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指先と目で未来を捉える時代へ:Apple Vision Pro ブランドが専用バーチャルショッピングアプリを発表

RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
執筆者

 日本には「言霊(ことだま)」という言葉があり、古くからその言葉に宿る霊力によって言語表現の内容が実現することがあると信じられていたそうです。

 最近よく耳にするアルゴリズムは、筆者にはなんだかその“言霊”に似ているように感じていて、例えば、ネガティブなニュースに囚われがちになると似た情報に吸い寄せられ“頭の中で”マイナス思考が次々と膨らんでいくように思います。一方で、ポジティブなことや可能性、チャンスに目を向けることで、ヒントや、やる気が起きるような情報が身近となり、実現へと近づいていくと思うのです。つまり、ビジネスにおいてもポジティブな刺激を受けること、ポジティブな視点でものを見ること、体験することは私たちの今、そして将来にとっても非常に大切で、そうした姿勢がそれぞれを次のステージへ導いてくれると筆者は信じています。

 そのような考え方を意識しながらも、本記事では、米国市場で2024年2月にローンチした米Apple(アップル)社の「Apple Vision Pro(アップルビジョンプロ)」について、マンハッタンのAppleソーホー店で実際に筆者が体験したエクスペリエンスをお伝えしていきたいと思います。


参照:
「Apple Vision Pro」が全米のアップルストアに到着!(Apple公式プレスリリース)

 

Apple フィフスアベニュー店では、顧客とともに「Apple Vision Pro」のローンチが祝われたApple公式プレスリリースより)

まずは体験予約

 「Apple Vision Pro」を店舗で体験するためには、「Genius Bar(ジーニアスバー)*」での予約と同じように、事前にAppleのウェブサイトやアプリから店舗と日時を選択し、予約を行います。その後、当日に眼鏡を着用しているかといった体験の際に必要ないくつかの質問に回答をします。この時点で、店舗での体験は30分程度だということも知らされます。


*Genius Bar(ジーニアスバー)…Apple ストアで提供される、サービスや製品修理などに関するテクニカルサポートカウンター

スペシャリストによる説明で体験の準備は万端

 早速来店し、店舗スタッフに予約情報を伝えてチェックイン。「Apple Vision Pro」が体験できるラウンジスペースで待つこと数分、体験をナビゲートしてくれるスペシャリストが筆者のもとへきてくれました。

 まずは筆者の着用している眼鏡を測定するということで、体験エリアに設置されている測定器でレンズの種類や度数などのさまざまなデータ取得からスタート。視力検査が終わり、「Apple Vision Pro」を筆者の視力に合う状態に整える間、装着方法や操作方法の説明を受けて練習を行います。体験では、かなりリアルな画像や映像を見ることができます。その迫力に酔ったりしないかと筆者は緊張していましたが、顧客が体験している間、スペシャリストは常に「iPad(アイパッド)」で顧客が「Apple Vision Pro」を通して見ている映像を同時確認しているとのことで、安心させてくれました。

重さを忘れるイマーシブな体験

 レクチャー通り、頬骨に当てるような感じで「Apple Vision Pro」を装着します。見た目からも分かるようにしっかりとした重量感です。そして、装着した瞬間から世界がいきなり「グン!」と広がったように、リアルな映像が目に飛び込んできます。

Appleストアでの「Apple Vision Pro」体験の様子(筆者撮影)

 

 今回の「Apple Vision Pro」体験では、基本操作方法に加え、これまでに体験したことのないような大自然や、まるでスタジアムでスポーツ観戦をしているかのようなリアルな映像を体験することが出来ました。しかし、「Alo Yoga(アローヨガ)」のようなサードパーティ企業がすでに展開している、専用アプリでの体験がないのが非常に残念でした。とはいえ、これまで体験したことのない世界を指先の操作と視界だけで体感できてしまうというテクノロジーには、未来を感じます。

 デモ体験の最後に、「Apple Immersive Video(アップル・イマーシブ・ビデオ)」を鑑賞。180度見渡せる超高画質の映像世界はあまりにも美しく、「下や後ろの方も観てみたら?」とスペシャリストから声をかけられるほど、筆者は啞然として一点を見入っていたようです。

「Apple Vision Pro」発売と同時にバーチャルショッピングサービスをローンチしたブランド

「Alo Yoga」が「Apple Vision Pro」専用にローンチした新ショッピングアプリ「alo Sanctuary」(Obsess社公式プレスリリースより)

 

 「Alo Yoga(アローヨガ)」といえば、セレブリティの愛用も多いロサンゼルス発のヨガウェアブランドとして広く知られています。同ブランドがこれまで手掛けてきた、オンラインゲームプラットフォームの「Roblox(ロブロックス)」でのイマーシブなゲーム体験など、ヨガウェアブランドにとどまらないビジネスは過去にも記事やセミナーで多く取り上げてきました。

 「Apple Vision Pro」の発売と同時期に、この空間コンピューティングのスペース内でショッピングが楽しめる新たな専用OSアプリがリリースされました。そして、「Alo Yoga」はウェルネスを軸とした新ショッピングアプリ「alo Sanctuary(アローサンクチュアリー)」をローンチしています。

 他にも、アパレルメーカーの「J.Crew(ジェイクルー)」、ビューティブランドの「e.l.f cosmetics(エルフコスメティックス)」、住宅リフォーム・生活家電チェーン大手の「Loew’s(ロウズ)」も同様に「Apple Vision Pro」専用のバーチャルショッピングサービスを開始しています。

2017年創立のバーチャルテクノロジー企業Obsess(オブセス)社との提携でローンチされた
「Apple Vision Pro」専用の新バーチャルショッピングアプリの画面イメージ。
同社では他にも「Roblox」やメタバース空間上のバーチャル体験プラットフォームを著名なブランドに提供している

実際に体験して理解する、未来の世界

 Apple社の製品とはいえ、そのいかついフォルムと俄然として高価格ということもあり、情報を得るだけで終わってしまうことは珍しくないでしょう。しかしビジネスを行なっていく上で、どのようなことが最新なのか、どのような未来に向かっているのか、それらを体験できる環境があるのであれば積極的に体験することは非常に大切だと筆者は考えます。

 2013年頃、筆者は米Google(グーグル)社が発売したスマートグラス「Google Glass(グーグルグラス)」をショールームで体験し、レポートしたことがあります。正直、10年前ということもあり、どのような操作が出来たかの記憶は薄れてしまっていますが、今思い返すと“早すぎた”取り組みだったのかもしれないと感じてしまいます。

 しかし、今回「Apple Vision Pro」を体験して筆者が感じたことは、今でこそさまざまなテクノロジーを日常的に利用している私たちにとって、発売タイミングは丁度良く、映画の世界で見るような指先や目だけを使う操作には意外とすぐに慣れることが出来ました。

装着した先には未来が迎えてくれる

 「Meta Quest(メタクエスト)」にしても、「Apple Vision Pro」にしても、マスへ浸透するには引き続き改良が必要だと感じますが、すでに多くのブランドがサービスとして試験導入していることから、次世代のサービスの方向性を示唆しているのではないでしょうか。

 日本国内では「Apple Vision Pro」は6月28日発売です。公式サイトではすでに予約受付を開始しており、店舗ではデモ体験もできるようです。情報だけでテクノロジーの未来を理解するのではなく、この記事を読んで下さっている読者の皆様にも、未来の可能性を体験してもらえたらと思います。日常の中で指先や目で当たり前に操作する時代はもうすぐそこまできているのです。

執筆者

  • RINA Yoshikoshi

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント

    NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #テクノロジー #NFT #WEB3  #ウェルネス #未来の街作り