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「The State of Fashion 2024」レポート発表: 世界的な不確定要素は続く2024年 消費者と向き合い成長チャンスを掴む【編集部厳選:週間ホットトピック】
小売、EC、マーケティング、テック、Web3カテゴリーを中心に、今週注目を浴びた国内外の最旬情報をお届けします。
カテゴリー:小売、経営
英国発ファッションビジネスメディアのBusiness of Fashion(ビジネス オブ ファッション)とMcKinsey & Company(マッキンゼー&カンパニー)が毎年年末に発表する、翌年の世界ファッション産業の展望予測に関する共同研究レポート「The State of Fashion(ザ・ステート・オブ・ファッション)」。
2023年11月29日に、2024年度の業界予測をまとめた「The State of Fashion 2024」が発表されました。その中から重要なポイントをピックアップし紹介していきます。
「The State of Fashion 2024」(Business of Fashion参照)
まず、全体として、2023年の傾向が2024年も続き、特に大規模な軍事衝突や米中の覇権争いなどといったグローバルレベルの懸念材料は継続する可能性が高いといいます。また、近年頻繫に発生するサプライチェーンの混乱も無視できません。
また注視すべきは、「SHEIN(シーイン)」「Temu(テームー)」を中心とした中国発の低価格帯商品を武器にする越境ECプラットフォームです。これらのファストファッションが世界的に急成長していることによって、従来の「Amazon(アマゾン)」「H&M(エイチアンドエム)」、そしてインディテックスグループの「Zara(ザラ)」「Bershka(ベルシュカ)」などの古参プレーヤーによる寡占市場の局面が打破され、ファストファッションのビジネスモデルや勢力図が今後大きく変化していくでしょう。どのような変化を遂げるのか、この点も注目ポイントの1つです。
さまざまな不確定要素によって岐路に立たされるファッション産業ですが、新しいテクノロジーや新興国市場の台頭、そして消費者のニーズや優先順位の変化によって、新たなビジネスチャンスが生まれることも期待されています。
例えば、2022年に登場して以来、世界を席捲している生成AI技術。これらが飛躍的に発展し、ファッション業界における商品デザインやEC運営業務、マーケティング実務などに至るまで、非常に速いスピードで実用的な活用例がすでに登場しています。生成AI技術で生産効率が向上することによって、コストコントロールの側面で大きなメリットが見込めます。
世界を席捲する生成AIサービス Credit:Mojahid Mottakin@Unsplash
また、期待できる新興国市場については、インドが大いに注目と期待を集めています。
インド経済が近年飛躍的に発展する中、同国政府は海外企業による投資を自国へ誘致するためにさまざまな優遇政策を打ち出しており、インドでの経営環境がより整備されてきています。ファッション業界に関しては、もともと中国に多いサプライチェーンの拠点をインドに移行する企業も増えています。インドの消費市場が成熟していくにつれ、現地生産・現地販売が叶うと、物流コストも大幅に削減できます。現在、人口が世界一となったインドは間違いなく今後最も重要な消費市場の1つになるでしょう。
飛躍的成長が予測されているインドのGDP推移(Statista社参照)
消費者の変化については、「休暇」「インフルエンサーの新たな変化」「アウトドアの再燃」の3つが挙げられています。
消費者の旅行や外出意欲、健康的なライフスタイル嗜好が高まる中で、依然としてショッピングの優先度が高いものの、小売企業はそのニーズを満たす新たなカテゴリ戦略や訴求を求められます。また、近年はオピニオンリーダーが次々と登場。ブランドマーケティング担当者は彼らのクリエイティブや発信を尊重し、手を取り合う形でのパートナーシップ(過度なブランドマーケティングを強いることをしない)が求められるといいます。そしてアウトドアは日常のライフスタイルに。2024年にはさらに多くのアウトドアブランドがライフスタイルコレクションを発表し、機能性とスタイルの境界線が入り混じっていくと言われています。
McKinsey & Company社公式サイトより
しかしながら、Bloomberg(ブルームバーグ)やThe economist(エコノミスト)の最新予測によると、2024年には米国がリセッションに突入する確率が一層高まる一方で、現在デフレーションによる苦しむ中国の回復ペースは鈍く、その鈍化は長引く可能性があるとみられています。となると、世界二大消費市場である米中の需要が著しく低下することが想定できますので、日本を含む各国の米中向け越境ECや輸出事業を中心に苦戦を強いられる可能性が高まります。そのリスクを緩和するためには、米中向けの商品戦略の見直し、顧客体験の改善に並行して、米中以外の新規マーケット開拓も必要になってくるかもしれません。