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英 大手小売2社の最新事例 “食体験”を追求するコンセプトストアと「TikTok Shop(ティックトックショップ)」参入

英国の主要小売が新たな戦略を打ち出しています。高級スーパーマーケットの「Waitrose(ウェイトローズ)」では、コンセプトストアのオープンにより運営効率の向上と顧客体験の強化を進める一方、「Marks&Spencer(マークス&スペンサー)」は 「TikTok Shop(ティックトックショップ)」へ参入。ショート動画を起点とする購買行動に対応した動きを見せています。
クイックサマリー
「Waitrose(ウェイトローズ)」 | 約100億円を投じ、実証拠点となるコンセプトストアをオープン
英国を代表する高級スーパーマーケット「Waitrose(ウェイトローズ)」は、初のコンセプト店舗を英国ニューベリーにオープンしました。“Home of Food Lovers(食通のためのホーム)”をコンセプトに掲げるこの新店舗は、同社にとって過去最大となる5,000万ポンド(約100億円)をテクノロジー分野に投じたとされています。さらに、27,000平方フィート(約2,508平方メートル)という広大な売り場を備え、「卓越した品質や専門的なサービス、そしてオーガニックやフェアトレード、動物福祉に配慮した倫理的に調達された商品」を前面に打ち出しています。
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新店舗はサステナブル(持続可能性)を前面に打ち出した青果売り場などを展開
大規模投資を通じて店舗オペレーションの効率化と顧客サービスの向上を狙う
(「Waitrose newbury」公式Instagramより)
新店舗の特徴の一つに、幅5メートルに及ぶチーズ売り場や、食事づくりをサポートする専用カウンター「Meal Maker(ミールメーカー)」が設置されています。さらに、店内ベーカリーや食品売り場をはじめ、惣菜や希少ワインのコーナーやカフェなど、多彩なゾーンを展開しています。
テクノロジー面では、最新のAIアプリを従業員が試験的に利用し、音声やテキストを通じて商品情報や在庫状況、店内での陳列場所に加え、栄養成分や原材料の調達背景といったサステナビリティ情報、レシピなどを即時に確認できる環境を整えていると言います。さらに、「Waitrose」全店舗への導入を見据え、電子棚札や在庫確認用のハンドデバイスが新店舗へ先行導入されています。商品の品切れをリアルタイムで検知する設置型カメラの検証テストも行われており、運営効率の向上と顧客体験の強化を目的に、今後の全店舗への導入が検討されています。

幅5メートルに及ぶ「チーズアイランド」では、約100種類のチーズが並ぶ
(「Waitrose」公式サイトより)
同社の暫定マネージングディレクターのTina Mitchell(ティナ・ミッチェル)氏は、「食の楽しみをさらに高めると同時に、食通にとってWaitroseが他にない存在となるため、専門スタッフやカフェ・ベーカリーへの投資を今後も継続していく」とコメントしています。ニューベリー店は同社における新店舗モデルを検証するための実証拠点として位置づけられており、中長期的な投資計画においても中核を担う店舗となっています。
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「Marks&Spencer(マークス&スペンサー)」 | 「TikTok Shop(ティックトックショップ)」へ新規参入
英国大手小売の「Marks&Spencer(マークス&スペンサー)」は、同社が推し進めるリテール改革の一環として、英国で急成長するショッピングプラットフォーム「TikTok Shop(ティックトックショップ)」へ公式ショップを開設しました。まずはパイロット版として展開し、同社のスキンケアカテゴリの定番商品である「Apothecary(アポセカリー)」シリーズをはじめ、「Skinkind(スキンカインド)」、ホームフレグランス「Discover(ディスカバー)」など、美容・フレグランスカテゴリーから厳選されたアイテムを販売する予定です。
@marksandspenceruk The rumors are true.. we’re now officially on TIKTOK SHOP 🥳
「Marks&Spencer」は、「TikTok Shop」参入により、若年層との新たな接点創出を目指す
(「Marks&Spencer」公式TikTokより)
「Marks&Spencer」は英国内で老若男女から幅広く支持されているブランドであり、「TikTok(ティックトック)」上では、ハッシュタグ「#marksandspencer」の投稿数がすでに10万件を超えている点も強みの一つです。同社はこれまでにも、クリスマスデコレーションのラインアップや夏に展開したトレンチコートが売り切れるなど、SNSを起点に話題が急拡散する“バイラル商品”を複数生み出してきました。
今回の「TikTok Shop」開設により、クリエイターは「Marks&Spencer」の商品を動画内からそのまま購入できる形で紹介ができるようになります。同社は今回の取り組みを通じて、ショート動画やクリエイターを起点とする若年層との接点拡大を狙っています。
今後は、TikTokクリエイターとの共同企画をはじめ、チュートリアルやレビューといった商品を実際に使う様子や制作の裏側を伝えるコンテンツ、TikTok限定バンドル(複数商品を組み合わせた限定セット)やプロモーションなどを展開する予定です。さらに、ライブ配信を通じたデモンストレーション(商品を実演販売)や、スタイリング提案の試験導入も検討するなど、多角的な施策を通じて新たな購買体験の創出を目指しています。
参照:
https://www.jlpjobs.com/blog/waitrose-unveils-first-home-of-food-lovers-concept-store/
https://www.johnlewispartnership.co.uk/media-centre/latest-news/2025/23836
https://www.retailgazette.co.uk/blog/2025/11/waitrose-concept-store/
https://uk.fashionnetwork.com/news/M-s-joins-tiktok-shop-starting-with-a-range-of-beauty-products,1779804.html
https://corporate.marksandspencer.com/newsroom/press-releases/ms-joins-tiktok-shop-making-its-most-loved-products-instantly-shoppable
執筆者
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高嶋 一行|KAZUYUKI TAKASHIMA
Showcase Tokyo 代表・在英ライター|AILメディアパートナー
ファッション専門学校卒業後、渡英。「ELEY KISHIMOTO(イーリー キシモト)」にてデザインアシストを経験。現在は英国を拠点に日本ブランドの海外セールスを行うエージェント「ShowcaseTokyo」を運営。東京ファッションウィーク参加ブランドなど、日本のデザイナーズブランドの海外進出や新規取引先開拓の支援を行っている。 パリファッションウィーク期間では年4回それぞれのシーズンに営業担当する日本ブランドと共に参加。バイヤー向けの展示会を開き、ヨーロッパを中心に海外のお店やバイヤーとの取引を進める。


