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10周年を迎えた「The AI Summit New York (AIサミット・ニューヨーク)」 ――運用とスケール、組織定着の時代へ

“企業によるAI活用”をテーマに、いち早く実践的な議論の場を提供してきたカンファレンス「The AI Summit New York(AIサミット・ニューヨーク)」が、今年で10周年を迎えました。12月に2日間にわたり、Jacob Javits Center(ジャビッツ展示場)で開催された同イベントには、6,500人を超える参加者、約450名の登壇者、160社を超えるAIソリューションプロバイダーが集結。業界を横断してAIがもたらす変革について、AIの実装、スケール、ガバナンスといった観点から複数のステージ構成で議論されました。
イベントの要点を現地レポートでお届けします。
クイックサマリー
The AI Summit New York とは?
🄫 The AI Summit New York
2025年を振り返り感じるのは、AI活用が本格的な転換期を迎えたということです。米国ニューヨークでは、AI時代における「現在地(NOW)」と 「次の一歩(NEXT)」を確認できる世界有数のイベントが、一年を通して多数開催されています。
「The AI Summit New York」は、企業のリーダーやテクノロジーのイノベーターたちが集い、ビジネスにおけるAI活用法を探求し、実践するための議論の場として信頼を得てきたイベントです。生成AIが登場する以前から、商業利用のためのAIの可能性と真正面から向き合い、「企業にとって何ができるのか」を追求し続けています。
同イベントがスタートしたのは2015年。当時、AIカンファレンスの多くは研究者向けで、企業の実務でAIをどのように取り入れるかという議論はほとんど存在しなかったといいます。そうした中、イベントの主催者であるinforma(インフォーマ)は、“企業によるAI活用”を論議するカンファレンス&エキスポとして「The AI Summit」を立ち上げたのがきっかけでした。以来、毎年ニューヨークには世界中からトップエグゼクティブ、投資家、データサイエンティスト、技術スペシャリストなどが集結し、最新技術やビジネス事例を学び・語る場として確立していきました。
同イベントは、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、ケープタウン、Black Hat USA(ブラックハットUSA)など、世界主要都市で開催されており、中でも「The AI Summit New York」は最も注目度の高いフラッグシップイベントとして位置付けられています。
「The AI Summit New York」
次回開催: 2026年12月9日~10日
会場: Javits Center, New York(ニューヨーク・ジャビッツ展示場)
公式サイト
10周年を迎えた「The AI Summit New York」
近年、企業におけるAI活用が「実験」から「実行フェーズ」へと移行する中、「The AI Summit New York」 は今年10周年という節目を迎えました。会場のジャビッツ展示場には、これからの10年に向け、「AIをどのような考え方とルールに基づき運用、実装、スケールアップさせていくのか」を議論するため、多数の参加者が集結しました。
2日間にわたって開催された本イベントでは、ハイレベルなステージセッションに加え、実践的なラボやワークショップ、ネットワーキングも実施。2025年度は、6,500人を超える参加者、約450名の登壇者、160社を超えるエンタープライズ向けAIソリューションプロバイダーが集結。産業構造や業務プロセス、そしてデジタル経済そのものを、AIがどのように変革しつつあるのかが共有されました。
🄫The AI Summit New York
複数のステージ構成で、AIの現在地を多角的に学ぶ
「The AI Summit New York」の特徴は、業界横断型で AIの実装・スケール・ガバナンスを捉える複数のステージ構成です。
🄫The AI Summit New York
■「The AI Summit New York」カンファレンスアジェンダ一覧
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Headliners Stage (ヘッドライン・ステージ):AI導入の最新潮流、倫理、社会への影響、企業戦略など、最重要トピックを扱う。
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AI at Scale Stage(AI・アット・スケール・ステージ):PoC(実験)から実装段階へ進むための「スケール戦略」を議論。AIが価値創出に至るまでの実務的な方法論が中心。
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Finance Stage(ファイナンス・ステージ):金融におけるハイパーオートメーション、リスク管理、AIによる意思決定の高度化などを深掘り。
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Health & Pharma Stage(ヘルス&ファーマ・ステージ):臨床AI、医療音響、バイオテックなど、医療におけるAI導入のリアルと未来。
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GenAI Stage(ジェンエーアイ・ステージ):モデルアーキテクチャ、RAG、データ管理、企業でのGenAI活用事例など、最も注目度の高い分野。
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Next Generation Stage(ネクスト・ジェネレーション・ステージ):AIを支える次世代ハードウェア(半導体、チップ)、ソフトウェアの進化にフォーカス。
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Data Excellence Stage(データ・エクセレンス・ステージ):データ品質、ガバナンス、インフラ基盤など、生成AI時代の“土台”となる領域を議論。
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Masterclasses & Workshops(マスタークラス&ワークショップ):ビジネスと技術の両面を深める短時間集中型の学習プログラム。
さらに、EXPOエリアには3つのセッションステージがあり、2日間を通して、AIの「現在地(NOW)」と 「次の一歩(NEXT)」を深く学ぶことが出来ます。生成AIをはじめとする技術革新が加速する一方で、筆者がイベントを通じて強く感じたのは、「何ができるか」よりも、「どのように運用し、組織に定着させるか」 という視点へのシフトです。
エキスポ会場の様子 🄫The AI Summit New York
「The AI Summit New York 2025」イベントハイライト
(「AI Business TV」YouTubeチャンネルより)
企業リーダーたちが放った印象に残る指摘
イベント終了後、主催者は今年の「The AI Summit New York」を象徴するテーマとして、AIの次なる方向性を示すいくつかの視点を共有しました。その中でも、筆者にとって特に印象的だったのが次の3点です。
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■AI時代のリーダーシップに求められる要素は、「好奇心・もろさ・人間の創造性」
Unilever(ユニリーバ)CDIO兼グローバルVP、Aaron Rajan(アーロン・ラジャン)氏は、AI時代のリーダーには「初心者として学び直す姿勢」が不可欠だと断言しました。同社では25,000人以上の従業員にAIトレーニングを実施し、人間の創造性とAIの加速力を組み合わせることで、商品開発から市場投入までのスピードを大きく向上させています。
同社によるテレビ・ラジオ広告へのいち早いAI導入は、イベントの主要テーマのひとつである「真の競争優位性は、人間の創造性とアルゴリズムによる加速を組み合わせることで生まれる」という考え方の裏付けとなっていたように感じました。
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■AIのスケールには、技術以上に「カルチャー変革」が必要
NBC Universal(NBCユニバーサル)のChris Crayner(クリス・クレイナー)氏と、EY(イーワイ)のTraci Gusher(トレイシー・ガッシャー)氏は、AIを本格展開する上で重要な観点として、ツール導入ではなく「人・プロセス・組織文化」だと語りました。
Crayner氏は「テック・パラリシス(技術麻痺)」という言葉を用い、変化への信頼と業務フローの再設計がなければ、AIは価値を生まないと警鐘を鳴らしています。さらに、「AI変革は、カルチャーが追いつかない限り停滞する」と指摘し、これは多くの企業に共通する課題を浮き彫りにしている。
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■AIネイティブ企業への再設計は、“選択肢”ではなく“必須”
Incedo(インセド)CEO、Nitin Seth(ニティン・セス)氏は、企業が陥りがちな「インクリメンタリズム(小幅改善)の罠」という概念を使い、次の指摘を行いました。「AI施策の約80%が停滞する理由は、既存の延長線での最適化にとどまっているからだ」といいます。
一方で、彼が提唱するのは、AIが業務を回し、人間が方向性を決める「Human-above-the-loop(ヒューマン・アバブ・ザ・ループ)」型組織(注)。これはスキルの問題ではなく、企業のマインドセットそのものを再設計する話だと強調しました。
(注)「ヒューマン・アバブ・ザ・ループ」型組織とは、AIの意思決定を人間が上位から統制する組織モデル
🄫The AI Summit New York
AI以上に、企業や個のアップデートが求められる時代――「AIに使われるか、共に進化するか」
2025年は「実行」へのフェーズが著しく加速した一年でした。もちろん、広大な米国で“すべて”と括ることは難しいですが、少なくとも筆者が参加してきた最前線のビジネスカンファレンスやイベントにおいて、前期(春夏)と後期(秋冬)ではセッションのテーマや参加者間の話題のいずれにおいても変化やシフトがあったように感じています。人間とAIの共存が謳われる中で、私たち自身もAI同様に「学ぶこと」「変化すること」「進化させていくこと」が重要で、それらを怠ってしまうと“気付けばAIに翻弄されている”という状況になりかねません。
企業リーダーたちがサミットの中で述べていたように、企業としても、マインドセットそのものを再設計することが今後は求められていきます。つまり、パソコンやモバイルのように、私たち自身も同様にいま、大幅なアップデートが求められているのです。
シンガポールで開催 「The AI Summit Singapore」
「The AI Summit」はニューヨークだけでなく、アジア圏でも開催されています。日本からの参加ならば、シンガポールで開催される「The AI Summit Singapore (AIサミット・シンガポール)」が参加しやすいかもしれません。シンガポールでの開催は、グローバル/アジア企業や政府関係者が集まるテックイベント「AT(Asia Tech) x Enterprise(アジアテック・エンタープライズ)」内のイベントとして実施されており、次の開催は 2026年5月に予定されています。
「The AI Summit Singapore」
開催日: 2026年5月20日~22日
会場:Singapore EXPO(シンガポール・エキスポ)
公式サイト
執筆者
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RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント|AILメディアパートナー
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG







