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アース月間に考える、リセールビジネスへの想い【Coffee Talk from NYC Vol.5】

RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
執筆者

Category: Resale, Sustainability

 ニューヨーク現地より、小売×テック関連の旬なトピック・体験レポートをお届け。アメリカのコーヒーブレイク中に行われるカジュアルミーティング、”Coffee Talk”にちなんで、気軽にインプットいただけるレポートを定期配信していく。

 Vol.5では、4月の「アース月間」にちなんで、アメリカンブランドの関心が着々と高まっている「リセールビジネス」についてフォーカスする。

 「アース月間(もしくは、アースデー月間、EARTH MONTH)」は、地球環境に起こっている事、起こりうる事について話し合い、これ以上の環境破壊を起こさないためにどのような事を実践していかなければならないのかを広く伝えるための大切な月間だ。この月間に、企業やブランドは、地球環境保全のために行ってきたこれまでの活動報告や、これからの計画を発表することがある。もちろん地球の環境保全について考えること、実施していくことは企業だけでなく、国、都市、そして私たち一人一人が関心を持ち、きちんと取り組んでいかなければならない。

 筆者がアメリカの小売業を注視する中での所感としては、ブランドは「アース月間」に向けて大体3月半ば頃からブランドとしてのミッションを発信し始めている。フィジカルの場では消費者と共にその重要性を考えるきっかけを作るため、ポップアップやイベントなどを行い、この時期に新サービスを発表するブランドも中にはある。

 

 「Puma」が2023年4月6日に発表したイニシアティブ「Voices of a RE:GENERATION」(「Puma」公式サイトより

 

 スポーツ企業の「PUMA(プーマ)」は、次世代のために持続可能性を優先し、欧米から集まった4名の次世代を担う若者の「声」に力を与えるイニシアティブ「Voices of a RE:GENERATION」を発表した。構成メンバーには、英国を拠点に気候変動や人間の物語に焦点をあてたメディア「Earthrise Studio」の共同設立者であるアリス・エディ氏(上記画像左)や、米国を拠点にアップサイクラーとして自身の作品を通じてファッションの消費方法の改革を訴えるアンドリュー・バージェス 氏(上記画像中央左)などが選出され、彼ら4名とのコンサルティング形式を通じてブランドの改善点について議論をしていくという。

以下、プレスリリースより一部抜粋:

”「Puma」は次世代の視点と推奨事項を取り入れることで、ブランドが持続可能性への取り組みをどのようにナビゲートするかを進化させることを目指す新しいイニシアチブを発表しました。「Voices of a RE:GENERATION」と名付けられたこのプロジェクトは、プーマの協力により、1 年間にわたってヨーロッパとアメリカから集まった4人の若い環境保護主義者の「声」に「決定権」を与えることから始まります。”

”新しいイニシアチブは、プーマのサステナビリティ イニシアチブがすべての人、特に次世代のために消化できるものであることを保証するというブランドのコミットメントに基づいています。”

 

リップサービスはありません。エゴはありません。率直で正直な議論を行い、ただ一つの使命:”Forever Better”を創造していくために、4つの声とともに私たちは真の変化を推進していきます。”

 

 これまで筆者は、本メディアやウェビナーなど、さまざまな形でアメリカのブランドの取り組み事例を取り上げてきた。アメリカの事例をお伝えする際、どうしてもユニークな取り組みを期待されることが多いが、実際には斬新であることよりも、ストレートに伝わるサービスの方がブランドにとっては実施しやすく、また消費者にとっても利用しやすいと最近は強く感じている。その中で日本のブランドに今すぐにでも実施してもらいたいのが、やはり「リセールビジネス」だ。

考え作った自社商品をどれだけ繰り返し人々に愛用してもらえるのか

 次に紹介する3社は、AILのコンテンツにおいて度々紹介してきたリセールのプラットフォーマーだ。そして今回は、それらのプラットフォームを利用してリセールビジネスを展開しているブランドの中から、AIL会員様が特に知っているであろう10ブランドをピックアップし、それぞれ紹介していく(リスト以外にも多くのブランドがリセールビジネスを実施している)。

TROVE  / トローブ

  1. Carhartt / カーハート
  2. Canada Goose / カナダ グース
  3. On / オン
  4. Allbirds / オールバーズ
  5. ARC’TERYX / アークテリクス
  6. Eileen Fisher / アイリーン フィッシャー
  7. Levi’s / リーバイス
  8. Lululemon / ルルレモン
  9. Patagonia / パタゴニア
  10. 1 Phillip Lim / 3.1 フィリップリム

ARCHIVE / アーカイブ

  1. Marimekko / マリメッコ
  2. The North Face / ザ ノース フェイス
  3. CUYANA / クヤーナ
  4. M.Lafleur / エムエムラフルール
  5. Dagne Dover / ダグネドーバー
  6. Ulla Johnson / ウラジョンソン
  7. SANDRO / サンドロ
  8. Oscar dela Renta / オスカー デラ レンタ
  9. Ba&sh / バッシュ
  10. Hanna Anderson / ハナ アンダーソン

RECURATE / リキュレート

  1. Steve Madden / スティーブ マデン
  2. Mara Hoffman / マラ ホフマン
  3. FRYE / フライ
  4. AnotherTomorrow / アナザー トゥモロー
  5. Peak Design / ピーク デザイン
  6. Michael Kors / マイケル コース
  7. 7 for all mankind / セブン フォー オール マンカインド
  8. Ministry of Supply / ミニスタリー オブ サプライ
  9. Rachel Comey / レイチェル コーミー
  10. Clare V. / クレア ヴィー

 

 この他にも「SHEIN(シーイン)」のリセールプラットフォーマーである「Treet(トリート)」という企業もあり、彼らも複数のブランドをクライアントとして持っている。

Lululemonのリセールサービス「Lululemon Like New(ルルレモンライクニュー)」で購入したパーカー
再販される際にタグが取り除かれ、ブランドロゴと共に「Like New」と印字されている

 

 サーキュラーファッションはグローバルスタンダードに

 数年前にこうしたプラットフォーマーを耳にした時は、環境保護活動に積極的なサステナブルブランドが多く、またリユースに適したブランドが目立っていたように思えた。

 しかし今では「3.1 Phillip Lim」「Ministry of Supply」のようなファッションブランドや、「Lululemon」のようなアクティブウェアブランド、「The North Face」「REI」といったアウトドアブランド、「Steve Madden」「dolce Vita」「FRYE」といった靴ブランド、「cotopaxi」「Dagne Dover」「Clare V.」「Peak Design」などのバッグブランド、「Levi’s」「7 for all mankind」などのデニムブランドと、サーキュラーファッションの重要性を考えるブランドは幅広いカテゴリーにわたり、着々と増えているのだ。

「Madewell (メイドウェル)」ソーホー店のウィンドウ
「Madewell」では衣類は、2回、3回、4回と再利用されるチャンスがあると信じ、再生、リセールビジネス、アップサイクルのコラボレーションなどを
Madewell Forever(メイドウェルフォーエバー)」として実施している

 

誰もが目や肌で感じている暮らしの中での地球環境の変化

 “自分たちの様なブランドはリセールには向かないのでは?”と悩んでいるブランドはあるだろうし、もちろん“向かない”ブランドもあると思う。そうした場合、ならば地球という私たちが関わるコミュニティの中で、どのような環境保全に協力ができるのか、ということを自己流であれ積極的に行動することがとにかく必要だ。

 世界規模でインフレーションが起こる今、企業はあらゆる面においてスリムダウンを実施しているだろうし、企業の存続を考えれば“ディフェンス”の体制に入るのは当然だろう。しかしその流れを“オフェンス”に変えるためにまず例えば「リセールビジネス」を販売チャネルとして試してみてはいかがだろう。

 以下のように、顧客がブランドの販売チャンネルの中でぐるぐると買い物を継続する、サーキュラーファッションのサービスを実施することが大切だ。


お客様がブランドのサイトや店舗で新商品を購入する

 ➡お客様は何らかの理由で商品を手放すことを考える。その際に「自社サイト内」のリセールサイト上で売るオプションを用意しておく

  ➡商品が売れた場合、現金もしくは還元率の高いストアクレジットでお客さまに支払が行われる

   ➡顧客はリセールで得たストアクレジットを利用し、再びブランドのサイトで新商品を購入する


 

 ブランドにとって、ロイヤル顧客が直営店や自社サイト内で購入し、リセール(買戻し)し、再び購入するという機会を増やすことは顧客とエンゲージする機会を増やすことに繋がる。そうすると、顧客との関係が親密になるにつれ、同時にデータも蓄積されていくわけだ。以前よりもデータが集められるということは、展開する商品の価格帯やデザイン、あらとあらゆる場面で役立っていく。すなわち生産上の無駄も省くことが出来る。「リセールビジネス」は、結果的にブランドにとってコストカットとなるビジネスだと筆者は信じている。

 1年に毎年訪れるこの「アース月間」に、ブランドに携わる皆様には改めて生産側の責任として、1着でも多くの洋服を再利用するためのアクションを行ってほしいと願う。

執筆者

  • RINA Yoshikoshi

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント

    N Yを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。
    店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。
    執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #テクノロジー #NFT #WEB3  #ウェルネス #未来の街作り