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【NRF 2026速報】NRF 2026: Retail’s Big Show(NRF リテールズ・ビッグ・ショー 2026) 世界最大の小売カンファレンスがNYで開催――テーマは「The Next Now」

2025年もあと数ヶ月で終わりとなると、来年はどのような年へ向かっていくのかと心が落ちつかなくなります。毎年筆者は、その年の初めに開催される、全米小売業協会(National Retail Federation、通称「NRF」)主催の世界最大規模のビジネスカンファレンス&エキスポ「NRF Retail’s Big Show(NRF リテールズ・ビッグ・ショー、以下ビッグ・ショー)」に取材参加することが多く、2026年もぜひ参加したいと願っています。
■まずはココだけ押さえる:NRF2026 クイックサマリー
- 1.NRF Retail’s Big Show とは? – 世界最大規模の小売カンファレンス&エキスポ
- 2.2026年のテーマ“The Next Now”と多彩なリーダーの登壇 – グローバルリーダーの最新の考え方に触れられる場
- 3.新設される“AI Stage” – 小売におけるAIエージェントの可能性
- 4.EXPOフロアと最新テクノロジー – イノベーションゾーン 〜 フードサービス
- 5.参加は100カ国以上、日本もトップ10入り – 日本企業の存在感と、これから参加すべき理由
前年の「NRF’25 ビッグ・ショー」では、テーマに「Game Changer(ゲーム・チェンジャー)」が掲げられ、初日の基調講演には世界的半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)の Azita Martin(アジタ マーチン)氏 がキーノート(基調講演)に登壇。NRF会長兼Walmart U.S.(ウォルマートU.S.)社長兼CEOのJohn Furner(ジョン ファーナー)氏との対談を通じて、AIと小売の未来を語り、注目を集めました。
関連記事:NRF 2025: Retail’s Big Show(リテールズ・ビッグ・ショー)視察レポート AI話題に引き続き注目 Walmart(ウォルマート)× NVIDIA(エヌビディア)対談
[NRF’25]NVIDIA / アジタ マーチン氏と
NRF会長兼Walmart U.S.社長兼CEO / ジョン ファーナー氏の対談の様子(一部)
(NRF公式YouTubeチャンネルより)
NRF’26ビッグ・ショーのテーマは「The Next Now」
こうした“未来を変える要素”への注目は、2026年に入ってさらに加速しています。2026年1月に開催される「NRF’26ビッグ・ショー」では「The Next Now(ザ・ネクスト・ナウ)」 というテーマのもと、AIやエージェントAIを“すでに取り込むべき現実”として議論していくようです。
イベントの中心を担うのは、やはりメインステージでのキーノートセッションです。毎年、世界的大手企業のCEOが登壇し、業界の未来を語ります。2026年は、「Abercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)」CEOのFran Horowitz(フラン ホロヴィッツ)氏が、その舞台に立つことがすでに発表されています。NRFが選出する「The Visionary 2026」に選ばれた彼女が登壇するキーノートは、今回のイベントを象徴するハイライトのひとつとなるでしょう。この「The Visionary」とは、小売業界で長年にわたり卓越したリーダーシップを発揮し、業界を変革してきた人物に贈られる賞です。ホロヴィッツ氏の場合は特に“アバクロ”のブランド再生と業績回復を実現した点などが評価されています。
「ビッグ・ショー」ではこうしたキーノートセッションだけでなく他にも、マーケティングやEC、サプライチェーン、サステナビリティといった多岐にわたるテーマで数百のセッションが開催されます。
「NRF Big Show 2025」に登壇した「Shopify」プレジデントのハーレー・フィンケルスタイン氏。
©NRF, Jason Dixson Photography
今年すでに登壇が発表されているキーノートスピーカーを見ても、その顔ぶれは実に多彩です(スピーカー一覧はこちら)。
- Julie Bornstein(ジュリー・ボーンスタイン)|Daydream 創業者兼CEO -AIエージェントコマースのパイオニア
- Harley Finkelstein(ハーレー・フィンケルスタイン)|Shopify プレジデント -世界中の中小ブランドを支えるECプラットフォームのキーパーソン
- Denise Incandela(デニース・インカンデラ)|Walmart EVP(ファッション部門) -世界最大の小売大手でファッション戦略を率いる
- Ashley Kechter(アシュリー・ケクター)|Vuori グローバルプレジデント -ウェルネスとアクティブウェア市場を急成長させている存在
- Gonzague de Pirey(ゴンザーグ・ド・ピレイ)|LVMH チーフ・オムニチャネル&データオフィサー -ラグジュアリーにおけるデータ戦略を担う人物
- Dayna Quanbeck(デイナ・クアンベック)|Rothy’s プレジデント -サステナブルDTCブランドの代表格
- Gary Vaynerchuk(ゲイリー・ヴェイナーチャック)|VaynerMedia CEO/VeeFriends 創設者 -マーケティングとカルチャーの象徴的存在
ラグジュアリー、小売大手、AIスタートアップ、サステナブルブランド、メディア&カルチャー、ECプラットフォーム、アクティブウェア。小売の多様性を体現するリーダーたちがすでに名を連ねています。そしてこれはまだ一部にすぎません。これからさらに、どのようなスピーカーが追加されていくのか、大きな期待が高まります。
新設! 期待が高まる「AI Stage」
[NRF’26]「AI Stage」特設ページより
これらに加え、2026年の大きな特徴として、AIに特化した新たなステージ「AI Stage(AIステージ)」 が設けられています。小売業におけるAIの未来、とりわけAIエージェントの可能性を深く探るプログラムが展開される予定です。これはNRFが、AIを“次に来るもの”ではなく“いま取り組むべきテーマ”と捉えていることを示しています。
イベントのもうひとつの目玉は 「EXPO(エキスポ)」フロアです。決済サービスやスマートフィッティングルーム、RFID、AIなど、1,000社以上の出展者がリテールの未来を形作る最新技術を披露します。その一角で展開される「Exhibitor Big Ideas(エグシビター ビッグ アイデアズ)」 では、出展企業がケーススタディやライブデモを通じ、現場で役立つ実践知を学ぶことができます。2024年から設けられた「Foodservice Innovation Zone(フードサービス イノベーションゾーン)」 では、フードテックや食品小売に関連する企業・サービスが集まり、飲食や食品分野のイノベーション企業が出展。これまでアパレルや日用品中心だったエキスポですが、現在も毎年50社以上が出展するなどフード領域の存在感は着実に広がっています。
今年1月に筆者が参加した「ビッグ・ショー 2025」では、「Instacart (インスタカート)」が大きなブースを展開していました。その中で、同社が買収した 「Caper AI (ケイパーAI)」のスマートカートが紹介されていました。この「Caper AI」がNRFに出展を始めた頃から注目してきましたが、今回の会場では創業者の一人と直接言葉を交わす機会に恵まれました。スタートアップから「Instacart」傘下へと成長を遂げた同社の存在は、リテールテクノロジーの進化を象徴する一例として強く印象に残りました。
[NRF’25]エキスポ内「Foodservice Innovation Zone」の様子(筆者撮影)
また、スタートアップ企業が集う特設エリアが「Startup Hub(スタートアップ ハブ)」です。ここでは、最先端の領域で挑戦し、次世代の小売を創る新鋭企業が一堂に会し、最新技術やサービスを発表します。このエリアに出展するには「設立が2021年以降」といった条件を掲げているだけあり、必ず訪れたいエリアでもあります。また、「NRF 2025」から新設された 「Innovators Showcase(イノベーターズ ショーケース)」 は、リテール業界の未来を切り拓く革新的なソリューションを集めた展示エリアです。会場内のリバーパビリオンに設けられ、50社以上のスタートアップやテクノロジー企業が出展。AIやデータ分析、オートメーション、サステナブル店舗運営など、次世代の店舗体験を支える多様なテクノロジーが一堂に披露されました。
参加は100ヶ国以上、日本もトップ10入りで存在感を強める
全米小売業協会(NRF)が公開している2025年度の参加状況を振り返ると、100ヶ国以上から参加者が集まるグローバルなイベントで、日本はその中でトップ10に入る主要参加国の一つとして位置づけられました。このトップ10には、米国をはじめ、ブラジルやメキシコといったラテンアメリカ諸国、イギリス・フランス・ドイツ・イタリアなどの欧州勢、そしてカナダや中国が名を連ねています。これら上位10カ国に日本が入っているということは、日本の小売・流通業界が、「ビッグ・ショー」という存在をグローバルな学びや交流の場として重視している証しといえるでしょう。
[NRF’25]参加国トップ10(参照:NRF公式デモグラフィック)
しかしながら、いざ参加するとなると言語の壁を感じてしまう方も少なくないでしょう。ですが近年では、リアルタイムでの翻訳機能を備えたアプリも登場しています。実際にパソコンやタブレットと連動し、スピーカーセッションの中で活用されている方も見かけますし、スマートグラスによるリアルタイム翻訳が誕生するなど技術は進化を続けています。また今年9月には、米Apple(アップル」が、最新の「 AirPods Pro 3(エアーポッズ プロ3)」を発表しました。さらに進化した本製品は「Apple Intelligence(アップル・インテリジェンス)」と連携したライブ翻訳を搭載しています。発売時は英語・フランス語・ドイツ語・ポルトガル語・スペイン語のみの対応ですが、2025年内には、日本語・イタリア語・韓国語・中国語(簡体字)の4言語が追加される予定だと報じられています。
こうした新しい翻訳技術を活用すれば、「参加しても理解できないのではないか」という言語面の不安を低減することが叶い、日本からの参加者がさらに増えることが期待できるでしょう。
また、「ビッグ・ショー」の参加者層を役職別に見てみると、最も多いのがディレクター/シニアディレクター、マネージャークラス。つまり、事業部門を実際に動かしている“現場と経営をつなぐ中核層”が参加者レイヤーの中心のようです。その次に多いのが CEO/社長/経営クラス。トップ層が直接足を運び、未来戦略を議論している点も「ビッグ・ショー」ならではの特徴かもしれません。一方で、日本からは若手層の参加も見受けられます。英語が堪能な社員など若手にも積極的にチャンスを与える企業が多いこともうかがえます。
[NRF’25]参加者の役職別割合(参照:NRF公式デモグラフィック・編集部により一部編集)
「NRFビッグ・ショー 2026」の統一テーマは“The Next Now”
次なるビッグ・ショーでは、小売業界が直面している急速な変化――AI・オムニチャネル・消費者行動の進化・サステナビリティの要請などを“未来の課題”ではなく“現在の課題”とする姿勢を示しています。特に、「AIの即時活用」 や「新しい顧客体験の構築」「持続可能性とビジネス成長の両立」 が大きな柱になると予想され、「未来に備える」 から 「未来を“いま”つくる」へのマインドシフトだといえるでしょう。
■NRF参加に関する情報を希望する方はお気軽にお問い合わせください。(ail@apparel-web.com・お問い合わせフォーム)
■NRF関連記事一覧はこちら (NRF NY・NRF APAC)
執筆者
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RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG