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流行の移り変わりが激しいソウル 注目エリアを考察【ファッションキャピタルレポート 韓国・ソウル前編】

山中 健|Takeru Yamanaka
株式会社アパレルウェブ コンサルティングファーム主席研究員、apparel-web.com編集長
執筆者

 「スタイルクリップ フラッシュレポート」の特別編として、ファッションにおける重要都市、いわゆる「ファッションキャピタル」の現状をレポート。今回はファッションやコンテンツの発信力を高めている韓国・ソウルを、前編・後編の2回に分けてお伝えしていきます。前編では、ソウル周辺の主要エリアを元に、ソウルのファッションマーケットはどのような構造で、独自のマーケティング手法が生まれたのかを紐解いていきます。

ファッションキャピタルレポートASEAN前編(バンコク)はこちら

ファッションキャピタルレポートASEAN後編(シンガポール)はこちら


 

 2025年は韓国ブランドの日本上陸・出店が加速した、象徴的な年でした。欧米の手法を独自に進化させ、日本の店舗づくりとも異なる韓国独特の世界観が大きな注目を集めています。ソウルのファッションマーケットシーンの大きな特徴として挙げられるのが、「トレンドが非常に早く移り変わる」点でしょう。商品やブランドだけでなく、ショッピングゾーンの盛衰も驚くほど早いのです。欧米との比較において、東京は流行の変化が早いとされていますが、現在のソウルはその上を行くスピード感があります。

 たとえば、ソウル随一の繁華街である明洞(ミョンドン)は、近年さらに俗化が進み、高感度なゾーンは周辺へと分散。これは弘大(ホンデ)や梨泰院(イテウォン)、江南(カンナム)エリアでも同様で、商業地の重心が動き続けている都市と言えるでしょう。

 

ローカルとグローバルが交差する注目エリア 聖水洞(ソンスドン)

 日本人旅行者の間でも特に人気が高いのが、ソウル市の東側に位置する聖水洞(ソンスドン)です。ここ数年で最も大きく変貌したエリアで、かつては“昔のブルックリン”を彷彿とさせる工場街として知られていました。近年では、倉庫やアトリエをリノベーションした店舗が軒を連ね、カフェや個性派ブランドのショップが続々と誕生。新進気鋭のクリエイターやファッション関係者が集まり、他エリアとは一線を画すカルチャーが形成されています。

 

写真左:工場街のアイデンティティを残す店舗が多い聖水洞
    画像は「MUSINSA」が展開するコンセプト型セレクトショップ「EMPTY(エンプティ)」(筆者撮影)
写真右:聖水洞にある米NY発祥のライフスタイルブランド「KITH(キス)」の旗艦店(筆者撮影)

 

 一方で、ここ数年はさらに新たなステージに突入しています。商業集積が進み、一大観光地として進化しているのです。韓国の人気ファッションECサイト「MUSINSA(ムシンサ)」は2店舗に加え、自社のプライベートブランド「MUSINSA STANDARD(ムシンサ スタンダード)」を出店。「PRADA BEAUTY(プラダ ビューティー)」や米NY発のライフスタオルブランド「KITH(キス)」、日本のコスメブランド「SHIRO(シロ)」なども出店しており、聖水エリアは「ローカル×グローバル」が混じり合う新商業地へと成長しています。

カルチャーとラグジュアリーが溶け込む漢南洞(ハンナムドン)

 ソウル市の中央に位置する漢南洞(ハンナムドン)は、もともと梨泰院の周辺エリアとして発展しました。梨泰院はかねてより国際色豊かな街として知られ、外国人居住者や観光客が集うことで多様なカルチャーが醸成されてきました。漢南洞は外国大使館や外交官の公邸が多い閑静な高級住宅街ですが、その環境が現代のハイエンドな雰囲気を形づくる土台となっています。

画像左:梨泰院路では、国内外の有力店が個性的なファサード(外観)で訴求する店舗が数多くみられる(筆者撮影)
画像右:裏通りは、商業施設でよく見るブランドのコンセプトショップが多数見られる(筆者撮影)

 

 近年は洗練されたカフェやレストラン、ハイエンド志向のセレクトショップが増え、アーティストやクリエイターが集う街として国際色がより強まりました。梨泰院通りにはラグジュアリーブランドや大型セレクトショップなどが立ち並び、裏通りには人気韓国ブランドがコンセプチュアルな店舗を構えており、まさに成長期にあるエリアと言えます。聖水が“新しさ・実験性”を象徴するとすれば、漢南洞は“上質さ・国際感覚”を備えた落ち着いたファッションエリアといえるでしょう。

栄枯盛衰のサイクルの早さを象徴する江南(カンナム)

 ソウル市の南側に位置する江南エリアは、以前からトレンド発信地として知られていましたが、コロナ後は路面店の入れ替わりが頻繁で、韓国ブランドやライフスタイルショップの進出が増えています。現在ではファッション集積はカロスキル(街路樹通り)よりも裏道の方に移っており、日本のブランドや、日本に出店を果たしている店舗が多いのが特徴です。

画像左:日本ではユナイテッドアローズが展開を進める「NICE WEATHER MARKET(ナイス・ウェザー・マーケット)」(筆者撮影)
画像右:イタリア・ミラノ発祥のセレクトショップ「10 Corso Como(10コルソ・コモ)」のオフプライス店舗(筆者撮影)

 

 江南は、ファッションエリアとして一定の成熟が見られる一方、早期に出店したブランドやショップは老朽化と大衆化が進み、オフプライス店舗が散見されます。同エリアにおける、栄枯盛衰のサイクルの早さを象徴するエリアともいえるでしょう。

ラグジュアリーブランドの旗艦店やセレクトショップが集積する島山(トサン)公園

 ソウル市の南側に位置する清潭洞(チョンダムドン)側は、従来から変わらず高級ブランドの旗艦店が集まるエリアですが、狎鴎亭(アックジョン)のロデオ通り側は繁華街的な猥雑さが増し、ストリートブランドや新興セレクトショップなどが集積したユースなムードが漂います。そのため、海外ブランドや韓国の人気ブランドは、清潭洞と狎鴎亭の中間に位置する島山(トサン)公園周辺に集まるようになりました。

画像左:島山(トサン)公園付近は国内外ブランドの常設店やポップアップが出店している(筆者撮影)
画像右:ハイエンドセレクトショップ「TOM GREY HOUND(トム・グレイ・ハウンド)」(筆者撮影)

 

 

 ここでは、「TOM GREY HOUND(トム・グレイ・ハウンド)」を筆頭にしたハイエンドセレクトショップをはじめ、韓国発のコレクションブランド「SONZIO(ソンジオ)」や、若い世代に人気の韓国ブランド「Martin Kim(マーティン・キム)」のほか、「Alo Yoga(アローヨガ)」など世界的に人気の欧米ブランドが集積し、公園の緑を背景に静かに買い物ができる環境が魅力となっています。

トレンド変化の早さを背景に躍進するソウル

 韓国・ソウルのファッションマーケットは、トレンド変化の早さと商業エリアの新陳代謝の活発さを背景に、独自の進化を遂げています。聖水が象徴する新しさと実験性、漢南洞に見られる上質さと国際感覚、そして江南エリアが生み出すラグジュアリーと多様性。それぞれの街が個性を磨きながら相互に刺激し合うことで、ソウルは今や世界のファッションキャピタルとして強い存在感を発揮しています。日本国内で韓国ブランドの勢いが加速する中、その源流を知ることで、新たな市場の潮流や未来の兆しがより鮮明に見えてくるでしょう。

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執筆者

  • 山中 健|Takeru Yamanaka

    株式会社アパレルウェブ コンサルティングファーム主席研究員、apparel-web.com編集長

    大手百貨店、外資系ブランドメーカー、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。アパレル業界を中心に、雑貨などのライフスタイル、百貨店、SCなど、幅広い業態に対しマーケティングやMD、リテール、海外進出のコンサルティングを手掛ける。トレンド分析、市場調査、戦略策定などのマクロなテーマから、個店支援、研修などの現場へのブレイクダウンまで様々なテーマのコンサルティングに対応可能。また、欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にapparel-web.com編集長就任。