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【独自取材】Web3をもっと身近に 就活、学習支援、ファッション、フード多角度でWeb3の可能性を探るイベント「Web3の世界」が都内で開催
会場の様子
7月16日、慶應義塾大学FinTEKセンターが主催するイベント「Web3の世界」が開催されました。このイベントでは、Web3の可能性に対し、就職活動や学習支援、また、ファッション、フード、社会貢献などの身近なテーマを題材に、各業界の専門家とWeb3領域の専門家でのトークセッションが行われました。
Web3領域からは、Stake Technologies株式会社 CEOの渡辺創太氏や、Ethereum Foundationのエグゼクティブ・ディレクター宮口あや氏も登壇し、そうそうたる豪華なスピーカーが各領域合わせて計9名が壇上に上がりました。学生や社会人との質疑応答も交えつつ、Web3の基礎知識からビジネスの可能性、社会発展に対するインパクトなど、多種多様な議論を耳にすることができ、非常に有意義な一日となりました。今回は当日の様子を、一部ですがお届けいたします。
慶應義塾大学FinTEKセンター センター長 中妻 照雄氏による開会挨拶
イベント冒頭の基調講演では、Institution for a Global Society株式会社の上席研究員である阿部一 也氏による、Web3の概念論やブロックチェーンの基礎知識、またNFT、DAO、トークン経済圏などのわかりやすい解説から始まりました。ブロックチェーン関連の仕事で、阿部氏がInstitution for a Global Society株式会社で実際に体験したエピソードも話され、最後には、最近注目しているビジネス著書や最新の科学技術なども紹介がありました。
古本屋の事例で、NFTの二次流通の仕組みで解説する阿部 一也氏
1時間の講演内容でWeb3の基礎知識や今後の注目ポイントを包括的に解説
Web3の最先端で実践している大学生代表
日本発パブリックブロックチェーン「Astar Network」創設者 渡辺 創太氏
次に、「Astar Network」の創設者である渡辺創太氏がオンラインで登壇し、東京大学(本郷web3バレー小川 椋徹氏)や慶應義塾大学(慶應Web3研究会 柿沼 弦汰氏)、神奈川大学(神奈川大学Web3研究会 益田 翔氏)、法政大学(法政大学Crypto同好会 藍 光祐氏)の計4校のWeb3サークルの学生代表、またモデレーターを務める一般社団法人日本ベンチャーカンファレンス兼慶應Web3研究会アドバイザーの鈴木ゆりえ氏とともに、これからWeb3業界で挑戦する大学生について、質疑や議論を交わし、渡辺氏自身の創業体験も含めて、熱く語り合いました。
左から:藍 光祐氏、益田 翔氏、柿沼 弦汰氏、小川 椋徹氏、鈴木 ゆりえ氏
学生代表の方の中には、この春すでに会社を設立したり、人気ブロックチェーンのSolanaハッカソンに出場したりと、すでに事業化に向けて積極的に取り組んでおり、在学しながらもすでに起業家として活躍している方が多いようです。学生代表から渡辺氏に対しての質問では、「創業前にタイムスリップできたら、どういうビジネスモデルにするか」、「今後注目すべきブロックチェーン技術は何か」、「起業家としての心得はどんなものか」など印象的なものが多く飛び出しました。
最後に渡辺氏は「テクノロジーやイノベーションの領域で、日本の国力が試されている中、Web3は日本の未来にとって、技術革新の分野で現在の局面を逆転できる重要な機会である。Web3領域で挑戦したい若者は、現段階ではビジネスモデルなど気にせずに、まずは自分の足で世界に出て、一流の人材と仕事をして、一流の経験を得て、それを自分の成長の糧にすることで、これからのWeb3領域でも、昔のSonyのような世界が認める日本発の国際ブランドや企業に育つことが期待できる」と述べ、日本の未来を背負う若者にエールを送りました。
食とWeb3の世界
フードエッセイスト/フードディレクター 平野 紗季子氏
Fracton Ventures株式会社 Co-Founder/CTO赤澤 直樹氏
左から:谷本 有香氏、平野 紗季子氏、赤澤 直樹氏
午後からは「様々な領域をWeb3と掛け合わせて、可能性を妄想してみる」というコンセプトで、各界の識者を招いたトークセッションが行われました。「食とWeb3の世界」のテーマでモデレーターを担当したのは、過去にBloomberg TVアンカーを務め、その後、日経CNBCキャスターを経て、現在はForbes JAPAN 執行役員 Web編集長を務める谷本 有香氏。食の分野で活躍するフードエッセイスト/フードディレクターの平野紗季子氏と、Web3のスタートアップを中心に投資や支援事業を展開するFracton Ventures株式会社の共同設立者兼CTO赤澤直樹氏を迎え、イベント参加者からの質疑応答を中心に、日本の食文化や農産業、食産業のDXなどを題材に、Web3ならではの可能性について語りました。
会場からの質問では、例えばレシピをNFTとして発行する可能性やビジネスモデルについて、また農業の生産過程をDAOとした時の実行性などが盛り上がっていました。赤澤氏からは、DAOによるトークン経済の設計の懸念、「Eat to earn」などの見解が述べられ、平野氏からは、サステナビリティの観点から昆虫食の可能性についての意見も上がりました。Web3やブロックチェーンは万能ではないので、すべてをWeb3で解決するのではなく、必要な部分で活用すべきという発言が強く印象に残る話し合いとなりました。
キャリアとWeb3の世界
Institution for a Global Society株式会社 取締役 事業・開発統括 中里 忍氏
幻冬舎「あたらしい経済」編集長 / コンテンツビジネス局 局長 設楽 悠介氏
左から:谷本 有香氏、設楽 悠介氏、中里 忍氏
「キャリアとWeb3の世界」をと題したテーマでは、幻冬舎「あたらしい経済」の編集長でコンテンツビジネス局局長の設楽 悠介氏と、Institution for a Global Society株式会社取締役事業・開発統括の中里 忍氏が登壇しました。冒頭では、設楽氏から昨今のWeb3業界の注目のトピックを解説。その後Web3によって、教育や仕事、社会がどう変わるかという議題について掘り下げていきました。
会場からの質問では、現在の教育制度のあり方や、GDPだけで本当に国力を正しく表すことができるのか、現在の教育や社会制度による教育格差について疑問が上がりました。中里氏からは、現在慶應義塾大学経済学部附属経済研究所のFinTEKセンターと実証実験を実施している、Web3型の学習支援型就活サービス「STAR」の仕組みについて説明があり、教育格差の問題を解消するにあたって、例えば「Learn to Earn」の可能性や問題点について具体的な事例を交えながらの解説がありました。
ファッションビジネスとWeb3の世界
株式会社ビームス 執行役員 DX推進室 室長 兼 マーケティング部 矢嶋正明氏
合同会社暗号屋 代表社員 紫竹佑騎氏
左から:谷本 有香氏、矢嶋 正明氏、紫竹佑騎氏
イベント後半では、「ファッションビジネスとWeb3の世界」をテーマに、株式会社ビームス執行役員DX推進室室長兼マーケティング部の矢嶋 正明氏と、合同会社暗号屋 代表社員の紫竹佑騎氏が登壇。Web3におけるファッションビジネスや消費者行動に対しての、リアルなファッションからデジタルファッションへの価値の交換や、NFTなどを用いたデジタルファッションの信頼性、そして、ファンコミュニティの形成について対談が行われました。矢嶋氏からは現在Beams(ビームス)で展開している事業内容について説明がありましたが、同社ではSNSを活用したスタッフのメディア化やB2B向けのIPコラボレーション事業に注力しているようです。
紫竹氏は、Web3について、「民主的ムーブメント」という見解を述べ、最近のファッションビジネス領域で起きているNFTやメタバースの事例を解説しました。さらに、矢嶋氏と今後のファッションビジネスでの活用のシナリオに関しての議論を展開させました。例えば、デジタルスニーカーやバーチャルウェアを販売しているブランド「RTFKTスタジオ」をNIKEが買収することにより、今までになかった、メタバース上でのファッションの価値や、仮想空間ならではのアイデンティティという新しい提案が生まれました。
また、サステナビリティの観点から、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティへの活用方法についても言及。さらにNFTによる二次流通やファンコミュニティの形成に関しては、すでに登場している海外の事例について言い添えられました。
Ethereum Foundation エグゼクティブ・ディレクター 宮口 あや氏が登壇
谷本 有香氏と宮口 あや氏
イベントの最後には、Ethereum Foundationのエグゼクティブ・ディレクターである宮口あや氏が登壇し、自身の経歴や渡米について、またクリプト業界に入った経緯やEthereum Foundationに参画したきっかけについて言及しました。また、Ethereum Foundationの最近の動向や、Z世代のリーダー向けの企業家育成DAO、「Dream Dao」などの宮口氏個人的に注目している取り組みも語られました。
セッションの最後には総括として、イベントで取り上げた、教育や就職活動、キャリア、社会といった領域で、宮口氏自身の体験に基づいたメッセージを、現場の学生代表に送りました。特に印象的だったのは、Web3の領域でビジネスを挑戦する際、最初の段階では、ビジネスモデルやマネタイズばかりを考えるよりも、社会的責任やインパクトという観点からのアプローチが重要であること、ビジネスモデルだけに集中してしまうと、企業や事業としての可能性が制限されてしまうというメッセージでした。
Web3について、初心者向けの基礎知識から社会や人間の本質まで深く考えさせられる内容で大変有意義な一日を過ごすことができました。筆者は普段からWeb3関連の情報を意識してインプットしているつもりでしたが、今回のイベントを通して、Web3に対する理解をさらに深めることができました。また学生代表が実際にWeb3の事業を展開し、コミュニティを作って一般ユーザー向けの認知拡大まで考えていることに教育としての価値も見出すことができましたと思います。Web3はまだ発展途上の段階だと思いますが、発想やビジネスの切り口によっては、新しい社会の制度や文化を創造できる可能性を秘めていると感じました。今後も引き続き、Web3現場の最前線をお届けしたいと思います。
FinTEKセンターの公式サイト:http://fintek.keio.ac.jp/
ブロックチェーンを活用した学習支援プログラム「STAR」の公式サイト: https://www.star-project.org/
執筆者
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ケルビン・アウ
AIL編集員
AIL編集員 テック、Web3、海外イノベーション情報を中心に取材、執筆