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インナーウェア市場の中で光る天然素材ブランドの存在感――モノづくりの背景を伝える、オーガニックコットンの「プリスティン」とメリノウールの「アイスブレーカー」 

武田 尚子|ライター・ジャーナリスト
執筆者

 近年のインナーウェア市場の構造変化は、実に抜本的なものがあります。量販の実用品とは別次元の、新しい価値を創造する市場の中でも、最近、存在感が増しているのが天然素材を特徴としたブランドです。インナーウェアは合成繊維が基本にありますが、近年は環境や肌への優しさを背景に、コットンをはじめとする天然繊維へのニーズがより高まっています。国内ではあまり下着に使われていなかったリネン、カシミヤといった素材も目につくようになってきました。

 本記事では、社会還元や環境意識の強い2ブランドを軸に、それぞれの企業のエシカルな経営姿勢を紹介したいと思います。

 オーガニックコットンの「PRISTINE(プリスティン)」(日本発ブランド)と、メリノウールの「icebreaker(アイスブレーカー)」(ニュージーランド発ブランド)――。両ブランドとも、インナーウェアに限らず、アウターウェアまで幅広い商品構成を行っていますが、その中でも定番中心のインナーウェアは、ブランドの商品構成を支える重要な存在となっています。


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《オーガニックコットンの「プリスティン」》持続可能なサプライチェーンの構築をさらに進める

「PRISTINE」のコアアイテムといえるのがインナーウェア。
快適なノンワイヤー前開きブラ(切替フロントホックブラ)と腹巻付きボトム

 

 「PRISTINE(プリスティン)」を展開する株式会社アバンティは、昨年末、社会デザイン学会の2025年度「社会デザイン大賞」を受賞しました。これは「これからの社会のあり方を模索し、未来へ向けた創造的な実践を続ける研究者・団体を顕彰する賞」で、選考理由としては、「オーガニックコットンを軸としたソーシャルビジネスの先駆者として、日本の繊維産業に新しい方向性を示してきた企業」であり、「1985年の創業当初から一貫して『作り手・売り手・買い手・社会の四方良し』の実践を理念としてきた」ことをあげています。

 さらにこれまでの活動の要点を、1.オーガニックコットンのブランド化、2. 経営面での黒字化戦略、3.持続可能な社会へのメッセージ性と、3つあげていますが、まさにここに同社の企業姿勢が集約されているといえます。

昨年12月、立教大学池袋キャンパス・太刀川記念館で
「社会デザイン大賞」授賞式および奥森秀子社長による記念講演が開催された

 

 世界の綿花生産が多くの課題を抱える中で、アバンティは1985年の創業から一貫して、持続可能なサプライチェーンの構築(農家と直接つながり、国内で糸・生地・製品生産まで一貫した供給体制を確立)に取り組み、2023年からは国内で栽培したオーガニックコットンを自社製品に混用をする実践を開始(2030年に国産綿混率2%を目指している)。

 また、大量生産・大量廃棄が大きな問題となるファッション産業で、使わなくなった衣服や布製品を回収する「コットンバンク」、古い布を再生する「リコットン」の取り組みなど、サーキュラーエコノミーの実現に向けた試みも進めています。被災地支援をはじめ、女性の自立支援、環境保全、社会的包摂といった社会的価値を創出するソーシャルビジネスにも積極的に取り組んでいます。

(画像左)オーガニックコットンとは、3年以上、農薬や化学肥料を使わない畑で栽培された綿のこと
(画像右)栃木県佐野市・河田ファーム
 
 
日本の綿花自給率を上げるために発足したアバンティコットン倶楽部。
その主要圃場「栃木県佐野市・河田ファーム」にて、昨年11月に開催した収穫祭の様子

 

 今年30周年を迎える同社の製品ブランド「プリスティン」の展示会は、春、夏、秋冬物の年3回。昨今の気候変動に対応し、気温差の激しい季節の重ね着の提案や、猛暑への対応に力を入れています。もともと無染色のキナリでブランドイメージを浸透させてきましたが、最近はヤク(毛)や鉄媒染による微妙な色合い、また草木染のバリエーションも増えています。これまでオーガニックコットンを中心に1000種類以上の生地を開発してきたというだけあって、一口にオーガニックコットンといっても多彩な表情を持っていることに驚かされます。

 インナーウェアはロングセラーを続けるテレコキャミをはじめ、近年はブラジャーの選択肢が増えたとともに、バストラインをきれいに見せるブラカップ付きのインナーアイテムを、キャミソールやタンクトップ、袖付きまで充実させています。パジャマやナイトウェア、ラウンジウェアが幅広いのも同ブランドの強み。体と皮膚に密着するインナーウェアは、ブランドファンの導引や定着に貢献するため、SNSなどを活用した情報提供やアドバイスなども積極的に行っている様子です。「暮らしに寄り添うオーガニックコットンのサステナブルなライフスタイルブランド」の中で、インナーウェアが果たす役割は大きいのです。

《メリノウールの「アイスブレーカー」》トレーサビリティに富んだナチュラルパフォーマンスアパレル

「icebreaker」はメリノウールの利点を活かしたライフスタイルブランド

 

 天然繊維を使ったインナーウェアの中でも、最近、注目度が増しているのがメリノウールです。その代表ともいえるのが、ニュージーランド発の「icebreaker(アイスブレーカー)」。日本では、スキーやアウトドアを中心とするスポーツウェアの製造販売で70年以上の歴史を持つゴールドウインが展開しています。

 1995 年、ニュージーランドのウェリントンで、当時24歳のジェレミー・ムーンによって設立された「アイスブレーカー」は、“ナチュラルパフォーマンスアパレルのエシカルでサステナブルなブランドのパイオニア”に発展しました。自然を守り、透明性を維持し、責任あるビジネスを行いながら挑戦をし続けているブランドで、「自然から提供されるものを活用し自然に適応することで、人々が自然と親しみ、次世代のために地球環境を残す活動を後押しする」ことを使命としています。まだ知名度は高くないかもしれませんが、同ブランドの製品は現在、さまざまなチャネルを通じて世界50か国、5,000以上の店舗で展開されているグローバルブランドです。

 高品質なメリノウールが生まれる理由は、ニュージーランド南アルプスの生産農家との直接長期契約や認証システムにあり、さらに原料から製品に至るサプライチェーン上の全ての人々との直接的に結びつくことによって品質が管理されています。同社は製品を構成する天然繊維の割合を増やす努力を続けており、天然繊維ではない素材やパーツは、2024年段階で残り3%にまで減らすことができたとしています。製品全体におけるメリノウールの割合は84.5%で、他にリヨセルなど天然由来の繊維も混紡で使われています。

原材料となるニュージーランド高地のメリノ種羊(画像左下)
生産農家との長期的な直接契約で高品質なメリノウールが生まれる

 

 季節や天候に合わせて重ね着しながらオールシーズン活躍する基幹アイテムのベースレイヤーをはじめ、メンズ、レディースともに幅広い商品構成を展開していますが、その中でもレディースのインナーウェアは順調な伸びを見せているようです。

 ブラジャー、ショーツ、タンクトップ、ブラキャミソール、袖付きシャツと、ナチュラルでミニマルなデザインは非常に現代的で好感が持てます。ウエスト位置の高いショーツなど、日本市場に合わせた商品の開発も展示会では見られました。シーズンごとの新色を加えながら、主力のブラジャーは7色展開、サイズはSからXLまで4サイズを構成しています。

 メリノウールの繊維は臭いの元となる雑菌が付着しにくい性質があるため、特に登山愛好者には親しまれていますが、スポーツやアウトドアに限らず、普段、素肌に身に着けるインナーウェアとして、冬も夏も年間着用できます。ウール特有のチクチク感のないソフトで滑らかな肌触りに加え、吸湿性や温度調節、さらにイージーケアなところも快適性を支えているのです。

 人々のライフスタイルの変化と共に、アウトドアスポーツとファッションの融合が進んでいる時代において、今後の成長はまだまだ期待されるブランドといえるでしょう。

レディースのインナーウェアは定番を中心にしながら、毎シーズン、新色が加わる(筆者撮影)

 

12月に開催された2026秋冬ゴールドウイン総合展示会における「icebreaker」

インナーウェアへの意識の変遷が語る、その時代の「贅沢」の基準

 これら2つのブランドに象徴されるのは、身に着けるモノを選ぶ変化であり、インナーウェアに対する意識の変化です。インナーウェアも利便性や見た目のデザインだけではなく、商品の背景にある作り手のビジョンやモノづくりの過程を知った上で、モノを買う人が少しずつ増えているのではないでしょうか。

 両ブランドの価格帯は、平均的な市場価格からすると高めではありますが、その価値を理解した上で購入するという人たちが確実に増えていることは間違いありません。その時代、時代の「贅沢」の基準を垣間見ることができるのがインナーウェアなのです。

執筆者

  • 武田 尚子|Naoko Takeda

    ライター・ジャーナリスト

    ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988年にフリーランスとして独立。ファッション・ライフスタイルトータルかつ文化的な視点から、インナーウェアの国 内外の動向を見続けている。執筆をはじめ、セミナー講師やアドバイザー業務も。
    特に世界のインナーウェアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を 1987年から始め、定期的な海外取材は既に40年近くになる(2020年のコロナ禍で 一時中断したが、2022年から復活)。毎年、帰国後に、株式会社アパレルウェブと一般社団法人日本ボディファッション協会の協賛によるオンラインセミナーを開催している。

    著書:『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)、『もう一つの衣服、ホームウェア ― 家で着るアパレル史』(みすず書房)、最新作として、自らのファミリーヒストリーを綴ったドキュメンタリー・エッセイ『女三代の「遺言」』(水声社)を2024年10月に上梓。