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【独自取材】会社を動かした女性たち(後編) 未経験から下着ブランド「BELLE MACARON」を立ち上げ 「ashlyn」小島未紅氏
【前編はこちら】会社を動かした女性たち(前編) 異業態の和菓子専門サイトに挑戦 「ジーエークロッシング」世古寛子氏
新しい商品やサービスが次々と生まれ、ユーザーの購買行動や習慣も大きく変化している今、企業にも新しい挑戦が必要となります。そこで今回は変化する企業の中心で活躍する女性を紹介。後編では「ashlyn(アシュリン)」の小島未紅氏の挑戦をご紹介します。
転機はTwitterの投稿。起業4年目で日商1,000万円を達成!
2016年に誕生した女性向け下着ブランドの「BELLE MACARON(ベルマカロン)」。デザイン性と着け心地を両立させた同社の商品「24hブラ」はシリーズ累計販売数1万枚を突破する大ヒット商品となっています。その勢いのまま2020年7月には日商1,000万円を達成。また購入者の翌月のリピート率は平均で約70%になるなど熱心なファンも急増しています。
破竹の勢いで成長を続ける「ashlyn(アシュリン)」社ですが、代表の小島未紅氏は元システムエンジニアという異色の経歴の持ち主。現在も1人でブランドを運営しています。有名ブランドからD2Cブランドまで多くのブランドが割拠する女性向け下着の市場で、普通のOLだった小島氏が1日に1,000万円も売るブランドをなぜ作れたのか? 商品開発の裏側から認知を高めるためにした取り組みまで、その秘密を伺いました。
小島未紅氏「ashlyn」代表取締役 Twitterアカウント:@milkonPANDA
起業のきっかけは「オシャレで機能性の高い下着がほしい」という想い
―「BELLE MACARON」を立ち上げたきっかけを教えていただけますか?
「BELLE MACARON」を立ち上げる前は、システムエンジニアとして働いていました。長時間勤務も珍しくなく、その頃にブラジャーの着用が苦しくなったり、体にブラジャーの跡が残ってしまったりなど、バスト周りのストレスを感じるようになったんです。当時も着用時のストレスを軽減する機能性の高いブラジャーはあったのですが、私が着けたいと思うオシャレなブラジャーはありませんでした。
そして2016年頃、機能とデザインを両立させたブラジャーをつくりたいと思い至り、のちに「ashlyn」を設立。デザイナーと工場を探し、同年9月にブラジャーの開発を本格的に開始して、2017年7月にECサイト「BELLE MACARON」を立ち上げました。
―立ち上げ当初からよく売れていたのでしょうか。
全くそんなことはありません(笑)。家には商品の入ったダンボールが積みあがり、数はいつまで経っても減らない状態でした。ただ、起業を決意したときから「ECサイトをつくるだけでは、売れない」とある程度の覚悟と想定はしていたので、リスクヘッジをする形で派遣社員としてフルタイムで働いていました。ですから、“商品が売れないから食べていけない”という状態ではありませんでした。その間に商品の改良に注力をして品質向上に努めました。これが2017年11月頃です。その後2019年3月にTwitterで話題となり、1日で10万円を売り上げるなど売上が増えていき、2020年7月には日商1,000万円を達成することができました。
「BELLE MACARON」が設立された2016年から2021年までの出来事(Twitter:@milkonPANDAより)
―ここまで成長した要因はなんでしょうか?
試行錯誤しながらも2つの壁を乗り越えた結果、今に至ると思っています。その壁とは“商品を作る壁”と“売るための壁”です。“商品を作る壁”は、文字通り商品を作ることに壁がありました。特別なコネクションも技術もない普通のOLがブラジャーを作るには、まず知識の面で勉強が必要だったのです。
その後、工場を何とか探し、商品開発と生産を平行して進めるのですが、今ECで販売している「24hブラ」は商品開発に約2年(2016~2018年)かけています。そのうち約1年は商品改良に費やした期間です。
「24hブラ」は“体型・バストラインに合わせてぴったりフィット”“ノンワイヤー・ノンホックで夜までラクちん設計”“こだわりの補正力でバストラインはしっかりキープ”“ふんわりとした丸みのある美胸ライン”の4点を強みとしています。シンプルにレース素材でできた“ノンワイヤーブラ”と思われがちですが、それだけでは“バストが揺れない”という問題を解決することはできません。“バストが揺れない”ということはホールド力が高くなるので、締め付けが強くなる傾向にあるからです。
そうなると今度はバスト周りのストレスが発生します。その点「24hブラ」は、バストが揺れず、着用時のストレスがない着け心地を、改良に改良を重ねて実現しています。この2点を両立させたことが、お客様に共感頂き、ご購入頂いている大きな理由だと思っています。
“体型・バストラインに合わせてぴったりフィット”“ノンワイヤー・ノンホックで夜までラクちん設計”など4つの特徴がお客様に支持されている
―“売るための壁”とは、具体的にどのような壁だったのでしょうか。
具体的にはどう存在をアピールしていくのか、認知を広めていくか、といった壁です。かなり苦労したのですが、ここで活躍してくれたのがTwitterでした。Twitterでは当時から「こじみく『24hブラ』のプロデューサー」としてライフハック系の投稿をしていたのですが、2019年3月にツイートした“ブラジャーの干し方”が約5万いいね! を獲得してバズったのです。
正直、これは想定外の反響でした。そして「おかげ様で話題になっているので」という形で「BELLE MACARON」に関連するコメントをしたところ、1日で約10万円分の商品がTwitter経由で売れました。また購入した方がポジティブな感想をツイートすることで、新しいお客様が「BELLE MACARON」を認知し、そのままご購入を頂くというサイクルも目にしました。この一連の体験は“Twitter経由でも商品が売れるんだ!”ということを実感した瞬間でもありました。
―ファッション企業のSNSではInstagramも重視されていますね。
Instagramも2019年から運用していたのですが、「商材との相性はあまり良くないのでは?」と正直感じていました。具体的にお話をすると、当時のInstagramは写真うつりや華やかさといった“映え”が相当重視されていて、アパレルのアカウントで“映え”を求めるには投稿のバリエーション、つまり商品のバリエーションが重要であると感じていました。
実際に他社様の場合、商品が数十種類あり、色々なデザインの商品を投稿することで“映え”に繋がっていました。一方で「BELLE MACARON」の商品は「24hブラ」しかなく、カラーバリエーションも当時は4種類しかなかったので、5回目以降の投稿がほぼ同じ投稿になり、“映え”を重視したバリエーションの投稿が難しかったのです。
今でも当時のInstagramの投稿はユーザーからの反応が乏しかったのを覚えています。実はTwitterで反響があった“ブラジャーの干し方”も当初はInstagramで投稿していた内容だったのですが、反応がなく、もったないからTwitterにも投稿してみようというスタートでした。すると一気にいいね! やリツイートがついたのです。
―画像だけでなく文章も重要になるTwitterの方が相性は良かったのですね。今や多くのフォロワーがいるアカウントですが、Twitterで話題になる投稿の共通点やポイントがあれば教えてください。
Twitterは拡散性の高さがとても魅力的だと思っていて「リツイートをしてもらえるかな?」という目線は意識しています。ポイントは大きく2つあると考えています。1つは「保存してもらえる投稿かどうか」です。リツイートする際の動機として、“有用な情報だから保存するために”というケースは多いと思っていて、そこに当てはまる投稿かどうかはポイントだと思います。
2つ目は「フォロワーや友達に教えたい投稿かどうか」です。面白い画像や珍しい画像が爆発的にバズっているのも、辿っていくとこの動機に当てはまると思います。 この2つのどちらか、あるいは両方に該当するかどうかがポイントだと考えています。
今振り返ると、バズッた投稿としてお話をした“ブラジャーの干し方”も保存をしておいて、後で見ようというユーザーが多かったからなのかなと考えています。また既婚の方が“ブラジャーの干し方”をリツイートすることでパートナーが反応し、実際に干し方を変えてくれたというツイートもありました。まさに「保存」と「教えたい」という2つの動機に当てはまった投稿でした。
―確かに小島さんのアカウントでは、自社の商品に関する投稿だけでなく、「保存したい!」「教えたい!」というライフハック的な要素が盛り込まれた投稿も目立ちます。
そうですね。自社の商品を宣伝するだけのアカウントだと宣伝アカウントになるので、OLからブラジャーのプロデューサーになったという目線で、フォロワーさんの役に立つ投稿は心掛けています。また、フォロワーからは信頼性のあるアカウントと認識してもらうことで、Twitterからの購入率も上昇しているのを実感しています。ブラジャーに詳しい、課題を解決したい小島がTwitterでその思いや考えを投稿しているという、一種の“透明性”がフォロワーの増加、売上にも繋がっているように感じます。
小島氏のTwitter活用術。左:2019年3月に投稿された“ブラジャーの干し方”。約5万いいね! を獲得する投稿に
右:“下着ブランドの特徴まとめ”など「保存」「他の人に教えたくなる」に関する投稿はいいね! が伸びる傾向にある
―最後に「BELLE MACARON」の、そして小島さん自身の今後の目標を教えてください。
目標は大きく3つあります。1つ目はブランドを年商10億円規模まで成長させることです。リピートをして頂いている方からは「もっと早く出会いたかった」「バスト周りのストレスから解放されて人生が変わった」というお声を多く頂戴しています。裏を返すと同じような悩みやストレスを抱えている方は、まだ多くいるのかなと感じており、「BELLE MACARON」を知らず、バスト周りで悩んでいる方にも届くぐらい大きなブランドになりたいですね。
2つ目は海外展開です。今は国内のみの展開なので、海外にも販路を拡げたいと思っています。3つ目は個人の目標になりますが、キャリアに悩んでいる女性のロールモデルや目標としてありたいと思っています。昔から安定志向でシステムエンジニアとして企業にも就職した自分が、ブランドを立ち上げるとは全く思っていませんでした。
最近では、モデルの方や元アナウンサーの方といった華々しい経歴の方々がインフルエンサーと兼任する形でブランドをプロデュースすることも多いですが、そうした経歴を持っていない私のような一般人でも、 共感性の高いメッセージを発信して、商品の魅力を伝える場やプラットフォームがあるのは今の時代だなと感じています。
この私のキャリアはユニークなキャリアだと考えていて、この道を選択して良かったなと思うことも多くあります。これから更に私自身の発信力を強め、同じ境遇で悩んでいる、迷っている女性のヒントとなる発信をしていければと思っています。
取材を終えて
魅力的な商品をどうお客様に伝えて、認知していくのか。これは各社が大なり小なり抱えている課題だと思います。「BELLE MACARON」の場合、その突破口となったのがTwitterでした。ただし、これはTwitterを活用すれば良いというシンプルな話ではなく、深掘りをしていくと、小島氏がTwitter上で信頼できるアカウント(人)だからこそ、大きな反響を呼んでいると思いました。
この“信頼”というワードが非常に重要で、今回のケースでは「自社の宣伝だけでなく、フラットな目線で下着に関する役立つ情報を投稿している」「ブランド設立の理由が小島氏の実体験や課題解決が起点となっていて、ストーリーに共感がうまれている」といった点が、信頼できるアカウントに繋がっているのではないでしょうか。
つまり「小島氏=女性用下着のスペシャリスト=BELLE MACARONの代表」という構図から、ユーザーの信頼を得て、「BELLE MACARON」の認知、売上に繋がっていると感じました。どのような想いでブランドや商品が成り立っているのか? その市場、領域のスペシャリストとしてフラットな投稿ができるのか? この両方を満たせるブランドがTwitterを活用したとき、それはもうバズが発生する一歩手前まで来ているのかもしれません。