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ファッションから“異業種”へ – 拡大するブランドリセール市場|米国開催 The Lead Summit(ザ・リードサミット)取材レポート

RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
執筆者

 今回紹介する米国開催の「The Lead Summit(ザ・リードサミット、以下リードサミット)」は、グローバルブランドやD2Cブランド、そして次世代のテクノロジー企業が参加するビジネスカンファレンスで、5月28日・29日の2日間にわたり開催されました。このイベントは、2019年に「The Lead Innovation Summit(ザ・リード・イノベーション・サミット)」という名称で、ブルックリン・エキスポ・センターを会場に第一回が開催され、筆者も2022年から参加を重ねてきました。

 現在は会場をローワーマンハッタンにあるPier 36(ピア36)に移し、毎年2日間にわたって開催されています。マーケティングやビジネス戦略、サービス、テクノロジーなどのテーマでセッションが行われ、ブランドやリテール、そしてIT企業などの多様な事例や挑戦について学ぶことができます。

The Lead Summit」会場の様子(筆者撮影)

 

 リードサミットでは、豊富なセッションのほか、同じような立場の参加者同士が課題を共有し、解決策を一緒に見つけていくためのディスカションやワークショップ、招待制のディナーやランチミーティングなどが用意されています。

 また、会場には「Innovation Village(イノベーション・ビレッジ)」と呼ばれるEXPOスペースも設置され、Eコマース、マーケティング、パーソナライゼーション、カスタマーエクスペリエンス、そして話題のAIなど、80社以上のITソリューション企業が展示しています。参加者はそこからさまざまなソリューションを発掘することが出来ます。

The Lead Summit」出展企業例一覧(公式サイトより)

 

 1日目に筆者が参加したのは、RaaS系リセールプラットフォーマーであるArchive (アーカイブ)CEO兼共同創設者のEmily Gittins(エミリー・ギッティンズ)氏が登壇したセッション「Cater to an increasingly cost and value conscious consumer(コストと価格に敏感な消費者にどう応えるのか)」です。

ブランドが「Archive」を導入する3つの理由:

 セッションでは、どのようにブランド向けのリセールインフラを提供しているのかが説明されました。

  1. ①新たな収益源:
  2. リセールは非常に高利益なビジネス。本業よりも利益率が高い場合もある
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  4. ②新規顧客の獲得:
  5. 中古品の購入をきっかけに新規顧客の獲得が可能。
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  7. ③顧客ロイヤリティの向上:
  8. リセールした商品をトレード・イン(下取り)し、ギフトカードを付与。次回以降の新品購入の際にそのギフトカードを利用する仕組みにより、平均でギフトカード金額の2.5倍の追加買いが発生。
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The Lead Summit」でセッション登壇したArchive社CEOのEmily Gittins氏(筆者撮影)

「Archive」のビジネスモデル:

  1. ・収益源はブランドの中古販売GMVに対するコミッション
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  3. ・ブランドの商品データを活用し、適切な価格設定、在庫管理、ロジスティクス、商品陳列をトータルサポート

「Archive」導入のブランド事例:

  1. レディースファッション「Christy Dawn(クリスティ・ドーン)」
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  3. 約1年前にリセールサイト「Christy Dawn Regenerates(クリスティ・ドーン・リジェネレイト)」をスタートし、売上全体が8%増加。その高い収益性から、通常店舗で販売するより利益化できると判断し、一部の実店舗を閉鎖するに至った。

ブランド側の懸念や課題:

リセール事業に対しては、「誰が責任を持つのか」「事業の中でどのように位置づけるのか」など、社内から慎重な意見が出る傾向がある。こうした課題は、Eコマース導入初期の状況に似ている。

ブランドリセールの導入への高まり

 「Archive」では、ここ数ヶ月の間に、家具、家電、おもちゃ、楽器といった、ファッションやフットウェアブランド以外の分野からの関心が高まっています。 セッション終了後、会場でエミリー・ギッティンズ氏と直接話す機会に恵まれました。彼女は、日本の二次流通市場のこともよく知っていました。

 ギッティンズ氏との会話の中で、二次流通市場は日本でもすでに定着しているものの、リセールビジネスに参入することで「新製品が売れなくなるのではないか」と懸念するブランドも少なくないと話すと、彼女は下記のように語りました。

 「リセールは“追加収益”を生み出すことが証明されています。中古商品を購入した多くの顧客は製品の品質を実感し、次は正規価格の製品を購入する傾向があることがわかっています。こうした購買動向は、ブランドにとって“ロイヤルティのループ”を形成しているのです。」

 ギッティンズ氏はまた、「リセール市場はすでに日常の中に存在する」と話し、「今ブランドに与えられている選択肢は、“この取引を自社管理・収益化するのか”、それとも“外部プラットフォームに収益を受け渡すか”だ」とも話していました。

 こうした感覚は、オンラインや店舗で抵抗なくセカンドハンド品を購入する層にとっては自然なものかもしれません。しかし一方で、日本企業のエグゼクティブ層の中には、こうした消費行動の変化にまだ確信が持てない人も少なくありません。この点について、アメリカのブランドにおいても同様の状況があるのか尋ねたところ、ギッティンズ氏から次のような答えが返ってきました。

 「ブランドのエグゼクティブたちは、自宅で子どもたちが『Depop(ディーポップ)』や『eBay(イーベイ)』などのサービスを頻繁に利用しているのを見て、トレンドが広がっていることに気づいているはずです。自分自身がその顧客層ではないとしても、そうした変化が拡大しているという事実を認識するきっかけになっているでしょう」

「The Lead Summit」の会場Pier 36の外観の様子(筆者撮影)

ファッションから“異業種”へ拡大するブランドリセール市場

 リードサミットでは、ファッションブランド以外の業界でも、リセール導入が進んでいるという話がありました。その流れを後押しするように、後日、米フィットネスバイクブランド「PELOTON(ペロトン)」が「Archive」と提携し、ブランドリセール事業に乗り出すことが発表されています。

 「PELOTON REPOWERED(ペロトン・リパワード)」では、会員が中古のギアやバイクを簡単に再販するP2P(Peer-to-Peer、ピアツーピア、個人間取引)のサービスを提供しています。

「PELOTON」による公式リセールサイト「PELOTON REPOWERED

 

 同サービスはまず、ニューヨーク、ボストン、ワシントンD.C.で開始される予定です。現在、専用サイトでは出品のみ受け付けとうメッセージが表示されています。価格設定に関しては、AIを活用したサポートが導入されるそうですが、最終価格の決定権はセラー(販売者)にあるといいます。

 また、現地メディアCNBCによれば、セラーは出品した中古製品が購入された場合に、販売価格の70%の代金を受け取り、残りの30%は「PELOTON」とプラットフォーマーである「Archive」間での分配となると伝えています。正規リセール品の購入者に対しては、中古製品のアクティベーション料金(月額制会員費の初回手数料)が通常の95ドル(約13,700円)から45ドル(約6,500円)と、おおよそ半額に引き下げられる特典が用意されているとのことです。

 米国市場では、ファッション関連市場から始まったブランドリセールが、今後はますます多種多様な業界へと市場拡大していく傾向が広がっていくでしょう。


参照:
https://summit.the-lead.co/
https://repowered.onepeloton.com/
https://www.cnbc.com/2025/06/03/peloton-launching-resale-market-for-used-bikes-treadmills.html

執筆者

  • RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント

    NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG