは、Meta社による最先端AIの「Llama 3(ラマ3)」など、片手で数えるほどしかありません。つまり、米国市場においては、企業の資金力の有無により、寡占市場となり得る確率が高いのが今のAI業界の現状だということです。

 そうした状況下で、“中国版OpenAI”と呼ばれる「DeepSeek」は高性能モデルをすべてオープンソース(無償)で提供。まさに、寡占市場の局面そのものを打破したといえます。これにより、既存の高価な有償モデルに対する技術開発の圧力が増すことはもちろん、“NVIDIA社のハイエンドGPUでなければ、優秀な大規模言語モデルが開発不可能”という常識が見事に覆され、NVIDIA社の製品群内でもカニバリゼーションを起こす恐れすらあります。

「DeepSeek」がAppStoreの無料アプリダウンロードランキング(米国)で
「ChatGPT」を抑えて1位に

「まるで宇宙開発競争」AI技術革新が加速

 1月29日、米Microsoft(マイクロソフト)社の「Azure AI(アジュールAI)」は正式に、「DeepSeek」シリーズ最新モデルである「DeepSeekR1」と連携。また同日、「DeepSeek」は次の一手として、画像の品質や正確性の面で競合サービスを上回る「Janus-Pro(ヤヌスプロ)」という画像生成モデルを発表しています。「Janus-Pro」は現在、AI開発者向けプラットフォーム「Hugging Face(ハギング・フェイス)」から無償でダウンロード・利用できます。

「DeepSeek」はGitHub(https://github.com/deepseek-ai)で全てのコードを公開している

 

 一部の海外メディアは、こうした今回の「DeepSeek」の台頭について、「旧ソ連時代の米ソによる宇宙開発競争の前哨戦のようだ」と伝えています。確実にいえることとしては、オープンソースによる寡占市場の打破がAI産業全体の技術向上の起爆剤となり、「人工超知能(ASI、Artificial Superintelligence)」などさらなる技術革新に拍車がかかるということです。また、NVIDIA社にとっては、10~20年後に向けた半導体開発周期を前倒しせざるを得ない状況になる点も留意すべきです。

最大の恩恵を享受するのはエンドユーザー?

「DeepSeek」の使用感・UIは「ChatGPT」と類似。日本語対応。
ちなみに、現時点で企業ドメインでは登録不可。フリーアドレスでの利用登録となる(AIL編集部作成)

 

 テック市場を席捲する「DeepSeek」の動きを受け、追随するように他の中国テック企業のAlibaba(アリババ)グループやByteDance(バイトダンス)社が新たな大規模言語モデルを次々と発表。その性能は「DeepSeek」と同等もしくはより高性能ともいわれていますが、いずれもクローズドソースという点では、圧倒的な差異が残ります。

 世界のAI市場は「中国VS米国」という国家間だけでなく、中国企業間での競争も激化しています。ある種、最終的な勝者は、激戦の中で生み出される高性能なAIツールを次々と利用できる、我々エンドユーザーであるといえるかもしれません。


参照:
https://www.deepseek.com/
https://www.wsj.com/tech/ai/china-deepseek-ai-nvidia-openai-02bdbbce