近年、小売業界におけるAIの影響が急速に高まる中、米小売大手「Walmart(ウォルマート)」と「Amazon(アマゾン)」が対照的な戦略を取っていることが明らかになりました。
「Walmart」公式アプリ
ウェブトラフィック分析企業Similarweb(シミラーウェブ)のデータによると、「Walmart」ではECサイトへの流入のうち、ChatGPT経由での流入がついに20%に達しました。これは、従来の検索エンジンではなく、生成AIが提示するチャット回答内に提示されるリンクを通じてユーザーが購買に至っていることを示し、消費行動の変化の現れだといえます。Modern Retail(モダンリテール)の分析によると、「Target(ターゲット)」「Etsy(エッツィー)」「eBay(イーベイ)」など他のプラットフォームでも同様にAIチャットからの流入が増えており、AIを経由した“リテールSEO”が新たな競争軸となりつつあります。
“囲い込み”か“橋渡し”か、戦略が分かれるAI対応
これに対し、「Amazon」では対照的なAI戦略を構築しています。同社では自社データをAIクローラーによるスクレイピング(情報収集)から遮断し、ユーザーの検索から購入までを自社のプラットフォーム内で完結させるという「ウォールド・ガーデン(囲い込み)」戦略を維持しています。これにより、例えば「ChatGPT」がリアルタイムで「Amazon」上の製品リンクをユーザーに提供することが難しくなっています。その結果、8月のAmazonへのAIチャットからの流入は前月比で約18%減少し、全体の3%未満に留まりました。
外部AIプラットフォーム上での販売導線をあえて制限する「Amazon」の戦略は、AIエージェントが自社の商品情報を活用できるよう開放している「Walmart」とはまさに対照的です。AIからユーザーを遠ざけて“囲い込む”のか、AIを“橋渡し”に顧客獲得を進めるのか、「LLMO(大規模言語モデル最適化、Large Language Model Optimization)」への対策が分かれます。
小売業が直面する「LLMO対応」という新課題
しかし、OpenAI(オープンAI)は将来的に「ChatGPT」内に支払いおよびチェックアウトシステムを構築し、アフィリエイト費用や取引手数料を通じて収益化する動きを見せています。AIプラットフォームが新たな商取引の場となる可能性が高まる中で、小売業者にとってはAIコマースがいずれ無視できない存在へと変貌していくでしょう。
今後は、AIチャットや音声エージェントを介した購買体験が一般化する見通しです。商品データや在庫情報をAIに最適化する「LLMO対応」は、小売・ブランドにとっての新たなデジタル基盤になるでしょう。AIに“見つけてもらう”ことが、次の時代のマーケティング論点になっていくのではないでしょうか。