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XR活用からブランド構築まで、 「既読」が描くWeb3時代のマーケティング戦略とは

AIL編集部
執筆者

「既読」が手掛けるデジタルファッションブランド「XXXXTH(フォックス)

 

 2021年頃からNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を筆頭に、Web3関連の技術が徐々に国内外でも浸透してきました。しかし、不正取引、景気後退への懸念などの複数の原因により、暗号資産の市場全体が不況に陥り、NFTなどといった暗号資産の価値が大幅に下落しました。

 一方で、NFTは投資目的のツールとしてだけでなく、マーケティングツールとしてのユースケースも相次いで登場。また、PBT(Physical Backed Token)やSBT(Soulbound Token)などの新しい技術の活用によって、「Web3文脈のマーケティング」、及びそのエコシステムの形成が一層強化されています。

 その状況下で、Web3文脈のマーケティングを次世代マーケティング基盤として捉える企業も少しずつ増えています。今回はWeb3文脈のマーケティングの活用方法、全体の市場展望について、株式会社既読の代表取締役CEO 長谷川 春氏に詳細を聞きました。


 

今回お話を聞いた方

KIDOKU.Inc-CEO 兼 「XXXXTH(フォックス)」 Founder
長谷川 春氏|Haru Hasegawa

アパレルの学校を卒業後、フリーランスのデザイナーを経て、デジタルエージェンシーにてARTディレクターに従事。現在はKIDOKU.incの代表として、「XXXXTH(フォックス)」のクリエイティブ全般のコミュニケーション・ストーリーライティングを設計。

「XXXXTH(フォックス)」公式サイト:https://xxxxth.com/

株式会社既読 公式サイト:https://www.kidoku-inc.com/


 

ARを活用した「XXXXTH(フォックス)」のデジタルアイテム

―まず、貴社の事業紹介、直近の取り組みについて、お聞かせください。

長谷川氏:

 私自身は広告代理店業界出身で、その後独立し2019年に株式会社既読を設立しました。創業初期は、広告代理関連の業務を中心に行ってきましたが、現在は、B2Cでは「XXXXTH(フォックス)」というデジタルファッションのブランドを運営しながら、B2Bでは、企業様のweb3事業の支援として、マーケティングやクリエイティブのプランニング・制作を全般的に展開しています。

 直近の取り組みとしましては、デジタルスニーカーブランドの「SHOES53045」とのコラボレーションを行い、「スニーカー×XR(クロスリアリティ)」というコンセプトで、メタバース向けのデジタルスニーカーを制作するなど、メディア様とリレーションを組ませていただき、メディアの価値をXRで高めるプロジェクトを進めています。また、一般企業様がWeb3事業の参入する際の支援サービスとして、マーケティング戦略の立案、NFT制作などのプロジェクトも進行しています。

 

デジタルスニーカーブランドの「SHOES53045」とのコラボレーション商品

―直近のWeb3文脈のマーケティングの現状についてお伺いします。NFTの役割として、イベント来場証明、Web3コミュニティの会員証、リワードプログラムの特典引換券など、多岐に広がりつつありますが、 貴社の観点から、NFTを含めたWeb3関連の技術は今後、カスタマージャーニーにおいてどのように活用されるべきだと思いますか?

長谷川氏:

 これまでのNFTは、アート文脈から投資観点で語られることや、また、匿名性という技術の特徴から、どうしてもギャンブルや投機商材などの印象を持たれることが多かったです。その結果、企業からしますと”触れてはいけないもの”という認識の人も多くいたことと思います。

  確かに、金融商材であることの側面もありますが、最近では「SBT」という転売不可能なNFTの登場や、「PBT」のようにNFCチップ注1)を使ってリアルな商品と連動したNFT発行の技術も登場しているので、少しづつ企業や一般消費者にとっても実用性の高い技術として進化してきていますよね。


注1: 近距離無線通信技術の1種

 

リアルのアイテムとNFTが連動した「XXXXTH」のアイテム例

―なるほど、具体的にこれらの新技術をどのように企業マーケティング戦略に取り入れるべきでしょうか?

長谷川氏:

 主に2つのユースケースがあると思います。1つ目はコンテンツマーケティングの拡充として、アイテムやサービスを知ってもらう認知施策の手段。2つ目は国内人口・市場縮小による、既存顧客重視へのシフトに伴い、顧客単価に対するアップセル・クロスセルを向上させる手段があると思います。

 それぞれ説明していきます。まずコンテンツマーケティングの拡充に関してですが、現状、情報の価値はユーザーのメディアパワーによって高まり、コンテンツ化され、付加価値が付与されたUGC(ユーザー生成コンテンツ)が生まれます。そこで、ブランドの世界観やストーリーを、NFTという媒体を通して、ユーザーが所有することができます。つまり、ファンがNFTを通して「ブランド体験」を所有し、ブランドの未来への期待を高め、ユーザーがSNSでブランドに関するコンテンツをシェアしたり、投稿したり、そういった行動がUGCを生み出すことが出来ると考えています。

 また、コラボレーションという概念が強いWeb3の世界では、ある種グローバルスタンダードとして、新規顧客の獲得が比較的に容易に行われると考えられます。特にSNSなどでは、ブランドとユーザーがお互いのフォロワーをシェアしながら、一緒にブランドの認知を広めて、ブランドと共に育っていき、その輪が広がり、新規ユーザーを獲得できるというイメージです。

 2つ目の顧客単価の向上に関する活用方法ですが、国内市場の人口の減少も相まって、既存のユーザーを最も重要視する流れが一層高まっている現在の傾向においては、Web3の技術はとても使えるものと考えています。NFTはそもそも、「契約とその証明」が本質的な使われ方だと思います。ブランド側が発行したNFTを所有しているということは、そのブランドに興味を持っている証明であり、ブランドとNFTを保有するユーザーは繋がっているという状態です。そして、ブランドはNFTを保有するユーザーに対して、メタバースやXR、DApps(分散型アプリケーション)などのデジタル体験を提供することも可能になります。

 このような背景から、ユーザー同士によって継続的にブランド体験が紹介、共有されることで、UGCが生まれるというサイクルにも繋がっていくと思います。アートやイラストなどのクリエイティブなコンテンツを入り口に、体験やインセンティブを付与することで、感覚的にファンの好意を高め、最終的にはLTV向上(ターゲットのロイヤリティを高める)へと繋がる顧客体験が描けると考えています。

Web2とWeb3のマーケティングの違い(「既読」社提供)

―ファッション領域について深掘りしたいと思います。他業界や他業種に比べ、多くのファッション企業がNFT、メタバースなどをいち早く取り入れていると思いますが、最近の傾向で何か特徴的なものはありますか?

長谷川氏:

 ファッション領域と一括りにするよりも、やはり自社の事業スタイルによって狙いと取り組んでいることがさまざまあるのが、面白い構図だと思います。例えば、ファストファッションであれば、メタバースと連動して、デジタルファッションアイテムをプロモーションコンテンツとして低価格で販売しています。一方で、ハイブランドであれば、NFTを販売し、メタバースでの着用やデジタルと同じリアルアイテムを販売するなど、既存顧客のロイヤリティを高める狙いが見て取れると思います。ブランドのポジションやターゲットのユーザーによっては、同じメタバースやNFTへのアプローチも全然変わってきますね。

  今後のファッションブランドのマーケティング戦略やブランドの成長戦略に求められる重要な姿勢としては、商品購入後も、ターゲットユーザーと一緒にプロダクトをアップデートしていくなど、よりユーザーとコミュニケーションが実現するような体験を提供していくことだと思います。Web3の世界では、このような姿勢がより実現しやすいことが醍醐味でもあります。

―ちなみに、自社の取り組みなどで、印象に残る事例などはありますか?

長谷川氏:

 弊社の直近の取り組みでは、スイス発の時計の某ラグジュアリーブランドと提携し、グローバルマーケットへ進出するためのプロジェクトを進めています。このブランドに関しては、「既存」のデジタル広告を中心としたマーケティングを、すべてWeb3文脈のマーケティングに変えるという前提で、試行錯誤をしながら進行しているところです。

 彼らがなぜWeb3マーケティングに移行するかと言いますと、大きく3つの理由があります。1つは明確に暗号資産を持っている富裕層を獲得するため。2つ目は既存のSNSへの投資やフォロワーの増加は果たして本当にマネタイズに貢献しているのか、という懸念があること。そして3つ目の理由として、ファンコミュニティを活性化するためです。既存のユーザーに対して、友人や他のユーザーに自身のブランド体験を共有したいと思わせるためには、NFTやXR、メタバースとリアルとの連動が欠かせないと考えます。新しい技術で新しい感動を創造し、その結果として、ファンコミュニティの活性化や拡大にも繋がっていくのではないかと思います。

 


「XXXXTH」が手かけるデジタルスニーカー

 

―店舗体験の観点から、Web3関連の技術はどのような活用方法があるでしょうか?

長谷川氏:

 NFTを使った店舗体験においては、最近国内外でも活用事例が増えてきました。例えば、「STARBUCKS(スターバックス)」が開始したスタンプラリー(ポイント)では、イラストレーターが制作したNFTがポイントの代替となっています。来店や購買ごとにNFTが付与されるので、イラストレーターの応援やNFTをコンプリートする達成感へと購買の動機を変換できます。現在は、QRコードをスマートフォンで読み込むだけでNFTの保有を証明出来る仕組みがあるので、この技術を利用してブランドはユーザーのファン度合いを可視化することが可能になります。

 他には、まるでゲームのようなイベント性やコンテンツ性を店舗で体験してもらう流れが出てくると思います。例えば、購入したアイテムにNFCチップが貼付けてあり、それを読み込むことでデジタルファッションアイテムをARで着用できる、またはメタバース内で身に付けられるなど、来店で叶う体験を付与することで、購入後もSNS投稿や拡張体験として汎用してもらえます。コロナ禍でEC利用が当たり前になり購買自体はオンラインで完結するいま、来店することへの新たなメリットを生み出すことも重要だと思います。

―最後に、日本市場における今後のWeb3文脈マーケティングの展望や貴社の事業計画についてお聞かせください。

長谷川氏:

 私たち「XXXXTH(フォックス)」というブランドは、デジタルファッションのブランドであり、「洋服を着るものから遊ぶものに変える」というコンセプトを持って活動しています。ですので、まずはさまざま企業様と一緒に、既存の商品に対してXR体験を追加することで、商品をアップデートする企画・制作支援や、Web3文脈のマーケティングにおけるプランニング・実行から進めていきたいと考えています。

  さまざまな既存企業(Web2)やWeb3企業とコラボレーションを行うことで、デジタルファッションブランドとしての弊社の経験をどんどんシェアし、デジタルファッションのカテゴリー自体を盛り上げていきたいと思います。同時に、かつてのファッションブランドシーンで、日本人デザイナーの川久保玲氏と山本耀司氏が海外に起こした「黒の衝撃」たるものをデジタル界でも起こしたいと考えています。

 

デジタルスニーカーと連動、商品化しアイテム(既読社提供)

さいごに

 2022年は、Web3業界にとっては激動の1年でした。経済的な損失が大きかった一方で、新しい技術が次々と登場し、共通点としてマーケティングツールの実用性が高まりました。Web3文脈のマーケティング戦略は、既に国内外でも実践段階に入っており、「既読」がその代表例の1つです。Web3文脈マーケティングは技術先行の側面もありますが、既存のマーケティングにWeb3技術を掛け合わせることで、次世代のマーケティング戦略においては差別化のカギとなるでしょう。

 今後AILでは、長谷川氏をお招きしWeb3文脈のマーケティングにおける実務面や事例を含めた解説ウェブセミナーの開催も予定しています。ご期待ください!