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ニューヨークで開催! B2B専門高級食品展にみたファッションと食の共通性「Summer Fancy Food Show 2024(サマーファンシーフードショー2024)」《前編》【Coffee Talk from NYC Vol.20】

RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
執筆者

 ニューヨーク現地より、小売×テック関連の旬なトピック・体験レポートをお届け。アメリカのコーヒーブレイク中に行われるカジュアルミーティング、”Coffee Talk”にちなんで、気軽にインプットいただけるレポートを定期配信していきます。

 Vol.20では、米国のニューヨークで毎年開催される「Summer Fancy Food Show 2024(サマーファンシーフードショー、以下SFFS)」の展示会レポートをお届け。6月26日~28日の3日間にわたって開催され、今年で68回目を迎える東海岸最大級の食品展。展示会のハイライトに加え、筆者が取材をする中で見えた、日本の出展企業の挑戦マインドや工夫の光る取り組みをお伝えしていきます。

関連記事:【前年のイベントレポート】世界の食市場の流れを掴め! B2B専門・高級食品見本市「Summer Fancy Food Show 2023」【Coffee Talk from NYC Vol.8】


 

Summer Fancy Food Show 2024」(筆者撮影)

 

 本コラムでは、ファッションやテクノロジーのビジネスやトレンドを中心にレポートしていますが、筆者がヘルス&ウェルネスの領域に関心を持ち始めたのは10年程前に体調を崩したことがきっかけです。そして、体調の回復に大きく役立ったのは“食生活を含めたライフスタイル”の見直しでした。そこから、食品の見本市や、プラントベースといった特徴あるカテゴリーやウェルネスに特化したイベントなどへ足を運ぶようになりました。個人的な関心だけでなく、ウェルネス市場がグローバルに成長し始めていたことも理由の一つです。

 そして、ウェルネス市場の拡大はファッションビジネスへ影響をもたらしていることも事実です。ファッションショーのバックステージでヘルスコンシャスな飲食ブランドが協賛し、ポップアップショップ開催時には食品・飲料水ブランドやウェルネスブランドとのコラボが欠かせなくなっています。さらに、アスレチックとレジャーを掛け合わせた「アスレジャー(Athleisure)」という新たなカテゴリーが誕生。週末のリラックスウェアといえばラフなシャツに“デニム”というのが定番でしたが、それが“レギンス”を組み合わせるスタイルへとシフトしていったのです。

 ファッションにしてもフードにしても、ライフスタイルの変化をキャッチしていくことが重要という観点から、今年も東海岸最大級の食品見本市へ取材で足を運びました。

食の見本市「ファンシー・フード・ショー」とは?

 米国のニューヨークで毎年開催されるSFFSは、Specialty Food Associationスペシャリティ・フード・アソシエーション)が主催する東海岸で最大級のB2B専門の食品見本市です。毎年1月にラスベガスで開催される冬季イベントもありますが、情報の発信地・ニューヨークで開催される夏季イベントは知名度も高く、北米市場へ販路開拓を目指す企業や、市場調査の場としても世界各国から参加者が集う人気のイベントです。

 日本から出展する場合は、ジェトロの支援サービスを活用する手段があり、SFFSを通じて毎年多くの日本企業が米国市場開拓への第一歩を踏み出しています。


参照:ジェトロの展示会出展募集ページ(今期の募集は締切)

 

Specialty Food Associationの公式Xより(@Specialty_Food

今年の新たな取り組み

 全米が猛暑に見舞われる中、今年のSFFSは6月26~28日の3日間にわたり、Jacob K. Javits Convention Center(ジャビッツ展示場)で開催されました。歴史ある見本市ですが、毎年出展者・来場者ともにかなりの集客数を誇る背景には、参加者を飽きさせない新たな切り口が積極的に展開されている部分にあるでしょう。

 今年は、初日の終わりに、見本市の全参加者を対象としてニューヨーク発のフード、ドリンク、エンターテインメントを楽しみながら参加者同士が交流できるパーティを開催。この取り組みはローカルのフードビジネスを支えるだけでなく、ビジネスの垣根を越えて参加者同士を繋ぐ機会にもなっていました。

3日間のハイライト

Specialty Food Associationの公式Xより

 

  • -世界56カ国から出展。スペインが見本市のパートナー国として参加
  • -飲食業界に携わる29,000人の来場者数を記録
  • -海外パビリオンは、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米国、オセアニア、南米国など29カ国が出展
  • -米大手小売チェーン「Whole Foods Market(ホールフーズマーケット)」のCEOジェイソン・ブーシェル氏によるキーノート登壇。
  • -人気番組「TOP CHEF(トップシェフ)」の司会者兼シェフのクリステン・キッシュ氏によるキーノート登壇。
  • -125名のボランティアが、展示会終了後、出展者の食品の寄付を募り回収。フードロス防止に加え、食べ物に困っているニューヨーク市民に無料で配布する支援活動を行なった。
  • -主催のSpecialty Food Associationの調査結果によると、小売、フードサービス、EC全体のスペシャリティ・フードの売上高は2023年に5%増加し、2,068億ドル(約33兆3,480億円)となった

 

 
「Whole Foods Market」CEOのジェイソン・ブーシェル氏のキーノート登壇
Specialty Food Associationの公式Xより)

海外市場開拓に挑む日本企業 – ジャパン・パビリオン

好位置に出展エリアが移った「ジャパン・パビリオン」(筆者撮影)

 

 今回の見本市で、なんといっても大きな違いを感じたのは、日本発の企業やブランドの出展が集うジャパン・パビリオンの出展場所です。従来は会場の一番端のエリアに位置していたジャパン・パビリオン。出展スペースを固定されることで覚えてもらえるメリットはありますが、広大な会場内でバイヤーに立ち寄ってもらう機会を増やすには、やはり便利なエリアに出展する方がベターです。

 そして、今年は心機一転、エントランスにほど近いエリアへの出展が叶い、ジャパン・パビリオンへ沢山のバイヤーを迎えることが出来たといいます。世界各国のパビリオンが参加するエリアであることから、主催側としては出展エリアの入れ替えは容易ではないとのことですが、ジェトロの注力もあり、今回の出展エリアの進展は取材者としても嬉しい限りでした。

 ジャパン・パビリオンでの今期の出展者はほとんどが初挑戦。過去にパビリオンを通じて出展したことがある企業の中には、自社のビジネスカテゴリーにマッチするエリアに自力で出展する企業もいることから、ジャパン・パビリオンは海外出展のファーストステップとして有効だとわかります。

バイヤーの“ディスカバリー”を、消費者の“ディスカバリー”へと繋ぐ

 筆者はフード領域の専門ではないものの、ヘルス&ウェルネスへの関心は高く、常日頃からスーパーマーケット事業を調査しトレンドにアンテナを張っています。スーパーマーケットの棚の商品の入れ替わり頻度からしても、食品業界のニュースからしても、生活者のライフスタイルにおける絶え間ない変化には、バイヤーは“常に新しいものを消費者に提案したい!”という想いが年々強まっているようです。

 そこでSFFSでは、今年から「デビューディストリクト」という新たな展示スペースを設置(残念ながら米国内を拠点とするブランドが中心)。同エリアでは、新製品、初出展ブランド、スタートアップなど可能性を秘めたさまざまなインキュベーション企業が出展しました。

 限られた会期の中、残念ながら全ての出展者と話をすることはかないませんでしたが、40社以上が参加したジャパン・パビリオンの出展企業において、特にインスパイアされた3社をここでは紹介していきます。

米国の富裕層を掴む第一歩を踏み出した「菓匠風月」

「菓匠風月」の出展ブース(筆者撮影)

 

 2020年に「菓匠風月」の三代目を襲名した藤田 浩一氏。コロナ禍は地元の消費者に支えられて乗り超えられたといいます。しかし当時、“このまま和菓子屋を同じようにやっていたら絶対終わってしまう”という危機感を抱いたと話してくれました。そうした危機感の背景には、アパレル業界同様に後継者不足や、原材料の値上げによる原価の圧迫といった課題があるとのことです。結果として、それは差別化された商品を作ることの難しさにも繋がっているようです。

 課題が増え続ける中で藤田氏は、立ち止まることなくイノベーションに挑み、茨城が産んだ最高峰の栗「飯沼栗(いいぬまぐり)」を使用した栗蒸し羊羹の「万羊羹(まんようかん)」が誕生。一般的な栗蒸し羊羹ならば賞味期限が約10日間前後と短いところを、2年間の試行錯誤を繰り返し、特殊な真空パックを活用することで、賞味期限を1ヶ月近くまで延ばすことに成功。また、「万羊羹」のパッケージは世界的なパッケージデザイン賞であるPentawards(ペンタワーズ)でシルバー賞を受賞。内にも外にも高級感ある仕上がりが特徴です。

 「菓匠風月」の米国市場でのターゲットは、アッパーミドルから富裕層。素材や技法のこだわりのみならず、ストーリーと洗練さを兼ね備えた「菓匠風月」は、米国市場へ勝負の第一歩を踏み出しています。


参照:
https://www.kasho-fugetsu.net/
https://prtimes.jp/story/detail/xgYymLhlY3b

ヘルシースープで米国市場に挑む「ミナミ食品」

ミナミ食品の出展ブース。写真右が同社代表の南辰典氏(ミナミ食品提供)

 

 岩手県の最北端にある浅野町から米国市場へと勝負に挑むミナミ食品。研究と工夫を重ねることで、海と山の両方の恵みと素材の旨みを最大限に生かした商品を展開しています。同社の代表である南辰典氏も、前述した「菓匠風月」の藤田氏に同じく、危機感から米国市場への挑戦を決めたといいます。変わりゆく農業の市場や、自然災害・異常気象などの度重なる試練と戦う昨今、自身が動かなければ、折角積み上げてきたビジネスの実績も、協力してくれる地元・浅野町の仲間達の生活にも深刻な危機が及んでしまうという想いを胸に抱き、今回はジャパン・パビリオンに参加したと話していました。

ミナミ食品の公式オンラインストア

 

 米国での日本のスープといえば味噌汁がほとんどですが、同社の製品は塩や醤油を使ったクリアベースのスープです。具材には、岩手県産の大豆と強固な岩盤から湧き出る水で仕上げた「ゆば」をメインに、海藻類や舞茸などを使用しています。オーガニックの製品ではないものの、無添加(No Preservative)、着色料不使用(No Natural Flavor)、遺伝子組み換えではない (Non-GMO)といった特徴を備え、米国のヘルスコンシャスな消費者へアピールするためのポイントもしっかりと押さえています。米国市場進出までもうあと一歩というところまできています。また、同社のミッションやパーパスは、食材や味わいのデリケートさを表すパッケージデザインからも伝わり、海外の消費者の関心を集めるでしょう。


参照:
https://www.minami-skh.com/

日本が生んだ新食感で勝負する「ukka

プレミアムアイスバー「KAJYU’ -果樹-」の出展ブース(筆者撮影)

 

 今回初出展の株式会社ukkaは、国産メロンを使用したプレミアムアイスバー「KAJYU’ -果樹-」で米国市場への進出を目指しています。米国のフルーツバーの多くは“シャリッとした食感”のものが多いですが、「KAJYU’」の場合は、まるでメロンそのものに丸かじりをするような、食感は他にないしっとりさとなめらかさを感じられるもので、試食した外国人にとってはまさに新食感だったでしょう。

 「KAJYU’」のように外国人が体験したことのないような商品や、認知度がそこまで高くはない食材を使用した商品を紹介する場合、特に試食をしてもらいながら、同時に五感に響く説明をすることが非常に大切だと感じます。同社の展示ブースでは、立ち止まるバイヤーに手早く試食を配り、説明する姿が光っていました。


参照:
https://corp.ukka.green/posts/UQkVbvch
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000035098.html%EF%BF%BC

共通点は「勝負していかなければ先はない」という決意

 今回紹介した3社は、日本の素晴らしい素材をそのまま届ける商品が多い中で、日本が持つ「センス」「技術」「志」が強く感じられました。今後も引き続き、レポートで紹介したような新しいアイデア=ニューネス(Newness)を持つ企業がパビリオン出展にミックスされていくことを期待します。

 

執筆者

  • RINA Yoshikoshi

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント

    NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #テクノロジー #NFT #WEB3  #ウェルネス #未来の街作り