「費用対効果や獲得単価はどの程度を目指すべきなのか?」「Web広告を運用する予算はどう決める?」「認知を目的とした広告はどのような指標や考え方で運用するべきか?」といったWeb広告に関する戦略の話や、「今どのメニューに注目するべきか?」「注目するメニューはどう考えていけばいいのか?」「検索結果で1位に表示される場合、自社のブランド名で検索連動型広告を出稿するべき?」といった具体的な悩みや疑問について、弊社デジタルマーケティング事業本部 マーケティング部 部長の鎌戸隆輔にインタビュー。全2回にわたってお届けします。
鎌戸 隆輔「アパレルウェブ」デジタルマーケティング事業本部マーケティング部 部長
Q. アパレルECのWeb広告におけるROAS(費用対効果)やCPA(獲得単価)はどの程度あればいいのでしょうか? また、それらの目標値はどのように決定すればいいのでしょうか?
A. 広告全体のROASの適正値は500~600%。理想は予算を一つにした状態から認知や購買のための媒体や予算を振り分けていく形です。
Web広告全体のROASの適正値は500~600%だと思います。さらにROASを高めることもできるとは思いますが、そうなると「広告の意味があるのか?」という壁にぶつかるからです。
仮に2,000%のROASを目指すとします。検索連動型広告で自社のブランド名に関わるキーワードの出稿に絞れば達成できる可能性もありますが、これは自社を知っているユーザーに対してのみ広告を強化しているので、広告の意味が薄いと思います。つまり、Web広告は購買だけでなく、認知から購買までを描いて運用していくべきだということです。
しかし実際の問題として多いのが、「購買を目的としたEC用の予算」と「認知を目的としたPR用の予算」に予算が分けられていることです。理想はWeb広告の予算を一つにした状態から、認知や購買のための媒体や予算を振り分けていく形。というのも、マーケティングチームとECチームがあるとして、マーケティングチームの広告予算700万、ECチームの広告予算300万円とすると、それぞれからWeb広告や販促費用を振り分けているケースが多いのです。
例えば、マーケティングチームは700万円からPRに関する予算を細分化、ECチームは300万円からECの売上に貢献する広告メニューを細分化するといった形です。ですが、ECチームも既にブランドを認知しているユーザーへの訴求(リマーケティング広告)だけでなく、新しいユーザーへの認知を高めてサイト訪問を促したいとき、新しいユーザーへ認知するためにYoutube広告やSNS広告を出稿するケースがあると思います。しかし予算が分かれている場合はECチームには300万円しか予算がないため、出稿できる媒体やボリュームも限られてしまうのです。
もしPRチームの予算700万円と合算し、1,000万円が使えるとなると話は全く変わってきます。つまり、認知から購買までを一つの道と考えて予算を集中させ、そのうえでユーザーのカスタマージャーニーを描き、広告予算は振り分けていくべきだということです。
認知から購買までのプロセスが多岐にわたり、かつ繋がっている今、一貫してプロモーションを管理する必要があるのではないでしょうか。そう考えたとき、一つ一つの媒体やメニューのROAS以上に広告全体でどの程度費用対効果があったのかをみる、「トータルROAS(全ての広告の費用対効果)」という考え方がカギとなります。その場合、過去の私の経験上では、トータルROASは500~600%が目指すべき目標値となってきます。
左/AとBは同じ認知を目指す広告だが、予算の出どころが違うため適切な予算配分ができていない可能性がある
右/ユーザーの行動に沿って広告戦略を考えるため、広告予算は全体を1つにして、適切な予算配分をすることが理想
Q. ディスプレイ広告やInstagram広告を中心に認知を目的に出稿しています。認知が拡大したかどうかの判断が難しく、どのような視点で運用、評価していけばいいのでしょうか?
A. 基本的には、SNSのフォロワー数や会員登録数など総合的に判断。中長期的には検索量、またYouTube広告のブランドリフト調査も視野に入れましょう。
認知度の評価はさまざまな指標を追いつつ、総合的に判断するべきだと考えます。デジタルマーケティングに関連した指標で言うと、SNSのフォロワー数やECの会員登録数、新規セッション数、新規購入者数などです。ただ、これらに言及してしまうと元も子もないので、自社ECに関わる指標以外で追うべき指標をご紹介します。その一つがULSSAS(ウルサス)という購買行動です(※1)。
UGC(ユーザー投稿コンテンツ)→Like→Search1(SNS検索)→S:Search2(Google/Yahoo!検索)→Action(購買)→Spread(拡散)という購買行動の流れですが、ポイントはSが2つ続いているところです。1回目の検索はSNSで行い、その後に検索エンジンで再度検索するという流れをあらわしており、SNSも絡めた行動がユーザーの中で当たり前となっている今日において、注目されている行動モデルです。
この行動モデルに当てはめると、検索エンジンの検索量(GoogleであればGoogleトレンドやキーワードプランナーで確認が可能)や、SNSの場合はハッシュタグの量なども、認知が拡大した指標の一つとして捉えていいと思っています。ただし認知を強化する施策をしたからといって、短期的に検索量やハッシュタグの量が増えていくわけではありません。ここを指標とする場合は1年以上の中長期的な期間で追っていく必要があります。
また別の手法ではYouTube広告を活用したブランドリフト調査があります。これはGoogleがブランドのYouTube広告を見たユーザーと見ていないユーザーに対して、認知に関するアンケートをする調査です。「YouTube広告の結果、広告を見たユーザーと見ていないユーザーを比較して○○%認知度が高い」という結果で示されます。
動画の前に表示されるアンケート画面は皆様も見たことがあるのではないでしょうか。注意点としては、調査はGoogleの担当者がついている企業に限られる点や、一定金額以上をYouTube広告に出稿しなければいけない点などが挙げられます。
※1)ホットリンクが提唱する購買行動モデル