今年の2月、中国の中央銀行である中国人民銀行が国家発行によるデジタル人民元の実用化を正式にスタート。これまで仮想通貨は禁止されていたものの、同じブロックチェーン技術から生まれたNFT(非代替性トークン)には商用の実用化でさまざまな活用事例が登場しています。最近では中国のZ世代のファッショントレンドのなかでストリートウェア、スポーツウェアが絶大な人気を誇り、それらのブランドがいち早くNFTを取り入れてデジタルファッションへ参入。またフードデリバリー業界においては、NFTを活用したデジタル会員証のような活用事例も見られます。
「Li-Ning」がNFT業界のトップIP 「Bored Ape Yacht Club」とコラボレーション デジタルIPの新しい活用方法を示唆
中国のスポーツブランド「XTEP(エクステップ)」が3月に初のデジタルスニーカーのNFTコレクションを発表しました。限定321個のNFTは70分で完売。しかもデジタルスニーカーのデザインを再現したリアル版も生産し、NFTを引換券とする形で、購入者にはデジタルと本物の両方のスニーカーが手に入る仕組みとなっていました。
「XTEP」によるデジタルスニーカー
また弊誌で何度も取り上げきた「Li-Ning(リーニン)」は、中国スポーツブランドのなかで最も積極的にNFTによるビジネスモデル構築に取り組んでいます。今年4月中旬には世界的に有名な「Bored ApeYacht Club(BAYC)」のNFTコレクションを購入しました。「BAYC」では1万のNFTを発表しており、今回「Li-Ning」が購入したのは4102番目のNFTになります。 一般的にNFTの権利関係では、所有権は購入者にありますが、著作権は発表したクリエーターもしくはブランドが保有します。しかし「BAYC」の場合は、NFTをブロックチェーン上で発行する際に「スマートコントラクト」という技術を活用し、NFT購入者に所有権と著作権の両方を与えています。つまり購入者はNFTの知的財産権を商用で利用することが認められることになるのです。
「Li-Ning」と「BAYC」のコラボレーション企画によるT シャツ
中国のデリバリーサービス会社がNFTを「デジタルVIP会員証」とする新しい試みをスタート
「BAYC」のNFTを購入後、「Li-Ning」はそのNFTを活用したコレクション企画として、各種アパレルとグッズの限定商品をリリース。4月末には北京で同企画のポップアップショップを開設し、中国のファッション好きなZ世代やファッション業界で大きく注目されました。今回の取り組みについて同社のマーケティング責任者は、現地メディア「Biadu News(バイドゥニュース)」のインタビューに次のように語っています。 「NFTの購入で『BAYC』とつながりが生まれました。今後は『BAYC』のブランドイメージを尊重しながら弊社のDNAやアクセントを加え、両社の持つ2つのIPをうまくシンクロさせつつ新しい化学反応を生み出せると思っています。最終的には共にグローバルでの認知拡大を獲得し、WINWINな結果が期待できるでしょう。そしてWEB3時代に向けて弊社のブランド戦略の重心はさらにIPビジネスの拡張へ。特にメタバース、デジタルファッションは初日からグローバル展開がスタンダードになると思っています」
4月中国北京で開設した、「Li-Ning×BAYC」のポップアップショップの外観
NFTの活用はアパレル業界だけでなくフードデリバリー業界でも活用事例が出てきています。中国のフードデリバリーサービスの大手「餓了麼(ウーラマ)」は、政府当局と提携し、NFTによる新しい試み「デジタルフード」に乗り出しました。これは「餓了麼」のアプリに付いた新しい機能で、ユーザーが注文商品のレビューをアプリに投稿するとポイントが獲得でき、指定のポイントが貯まると「麻婆豆腐」など代表的な中国料理のNFTアートと交換できるというものです。
「餓了麼」のNFT(デジタルフード)
ポイントが高いほど交換できるNFTにはさまざまな特典が内包します。たとえばユーザーの誕生日には、アプリでの注文時にNFTを提示すると割引が適用される、などといった感じです。いわば特典がもらえる「デジタルVIP会員証」のような活用法だといえるでしょう。このように、昨年4月ごろから投機手段として世界的に注目されてきたNFTには、1年が経過して実用的な活用事例が見られるようになってきました。現状では小売領域に事例が多く見られますが、ここに紹介した「餓了麼」の事例をはじめ、今後は物流、個人信用スコアの領域における動向にも注目していきたいと思います。