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【独自取材】会社を動かした女性たち(前編)

AIL編集部
AIRVol.52転載記事
執筆者

 新しい商品やサービスが次々と生まれ、ユーザーの購買行動や習慣も大きく変化している今、企業にも新しい挑戦が必要となります。そこで今回は変化する企業の中心で活躍する女性を紹介。前編では「ジーエークロッシング」の世古寛子氏の挑戦をご紹介します。

和菓子専門サイト「旅するように和菓子と出逢う」

 「出会いを通して豊かに生きる」を経営理念として掲げ、企業、ブランドの販売促進のあらゆる課題を全力で解決している「ジーエークロッシング」。特に写真撮影、クリエイティブ開発、画像マネジメントサービス「GARACK」の提供といったクリエイティブやデジタルマーケティング周りの領域では、プロフェッショナルとしてさまざまな企業を支援しています。そのようにB2Bのビジネスを中心としていた「ジーエークロッシング」が新しく始めたビジネスが和菓子を専門で取り扱うECサイト「旅するように和菓子と出逢う」。これまでB2Cビジネスは未経験だった同社がなぜ、和菓子専門のECサイトへの挑戦を始めたのか? そこには本業とのシナジーを強く意識した思惑がありました。

世古寛子氏 「ジーエークロッシング」戦略デザインファーム 企画・運営

主業をB2Bビジネスとする企業のB2Cビジネスへの挑戦

 

―商品撮影やクリエイティブ制作などを行っている御社が、なぜ和菓子という異業界に目を付けECサイトを立ち上げたのでしょうか?

 2020年4月頃から、新規事業に投資をする話が会社からありました。その背景には1回目の緊急事態宣言発令があり、今後の社の成長を考えた際に、既存のクライアントワークだけでなく、自分たちで新しい成長の機運を作っていかねばならないという考えがありました。また、私たちが本業でお手伝いしているサイト制作やブランディングに自分たちもゼロから挑戦することで、今後のクライアントワークにおいて、より現実的な企業提案が出来るようになるのではないかと考えたことも理由の一つ。そこで弊社代表の小川から「ECにおける集客からCRMまでに取り組める自社独自の“実験場”を作りたい」というミッションが下されました。

 そして我々の部署がソリューション事業や新規事業を目的としていたことから構想に着手。提案の一つにあった「食」をテーマとする新事業について意見出しをする中で、私が提案した「和菓子」案が社内で反応も良く、採用されたという経緯です。コロナ禍という世の中の変化が重なったタイミングと、会社として変化していかなければならないという機運が重なったというところですね。

 私が和菓子を提案した理由としては、食といっても何でもいいわけではなく、自分の興味のある提案をしたかったというのがありました。私自身お菓子が好きでよく購入するのですが、和菓子は洋菓子に比べて買う機会や、和菓子を扱うカフェなども少ないと感じ、市場調査をしてみたところ、和菓子が好きだという声が8割以上あるのに対し、実際に月に1回和菓子を購入する人は2割にしか満たないことがわかりました。ニーズや市場に対して、出会いや購入の場が少ないという課題に気づいたことが、和菓子を選んだきっかけです。

 コンセプトは、和菓子屋が持つそれぞれのストーリーに焦点をあてること。そして共感を抱いてもらい、今後も買い続けてもらえるようなサイト、プラットフォームにしたいと考えています。

サイトでは商品を販売するだけではなく、商品に込められた想いなどを丁寧に紹介されている

―新規事業として和菓子のECサイトをスタートする際、実際にどのように社内を巻き込み進めていったのでしょうか?

 提案の段階で、社長をはじめ決裁者が同席していたので事業のスタートについてはスムーズだった印象があります。実際に事業を動かす際に、どうすればスムーズに進められるかという点は、自社での長年の経験を活かして社長や協力者を巻き込んで進めました。具体的には、スピード感のある決定を下すために社長と近い距離で進めていくことはもちろん、他の社員に理解の差が生まれないよう、和菓子ECのことを自ら発信し、社内掲示ポスターや社員購入キャンペーンなどを実施して社内浸透を計ることで、自身が動きやすい環境づくりをしていきましたね。そして4月にサイトをオープンした際にはまず、社員一人一人に実際にサイトを見て購入してもらい、意見や感想を貰うことで、事業自体の理解を促し社内認知度を高めました。

―ECサイトや和菓子にまつわるコンテンツ制作については、どのように進めていったのでしょうか?

 弊社がもともとクリエイティブ開発から撮影、デジタルソリューションを提供する会社ということもあり、一部の外部システム利用を除くECサイトの立上げ、写真撮影、ページ構成、和菓子の選定、和菓子屋への営業、取材・記事ライティングに至るまで、すべて内製で行っています。特にクリエイティブの質にはこだわり、ターゲットを女性としていることもあって、女性から見て読みやすく、興味をもってもらえるようなページデザインを心掛けています。

 また、サイト自体をリアルな場所として、信頼や共感を寄せてもらいたいという想いがあり、自分の言葉で伝えるために私自身が実際に和菓子屋へ取材に行き、和菓子を食べて、おすすめだと実感した内容を記事にしています。

―異業種である和菓子業界と関わっていくのは難しい面もおありだと思います。どのように関係を構築していったのか、和菓子屋の反応も含めてお聞かせください。

 和菓子の専門ECサイトというのは競合がほとんどないのですが、その背景には和菓子屋各店のECリテラシーの差が関係していると、営業する中で気付きました。和菓子屋の大半が個人事業主で、和菓子職人が店主として店頭に立っていることも多いため、単純に電話に出る時間がない場合もあり、電話口でウェブサイトの話を長々と話してもなかなか理解してもらえません。一方、和菓子は大型ECモールや食品関連サイトの1カテゴリとして扱われることは多いので、自社サイトや通販に対応しているお店は多く、そういったお店は営業電話を日頃から受けているので警戒される場合もあります。

 さらに「ジーエークロッシング」という企業名も浸透していません。そのような状況を前に、どのようにサイトのコンセプトや想いを伝えるのか、提案を目にとめてもらえるのかについて考えた結果、すごくアナログな手法ですが、手書きで手紙をしたためて送りようにしました。まずは自分たちが何者なのか、なぜ出店してほしいのか、という部分を手紙にして送ったことで、電話を返してくれたお店もありましたし、手紙を送った上で電話をすることで、共感してくださり出店を快諾いただけるようになりました。

販売されている和菓子は1件、1件訪問して想いを伝え、職人の共感を得た上で販売されている

 弊社はプラットフォームを提供しているだけになりますので、実際に注文が入った際には、和菓子屋の各店舗で通常の発送作業をしていただいています。弊社のDMを同封してもらうことはありますが、基本的には通常の発送作業後に、発送連絡を弊社にしてもらうだけです。現在出店している和菓子店は自社ECを運営しているお店も多いので、オンライン販売に完全に不慣れというのは少ないです。中にはオンライン販売が初めてというお店もありますが、予め伝えているフローに沿って頑張って対応してもらえています。

―ECサイトを運営する中で得た、従来のクライアントワークと異なる点など、気づき・発見はありますでしょうか?

 ECサイトをゼロから立ち上げたことで、店舗運営の難しさを実感しています。というのも、クライアントワークでは実運営というところまで手を出すことはないのですが、弊社のECサイト「旅するように和菓子と出逢う」では、店舗がただデジタル上にあるというだけで、リアルで店舗出店したことと何ら違いがありません。宣伝など何もしないとサイトに来訪してもらえることはありませんし、来訪してくれたとしても商品管理やPOPを打ち出さないと目にとめてもらえません。出店すれば誰かに買ってもらえるという甘いものでは決してなく、日々の運営が重要だという面においては、リアルもデジタルも同様だと痛感しています。

 サイト運営においてはスピード感が重要だと感じます。常に市場の動きにアンテナを張って最新情報や動向をキャッチし、それに合わせて施策や変化を加えて運営しなければいけない大変さを実感し、クライアントワークで担当していたお客様の気持ちが、同じ立場に立ったことで良くわかるようになりました。相手が何を求めていたのか、実際に自身が経験しなければ想像することしかできなかったので、今回のサイト運営で得た知見は、社内スタッフや自社サービスにフィードバックすることも重要な役割だと考えています。

―最後に、「ECの実験場」としての新事業「旅するように和菓子と出逢う」の展望と、チャレンジについてお聞かせください。

 まずはサイトが一般的に認知されるよう成長させていきたいと考えています。サイトを立上げる際、3~5年後には“和菓子を買う際のECサイトと言えば「旅するように和菓子と出逢う」”と認識されるようなポジションを目指したいと目標を掲げました。なおかつサイト運営がクライアントにも周知されることで、それを起点に本業の依頼を受けられるような、会社全体の信用度や実績に貢献できる運営を目指していきたいと考えています。

 また、ただ単に和菓子を取り扱い、売上をあげるということではなく、このサイトを通じて“特別な和菓子体験が出来る”“和菓子好きの人が集まるコミュニティがある”というように、ECサイトにとどまらないメディアとしてのポジションを築いていきたいと思っています。その想いから、和菓子店一軒一軒の声を聴かせてもらい、実際に味わい、そのリアルな体験をコンテンツとして配信させていただいています。エンドユーザーの感想は正直まだわかりませんが、いずれサイトを通じて和菓子店と和菓子好きの人たちが繋がることで「旅行がてらあの和菓子店に行こう」という活性化が生まれたら嬉しいです。和菓子店にとっても、和菓子好きの人にとっても、貢献できるプラットフォームになればいいなと思います。

取材を終えて

 取材前、なぜB2B向けビジネスを本業としていた「ジーエークロッシング」がB2C向けビジネスに取り組んだのか? という疑問がありました。コロナ禍という状況もあり、新しい事業で収益を確保していくという狙いは予想できましたが、その他に「自社ECの運営でECにおける集客からCRMまでに取り組む、自社独自の“実験場”を作りたかった」という狙いがあったのに驚きました。「自社ECに人を集めるには?」「ユーザーとのコミュニケーションのハブとなるプラットフォームを構築、運営していくには?」という知見を積み上げることを大きな目的として運営されていたからです。本来、そうした悩みをもっている企業、ブランドの支援をしている「ジーエークロッシング」が、悩みを持つ企業に、更に寄り添った提案や支援をするために「旅するように和菓子と出逢う」を運営しています。ブランドやサービスを展開するとき、お客様目線で考えるという言葉がありますが、まさに「ジーエークロッシング」はお客様(=支援企業)目線を徹底し、その結果生まれた新たなチャレンジが「旅するように和菓子と出逢う」という形になったのではないでしょうか。本業へのシナジーが今後どのように大きくなっていくのか注目の事例となっています。

 

「ジーエークロッシング」 

 http://xrossing.co.jp/

「旅するように和菓子と出逢う」

 https://tabisuruwagashi.com/