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SHEIN(シーイン)のビジネスモデルを量産化? 徹底したローカライゼーションと投資で中国ブランドを支える新鋭スタートアップ「Fastlane(ファストレーン)」

AIL編集部
AIRVol.54転載記事
執筆者

「Fastlane(ファスト・レーン)」の公式サイトより

 

 SHEIN(シーイン)を筆頭に、中国発の店舗を持たないEC中心のビジネスモデルが世界中で成功を収め、中国のファッション小売業界で注目を浴びています。「第二のSHEIN」を目指し、今多くの中国ブランドがSHEINのビジネスモデルを研究していると言われています。2021の10月には、アリババがSHEINを意識したビジネスモデルにより「allyLikes」という越境ECブランドを展開しました。

 そんな中、SHEINのビジネスモデルを研究し、SHEINのように海外市場をターゲットとする中国ブランドを対象に、マーケティングからサプライチェーンまでワン・ストップ・サービスとして支援する企業が登場。「Fastlane(ファスト・レーン)」というスタートアップです。同社はここ最近、約1,000万ドル(約11億円)の資金調達に成功し話題となっています。今回はFastlaneのビジネスモデルと強みについて解説していきます。

 

米国での成功体験から見えた、中国ブランドの海外進出のヒント

 

 Fastlaneは2018年に深圳で設立し、2019年にShopifyが中国へ進出した際には、中国企業初の「ShopifyPlusPartner」に認定され、Shopifyの中国パートナー企業としてD2Cのビジネスモデルや考え方を中国で広めた企業としても知られています。Fastlaneが中国で注目されている理由には、同社の創業者である廖浪沙(リョウランサ)氏の経歴に関係があります。

 廖氏はFastlane設立以前、世界的に評価の高いスマートフォンブランド「Oneplus」の幹部メンバーとして、北米・欧州市場を開拓してきました。特に、同氏による米国での成功体験は、中国ブランドが米国進出する際のマーケティングや商品戦略といったノウハウの蓄積に繋がっています。その経験を生かしてFastlaneを創業。以来、DJI(ドローンで世界シェア7割を持つ中国ブランド)、Xiaomi(シャオミ)など世界で活躍する中国ブランドの海外マーケティングも支援しています。

 中国メディアの報道によると、2018年の設立から8ヶ月でFastlaneの売上は2,000万ドルを達成、さらに支援しているブランドのGMVが約100億円を突破しているといいます。同社では、ShopifyPlusPartnerとして、支援する中国ブランドに対してはShopifyを活用し、「MadeinChina→BrandfromChina」という経営理念のもと、従来の中国ブランドの「中国製造にとどまる」という固定概念を破壊し、「中国ブランドとして世界へ」というメッセージを謳っています。創業者の廖氏は今年開催された中国の越境EC関連のカンファレンスの講演において「グローバル進出のカギは、進出先の地域での徹底的なローカライゼーションに尽きる」と話し、同社の強みの一つとして強調しています。

 

Fastlaneでは、国際的に活躍している中国ブランドを支援している

 

 Fastlaneのビジネスモデルには2つの強みがあります。1つは、ブランド運営やブランドビジョンにおける徹底したローカライゼーションのサポート、そしてもう1つは、Fastlaneによる出資や経営のサポートです。

 具体的には、同社では現在、米国、カナダ、シンガポール、韓国、イギリスなど世界主要市場の8カ国に拠点を置き、各地域におけるマーケティング戦略、Shopifyを使ったECサイトの構築、EC商品撮影などのささげ業務、物流、製造工場やサプライチェーンのマッチング、カスタマーサポートの現地代行まで一括で支援しています。さらに、提携している物流企業や工場への発注・納品状況を追跡するために独自で管理システムを開発し、支援しているブランド企業は、管理画面へアクセスすることで簡単に生産状況から配送・納品状況までを確認することが出来ます。

 一般的に「ローカライゼーション」と言うとブランディングやマーケティングのイメージが強いですが、Fastlaneの場合、ブランドビジネス運営全般においてローカライズを徹底する点で、他社にはない独自の価値を提供しています。さらにいうと、これらのサービスを支える同社のスタッフ構成が強みとなっています。

 同社では現在約50名のスタッフが在籍し、9割のスタッフが先述した8つの国でそれぞれ従事しています。例えば、物流大手Fedex出身のスタッフや、時計ブランドDanielWellingtonの元グローバルマーケティング担当者など、越境ECや物流、マーケティングに長けたプロ集団によって形成されています。また、同社はPaypal、Mailchimpなど国際的なサービス・プロバイダ企業とも提携し、中国ブランドに向けたShopifyで利用できるカスタマイズアプリの開発も行っています。

 

Fastlaneは国際的なサービス企業やプラットフォーム企業とも提携している

 

 2つ目の強み「出資・経営サポート」については、支援するブランドの規模によって、Fastlaneが直接出資、さらに同社からブランドへ役員を派遣し、ビジネスパートナーとして経営戦略や事業成長を支援、最終的にIPOするというケースがあります。この投資サポートによって、ポテンシャルはあるが資金力に欠ける中国ブランドでも、海外市場で羽ばたき上場する可能性が大いに強まります。

 今回紹介したFastlaneのビジネスモデルには、ブランドのローカライズ支援、投資・経営支援という2つの特徴がありますが、実はこのビジネスモデル、アパレルウェブ・イノベーション・レポート(AIR)Vol.48『アメリカD2Cの生存戦略』の中でキュレーター企業と称してご紹介した「WinBrandsGroup」、「VeryGreat」と共通しています。ただ、Fastlaneの場合、中国ブランドの海外進出を前提とした越境型ECと徹底的なローカライゼーションを支援するという付加価値で差別化を図っています。

 Fastlaneのように、ローカライゼーションを徹底し、中国ブランドを海外市場へ送り込むことが今後「普通」になってくると、仮にこれらの中国ブランドが日本に上陸したときに、いままで日本企業が持っていた、日本人の購買行動を熟知、文化を知っている「ホーム」としてのアドバンテージが薄れていく可能性もあります。

 競合はもはや国内のブランドだけではない今、こうしたブランドが上陸したときに対抗できるように、ファンを囲んでいく必要性がより高まっていることは間違いないでしょう。

 


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