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【独自取材】アパレル生産のDX 「DeepValley」代表取締役社長 深谷玲人氏インタビュー。あやとりのようにデータをつなぐAYATORIがファッションの未来を変える。

AIL編集部
AIRVol.60転載記事
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2021年、アパレル大手メーカーの「JUN(ジュン)」グループが、全ブランドへのデジタル管理システムAYATORI(アヤトリ)の導入を発表。これまで販売面に集中してきたDXを、生産面においても全面的に進めていくという大手メーカーによる印象深いメッセージでした。さまざまなデータを一元化することで業務効率化をめざすSaaS(Software as a Service:インターネット上で利用するソフトウェア)のAYATORIは、2019年にサービスインし、現在では2,000以上のユーザーが利用するアパレルブランド運営効率化ツールです。では、DXによる業務効率化をどのようにはかり、どのような未来を目指しているのでしょうか。AYATORIを運営する「DeepValley (ディープバレー)」代表取締役社長の深谷玲人氏に伺いました。

すべてをデータ化し、“あやとり”のようにつないでいく

はじめに、AYATORIがどのようなツールなのか教えてください。

深谷氏:AYATORIはブランド運営の効率化を目的に開発された、初期費用無しの月額課金制サービスです。主にアパレルのバックオフィス業務、特に生産業務を効率化して、企画からMD、そして生産や販売までを一貫してデジタルで一元管理できるサービスになっています。具体的には、まず企画やデザイナー、ディレクターの方が画像データやアイデアをAYATORIにストック。それらを活用して商品マスタなどの情報を入力しながら、MDマップ作成やデータ作成・管理を行えます。加えて、AYATORI内で社内外問わずにコミュニケーションを行えます。さらには、さまざまな帳票の出力、販売側のレジやECサービスなどとの連携が可能となり、自社に合った変動的な商品マスタを作り上げていくことができます。

AYATORIの開発にはどのような背景があったのでしょうか。

深谷氏:もともと私がブランドで仕事をしていたとき、企画の方が手書きした品名を生産管理の方がエクセルで入力していたり、その商品が出来上がってくるとOEM先や工場の方が管理のためにエクセルでまた入力したり、同じ品番データに対して各担当者が同じ内容を都度入力している体制が気になっていました。販売においても、同じ内容を社内の複数のシステムや社外のプラットフォームにいちいち入力する必要があり、結構な手間だと感じていました。その実体験からAYATORIは生まれ、ひとりの担当者が入力したデータをすべての関係者と共有できることから、何度も入力・作成する手間を省き、商品データを一元管理できるところにAYATORIの大きな強みがあると思っています。

AYATORIの実際のMDマップの全体イメージ。シーズン、月毎に進行している商品ラインアップや商品情報を一覧できる。

 

クリエイティブに専念するために、ITによる効率化で環境づくりを

アパレル業界において、このようなサービスがなかなか生まれなかったのはなぜでしょうか?

深谷氏:個人的な意見になりますが、アパレル業界は感性の部分がどうしても大きい業界だと思っています。デジタル化に関していえば、販売側はすごく進んでいるけれども作り手側が遅れているという事実があります。もちろんリテラシーなどの概念もあるとは思いますが、古き良き時代から導入している方法がそのまま継承されてきてしまっていたり、逆に分業がすごく進んでいるがゆえに、システム管理をしにくいということが原因になっていたりするのではないでしょうか。

 またアパレル業界では、基本的に効率にあまり関心がないという印象も受けています。それは効率化とクリエイティブは相入れないという思いによるもので、効率化で時間は作れるかもしれないけれど、クリエイティブの試行錯誤や、クリエイターの脳内やセンス、感性といったものは、むしろデジタル化で制限されてしまう可能性があると考える傾向にある。それゆえ、効率を求めるIT技術の需要が、販売以外のシーンにおいては低いのではないかと感じます。

 もちろん、新たに創出された時間をうまく活用し、さらなるクリエイティブに専念してもらいたいのですが、別の角度から言うと、ITの知見が十分にあり、かつアパレル文化も理解している人材が圧倒的に少ないことも業界の課題でしょう。私自身はITもアパレルも手掛けた経験があるため、AYATORIのようなデジタル化を可能にするツールを制作できたのかなと思っています。

アパレル生産現場のブラックボックスを可視化するAYATORIによって描かれる未来

AYATORI導入によって、生産業務は具体的にどのように効率化されるのでしょうか?

深谷氏:生産過程におけるデータ管理の煩雑さによって発生していた伝え間違いや伝え漏れといったものが、中央集権型でシステム管理することで圧倒的に少なくなります。あとは各業務が属人化してしまうことから、担当者が産休に入ってしまい誰もわからない……というような状況も、生産過程が可視化され、スタッフ間で共有されるために解消されます。業務効率の点では、同じ人が同じ内容を何度も入力する必要性や、いくつものエクセルを作る必要性などがなくなります。あらゆる無駄を拭うことで得られる業務効率化や生産性の向上は、AYATORIのメリットとして提供できる大きなポイントです。

MDマップの商品詳細イメージ。品番、上代、サイズ・カラー展開などの基本情報に加え、ステータスや備考入力欄があり、生産進捗を共有できる。これらの情報をもとに、洗濯ラベルや下げ札など副資材の即発注も可能に。

生産面がDXで可視化されることで、MDや売上にはどのような効果があるのでしょうか?

深谷氏:可視化で得られる効果の1つは「どれだけ作るか」がわかることです。販売までリンクするシステムであれば「どれだけ反応があったのか」ということまで一貫して分析できます。AYATORIの次の開発ステップにはなるのですが、さらなる“見える化”を進め、ゆくゆくは企画データと販売実績データとの差分などを集計・分析し、翌シーズンのプランニングに活かすといったシステムを構築したいと考えています。

なるほど、企画・生産・販売の実績を一元的に“見える化”し、無駄を抑えることで、在庫問題やサステナビリティにもつながっていきますよね。

深谷氏:少し未来の話をすると、生産に関するデータ化は今まで行われていないため、さまざまなデータを取得し、蓄積していくことで業務効率が図れると考えています。たとえば生地に関していうと、“このような商品が作りたい”という仕様書をAYATORIに入力した時点で、“この生地がおすすめ”といった素材の提案が可能となります。さらには、生地自体の生産過程におけるCO2排出量など、その生地が環境に配慮されているか否かという情報をすぐに得られたり、生地サンプルをその場で発注したり。それにより、製品化するための予算や、MD計画をもとにした売上の参考値までもが理論上算出できるようになります。

 そして注目していただきたいのは、これらの基盤はすべてコミュニケーションだということです。当社はIT企業として多くのデータベースを保有していることが強みですし、AYATORI上で発生するコミュニケーションをひとつひとつ蓄積できれば、生産に関するビッグデータとして次なる効率化やサービス開発に役立てることができます。仮にミシンがオート化し人の手で縫わない時代が訪れたとしても、AYATORIのデータベースを活用することができるのです。つまり生産に関するビッグデータは無限の可能性を秘めており、今後デジタル化していくアパレル業界の未来において非常に重要な存在になると思っています。

最後に、AYATORIを通じて得られる生産ビッグデータを活用し、アパレル業界をどのように変えていきたいと考えますか?

深谷氏:実務面でいうと、これまでブランド運営において生産管理に要していた手間を売上向上のための一手間に変換できると思っています。労働環境面で考えても、たとえば仕様書を作成するときにAYATORIがプラスアルファの提案やフォローをしてあげることで、環境問題や廃棄問題だけでなく、労働環境の改善にも繋がるのではないかと思います。

 アパレル業界では生産過程における複雑さがブラックボックスを生み出し、多くの問題を生じさせてきました。私にとっては、“それらをデジタルで可視化することで解決する”ことが最終的なゴールになります。無駄を削減し、生み出された時間で表現性の高いクリエイティブなものを作る。効率化することでこのようなポジティブな循環が生まれると、ファッション好きとしては嬉しいですよね。本当に良いものを作れる環境をまず生み出せないと、ファッションの未来は変わらないと思います。その環境作りがアパレル業界に一番欠けているものではないかと感じるので、AYATORIで実現したいですね。