
2026年のグローバルビジネス・テック環境は、ただの「変化」ではなく構造そのものが書き換わるような局面に入っていくといえます。かつての自由競争モデルが崩れ、資本・技術・国家戦略が入り乱れる新しい常態が形成されつつあります。本記事では特に、世界経済・産業・ブランド戦略に大きなインパクトを与えている3つのグローバルトレンドを取り上げます。
クイックサマリー
ビックテックによる支配 “超・寡占元年”の常態化――NetflixによるWBC買収
2026年、テック市場における競争は「自由競争」から「資本とデータよる集中」によって決まるフェーズに移行する兆候を示しています。Nvidia(エヌビディア)による軍事AI(半導体開発)への参入にみられるように、巨大テック企業によるM&Aやインフラ・サプライチェーン支配は、産業エコシステムを不可逆的に再編しています。
Nvidia、OpenAI(オープンAI)、Meta(メタ)などが進める「循環融資」は、投資と収益のループを自社陣営内で完結させ、外部参入を困難にしています。中でもNvidiaによる軍事AI向け半導体開発への参入や、大規模データセンター建設に伴うDRAM(ディーラム)(注)の大量確保は市場に大きな影響を与えました。
結果、 DRAMを手がける米大手半導体メーカーMicron(マイクロン)は一般消費者向けメモリブランド「Crucial(クルーシャル)」の撤退を余儀なくされ、DRAM価格はわずか2カ月で約5倍に高騰。この動きは「B2B優先による消費者市場の切り捨て」として批判を集めています。今後、PCやスマートフォンなど末端デバイスの価格上昇とイノベーション停滞は避けられない見通しです。
(注)DRAM(ディーラム)とは、Dynamic Random Access Memoryの略でPCやスマートフォンの動作を支える主記憶用半導体
映画製作・ストリーミング市場にも一極集中の波
「NETFLIX」日本公式サイト
また、Netflix(ネットフリックス)によるWarner Bros. Discovery(WBD)の買収合意(総額約827億ドル=約11兆円)が2025年12月に締結され、このニュースは世界中の注目を集めました。同買収は、2026年第3四半期の完了を目指して進行中です。
買収条件は現金と株式を組み合わせた構造で、「ハリーポッター」シリーズを代表するWBD傘下の映画・スタジオ資産と「HBO Max(ワーナー・ブラザース系の動画配信サービス)」をNetflixが取得するものです。なおその後、Netflixはこの買収提案を全額現金支払いに修正して承認を加速させようとしており、競合するパラマウントの敵対的買収提案を退けています。これには独禁法/競争法の審査が不可避であり、規制当局の動向が注目されています。
この一連の再編は、コンテンツ産業における選択肢の集中と、価格決定力の数社集中を意味します。Netflixはすでに広告収入や会員増で収益を伸ばしており、有料会員数は3億2,500万人を突破しています。 一方で、業界内では雇用減少や創造性の低下といった懸念も浮上しており、寡占の帰結が単なる効率性追求にとどまらないことを示しています。
このような巨額M&Aは、AIインフラや半導体投資と併せてビッグテック勢が産業全体の支配力を強める象徴です。結果として、資金力を持つわずか数社がAI、データセンター、コンテンツの力学を握る「超・寡占」が2026年にいっそう顕在化すると見られています。
マクドナルド炎上が示す、AIクリエイティブに対する「人間味の復権」
オランダマクドナルドがAIで生成した広告。
批判を受け、放送は取り下げとなった
(YouTubeチャンネル@Kyle Balmer | AI with Kyleより)
2025年末、オランダのマクドナルドが公開したAI生成クリスマス広告が「不気味」「クリスマス精神が台無し」とSNSで批判を呼び、公開即撤回される出来事がありました。これは、AIによりクリエイティブの制作コストが劇的に低減する一方で、消費者の感情や文化的コンテクストを適切に捉えらるには限界があるという事実を浮き彫りにしました。これに続き、大手ブランドによるAIクリエイティブが「安易な代替」として批判を受ける事例が後を絶ちません。
これらの炎上事例から企業が学ぶべきは、AI活用におけるリスク管理の重要性です。AI活用による制作コスト減は魅力的ですが、それが「安価な模造品」と受け取られてしまうと、長年積み上げたブランド資産が一気に毀損する可能性さえあります。消費者は単なる画像や映像の生成以上の「人間の意図」や「感性」、そして「透明性」を求めており、その期待に応えられないAI活用は逆にブランド価値毀損を招くリスクがあります。AIによる効率化だけではブランド体験を支えられないという根本的な真実が浮き彫りになりました。
AIがコモディティ化し、誰もが容易にコンテンツを量産できる時代だからこそ、逆説的に価値が高騰しているものがあります。それは、非効率であっても人の手を介した「アナログな人間味」です。ブランドの信頼を守り、消費者の心を真に動かすのは、AIのアルゴリズムではなく、作り手の体温が伝わるクリエイティブへの回帰であるといえます。
サプライチェーン・マーケットとも「脱・中国」、「China+1」の緊急性

米中の技術覇権争いは、新たな局面に突入しています。ロイター通信等の報道によれば、中国が独自のEUV(極端紫外線)露光装置技術を完成させたとの報道は、長らくオランダASMLが独占してきた半導体最先端技術領域に対して中国側が追いつきつつあることを示唆しています。この技術は現在稼働段階で、実際の商用チップ生産はまだ先とみられるものの、中国政府は2030年前後に実用化を目指しているとみられます。
この動きの背景には、中国が国家プロジェクトとしてAI半導体の自立化を追求する意図があり、すでに世界シェア7割強を握る産業チェーンの「レアアース(川上)」から「AIアプリ/LLM(川下)」に至るまで、自国完結を図る戦略が垣間見えます。このように、中国が自らグローバルサプライチェーンからの離脱姿勢を強める中、「生産拠点」としてだけでなく、「消費市場」として中国に依存してきた日本をはじめとする企業や国にとって、この技術自立は相対的なリスクの高まりを意味します。
中国市場は依然として巨大な消費地ですが、政治的・技術的な分断が進む中、単一市場・単一供給地への依存はリスクとして顕在化しています。これを回避するため、「China+1」戦略(中国依存からの脱却と、他地域への分散)」は必須の経営判断となっています。原材料調達の多角化、生産拠点の分散、さらには売上ポートフォリオの再構築が、日系・グローバル企業にとって急務になっています。
まとめ――産業の勢力図が再定義される一年
2026年は、産業の勢力図が再定義される一年です。資本と技術の集中、AIと人間の創造性のバランス、そして地政学的サプライチェーンの再編――これらは一時的なトレンドではなく、今後の経済・社会構造を形づくる恒常的なテーマとして、企業戦略の再考にも深く関わってくるでしょう。
*一部画像はChatGPTおよびNano Bananaにて生成
参照:
https://finance.yahoo.com/news/netflix-lines-25-billion-bank-130600463.html
https://www.bbc.com/news/articles/czdgrnvp082o
https://www.reuters.com/world/china/how-china-built-its-manhattan-project-rival-west-ai-chips-2025-12-17/
執筆者
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