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Web 3 SHOCK!時代の波「Web3」がやってくる(後編)

AIL編集部
AIRVol.57転載記事
執筆者

前編ではWeb3の定義や、黎明期と言われる現状について、具体的な事例を交えながら紹介していきました。後編では“さまざまな考え方”のある「トークンエコノミー」について、「トークンエコノミー」構築に特化したサービス「Pantograph(パンタグラフ)」や、NFT・メタバース領域への参入を発表したスペインの名門サッカークラブ「FCバルセロナ」の事例を交えて、いくつかの先進事例を紹介していきます。

「トークンエコノミー」の構築に特化したサービス

 まずは「Pantograph(パンタグラフ)」という「トークンエコノミー」の構築に特化したサービスを解説します。

 同サービスの流れは「1. サービス内でブランドがコミュニティを開設」「2. ユーザーを獲得するため、“ブランドのInstagramをフォローする”などといったブランドへの貢献ミッションを明確に設定する」「3. ブランド側は、ユーザーの貢献インセンティブのためにNFTを発行(ブランドの業種によっては、NFTは画像なり、何かしらの権利が内包されている電子チケットなど)」「4. ミッションをクリアしたユーザーは、ブランドから送られる指定暗証番号をもとにNFTを獲得」「5. ユーザーはそのNFTを他のマーケットプレイスに出品。または「Pantograph」内のユーザー同士間で交換、売買ができる」といったものになります。

 この事例では、あらかじめブランド側からユーザーに協力してもらいたいことを明確に表明し、ミッションを達成した報酬をNFTとして発行しています。そしてユーザーは受け取ったNFTを持って、交換なり、別のマーケットプレイスで売ることで、経済的な利益を得ます。他のマーケットプレイスで転売することでも間接的な宣伝効果を得られるため、ユーザーは自然な流れのなかでブランドの協力者としての活動をしてくれるようになる、という仕組みです。

(出典)

https://pantograph.io

 

「FCバルセロナ」がNFT・メタバース領域参入を発表し、独自のデジタル通貨も発行

 2022年春、スペイン・バルセロナを拠点とする名門サッカークラブ「FCバルセロナ」がNFT・メタバース領域への参入と、独自のデジタル通貨の発行を発表しました。その背景には、新型コロナウイルスによる観客の減少が招いた経営状況の悪化や、2021年に世界トッププレイヤーと評され“メッシ”の愛称で知られるリオネル・メッシ選手のクラブ離脱が重なったことがあると言われています。

 一方で、同チームにはまだ世界的なブランド力があり、2016年の時点で全世界におけるファンの数は1億人を突破。今回のデジタル通貨の詳細はまだ不明ですが、既存の機関投資家だけでなく、世界中のファンから独自デジタル通貨による資金調達も期待できます。

 それに加えて、1億人のサポーターを強みに、メタバース、NFT事業と連携し、遥かに大きな経済圏を構築しようとしています。

(出典)

https://coinpost.jp/?p=327435

https://www.ledgerinsights.com/fc-barcelona-rust-crypto-plans-for-metaverse-nfts-security-token/

https://www.footballchannel.jp/2016/01/02/post130571/

 

大胆予想! トークンが実現する未来のコミュニティ

 現段階で「トークンエコノミー」はコンセプト段階。実現に向けて試行錯誤されているところですが、今後ブロックチェーン技術が向上し「トークンエコノミー」が普及していくと、小売、ファッションビジネスにおいて2つの変革が訪れると予測されています。

 1つ目の変革は、新規ブランド立ち上げ時の資金調達に関する変革です。特に「トークン」発行により、資金の調達と運用の自由度が大きくなり、ブランドビジネス運営上の機動性が高くなります。現行の仕組みにおいては、資金調達時に既存の銀行、ベンチャーキャピタルによる厳しい財政状況の審査など一定のハードルがあります。クラウドファンディングによる資金調達方法もありますが、個人支援者に対する報酬として何かしらの商品を生産、発送するなどコストがかかる側面もあります。

 さらに「トークン」の特徴として、発行できる金額の単位を柔軟に調節できるため、大口の機関投資家から小口の個人支援者まで対応できるメリットがあります。最近、国内でも丸井グループが、小口の個人投資家の獲得を狙い「トークン」による社債発行を実施しました。

 「トークンエコノミー」においては、利用するユーザーコミュニティの拡大によって取引に価値が生まれ、「トークン」の保持量や取引量が増加することで経済圏が生まれます。「トークン」自体が支援者への報酬としての役割を果たせる点も「トークンエコノミー」ならではの変革といえます。

 2つ目の変革は、「トークンエコノミー」によって生まれる新しいユーザーコミュニティです。ブランドのコンセプトに賛同し、積極的にブランドの活動に協力してくれる“協力者”が集まることで新しいユーザーコミュニティが生まれ、ブランドとユーザーの価値を“共創”できる仕組みが確立されます。従来のファンコミュニティでは、商品を購買する、SNSなどで口コミを投稿するなど、消費者としてブランドとのコミュニケーションを行ってきました。

 これが「トークンエコノミー」における新しいコミュニティでは、ユーザーは単なる消費者としてではなく、ブランドと一緒に商品やコンセプトなどを“共創”していく立場として、ブランドを共に作っていくことに喜びを見出すような関係性が生み出されます。ブランド側も“協力者”への感謝をトークンという形で明確に表現することができるため、ファンでもあり、ビジネス上の協力関係もあるという、これまでにはなかったコミュニティが形成されていくことになります。

 本稿では「トークンエコノミー」がもたらす、技術面での新しい可能性について解説してきました。ひとつ確信できることとして、これらの技術が普及した際、その本来の価値を発揮できるかどうかは、結局基礎であるブランドストーリーや企業のパーパス、そして自社の顧客理解にかかっているということです。

 こうした基礎の部分を今一度振り返った上で「トークンエコノミー」との親和性を検討し、ぜひ可能性に挑戦してみてはいかがでしょうか。