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「AR活用」による新たな顧客体験、新たな収入源としての「リテールメディア」、「メタバース」は第4の売り場となるか【2023年AIL編集部が注目! リテール&マーケティングトレンドキーワード3選】

AIL編集部
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 2023年最初のビックイベント「CES2023(世界最大級のテクノロジー・IT見本市)」が1月6~8日に米国・ラスベガスで開催されました。CES2023 では、家庭用ロボットなどの最新テクノロジーが注目を集め、また、昨年末に話題となったApple社のバーチャルヘッドセット「Mixed-Reality Headset(ミックスド・リアリティ・ヘッドセット)」の発売が正式に発表されました。

 ヘッドセットは、AR(拡張現実)とVR(バーチャル・リアリティ)の両方を体験でき、「ミックスド・リアリティ(複合現実)」を実現するツールです。2022年は、小売大手各社によるメタバースやARへの参入が相次ぎ、まさにメタバースバブルともいえる1年でしたが、Apple社によるバーチャル市場への本格参入は果たして、2023年以降のメタバース体験のさらなる普及の追い風となるのでしょうか。

 AILでは日頃より米国小売市場の動向を追い、昨年末のホリデー商戦時期にも度々市況をお伝えしてきました。米国小売業界では、ホリデーシーズンが終了した現在も、依然として「過剰在庫問題」が各社共通の課題として残っています。また、米国の景気は非常に高い確率で後退すると多くのメディアが予測しています。そのため、今後は長期化するセールによる消費意欲の低迷に備え、セール以外の新しい販促手段やエンゲージメントの改善、または新規顧客の獲得が肝となってくるでしょう。

 これらの市況や小売企業各社の最近の動向を受け、AIL編集部では2023年、「リテール&マーケティングトレンドキーワード」として、以下の3つに注目。本稿では、先進事例を交えてポイントをお伝えしていきます。

「AR活用」

「リテールメディア」

「メタバース」

 


Keyword 1 : AR活用


戦略的な企業コラボがますます新しい顧客体験の鍵に

参照:2022/12/9【編集部厳選:週間ホットトピックス】
「Adidas」が「Snapchat」と提携、Snapchatユーザー限定のデジタルファッションキャンペーンを実施

 

 昨年末、SNAP(スナップ)社が「adidas(アディダス)」や「Amazon Fashion(アマゾンファッション)」との提携を発表しました。これらの動向から、SNAP社はSNSプラットフォームという立ち位置から、デジタルファッションやARを軸に勢力的にファッションビジネスへ参入しようとしている構図がうかがえます。

 

参照:2023/1/6【編集部厳選:週間ホットトピックス】
「SNAP」が「Amazon Fashion」と提携、Snapchatのユーザーに向け新しいAR体験を提供

 

 新しいテクノロジーを通じて新しい顧客体験を提供するためには、スピードと技術の両方が求められます。ところが、経営資源が限られる小売企業にとっては、テクノロジーに投資し、R&D(研究開発)を自社で完結することは非常にハードルが高いといえます。そこで、相性の良いテクノロジー企業と提携することがこれまで以上に重要になってくると考えます。企業提携を進めるにあたっては、特に顧客データの共有方法において戦略的な工夫が求められるでしょう。例えば、SNAP社のケースでは、AR技術を小売企業へ提供する代わりに、提携先のユーザーのデータベースから新規顧客獲得の機会を得ることが狙いです。

ARを通じた購買体験の設計

ARで足のサイズが計測可能「Nike Fit」

 

 先述のSNAP社やApple社の例のように、現在は、大手企業が相次いでARやVRなどのバーチャル市場に参入し、ソフト(コンテンツ)面とハード面がともに充実してきている背景があります。特に、ECアプリ領域におけるAR導入例が相次いでいます。

 「NIKE」では、AR機能が搭載された専用アプリにより、ユーザーはスマートフォンのカメラ機能を利用して自身の足のサイズを測定し、サイズデータをもとにスニーカーのレコメンドを受けられます。また「IKEA」では、店舗カタログとアプリが連動し、対象の家具商品がアプリ上で「バーチャル家具」として再現され、自宅にいながらスマートフォンである程度の家具配置をシミュレーションすることが可能です。

 

「IKEA」の「バーチャル家具」を用いた家具配置のシミュレーションのようす

 

 さらに、ユーザーが“商品を試す”以外にも、店舗スタッフのオペレーションの効率化を図るためのAR活用例にも注目が集まっています。イギリスの総合小売大手「Marks &Spencer(マークス&スペンサー)」では、AR機能が搭載された専用アプリを起動してスマートフォンで店内をかざすだけで、陳列されている商品の詳細情報や探している商品の位置情報が瞬時に表示されます。これにより、店舗スタッフの顧客対応頻度が削減され、他の店舗オペレーションの効率化を図ることに繋がります。

 このようなARを活用した新たな購買体験は、今後もさらにバリエーションを増やしていくでしょう。今後は、取り扱う商材に特化したAR機能の精度改善にくわえ、ARを用いた購買体験をいかにユーザーへ浸透させるかが各社共通の課題といえます。

 

「Marks &Spencer」の専用アプリ
アプリを利用して店舗で商品陳列棚にスマートフォンをかざすと、
商品詳細や商品の位置情報が表示される

 

 


Keyword 2 : リテールメディア


Netflix、Disney+、Walmartなども参入、自社データの新しい活用方法としての可能性

 現在、多くの国や地域でコロナ規制が緩和され、店頭に客足が戻りつつあります。北米小売市場のホリデーシーズンにおいては、ブラックフライデーなどのイベントでECのみならず店舗の売上改善が見られました。しかしながら冒頭でも述べたように、北米小売企業の多くは「過剰在庫問題」を抱え「セールの長期化」が発生、さらに2023年の景気後退の懸念と相まってレイオフが続いています。

 このような度重なるマイナスの状況の打開策として期待が高まっているのが「リテールメディア」という概念です。「リテールメディア」については、国内外でさまざまな見解があり明確な定義はありませんが、端的に言えば、小売企業などが、自社のチャネルを通じて得られる顧客データや販売データなどの顧客情報をもとに広告を配信する手法のことを言います。昨今、デジタル広告のコスト高騰に加え、ユーザーの個人情報データの取り扱い関する規制が厳しくなっていることから、リテールメディアは新たな広告プラットフォームの選択肢として台頭しつつあります。

「リテールメディア」にみられる2つの傾向

「Netflix」では、月額6.99ドルの広告プランが提供されている

 

 リテールメディアには、以下の2つの傾向があります。1つは、近年、動画ストリーミングサービスが普及しユーザーとのタッチポイントが格段に増えたことから、ストリーミングサービス自体が新しい広告メディアとして台頭してきている傾向です。代表事例として「Disney+(ディズニープラス)」と「Netflix(ネットフリックス)」が挙げられ、両社はそれぞれ独自の広告サービスをリリースしています。もう1つは、実店舗のディスプレイで広告主の商品を宣伝するなど、店舗空間を活用する傾向です。米国ではすでに「Walmart(ウォルマート)」「Amazon(アマゾン)」「Kroger(クローガー)」が本格的にリテールメディアとして参入し、B2B向けのサービスを展開しています。

新たな広告収入源としての期待

Walmartのリテールメディア「Walmart Connect

 

 デジタル広告コストの高騰に加え、昨今のインフレなどの経済状況により、各社が売上確保に頭を抱える中で、リテールメディアは新しい収入源として期待されています。米国調査会社eMarketer(イーマーケター)社が発表したデータによると、米国における店舗空間を活用したリテールメディアの市場規模は2020年から急成長しており、2023年には650億ドル(約8兆円)に上ると予測されています。リテールメディアのメリットとして、既存のサービスや店舗を活用することから多額な先行投資を一切必要としない点が挙げられ、これは各社がリテールメディアに注目する最大の理由の1つといえるでしょう。

  日本国内においても、大手コンビニエンスストアチェーンやドラックストアチェーンがリテールメディアのサービスを提供しています。今後の店舗戦略にリテールメディアを活かすポイントとして、いかに広告主の商品をユーザーに届けるか、そしてユーザーの購買体験をどのように描くのか、B2BとB2Cの双方を意識したサービス設計が必須となるでしょう。

 


Keyword 3 : メタバース


店舗、EC、ライブコマースに次ぐ第4の売り場としての可能性

adidasではメタバース向けのデジタルファッションを販売

 

 従来の店舗、EC、ライブコマース(ソーシャルコマース)に加え、メタバースは、第4の売り場として期待されています。それには「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」などゲームを軸にしたメタバースが複数登場していることや、「adidas」「A BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)」などのようにブランド発のメタバースが相次いで登場している昨今の動きが関連しています。

 一方で、一部の調査会社のデータによると、そもそもメタバースのアクティブユーザー数は、市場が成り立つほどの規模ではないという指摘もあります。アクティブユーザー数の計算方法によっては、著名なメタバースでさえ一日あたり平均数百人しかいないとも言われています。さらに昨年から発生している暗号資産市場の暴落は、メタバース市場にも影響が及んでいます。

 それでもなお、メタバースはマーケティングツールとしてのユースケースを確立しつつあります。それは、メタバースを売り場として機能させるための「インフラ環境」が着実に進化しているからです。メタバースが登場した当初、メタバース上で着用するデジタルアイテムなどを購入する際には、仮想通貨や仮想通貨を保有するためのウォレットが必要でした。しかし現在は、仮想通貨を保有せずともクレジットカードなど既存の決済方法でデジタルアイテムを購入できるメタバースが増えています。このように、ハード面において、メタバース上でのデジタル購買体験のハードルが格段に下がり、現実世界のビジネスと結びつくようなインフラ整備が顕著に進んでいることにより、いずれ仮想上の“常設店舗”として確立する可能性は充分にあるでしょう。

まとめ

 2023年に特に注目したいキーワード、「AR活用」「リテールメディア」「メタバース」の3つについて紹介しました。これらの新しいテクノロジーの実用性が高まることで、企業にとっては新しいビジネスチャンス、そしてユーザーにとっては新しい購買体験へと繋がっていくことが期待できます。今後のリテール&マーケティングのアップデートについては、本サイトや会員限定冊子「アパレルウェブ・イノベーション・レポート」で引き続きレポートしていきます。どうぞ2023年もAILにお付き合いください!

 

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参考メディア:
http://augmentedpixels.com/article-augmented-reality-improves-customer-shopping-experience-at-supermarkets/
https://www.retaildive.com/news/retail-trends-to-watch/639749/
https://www.nytimes.com/2022/11/01/business/media/disney-plus-streaming-shopping.html