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国内最大級・月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」の天沼CEOに聞いた! 循環型シェアリングエコノミーの現在地とこれから【編集部独自取材】
「airCloset(エアークローゼット)」は、2014年に株式会社エアークローゼットが創業したファッションサブスクリプション・レンタルサービスで、日本のシェアリングエコノミーにおけるパイオニア的存在です。主に30~40代の働く女性に向けてサービスを展開しています。直近では、既存のB2C事業だけでなく、同社の独自の物流関連ノウハウを活用し、循環型物流プラットフォーム「AC-PORT(ACポート)」事業をB2B向けに展開。さらに、2022年には東証グロース市場への上場を果たしました。
シェアリングエコノミー市場における近年のこと新しいニュースとしては、2024年4月以降に、国内で条件付きのライドシェアが解禁。6月には同ライドシェアの全面解禁の議論も広がっており、再びシェアリングエコノミーの可能性に注目が集まっています。また、近年ではフリマアプリをはじめ、さまざまなシェアリングエコノミーの関連サービスがすでに私たちの生活に溶け込んでいます。
遡ること6年前の2018年、アパレルウェブ・イノベーション・ラボでは、当時の国内におけるシェアリングエコノミー市況をエアークローゼット代表取締役社長 兼 CEOの天沼 聰氏(以下、天沼氏)に取材しました。そこから、パンデミックを経て経済状況や消費動向が多様に変化してきた中で、シェアリングエコノミーの現在地を探るべく、今回は二度目となる取材を実施。
現在、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の理事も務める天沼氏に、近年のシェアリングエコノミーを取り巻く環境への見解と、最新の事業展開や展望について伺いました。
■今回お話を聞いた方
天沼 聰氏
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 理事
あまぬまさとし●1979年生まれ、千葉県出身。英ロンドン大学コンピューター情報システム学科卒。2003年アビームコンサルティングに入社し、IT・戦略系のコンサルタントとして約9年間従事。2011年に楽天株式会社に転職し、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務めた後、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに、2014年7月に株式会社エアークローゼットを設立。
月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』公式ウェブサイト
メーカー公認月額制レンタルモール『airCloset Mall』公式ウェブサイト
株式会社エアークローゼット コーポレートサイト
「あなたの、もうひとつのクローゼット」をメッセージに掲げる「airCloset」の利用イメージ(公式サイトより)
「人から人へ」堅調に成長するシェアリングエコノミー国内市場
はじめに、シェアリングエコノミー協会の視点から、直近の日本国内のシェアリングエコノミー市場の成長規模や普及具合についてはどのように捉えていますか?
天沼氏:
市場規模から申し上げますと、当協会と情報通信総合研究所との共同調査データ(注1)によれば、パンデミックによる経済機会損失の背景もあり、2022年度のシェアリングエコノミーの市場規模は2兆6,158億円にとどまりました。仮にこの先、パンデミックによる諸課題が順調に解決できると、2032年度には最大15兆1,165億円まで拡大すると予測しています。
(注1)シェアリングエコノミー関連調査2022年度調査結果(市場規模) (一般社団法人シェアリングエコノミー協会により2023年1月に発表)
(左)日本のシェアリングエコノミーの市場規模予測
(右)カテゴリ別のシェアリングエコノミーの市場規模予測
参照:シェアリングエコノミー関連調査 2022年度調査結果(市場規模)
一方で、シェアリングエコノミーの本質として「人から人へ」という特徴があるため、パンデミックによる深刻な影響を受けたものの、その普及速度や取り巻く環境は現在回復しつつあります。シェアリングエコノミーのビジネスモデルは主に、スペース、モノ、移動、スキル、お金という5つのカテゴリにおけるモノやコトの共有・貸し借り・売買です。
シェアリングエコノミーの種類、主な代表事例、サービス
参照:シェアリングエコノミー関連調査 2022年度調査結果(市場規模)
例えば、「スキルのシェア」と「モノのシェア」に関しては、政府機関による後押しもあり、着実に普及が進んでいます。「スキルのシェア」の場合、対面型の育児や家事のサポートなどのサービスが登場しています。こうしたサービスには政府からさまざまな補助金制度が設けられているため、女性が働きやすい環境・社会作りの醸成という観点からも、今後の市場拡大が見込めると思います。また、「モノのシェア」に関しては、SDGsやサステナビリティとも密接に関係しています。そのため、サーキュラーエコノミー(循環経済)への転換に向けて、経済産業省や環境省が各種予算、支援制度(注2)を投下し、推進しています。
他方で、浮き彫りになった課題もあります。例えば、「モノのシェア」の分野では、時計レンタル・シェアリングサービスにおいて、消費者から預かった高級時計を事業者が持ち逃げする事件(注3)が発生しており、改めてシェアリングエコノミー事業を展開する事業者のマネジメント改善が求められています。そうしたことから、今後は事業者の信頼度を向上させるべく、当協会では認証制度を見直している最中です。
まとめますと、法規制の緩和や国からの後押しもあり、国内でシェアリングエコノミーが文化として定着するにつれ、今後は堅実に市場が拡大していくと予想しています。
(注2)参照:令和6年度予算の事業概要(経済産業省)
(注3)トケマッチ事件余波 シェアサービスの認証に見直し議論(日本経済新聞 2024年4月13日付)
衣服一点あたりの寿命を延ばすことがカギ
小売・ファッション業界におけるシェアリングエコノミーの普及具合はいかがでしょう?
天沼氏:
サーキュラーエコノミーという言葉を広義からみますと、フリマアプリの普及や一部のアパレル企業のリユース業態など、取り組み自体は一定数増えてきていると思います。しかし、国内の小売・ファッション業界においてさらにシェアリングエコノミー市場を拡大するためには、特に欧州で制定された「衣類廃棄禁止令」(注4)などの法整備や教育がカギになっていくと思います。とはいえ、現状のモノづくりの仕組み、物流、保管などの性質上、シェアリングエコノミーに100%対応するには一定のハードルもあります。
そこで、従来の小売の形態だけでは衣服の寿命は限られてしまいますが、「airCloset」のようなファッションレンタル・シェアリングサービスを介することで、より多くのユーザーのもとで利用される時間や頻度が増え、衣服一点あたりの活用の幅を広げていくことも重要な観点だと思います。
(注4)売れ残り服・靴の廃棄を禁止 EUが大筋合意、2年後から(日本経済新聞 2023年12月6日付)
既存事業は好調 新たに月額制会員プログラムやB2B事業もスタート
グロース上場から間もなく2年経ちますが、B2C事業とB2B事業、それぞれのハイライトをお聞かせください。
天沼氏:
前提として、グロース上場はあくまで通過点であり、信頼獲得、資金調達、今後の事業拡大の手段に過ぎないと考えています。B2C事業に関しては、上場直後はパンデミックの最中で一定の影響を受けたものの、事業は堅調に回復しています。特に、主力事業である「airCloset」事業が好調で、既存会員の継続率は順調に推移しています。直近のハイライトとしては、2024年1~3月において、新規会員獲得効率が改善したため通期の業績予想を上方修正しています。
エアークローゼットの事業領域(公式プレスリリースより)
さらに、会員様とのエンゲージメントや顧客体験をより向上させるために、6月11日より当サービスでは初となる会員プログラム「エアクロプライム」の提供を開始しています。「エアクロプライム」の特徴としては、月額385円でレンタルアイテムの修繕費用の全額サポートが受けられることに加え、利用レポートやランキング、お天気コンシェルジュなど、お客様のご利用スタイルに沿ってパーソナライズされたファッションコンテンツが楽しめます。
2024年6月よりスタートした月額制会員プログラム「エアクロプライム」のサービス一覧(公式プレスリリースより)
また、2020年にスタートした新規事業であるメーカー公認の月額制レンタルサービス「airCloset Mall(エアクロモール)」も堅調に成長してきています。美顔器やシャワーヘッドなどの美容家電から調理家電などのライフスタイル家電まで幅広く取り扱っており、特に美容家電やシャワーヘッドのお試しレンタルが好評です。
美容家電やライフスタイル家電など幅広く取り扱う「airCloset Mall」(公式サイトより)
B2B事業では、レンタル事業に特化した循環型物流プラットフォーム「AC-PORT(ACポート)」を展開しています。同事業では、レンタル事業を展開する企業様に対して、ユーザーから回収した商品の個品管理・クリーニング・修繕・メンテナンス・再レンタルといった、複雑な循環型物流の運営を一括代行するオペレーションサポートを提供しています。
総合フォーマルウェアのレンタル事業を展開する「東京ソワールレンタルドレス」が
エアークローゼットによる循環型物流サービス「AC-PORT」を導入(公式プレスリリースより)
こうしたB2B向けの事業展開は、実は以前より他社様から弊社の物流システムを利用したいという問い合わせを多数受けており実現したものです。元来は自社事業である「airCloset」「airCloset Mall」を支える物流システムを開発すべく、フルスクラッチで倉庫管理システム(WMS)を開発しており、その開発過程においては、他社様の商品を取り扱いやすいようPDCAサイクルを回すことでB2C事業の改善や効率化向上を目指してきました。
そうした事業開発を経て近年、ようやく他社様の基幹システムとの連携などの技術的な課題もクリアしたところで、B2Bサービスとしての展開をスタートさせました。2024年に入り、東京ソワール様の物流部門に「AC-PORT」を導入いただいております。システム管理やコスト削減面において弊社サービスのメリットを評価していただき、同社のレンタルサービス「東京ソワールレンタルドレス」における配送・返送・メンテナンス・在庫管理をワンストップでサポートさせていただいております。
「AC-PORT」の開発過程では、どういった課題があり改善してきたのでしょうか。具体例を交えてお聞かせください。
天沼氏:
「AC-PORT」はWMSとオペレーションサポート全般を含めたサービスですが、特に、「airCloset Bridge(エアクロブリッジ)」と呼んでいるWMSの開発過程でいくつかの課題がありました。具体例としては、レンタルサービス事業者は一般的に倉庫管理会社の管理システムを使用することが多いのですが、既存の管理画面では商品の返却までを想定していないケースがほとんどです。そこで、弊社でそうした管理画面のカスタマイズを行ったという例があります。
「AC-PORT」のブランド利用イメージ(公式サプレスリリースより)
また、商品管理のために商品に「RFIDタグ」(注5)を取り付けますが、一般的にRFIDタグは紙製で、その単価は数円から数十円と安価です。しかし、レンタル事業においては、商品を回収して水洗いなどのクリーニングをすることが大前提となるため、RFIDタグは防水かつ洗濯可能なものでなければなりません。ところが、防水のRFIDタグを導入しようとすると、当初は1点あたり約500円と通常の紙製をはるかに超えるコストが必要でした。そうすると、お客様向けのサービス料金面でコスト調整をすることになってしまいます。
その後、RFIDタグ業界での改良が進み、防水のRFIDタグ1点あたりの単価が100円を切るまでにコストカットが実現。それにより、防水のRFIDタグを導入することが出来るようになりました。一方で、タグ本体以外にも、防水のRFIDタグを読み込むための専用リーダー機器といった周辺システムの導入も同時進行し、2022年にようやく物流システムとしての特許を取得しています。そうして、現在のB2Bサービス展開へ駒を進めたという経緯です。
(注5) RFIDとは、ICタグを使い、無線通信によってモノを識別・管理するシステム
コラボレーションと横展開で顧客基盤の拡大を目指す
直近ですと、Sangoport(サンゴポート)をはじめ、千趣会、OurPhoto(アワーフォト)などとの異業種コラボレーションを展開されていますが、新規顧客の獲得や今後の成長戦略において、事業展望をお聞かせください。
天沼氏:
顧客基盤の拡大戦略としては、他社とのコラボレーションと自社の事業展開の二軸で考えています。コラボレーションに関しては、認知拡大と新規顧客の獲得を主な目的として今後も積極的に行っていきたいと思います。とはいえ、両社のビジョンや事業の親和性が一致する前提ではあります。
「airCloset」が採用マッチングプラットフォーム「Sangoport」と連携
出産・育児後の復職者に向けた取り組みを開始(公式プレスリリースより)
もう一方の自社事業による顧客基盤拡大に関しては、二つの方向性を考えております。一つは横展開です。レディースファッションだけでなく、メンズやキッズまでカテゴリを拡大していくためのプラットフォームやサービスを現在準備しております。もう一つはファッション以外の分野への事業展開です。こちらは「airCloset Mall」を主軸に、美容関連商品、家電などライフスタイル関連の商品でシェアを広げていきたいと思っています。実は、「airCloset Mall」では最近男性の会員も少しずつ増え、男女比はおよそ3対7と、男性の利用も拡大してきています(注6)。商品によっては、サブスクリプションで毎月使い続けるには一定のハードルがあるものもあるため、今後は、例えば都度払いが可能なオプションも検討し、会員数の拡大と定着を狙っていきたいと思います。
B2B事業に関しては、展開まもない「AC-PORT」の安定的な稼働を最優先事項としています。そして、ある程度の実績を確立させた後、徐々にさらなる提携拡大、ひいては全社の事業拡大を目指し、東証プライム市場に上場することも視野に入れております。
(注6)会員の定義はサービスに登録していただいているお客様全て(利用の有無は問わず)
【編集後記】
前回の取材から6年。改めて、日本のシェアリングエコノミー市場の現状としては、パンデミックを経て生活習慣としての定着や、ルール・法整備といった要素を踏まえると、今後も中長期的に拡大していく市場だと認識できました。特に「スキルのシェア」は多様に発展しており、日本が直面するさまざまな社会課題の解決に役立っていると感じます。
取材の終盤では、今後のエアークローゼットの海外も含めた事業展開の可能性についても取材。現状は国内で堅調にサービスを展開するとの見解でしたが、例えば、日本に進出したい海外ブランドのテストマーケティングとして、同社のシェアリングサービスを活用してもらえるのでは?という観点では、「面白いですね、検討してみます」と天沼CEOの前向きなコメントもいただきました。シェアリングエコノミーの先駆者として将来のサーキュラーファッションを率いる同社の事業拡大に今後も注目していきたいと思います。
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