アパレルウェブ・イノベーション・ラボでは、イノベーターや有識者を招きビジネスインプットや“発見”をお届けする会員向けリアルイベントを定期開催。本企画では、イベントで得られたナレッジや交流会の様子をAIL編集部がレポートしていきます。
2024年11月のイベントテーマは、生活の木のブランドパーパス経営とグローバル戦略について。「自然・健康・楽しさ」のあるライフスタイルを日本へ提案し続けてきた同社は今年創業70周年を迎えます。これまで、国内外で厳選したハーブなどの自然素材をもとに輸⼊‧調達、加⼯‧製造までを一貫して自社で行い、ハーブやアロマテラピーのカルチャーを普及・啓発させてきた同社。現在はグローバル戦略としてECサイトの大幅リニューアルや越境モール出店に挑戦しています。
常に新たな挑戦をし続ける生活の木のマインドや取り組みについて、代表取締役CEO重永 忠氏とEC事業本部デピュティゼネラルマネージャーの中村 佳央氏にお話しいただきました。
セミナーの要点と交流会の様子をお届けします。
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左から、生活の木より、EC事業本部デピュティゼネラルマネージャー中村 佳央氏、
代表取締役CEO重永 忠氏、EC事業本部リーダー重永 諒氏
■イベント登壇者プロフィール
(画像中央)重永 忠氏|株式会社生活の木 代表取締役CEO
しげながただし●1961年、東京・原宿表参道生まれ。大学卒業後、大手流通業に入社。3年間、流通や小売のノウハウを学び、父が経営する陶器の製造販売会社に入社。後に父が米国から持ち帰ったハーブと出合い、生活の木としてハーブ・アロマテラピーを中心に新事業として拡大させる。趣味は仲間との楽器演奏。
(画像左)中村 佳央氏|株式会社生活の木 EC事業本部 デピュティゼネラルマネージャー
なかむらよしお●2014年、生活の木に入社後、店舗、マーケティング部門を経て、2022年にEC事業本部を設立。2024年Shopify plusを用いて、ECをリプレイスを行い、ユニファイドコマースの推進とCRMを主軸に置いたマーケティングを担当。新たに越境ECもチャレンジ中。
生活の木 コーポレートサイト
公式オンラインストア
一貫流通体制で「自然」「健康」「楽しさ」を届ける“文化創造企業”
生活の木・代表取締役CEO重永氏(左)とEC事業本部デピュティゼネラルマネージャー中村氏(右)による登壇
「自然」「健康」「楽しさ」を提供することにより、生活の木に関わるすべての人の生活を豊かにする”という経営理念を掲げ、自然の恵みを最大限に活かしたライフスタイルを提案する生活の木。同社はこれまで、初代は写真館、2代目は洋食器と、代々全く異なる分野のビジネスに挑戦してきました。
3代目で現社長の重永 忠氏はハーブ・アロマテラピー事業を展開。世界52か国にある提携農園からハーブやアロマを調達し、自社工場で加工・製造を一貫して行っています。また、全国約90の直営店、カルチャースクールなどを運営する他、OEM、香りのコンサルティングなどのB2B事業も展開。
生活の木・CEO重永氏
「Wellness & Well-being(ウェルネス&ウェルビーイング)」の実現のために、顧客のさまざまなライフスタイルに寄り添い価値を届けてきた同社を、重永氏は「常に時代を見つめ新しい文化を創造してきた“文化創造企業”として捉えている」と語ります。
また、同社では、生産から小売、B2B・EC販売までを自社で管理する「一貫流通体制」を採用。現在は、販売チャネルの多様化に合わせて、さまざまな分野をシームレスに連携させることで、お客様一人ひとりに寄り添うことを可能とする“循環するCRM(注1)“を目指しています。
(注1)… 顧客情報を統合的に管理し、良好な関係性を構築することで、顧客に対してサービスや製品の利用を継続的に促す手法
画像左から、初代の写真館、2代目の洋食器、
重永 忠氏の代ではハーブ・アロマテラピー事業へ発展させた(登壇資料より編集部作成)
世界一の「思いやり」を届けるためにDXを推進
3年前に創設されたEC事業本部。創設にあたり、目指したいOMO(注2)像を社内で共有し、全社的な課題解決を目指して試行錯誤してきたと中村氏は振り返ります。お客様一人ひとりに対して最適化された、価値ある情報・サービスを提供することは、生活の木が企業バリューとして掲げる「世界一『思いやり』ある企業であり続ける」というマインドを実現するための一歩でもあるからです。
生活の木・EC事業本部デピュティゼネラルマネージャー中村氏
企業バリューとして掲げる“PMVV”
“PMVV”は、Purpose(パーパス)、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)を指す
(生活の木登壇資料より引用)
同社では従来、複数のOMO課題を抱えていました。例えば、およそ6割の店舗が百貨店に出店しているため、属性などの顧客データを自社で集約できない状況にあったことや、直営店に関しても、オンラインストアやECモール等とのデータ連携がされておらず、顧客の購買履歴や興味関心に基づいた最適なアプローチが取れていなかったのです。さらに、法人向けと個人向けサイトが同一だったため、法人利用歴のある顧客が、個人利用でログインしても、過去に法人利用した商品履歴にはアクセスができず、必要な商品をスムーズに購入できないという問題も発生していました。
こうした課題を解決するために、「Shopify(ショッピファイ)」を採用してECサイトの大幅なリプレイスを実行。その結果、店舗毎の顧客データが一つに集約され、さまざまな情報を可視化することができたのです。
(注2)OMO…Online Merges with Offlineの略。ECサイト(オンライン)と実店舗(オフライン)を融合した顧客体験の向上を目的とするマーケティング手法
同社の公式オンラインサイトでは、アロマやハーブティーなど多くの商品を取り揃えている
(「生活の木」公式オンラインサイトより)
B2CからB2Bへ 独自の商流でロイヤル顧客を獲得 男性顧客の認知拡大がカギ
データ分析の結果、オンラインやSNSからの情報が顧客のブランド認知を大きく広げ、来店やファン形成に大きく貢献していることが明らかになりました。さらに興味深いことに、B2B顧客の9割が、同社が運営するスクールの卒業生やサロン経営者、家族ぐるみでブランドを愛用しているというように、もともとB2Cで「生活の木」との関わりを持つロイヤルカスタマーだったという事実です。
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新商品やハーブの紹介、“作ってみた”動画などを多数投稿
(「生活の木」公式Instagram @treeoflife_officialより)
中村氏によると、「B2B市場を川上に、川下に向けてB2C市場展開する」という一般的なパターンとは逆に、同社では「B2C市場が川上となり、それがB2B市場へ川下展開」していたことが判明。いわゆる「CtoBtoB」という独自の流れが大きな特徴として表れているといいます。
同社のメイン顧客層は、昭和のハーブブームを経験し長年にわたりブランドを愛用してきた40代後半~60代の女性層。一方で、少子高齢化に伴い、5~10年先を見据えた中長期的な新たな顧客層の開拓が同社の課題でもあります。新規顧客開拓の糸口の一つに、“30代以下の男性顧客の増加”が挙げられると中村氏は続けます。30代以下の顧客層では男女比率にほとんど差異がなく、これはメインの女性顧客が日頃から家庭等で同社製品を愛用し、その子どもが自然な形で製品に触れ、その結果、若年層への認知度が拡大したと考えられるといいます。
生活の木が目指すグローバルCRM 越境ECにも挑戦
同社では、グローバル市場参入の遅れも課題として挙げています。訪日外国人客が増加する昨今において、SNSやオンラインでの情報発信は国内向けに限定しており、日本での購入体験でファンになった海外顧客へ継続的にアプローチできていない、海外からの購入方法がないという状況が重なり、ビジネスチャンスの損失となっていました。一方で、札幌、原宿、梅田などの実店舗を筆頭に、インバウンド売上は急成長。売上上位10店舗のうち、インバウンド売上構成比は15%と数カ月単位で伸長し好調だといいます。
そこで同社では、ECサイトのリプレイスと並行して海外顧客の購買行動を分析。結果、国内同様にSNSが情報源となり実店舗での購入に至るというカスタマージャーニーが明らかとなりました。こうした結果を受け、国内外問わず、一人ひとりのニーズを分析したマーケティングを実施し、顧客体験を向上させるグローバルCRMの構築に取り組んでいます。
二軸のグローバルCRMを構築し、相互送客による顧客獲得循環を構築
(生活の木登壇資料より引用)
また、グローバル展開の一環として同社は昨年よりシンガポール最大の越境ECプラットフォームである「Shopee(ショッピー)」への出店をスタート。単なる売上拡大だけでなく、とりわけ東南アジア地域における「生活の木」というブランド認知度の向上と、長期的なブランド成長に繋げることが目的だと中村氏は語ります。
「Shopee」への出店により、現地顧客とのタッチポイントを増やし、口コミやレビューによる情報拡散を促すことで、これまで届かなかった新たな顧客層へのアプローチが可能となりました。インバウンドとアウトバウンドで相互送客を行い、顧客獲得の好循環を構築することに成功しています。
「Shopee」の「生活の木」専用ページ(「Shopee Singapore」公式サイトより)
AI活用や異業種とのコラボで新しい顧客体験を
一方で、生活の木ではAIによる香り診断やVR体験など、デジタル技術を駆使した新たなサービスを通じて、顧客体験の幅を広げています。イマーシブな体験を提供することで、顧客エンゲージメントを深化させ、ブランドロイヤリティを高めています。
AIが16種類のアロマオイルから好きな香り3つを選ぶ「KAORIUM(カオリウム)」
(「生活の木」公式オンラインサイトより)
また、最近の取り組み例では、着物専門ブランド「きもののやまと」と、持ち運びができるロールオンタイプの「お守りアロマ」を共同開発。他にも、梅体験専門店「蝶矢」とのコラボレーションでは、梅酒とハーブティーを組み合わせたワークショップを開催し、食と香りの融合による新たな体験を提供。
こうした異業種とのコラボレーションを通じて、同社では新たな価値を提供し、コンセプトである「自然」「健康」「楽しい」が実現できるライフスタイルの創出を目指しており、中村氏は「異業種コラボレーションを喜んでお待ちしております」というメッセージでセミナーを締めくくりました。
(画像左)「蝶矢」と”ハーブと梅のティータイム”と題したコラボワークショップを実施
(画像右)「きもののやまと」と共同開発した持ち運びができる「お守りアロマ」
(生活の木より提供)
【会員交流会の様子】
セミナー後のQ&Aセッションでは、参加者の皆様から積極的な質問が多数寄せられました。また、後半の会員交流会では、生活の木の商品である「Hinokiアロマキャップとブレンド精油」の香り体験や、人気のドリンク製品「ハーブコーディアルマヌカハニー」の試飲をお楽しみいただきながら、登壇者を交えた和やかな交流のひと時をお過ごしいただきました。
質疑応答では、参加者から多くの質問が寄せられた
会員交流会では登壇者を交えて和やかな交流が行われた
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執筆者
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