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2024年から2025年へ:”モノ”を”コト”に変えていくムーブメント【Coffee Talk from NYC Vol.26】
ニューヨーク現地より、小売×テック関連の旬なトピック・体験レポートをお届け。アメリカのコーヒーブレイク中に行われるカジュアルミーティング、”Coffee Talk”にちなんで、気軽にインプットいただけるレポートを定期配信していきます。
年末年始の休暇中、筆者の中で2025年最初のコラムは何をテーマに執筆しようかと考えていました。関心テーマはいくつかあるものの、本記事では、2025年も話題が尽きそうにない「二次流通」について、これまで伝えきれていなかった内容をお伝えしていきます。
リセールビジネスについて
米国ニューヨークでは古着の路上販売が盛ん(筆者撮影)
2024年、「二次流通」「ブランドリセール」については、ウェブトピックやアパレルウェブ・イノベーション・ラボによるニューヨーク視察研修企画を通じて数々と紹介してきました。アフターコロナのライフスタイルや価値観の変化、そして不安定な経済への懸念が深まる中で、二次流通は需要と共にサービスも充実し、時代の変化にアダプトしていきました。
そうした市況下で成長したリセールプロバイダー(RaaS=Resale as a Service)の存在も、ここ1~2年の間に随分と確立したように思います。また、ソーホーエリアでは、道端で古着をラックにかけ路上販売する光景を目にする頻度も格段と増え、二次流通市場の成長は調査企業が発表する数字を見なくとも明らかです。
こうした段階まで浸透が進むと、ブランドが主体となってブランドリセールやマーケットプレイスに参入しない場合、「個人」が台頭してリセール領域で活躍し、企業にとってもそれらが第5のチャネル(注1)として確立していくのみです。今、リセールビジネスへの第一歩を検討しているブランドへ伝えたいのは、“肩までしっかりと浸かる”のではなく、まずは“足湯”程度に「始めてみる」ということが2025年のミッションとなるのではないでしょうか。
(注1)二次流通は、卸販売、店舗、Eコマース、アウトレット業態に次ぐ第5の販売チャネルと定義(アパレルウェブ独自)
レンタルビジネスについて 2009年 v.s. 2019年 v.s. 2022年
リセールが買い物の選択肢の一つとして定着する中で、「レンタルサービス」も実はまだまだホットな分野だといえます。Urban Outfitters(アーバンアウトフィッターズ)グループが2019年5月にローンチしたサブスクリプション型ファッションレンタルサービス「Nuuly(ヌーリー)」が好調です。2024年11月、同社が発表した第3四半期における決算報告では、「Nuuly」のアクティブ会員数は20万人を突破、11月後半の数週間で、さらにその数は30万人を超えたといいます。また、第3四半期の収益は0.97億ドル(約153億円)で前年比48%増を記録し、初の四半期営業利益予算を達成したと報告しています。
「Nuuly」の配送ボックス(筆者撮影)
また、2024年11月に創業15周年を迎えたファッションレンタルサービス大手の「Rent the Runway(レント・ザ・ランウェイ)」の第3四半期決算では、アクティブ会員数は13万2,518人と報告されています。つまり、今年に創設6年目を迎える比較的新鋭ブランドである「Nuuly」の会員数30万人突破は、大幅な成長といっていいでしょう。
一方で、「Nuuly」などのファッションレンタルサービスが定着していく中、「Pickle(ピックル)」のような新興のレンタルサービスも注目されています。「Pickle」は、2022年にローンチしたP2P(Peer-to-Peer=個人間)のファッションレンタルサービスです。同サービスは、「Rent the Runway」や「Nuuly」のようなサブスクリプション型とは異なり、個人が持つクローゼット内の衣類を、個人間でレンタルするというサービスです。
「Pickle」ではオケージョンウエアのカテゴリーやアイテムが充実(「Pickle」公式サイトより)
「Pickle」では、レンタルサービスを利用するきっかけとなるような、“購入するにはちょっと手が届かない”、“悩んでしまうような価格”といったアイテムを、コミュニティ内でレンタルできることが特徴です。特に米国では、イベントやパーティーに参加することが多く、華やかなシーンに合わせた衣類が必要になることから、こうしたサービスが成り立つのでしょう。また、ソーシャルメディアなどで話題になり手に入れられなかった特別なアイテムも、「Pickle」では需要があると聞きます。
「Pickle」は、サービスをローンチした翌年の12月に、米国ニューヨークのウエストビレッジエリアに初の実店舗を出店しています。当時、筆者が足を運んだオープニングイベントでは、小さなブティックのような店舗スペースに、6~7名の個人利用者の(クローゼットにある)アイテムがラックに所狭しと並べられており、上質なビンテージショプに訪れたような印象を受けました。来店客は、筆者と同じくソーシャルメディア上の告知を見て訪れていた他、すでに「Pickle」の利用者もいました。
「Pickle」の実店舗の様子 ニューヨーク・ウエストビレッジ(筆者撮影)
P2Pのレンタルサービスは、借りる側にとって多くのメリットがありますが、貸す側にとっても、新たな収入源となります。衣類を着用する次の機会が訪れるまでクローゼットで眠らせることなく、他のサービス利用者に貸し出して「服活(ふくかつ)」することで、自己投資して購入した衣服の元値を回収することができる、といったメリットもどうやら同サービスの人気理由の一つのようです。
「Pickle」の公式レポートによると、貸す側(レンダー)の中でも、トップレンダーは2024年の1年間で平均36,000ドル(約560万円)を稼いだといいます。まだローンチしたばかりの「Pickle」ですが、ニューヨークに次いでロサンゼルスでもサービスを開始しています。今後は、さらなるP2P間のファッションレンタル需要の高まりから、新店舗の出店もありそうです。
2025年はリペア&リメイク:「モノ」を「コト」に変えていく
「The North Face」のオウンドリセールで展開されている
リペア・リメイクラインの「REMADE」売り場の様子(筆者撮影)
昨年から筆者が市場リサーチを行う中で体感していることとして、二次流通業界では今後、単に再販可能なアイテムを売買するというだけでなく、「リペア&リメイク」され、“レア感”や個性あるアイテムもますます展開されていくだろうということです。
電化製品でいえば、リファービッシュ品(メーカーで修理・点検済の中古品)は当たり前のように通流し、ジュエリーに関しても、家族から受け継いだ品を自分らしいデザインに作り直すといったことは昔から行われています。ソーシャルメディアでは、ビンテージショップやリサイクルショップから発掘された中古商品が綺麗に整えられているコンテンツを良く見かけます。そうしたさまざまな側面から中古品が丁寧かつ器用に蘇っている様子をみると、それらに楽しみを見出す人が増えていると受け取ることができます。
「The North Face(ノースフェイス)」が展開するオウンドリセール「RENEWED(リニュード)」では、リペア、リユース、リサーキュレートをコンセプトに展開するラインである「REMADE(リメイド)」の製品がオンラインで販売されています。また、オンライン販売に限らず、2024年10月には、それらのコレクションをブルックリンにあるコンセプトストアで販売開始しています。「REMADE」の製品は、店舗の隅で取り扱われるのではなく、しっかりと売り場が設けられています(写真参照)。
そうした店舗でのリセール商品の展開方法や取り組みから、サーキュラーファッションに対するブランドの姿勢は確実に変わってきていると感じ取ることができるでしょう。2025年は、既存の「モノ」を、リペア&リメイクすることで世の中に良い「コト」へと変えていくトレンドが一層加速していくように思います。日本でも同様に、そうしたムーブメントが旋風していくことを願います!
参照:
Urban Outfitters Inc.
https://investor.urbn.com/taxonomy/term/386
The RealReal Inc.
https://investors.renttherunway.com/news-releases
執筆者
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RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG