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顧客・ブランド・地球が喜ぶムーブメントを! The REAL REAL(ザ・リアルリアル)の“フェイクバッグ”キャンペーン【Coffee Talk from NYC Vol.22】
ニューヨーク現地より、小売×テック関連の旬なトピック・体験レポートをお届け。アメリカのコーヒーブレイク中に行われるカジュアルミーティング、”Coffee Talk”にちなんで、気軽にインプットいただけるレポートを定期配信していきます。
Vol.22では、気候時計「CLIMATE CLOCK(クライメイトクロック)」の存在から考える、「顧客」「ブランド」そして「地球」が喜ぶビジネスの考え方について。
ラグジュアリー専門のリセールオンラインマーケットプレイス「The RealReal(ザ・リアルリアル、以下TRR)が実施した、“フェイクバッグ”に光りを当てたポップアップイベントや、リセールマーケットプレイス「eBay(イーベイ)」とアメリカファッション協議会(CFDA)による初のプレラブド・ファッションウィーク「Endless Runway(エンドレス・ランウェイ)」の事例を紹介しながらレポートしていきます。
2024年も残すところ数ヶ月となり、過ごしてきた日々を振り返ると、連日続いた酷暑や集中豪雨といった自然災害の頻度が世界中でますます増えたと感じるのは筆者だけではないでしょう。
皆さまは、気候時計「CLIMATE CLOCK(クライメイトクロック)」の存在をご存知でしょうか?クライメイトクロックは、気候変動の変化において、地球が後戻りできなくなってしまう一定のポイントである「1.5度の気温上昇」を防ぐために私たちに残された時間を示す大切な存在です。
ニューヨーク・マンハッタンに掲げられているクライメイトクロック
世界初のクライメイトクロックが設置されたのは2020年9月。マンハッタンのユニオンスクエア公園前にある「NORDSTROM RACK(ノードストロームラック)」の入店ビルに設置されました。駅前ということもあり、人通りの多い目立つ場所です。その翌年には、韓国にもクライメイトクロックが設置されました。日本では、クラウドファンディングによって設置が進んだそうですが、アメリカや韓国と異なり、時計の大きさは小型。第一弾として、渋谷観光協会の協力のもと2022年4月に、渋谷ハチ公前にある観光案内所 「SHIBU HACHI BOX(しぶハチボックス)」に設置されたそうで、他にも、都内では数箇所に設置されているとのことです。
多くの人が訪れる渋谷にあるクライメイトクロックですが、観光案内所に設置されているため、正直なところ、日本に暮らす人にとっては目にする機会はあまり無いだろうと思われます。そこで、この機会に読者の皆様にはしっかりと意識してもらいたいクライメイトクロックの存在。気候変動の変化が後戻りできなくなってしまうまで、「あと4年程しか私たちには時間が残されていない」ということを、この場を持って伝えたかったのです。
ファッションビジネスにおいて気候変動やサステナビリティに関する話題が出る時は、必ずといっていいほどファストファッションブランドの品質や大量生産の生産背景、そこから排出されるCO2問題などがあげられることもしばしば。しかし、あと4年程しか残されていない中で、他のブランドを指差している時間は惜しものです。それぞれの企業が、それぞれの目標に向け行動を起こしていくことが今や再優先だと筆者は思います。
「顧客」「ブランド」そして「地球」が喜ぶビジネスの考え方
二次流通は企業にとって新たな販売チャネルとなり、ビジネスチャンスとなることは、これまでレポート内でも度々伝えてきました。二次流通の業界は、質屋や古着屋、フリマにオークション、そしてマーケットプレイスと時を経て進化してきました。決して派手な取り上げられ方はされずとも、アメリカではこの数年で二次流通にまつわるサービスが着々と革新し、また多数のブランドがRaaS系のサービスプロバイダーと組むことでブランドリセールを開始するところまできています。
ブランドリセールの場合、P2Pのサービスから始めてみるブランドが多かったわけですが、今ではテイクバックプログラム(下取り)を加えるなど、トライ&ラーンしながら徐々にサービスを拡大していく進化が始まっています。
これまで新作を販売し続けてきた中では、顧客にとって手頃にも感じるリセール品を自社のサイトや店舗で販売することを躊躇してしまう声は、アメリカのブランドからもあるようです。しかし、顧客の立場や視点に立つと、新作商品でも過去に販売されたリセール品であっても、大好きなブランドの商品に変わりありません。顧客にとっては「どんな方法で購入するか」という選択肢くらい単純なもの。店舗とECの共存が可能となったように、新作商品と再販商品の共存も可能なわけです。新しいサービスのローンチには不安はつきものですが、雲がかっていた不安が消えることで、今後は(新作もリセール品も)いずれも売れて欲しいという期待とミッションに切り替わって変わっていくのです。
The RealRealが仕掛ける “フェイクバッグ”に光りを当てたマーケティングイニシアチブ
「The RealReal」が実施した期間限定のフェイクバックのポップアップの店舗の様子(筆者撮影)
●「The RealReal」ポップアップショップについて
- -6月22日、7月20日、8月17日の3日間にわたり、偽造ハンドバッグを取り扱うポップアップショップを開催
- -“偽物”バッグを持ち込むと“本物”のバッグを獲得するキャンペーンにエントリー可能
米国初ラグジュアリー専門のリセールオンラインマーケットプレイス「The RealReal(ザ・リアルリアル、以下TRR)」では、2024年6月から3ヶ月間にわたり、マンハッタンのキャナルストリート(チャイナタウン界隈)でポップアップショップをオープン。
ショップの外観は一見クールなラグジュアリーショップですが、実際に店内に並べられているのは、「35品の偽物のラグジュアリーハンドバッグ」というウイットに富んだテーマでの展開です。ポップアップを通じた同社のマーケティングイニシアチブでは、世の中にどれだけのフェイクバッグが出回っているのか、また、TRRがいかに厳しい真贋(しんがん)鑑定を行なっているのか、ということを利用者に伝える内容になっています。
同社の発表によると、2011年の創業以来、同社では3,920万点を超えるラグジュアリーの商品鑑定を行い、25万点の不良品を市場から排除してきたと報告しています。そして毎月、約5,000点の偽造品を市場から排除しているそうです。
ポップアップは通常営業はせず、6月~8月の間、月に1度のみ(6/22, 7/20, 8/17)利用者がフェイクバッグを持ち込める日を設定していました。また、フェイクバッグ持ち込んだ利用者には、本物のラグジュアリーバッグのプレゼント企画に無条件で応募できる権利を与える特典を用意していました。
こうしたイニシアチブを実施することで、ラグジュアリー製品の偽造品が市場に多数出回っている現状や、TRRが提供する高品質な鑑定のプロセスについて、ユニークな形で光を当てています。さらに同社では、ブランドへの相談窓口をSMSでも開設するなど、顧客とのエンゲージ醸成も促進していました。
ポップアップの特設サイトトップページ
一方、オンラインでは、ポップアップからインスピレーションを得た、「Louis Vuitton(ルイヴィトン)のスピーディや「Chanel(シャネル)」のフラップバッグ、「Hermes(エルメス)」のバーキン、「Dior(ディオール)」や「Goyard(ゴヤール)」といった、偽造品が出回りやすいブランドバッグの本物の商品が入手できることを伝えました。
ポップアップが開催されていた3ヶ月間、筆者も度々周辺を通りかかりましたが、多くの人が立ち止まり、店内を覗く姿を目にしました。
「ルイ・ヴィトンスピーディ バッグの真贋鑑定方法」(TRR公式YouTubeチャンネルより)
TRRでは2017年より、毎年10月の第一月曜日を「National Consignment Day(ナショナル・コンサイメント・デー)」と制定しています。この制定を通じて「#NeverThrowAway(絶対に捨てない)」と謳うムーブメントを発足し、人々に不用品の委託販売や寄付を促しています。委託販売や寄付を促進することで、ラグジュアリー品のライフサイクルを伸ばすことを目指しています。今年度はどのような取り組みを実施し、人々にサーキュラーファッションの大切さを伝えていくのかに期待です。
eBay x CFDA 初の “プレラブド・ファッションウィーク”を開催
eBay×CFDAによる「Endless Runway」(ストリーミング再生はこちらから)
二次流通のマーケットプレイス「eBay(イーベイ)」は、アメリカファッション協議会(CFDA)および英国ファッション協議会(BFC)と提携し、初のプレラブド・ファッションウィークを開催。「Endless Runway(エンドレス ランウェイ)」をストリーミング中です。
「Endless Runway 」は、2025年春夏のニューヨークコレクションの前日の9月5日より毎日ライブ配信されています。ランウェイに登場するウェアは、即時購入と30分間限定での入札形式の2つの購入方法が用意されており、エンタメ性のあるショッピングを演出しています。
また、9月6日~11日までの6日間にわたり、毎日夕方6時からデザイナーなどのプレラブドアイテムがドロップされ、希少なアイテムが購入できるイベントも開催していました。CFDAのCEOであるスティーブン・コルブ氏は、“このライブショーは、過去、現在、未来を結びつけ、ファッションの未来は循環するものであるということを強力に思い出させるものだ”とリリースの中で伝えています。
執筆者
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RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #テクノロジー #NFT #WEB3 #ウェルネス #未来の街作り