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【AILイベントレポートVol.10】次世代ファッションテック ―AIのためのシステム基盤とバーチャルファッション―

AIL編集部
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 アパレルウェブ・イノベーション・ラボでは、イノベーターや有識者を招きビジネスインプットや“発見”をお届けする会員向けリアルイベントを定期開催。本企画では、イベントで得られたナレッジや交流会の様子をAIL編集部がレポートしていきます。

 2025年8月のイベントテーマは、「次世代ファッションテック ―AIのためのシステム基盤とバーチャルファッションー」です。AIがデザインからサプライチェーンまでを革新し、ファッションはメタバース領域へ進出しています。本セミナーでは、AIを支える最新システム基盤とバーチャルファッションブランドの実態を、株式会社Deep Valley代表取締役社長 深谷氏が解説。後半では、ダイアナ株式会社メタバース推進室 室長の谷口氏を迎え、ダイアナが推進するバーチャルファッションやメタバースでの取り組み、ファッションとテクノロジーが融合する最前線について、事例を交えながらお話いただきました。セミナーの要点をレポートでお届けします。


■イベントアーカイブ公開中! アーカイブ視聴はこちらから(視聴にはAIL会員ログインが必要です)

左から、ダイアナ株式会社 取締役 谷口 正氏、株式会社DeepValley 代表取締役社長 深谷 玲人氏
 

■イベント登壇者プロフィール 

(画像左)谷口 正|ダイアナ株式会社 取締役 経営戦略統括部 管掌 兼 メタバース推進室 室長

たにぐち まさし●総合商社の営業を経て2012年にダイアナ株式会社に入社。店舗にて販売職を経験後、銀座本店の本店長を4年間経験。その後本社へ異動しバイヤー、販売促進、マーケティング、新ブランドの立上げ等を行う。2019年に取締役として営業活動の副責任者、2023年より営業活動の責任者。2024年3月から経営戦略統括の管掌として経営戦略立案を主軸とし、マーケティング、OMO推進、SDGs推進の責任者も同時に行なっている。
●「DIANA」オフィシャルブランドサイト

 

(画像右)深谷 玲人|株式会社DeepValley 代表取締役社長 兼 株式会社V 執行役員COO

ふかや れいと●アパレル業界11年6社を経験後、ITベンチャー企業に参画。コンサルタントとして計400社以上のデジタル戦略やDXのサポートを実施。その後、ファッションテックのスタートアップを創業し、現在ではバーチャルファッションも手掛ける。
●「DeepValley」コーポレートサイト
●「V」コーポレートサイト

 


 

熱狂がビジネスを生む 「VRChat」が持つ可能性

 2021年、米Facebook(フェイスブック)が社名をMeta(メタ)へ変更したニュースを皮切りに、メタバース領域への企業投資やスタートアップの立ち上げが相次ぎ、仮想空間を活用したビジネスへの関心が急速に高まりました。アパレル業界からITベンチャー転身という多彩な経歴を持ち、自身が代表であるアパレルDXサービス「AYATORI(アヤトリ)」を開発・提供しながら、株式会社V(ブイ)執行役員COOとして企業のメタバース参入支援を行う深谷氏も、メタバース市場の確かな成長性に着目する一人です。

 メタバースは、インターネット上に構築された仮想空間を指す概念で、ユーザーはアバターと呼ばれる分身を通じてゲームやコミュニケーションを行います。日本では2020年頃に注目され始めてから現在も市場は堅調に成長し、市場規模は約6兆円に達しています。2028年には世界で約97兆円に及ぶ市場規模の拡大が予測され、企業のみならず国家施策として組み込まれるほど成長が期待されている市場です。

 代表的なメタバースプラットフォームとしては、「Fortnite(フォートナイト)」「Roblox(ロブロックス)」「ZEPETO(ゼペット)」が挙げられ、近年最も成長著しいのが、深谷氏も着目する「VRChat(VRチャット)」です。

代表的な4つのメタバースプラットフォーム概要(深谷氏登壇資料より引用)

 

 ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」では、平均して3〜4万人が同時接続し、ピーク時には6万人を超えるなど、活発なユーザーコミュニティが形成されています。ユーザーは思い思いにデザインされた3Dアバターをまとい、世界中からユーザーが集まる「ワールド」と呼ばれる仮想空間で交流・創作・体験を共有します。「VRChat」の大きな特徴として、主要ユーザーが18〜24歳と若年層で、特に日本のユーザーが全体の約3割を占める点が挙げられます。

4大プラットフォームの収益性を比較したチャート。
他プラットフォームと比べて「VRChat」が突出している(深谷氏登壇資料より引用)

 

 深谷氏は、企業が「VRChat」を活用した際のアドバンテージについて、次の二点を解説しました。一つは、バーチャルアイテムの販売単価の高さです。メタバースプラットフォームでは1アイテムあたり30円~40円程度での販売が一般的ですが、「VRChat」では数千円で販売されるケースが多く、実に10倍以上の価格差があります。この収益性はビジネスの上で非常に魅力的だといいます。もう一つは、日本人ユーザー数の多さと、その圧倒的な熱量だと深谷氏は続けます。ある調査によると、約7割のユーザーが「週3回以上ログイン」し、そのうち6割以上が「累計1,000時間以上プレイ」しているというデータもあるほどです。熱心なプレイヤーでもプレイ時間は300時間程度といわれ、「VRChat」ユーザーの没入度がいかに高いかが実証されています。

 さらに、約35.4%のユーザーが「バーチャルアイテムに年間10万円以上を費やす」という集計データもあり、1人あたりの支出額も際立っています。これらのデータからも、「VRChat」は熱狂的なファン層に支えられた、高いエンゲージメントを誇る市場であることが明らかです。

メタバースで市場を切り拓く ダイアナの新しい挑戦

 この「VRChat」市場にいち早く参入したのが、婦人靴・バッグを中心に展開するダイアナ株式会社です。同社では、既存の商品を3Dモデル化し、メタバース上で着用できるバーチャルシューズアイテムとして、クリエイター向け販売プラットフォーム「BOOTH(ブース)」や3Dアバターやバーチャルアイテムを扱う「StyMore(スタイモアー)」で販売しています。

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執筆者

  • APPARELWEB INNOVATION LAB.(アパレルウェブ・イノベーション・ラボ)

    アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)とは、ファッション・小売関連企業の経営層に向けて“イノベーションのヒント”を届けるため、アパレルウェブが2017年10月にスタートした法人会員制サービス。小売、メーカー、商社、デベロッパー、ベンダー企業など幅広い企業会員が集うコミュニティでは、各種セミナーや交流イベントを定期開催。メールマガジン、Webメディア、会員レポート冊子などを通じて毎週オリジナルのビジネスコンテンツを発信。