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Temu(テームー)とSHEIN(シーイン)が英Apple Storeでダウンロード数トップに 英国拠点の増強やIPOなど最新アップデートを紹介
中国発格安ECモールの「Temu(テームー)」と「SHEIN(シーイン)」は、英国のApple Store(アップルストア)における2024年の無料iPhoneアプリのダウンロード数トップに選出されました。特に、「Temu」は、英国だけでなく、米国、ドイツ、スペイン、アイルランド、オーストラリア、韓国、メキシコでも最もダウンロードされたアプリとして位置付けられています。一方、イタリア、フランス、日本ではダウンロード数2位の位置付けとなりました。
英国Apple storeにおける2024年度アプリダウンロードランキング
(Apple社公式リリース「Get the UK’s top apps of 2024」より引用)
「Temu」は中国のPinduoduo(拼多多、PDD)グループが運営する越境ECモールで、2022年9月に米国で運営を開始し、昨年には英国へ進出。現在80以上の市場で展開しており、工場直送プラットフォームとして機能しています。
その他、Apple社による2024年の年間人気アプリランキングでは、パズルゲーム「Block Blast!(ブロックブラスト)」がトップダウンロードを誇り、ショッピングアプリも2位と好調でした。また、英国やヨーロッパを中心に展開する中古品マーケットプレイス「Vinted(ビンテッド)」が4位となり、Meta(メタ)社のテキスト主体のSNSアプリ「Threads(スレッズ)」に次ぐ結果となりました。さらに、AIチャットボットアプリ「ChatGPT(チャットGPT)」が5位にランクインし、「TikTok」「Tesco」「WhatsApp」「Google」などより上位の位置付けとなっています。
フランスが「Temu」にとってヨーロッパで2番手の市場に
フランスは、「Temu」にとってドイツに次ぐヨーロッパで2番目に大きな市場となり、月間利用者数は1,200万人に達すると発表されました。この発表は、EU規制に基づく透明性要件が強化される中で行われたものです。
FASHION NETWORKより引用
フランスの郵便事業を行うLa Poste(ラ・ポスト=郵便局)によると、「Temu」「SHEIN」のようなオンライン小売業者の配送が全体の22%を占め、「Amazon(アマゾン)」の21%を上回ると述べています。これは5年前の5%未満から大幅に増加した結果です。また、2023年4月~10月の期間において、「Temu」はヨーロッパ全体で平均9,370万人の月間利用者数を記録しました。最大市場のドイツでは1,630万人、次いでフランスで1,200万人、イタリアで1,000万人、ポーランドで960万人、スペインで940万人と、かなりのユーザー数を獲得しています。
また、「Temu」では時を同じくして、ヨーロッパのDSAという名称の新デジタルサービス(注)に基づいた、初の透明性レポートを公開。この法律は、大規模オンラインプラットフォームの規制を目的としています。「Temu」は低価格戦略で急成長し、衣類、玩具、インテリア、工具、テクノロジー製品など幅広い商品を提供しています。欧州委員会は2024年6月に「Temu」「SHEIN」の両社に対し、違法商品の報告体制、未成年者保護、推薦システムの透明性、販売者の追跡可能性についての説明を求めています。
(注)DSAとは「Digital Servise ACT」の略。EU連合のデジタルサービス法(DSA)は、オンライン環境でのユーザーの安全性を確保するために、オンラインプラットフォーム事業者などに対し、ネット上の違法・有害情報の削除などを義務付ける。 違反すると最大で年間売上高6%の制裁金が科せられる(参照:日経クロステック)
英国内拠点の販売業者を増やし、配送スピードアップへ
RETAIL GAZETTEより引用
他方で、「Temu」では、配送時間を短縮し、実店舗を持つ競合他社への圧力を強めるため、英国拠点のサプライヤー(販売者)を増やす計画を進めているといいます。これは「ローカル」プロジェクトの一環で、英国拠点の販売者から商品を購入すると、ユーザーは最短1営業日で注文品を受け取ることが可能に。対象商品は、家具、テント、冬用コート、キッチン家電など、中国からの輸送コストがかかるような大型商品が中心です。
「ローカル」プロジェクトを推進するため、「Temu」はロンドンにオフィスを開設し新たに数十人の英国スタッフを採用予定だといいます。同社はヨーロッパ全体で平均9,370万人の月間利用者数を誇るにもかかわらず、従来は中国の販売者から安価な商品を1~2週間かけて届けていました。そうした状況を受け、物流面やCRMの改善に乗り出していることが分かります。
今春に「SHEIN」が英国でIPOか 依然としてサプライチェーンや労働管理に課題は残る
しかしながら、「Temu」は先月などに「出品停止された不正販売者」が再びプラットフォームに出品するという問題が指摘されました。一部の商品に至っては、削除後に数日で再登場しているケースもあり、そうしたプラットフォーム管理における不信感から、英国やヨーロッパで管理体制の強化が求められているのは事実です。
また、「Temu」や「SHEIN」では生産管理体制における英国労働者の保護権利を巡る問題においても、議会から調査・尋問を受けています。それにより、「SHEIN」が申請している英国ロンドンでのIPO(上場)も承認待ちのステータスとなっています。ロイター通信によると、早ければ2025年前半のイースター時期には上場が承認されるとの最新予測もありますが、現時点では未定です。両社のヨーロッパにおける動きは今後も引き続き注視していきます。
参照:
https://www.retailgazette.co.uk/blog/2024/12/temu-shein-iphone-app-2024/
https://uk.fashionnetwork.com/news/France-becomes-temu-s-second-largest-european-market,1683653.html
https://nielseniq.com/global/en/insights/analysis/2024/exploring-temus-first-year-in-france-key-ecommerce-trends-and-insights/
https://www.retailgazette.co.uk/blog/2024/12/temu-uk-suppliers/
https://www.retailgazette.co.uk/blog/2025/01/shein-labour-practices/
https://www.retailgazette.co.uk/blog/2025/01/shein-ipo-mid-year/
https://www.reuters.com/business/retail-consumer/shein-aims-london-ipo-by-mid-year-sources-say-2025-01-09/
執筆者
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高嶋 一行|KAZUYUKI TAKASHIMA
Showcase Tokyo代表・在英ライター|AILメディアパートナー
ファッション専門学校卒業後、渡英。「ELEY KISHIMOTO(イーリー キシモト)」にてデザインアシストを経験。現在は英国を拠点に日本ブランドの海外セールスを行うエージェント「ShowcaseTokyo」を運営。東京ファッションウィーク参加ブランドなど、日本のデザイナーズブランドの海外進出や新規取引先開拓の支援を行っている。 パリファッションウィーク期間では年4回それぞれのシーズンに営業担当する日本ブランドと共に参加。バイヤー向けの展示会を開き、ヨーロッパを中心に海外のお店やバイヤーとの取引を進める