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ニューヨークから世界へ勝負に挑むレジリエンスな日本のリーダー「Summer Fancy Food Show 2024(サマーファンシーフードショー2024)」《後編》【Coffee Talk from NYC Vol.20】
2024年6月26日~28日の3日間にわたって開催され、今年で68回目を迎えた米国の東海岸最大級の食品展「Summer Fancy Food Show 2024(サマーファンシーフードショー、以下SFFS)」。後編では、同展への数回の挑戦を経て、今回さらなる飛躍をみせている二社の日本企業、ブラウンシュガー1STと杉本商店を紹介していきます。
関連記事:【前編】ニューヨークで開催! B2B専門高級食品展にみたファッションと食の共通性「Summer Fancy Food Show 2024(サマーファンシーフードショー2024)」《前編》
3度目は単独出展に挑戦 プラントベースで全米流通をめざすブラウンシュガー1ST
ブラウンシュガー1STのブースの様子(荻野みどり氏のInstagram@midorioginoより)
筆者がブラウンシュガー1ST(ブラウンシュガーファースト)という企業を知ったきっかけは、マガジンハウスが発売するライフスタイル雑誌『クロワッサン』特別号の「ココナッツオイルバイブル(2014年)」で日本のココナッツオイルブランドとして紹介されていた特集を読んだときに遡ります。それから10年が経過し、当時の雑誌で拝見した同社の創設者である荻野みどり氏に、SFFSで出逢うことになるとは夢にも思いませんでした。
ブラウンシュガー1STは、創設から10年間でプラントベース製品、調味料、甘味料、菓子類や日用品といった幅広い製品を展開するまでに成長。国内ではナチュラルローソンなどで購入可能なフルーツ&ナッツバーの「GOOD MORNING BAR(グッドモーニングバー)」を見かけたことがある、食べたことがある、という人は多いかも知れません。
「GOOD MORNING BAR」(「BROWN SUGAR 1ST」公式Instagramアカウントより)
今年でSFFSへの出展は3度目だという荻野氏。日本国内で10月に発売が決定しているビーガンバター「BETTER THAN BUTTER(ベター・ザン・バター)」を主力商品に掲げ、全米のスーパー40,000店舗への流通と、全米の飲食店への原材料としての供給開拓を目指して参加していました。さらに、今年はジャパン・パビリオンから卒業し、製菓・スナック・スイーツの出展カテゴリーに単独出展で挑戦しています。
アメリカ市場に挑むブラウンシュガー1STのCEO 荻野みどり氏(本人提供)
“日本市場と同時期に米国で「BETTER THAN BUTTER」を販売する!”というゴールを見据えて挑んだ今回のSFFS。ジェトロの支援なく参加するということは、当然ですが出展コストの負担も増加します。しかし、最終日に筆者がブースで状況を尋ねた際には、かなり良い商談チャンスを掴めいるとのことで、ステップアップしていくための戦略を掲げる大切さに改めて気付かされました。
バターのカテゴリーには、「バター」に加え、「マーガリン」「ショートニング」などがあるといいます。荻野氏によると、近い将来、異常気象により農業における飼料の供給が困難となり、バターの生産や供給が出来なくなる可能性があるということです。そうした緊急時には、シェフや消費者にとっての“第三のバター”として「BETTER THAN BUTTER」という選択肢を提案できるようにしたい、とも仰っていました。こうした、誰よりも先を見据える荻野氏のビジネスチャレンジは、日本国内だけでなく、海外のバイヤーや同業者たちからも高い関心を集めています。
米飲食業界の著名人やメディアも絶賛 杉本商店の「干ししいたけ」
杉本商店の出展ブース(杉本商店提供)
前年度の記事*でも紹介した、高千穂郷の干ししいたけ専門問屋、杉本商店。前回の出逢いをきっかけに、筆者は同社代表取締役の杉本和英氏の活動をInstagram(@shiitake_prince)でフォローしています。海外でのプレゼンスにも積極的に乗り出し、杉本氏自らがSNSを活用したデジタルマーケティングを最大限に活かしています。さらに彼は、見本市やイベントへの参加だけでなく、海外現地のシェフやレストラン経営者とも精力的に交流しています。こうした杉本氏の行動力は、これから欧米市場への進出を検討している企業にとって、学べる点が多いでしょう。
*関連記事:【前年のイベントレポート】世界の食市場の流れを掴め! B2B専門・高級食品見本市「Summer Fancy Food Show 2023」【Coffee Talk from NYC Vol.8】
今回、杉本商店のブースには、米国飲食業界のある大物著名人が訪れています。その人物とは、Giada De Laurentiis(ジャーダ・デ・ラウレンティス)氏で、セレブリティ・シェフ、フードスタイリストとして料理番組の司会、レストラン経営、料理本出版など多彩な活動を行い、米国国内の優れたテレビ番組やその関係者を表彰するデイタイム・エミー賞では、ライフスタイルの司会者として受賞した方です。前年度のSFFSのキーノートではスピーカーとしても登壇。
杉本商店 代表取締役の杉本和英氏と、同社ブースを訪れたラウレンティス氏(杉本商店提供)
一方、杉本商店の本格的な海外展開は、2018年にドイツで行われた輸入展示会での出来事が転機となったという杉本氏(当時のメディア記事)。“国内市場が縮小傾向にあるならば、海外へ販路を広げるしかない” と決意し、最初は「Amazon(アマゾン)」による国内オンライン販売からスタート。翌2017年には米国、2018年には欧州へと進出し、訪れた転機を次なるステップへと着実に繋げています。
同社の精力的な展開は実を結び、ニューヨークを拠点とするオンライン経済メディアのBusiness Insider(ビジネスインサイダー)によって撮影された動画内に登場。930万フォロワーを持つ同社のYouTubeチャンネルで、「日本のプレミアムマッシュルーム」として杉本商店のしいたけが12分間にわたり紹介されるという快挙を成し遂げています。
Business Insiderによる動画配信
“How Japan’s Priciest Shiitake Mushrooms Fuel The $740 Million Global Shiitake Industry”
(Business Insider公式YouTubeチャンネルより)。
注目トレンドは「プラントベース」
今季の食トレンドの一つに「ハチミツ製品」や「スパイス系・辛いもの」がありますが、ここではアメリカの食品カテゴリーとして確立する「プラントベース」にフォーカスして紹介したいと思います。SFFSでもプラントベースの出展エリアは設けられ、ニューヨークでは9月にプラントベース専門のエキスポが開催されるほど、現在食品カテゴリーとして確立し注目を浴びているジャンルです。
Exhibitors are turning up the heat with sweet and spicy flavors at the Summer #FancyFoodShow. Here are a few of the on-trend products in the spotlight at the Show – including some 2024 sofi Award winners and finalists!#wefancy #specialtyfoodassociation pic.twitter.com/YdfOnYbQ3D
— Specialty Food Association (@Specialty_Food) June 25, 2024
人気だった甘×辛フレーバーで注目を集めた製品(Specialty Food Associationの公式Xより)
中でも売上を伸ばしているのが、牛乳(乳製品)の代替品。誰もが試しやすいことが理由にあるでしょう。ただ、アーモンドミルクやオーツミルクなどの牛乳の代替飲料は、前年と比較して売上が減少しているといわれています。しかしながら、それと同様に、牛乳の売上も減少していることから、プラントベースの需要が必ずしも減少しているということではないとの見解がなされています。
一方で、伸びをみせているのがクリームやクリーマーのカテゴリー。ブラウンシュガー1STの「BETTER THAN BUTTER」が同カテゴリーに当てはまるため、年内に「Whole Foods Market」など大手チェーンストアに並ぶ日もそう遠くはないかもしれません。
ファッションと食の共通性 異業種から改めて気付かされたこと
ニューヨークやカリフォルニアで生まれる食トレンドは、何かしらの形でアパレルビジネスに影響を与えると筆者は常日頃より感じています。米国市場に進出する場合、品質の良さやこだわりだけでなく、消費者のライフスタイルをまずは理解することが重要です。その上で、彼らにアピールできるメッセージ、素材選定と組み合わせ、パッケージデザインといったマーケティング戦略を立てていきます。
《後編》で紹介したブラウンシュガー1ST 、そして杉本商店に共通するのは、生産する製品において「オーセンティック(本物志向)であることや、度重なる試練に打ちのめされても立ち上がる力と発想力を持つ「レジリエンス(回復力、柔軟性、しなやかさといった意)」でしょう。自社の製品は“オンリーワン”だと言い切れる満ち溢れた自信が、米国市場で歓迎されると筆者は思っています。
イベントごとの多いファッション業界にとっては、フード業界は大切なパートナーであり、自社のブランドを愛用してくれる顧客層がどのようなライフスタイルや食のこだわりを持つのかをリサーチすることは欠かせないでしょう。フード業界において、自社製品として販売ルートを開拓するのか、原料として他社への供給開拓を行うのか、ビジネスとして二軸の強みを持つことがメリットであるように、ファッション業界においても、他社とのコラボレーションも忘れてはならない視点だといえるでしょう。
執筆者
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RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #テクノロジー #NFT #WEB3 #ウェルネス #未来の街作り