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「COTERIE(コーテリー)」が示す展示会の新たな役割 “買付”から“ファッションエコシステムのハブ”へ

RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー
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存在感を放つ2つの展示会「COTERIE(コーテリー)」「MAGIC(マジック)」

 今年9月、ニューヨーク市内のジャビッツ・コンベンションセンターで開催された、ウィメンズ向けのヤングコンテンポラリーの展示会「COTERIE New York(コーテリー・ニューヨーク)」と「MAGIC New York(マジック・ニューヨーク)」に参加しました。

展示会は9月14日から9月16日までの3日間、
NYのジャビッツ・コンベンションセンターで開催された(筆者撮影)

 

 これら2つの展示会は、国際的な展示会を手掛ける英国のInforma Markets(インフォーマ・マーケッツ)社が主催。1980年代に誕生した「COTERIE」は、出展やバイイングの目的で参加したことがあるという企業も多いでしょう。現在ではウィメンズ向けコンテンポラリーの代表的な展示会として、年2回(2月と9月)開催されています。一方の「MAGIC」 は、アパレルのほか、靴やアクセサリーなどのファッション関連製品の展示会として、ラスベガスとニューヨーク、そしてナッシュビルで開催。両イベントでは、世界中からブランドやバイヤーが集まり、次のシーズンを見据えた商談やトレンド探索の場として、強い存在感を放っています。

 今回筆者が参加した「COTERIE」 では、40カ国以上から約700ブランドが集結。毎シーズンで多様なキュレーションが行われていますが、来場バイヤーのエンゲージメントの高さに加え、今回は特に国際色豊かなラインナップが際立っていたことが印象的でした。

若手デザイナーを支えるプログラムと新しい才能の可視化

 「COTERIE」では、米大手出版社Condé Nast(コンデナスト)が発行する「VOGUE México y Latinoamérica(ヴォーグメキシコ・イ・ラテンアメリカ)」との提携によるリゾートウェア特集「Destination(デスティネーション)」をはじめ、サステナブルブランドを選定する 「Fashion by Informa × Hey Social Good(HSG)」 によるサステナビリティプログラムが行われていました。さらに、 米ニューヨークのファッション専門大学FIT(Fashion Institute of Technology、以下FIT) と連携した 「Next Gen at COTERIE – The Future of Fashion Exhibition」 など、ファッションの“いま”と“次世代”が交差する企画が展開されていました。

「COTERIE」とファッション専門大学FITによる共同企画では、
新進デザイナーの作品が展示されていた(筆者撮影)

 

 プログラムの一つに、「The Incubator Program(インキュベータープログラム)」があります。これは、黒人デザイナーや有色人種クリエイターによるブランドを支援・育成するためのプログラムです。展示枠の提供にとどまらず、「COTERIE」「MAGIC」などの主要な展示会への出展を通じて、彼らが手掛けるブランドが業界とのつながりを広げ、ビジネスとして成長できるよう支援することを目的としています。

「The Incubator Program」では、
出展のみならず、バイヤーとの商談機会の創出などを提供する(筆者撮影)

 

 筆者にとって、同展示会への参加は2000年以来となります。当時とはどこか雰囲気が変わったように感じましたが、それは決してネガティブな意味ではありません。展示会が“新しいデザインやトレンドを届ける場” であることに変わりはなく、商談の場であると同時に、新しい感性との出会いや次なる才能の発掘の場として、その意義を改めて感じることができました。

2026年春夏  靴のトレンド

 展示会場内では、さまざまなブースを見て回る中で、特に「靴」に注目しました。今シーズンの「COTERIE」では、3つのテーマ「Vibrant Escape(ヴァイブラント・エスケープ)」「Avant Craft(アヴァン・クラフト)」「Future Classics(フューチャー・クラシックス)」を掲げ、2026年春夏シーズン(S/S26)のムードを表現していました。

 

  • 1.Vibrant Escape(ヴァイブラント・エスケープ)
  •  プレイフルな素材や大胆なプリントを取り入れたデザインが特徴です。たとえば、「ビーチサンダル」や「スライドサンダル」には立体的なテクスチャーや明るいカラーパレットが組み合わされます。「スニーカー」にはステッチや異素材のディテールが加えられるなど、デザイン面と機能面の両面から“バケーション気分を高める”スタイル提案が中心となっています。
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  • 2.Avant Craft(アヴァン・クラフト)
  •  クラフトマンシップへの回帰も、今シーズンのトレンドの一つです。「編み込み(weaving)」や「立体感のある三つ編み(braiding)」「ビーズワーク」など、ハンドクラフトを感じさせるディテールがポイント。色合いは、くすみのあるチョーキーなホワイトや温かみのあるベージやディープブラウン、セージグリーンなどのアースカラーが特徴です。また、「レザーサンダル」や編み込み素材を使用した「ウーブンローファー」、サンダルやサボの一種「ウッドソールのクロッグ」など、“手仕事の温もり” を感じさせるデザインにも注目が集まっています。
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  • 3. Future Classics(フューチャー・クラシックス)
  •  “アナログな体験”や“日常の小さな喜び”を大切にする気分を反映したカテゴリー。アクティブウェアやレジャースタイルの要素を取り入れつつ、クラシックな靴を再解釈したデザインが特徴です。「メリージェーン」や「デッキシューズ」「スポーツサンダル」「レトロスニーカー」に、大胆なカラーブロッキングや遊び心あるディテールが施され、“懐かしさと新しさが交差する”デザインに注目が集まっています。カジュアル化が進む中で、新たな提案として存在感を示していました。

 

レンタルサービスが体現する新しい消費

 会場では、「The Future of Fashion(ファッションの未来)」 をテーマに、ファッションレンタルブランド「FashionPass(ファッションパス)」と「Vivrelle(ヴィヴレル)」が共同出展していました。ブースでは、両社が掲げる 「レンタルを通じたサステナブルなファッション体験」 が具体的に示されており、来場者は実際に商品に触れながら、循環型ファッションの新しい形を体験できる構成となっていました。

定額制ファッションレンタルサービスの「FashionPass」と「Vivrelle」が共同出展(筆者撮影)

 

 「FashionPass」は、米カリフォルニアで創業した定額制ファッションレンタルサービスです。1ヶ月あたり125ドル(約19,500円)という月額会員制で運営されており、顧客は最新のトレンドアイテムをレンタルすることができます。同サービスは、特に若年層を中心に高い人気を誇っています。一方の「Vivrelle」は、月額制でラグジュアリーブランドのバッグやジュエリーをレンタルすることができる会員制のサービスです。高価格帯のラグジュアリーアイテムを、所有せずにシェアして楽しむという、新しい消費スタイルを提案しています。

共同体験型ポップアップ「Vivrelle | REVOLVE | FWRD: SoHo Pop-up」では、
レンタルのほか、ショッピングも可能(「Vivrelle」公式サイトより)

 

 「Vivrelle」は、「COTERIE」が開催された9月以降、米大手オンラインファッション小売ブランド「REVOLVE(リボルブ)」とラグジュアリーブランド専門のオンラインストア「FWRD(フォーワード) 」との共同体験型ポップアップをNYソーホーにて開催しています。

まとめ

 今回参加した「COTERIE」では、「VOGUE México y Latinoamérica」との提携をはじめ、国際的なブランドを紹介する多彩なキュレーションが展開されていました。こうした 「展示会×メディア」の連携は、ブランドの魅力を国際市場に向けて発信するうえで、非常に効果的な取り組みだと感じます。国際的な展示会との協業を通じて、日本ブランドが世界へ向けて再び存在感を示す機会が広がることを期待しています。また、今年は「FashionPass」や「Vivrelle」といったレンタルサービスが展示会に登場したことも特筆すべき点です。従来、展示会は卸やバイイングが中心でしたが、レンタル・循環型サービスが同じ空間に並ぶ光景は、消費構造そのものの変化が現れている証と言えるでしょう。

執筆者

  • RINA Yoshikoshi

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント|AILメディアパートナー

    NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG