OpenAI(オープンAI)CEOのSam Altman(サム・アルトマン)氏は6月19日、公式Podcast(ポッドキャスト)番組を通じて、生成AI「ChatGPT」の最新バージョンである「GPT-5」を今年の夏頃にリリースすると明言しました。また同時に、これまで慎重な姿勢を見せていた「ChatGPT」への広告導入についても、条件付きで検討する意向を示したことで業界に波紋が広がっています。
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アルトマン氏は、約40分間の初回インタビューの中で、現在のOpenAI製品群を「完全な混乱状態(whole mess)」だと評し、「GPT-5」では複雑化している複数モデルの統合を図ると発表。従来の「GPT-4」「GPT-4o(ジーピーティー・フォー・オー)」「GPT-4.5」といった派生モデルが乱立する現状から脱却し、「GPT-5」「GPT-6」といった単純な進化系列への回帰を目指します。
Introducing the OpenAI Podcast—a series of conversations with the people shaping AI. @sama joins @andrewmayne on the first episode to talk about AGI, (wen) GPT-5, privacy, and what comes next. pic.twitter.com/THQOWn8rDw
— OpenAI (@OpenAI) June 18, 2025
(OpenAI公式Xアカウント@OpenAIより)
GPT-5で“モード切替”不要の直感的AI体験へ
新モデル「GPT-5」の特徴としては、即座の質問応答から複雑な推論作業、Deep Research(ディープリサーチ)のようなエージェント機能までのすべてを一つのインターフェースでシームレスに処理可能とする点で、テスト版の体験者からは「『GPT-4』から大幅にアップグレードされた」との声が上がっていると報じられています。これにより、ユーザーはモード切替を行う必要性がなくなり、より直感的なAI体験が実現される見込みです。
また、「収益化戦略」については、従来“最終手段”としていた姿勢から一転し、広告導入への前向きな姿勢を示しました。アルトマン氏は「(広告導入に)完全に反対はしていない。Instagram広告は素晴らしく、実際に商品を購入したこともある」とコメントし、適切に実装されれば、ユーザにとって価値ある体験になり得るとの見解を示しています。ただし、ユーザーの“信頼が損なわれる瞬間”が発生するような状況を避けることを最重要課題と位置づけ、広告収入の有無によって「ChatGPT」による回答そのものを操作することはないと明言しています。現時点で検討下にある広告配信手法は、アフィリエイトリンクやサイドバー広告といったユーザーにとって非干渉的な形式が挙げられています。
こうした方針転換の背景には、OpenAIの厳しい財政状況があります。同社の主な収益源は、「ChatGPT」の強化版を購入する企業顧客から得るものですが、年間運営コストは30~40億ドル(約4,500億~6,000億円)に達し、2024年には約50億ドル(約7,400億円)の損失が予想されています。月間収入は34億ドル(約5,000億円)のペースで成長しているものの支出は膨らみ、その内訳としては、Microsoft向けの推論処理費用だけで40億ドル(約5,800億円)、モデル訓練費用に30億ドル(約4,500億円)、人件費に15億ドル(約2,200億円)を要する状況となっています。
広告事業で2029年に3.6兆円の収益目標 ‐無料ユーザー層の収益化が急務
OpenAIの内部文書によると、「ChatGPT」による広告事業は2026年に10億ドル(約1,470億円)、2029年には250億ドル(約3.6兆円)の収益を目指しており、総収入1,250億ドル(約18.3兆円)の中核を担う存在として位置づけられています。現在、ChatGPTのユーザーは約6億人。そのうち5億8,000万人が無料ユーザー、2,000万人が有料契約者という構成であり、今後の成長には無料層の収益化が大きな課題となっています。
アルトマン氏は、「AIツールは単なる『Google』の代替ではなく、短時間で複雑な作業をこなす“優秀なジュニア社員”のような存在に進化した」と述べ、今後はその能力に見合った持続可能な収益モデルの構築が不可欠であると強調しました。こうした進化のなかで、ユーザー体験の質を損なわずに収益性を高めるというバランスが、OpenAIの今後の成長を左右する重要な課題となっています。