ここ数年で在宅消費が定着し、ECサイトの利用率が高まっている一方、さらなる“店舗体験”の独自性が企業やブランドには求められています。そこで今回は店舗でしか体験できない独自性のある取り組みとして「渋谷パルコ」と「阪急メンズ東京」の事例を紹介します。
CACE 1 渋谷パルコ
“都会でのアウトドア体験”に“最先端のデジタルファッション”と、仕掛けづくりがとても魅力の「渋谷パルコ」
「渋谷パルコは」2021年9月に5階フロアを改装し、アウトドアゾーン「PARCO OUTDOOR PARK(パルコ アウトドア パーク)」を設置。人気アウトドアブランドの出店をはじめ、ポップアップ、屋上庭園での出店ブランドによるアウトドアイベントなどを展開してきました。またファッション、ライフスタイルなど多ジャンルの人気ヴィンテージショップが約30店舗集まるリアルイベント「VCM MARKET」も開催。徐々に高まりをみせる顧客の外出意欲をさらに掻き立てるイベントが企画されています。
「PARCO OUTDOOR PARK」(渋谷パルコ公式サイトより)
新しい試みはポップアップでも見られます。2022年3月下旬、メタバース(仮想空間)プラットフォームの「Decentraland(ディセントラランド)」で催された世界初の「Metaverse Fashion Week(メタバースファッションウィーク)」にファッションブランドの「ANREALAGE(アンリアレイジ)」が参加しました。その記念として、「渋谷パルコ」は「ANREALAGE」とコラボレーションを実施。2階のポップアップスペースを活用した「ANREALAGE DIGITAL SHOP」を3月24日から4日間開設しました。
ポップアップでは「ANREALAGE」による40個の限定NFT(非代替性トークン)が先着順で配布され、最先端技術のNFTをお客様に体感してもらうきっかけを提供。実は、この取り組みは「渋谷パルコ」で開催している「サステナブル」をテーマにした全館イベント「CYCLE shibuya parco sustainability (サイクル)」の一環でもあり、NFTを活用した「モノを作りすぎない循環型のクリエイション」を軸とする新しいノベルティの在り方を考える実証実験を兼ねています。いわば最先端のデジタルファッションカルチャーを発信するだけではなく、サステナブルな消費文化、価値観の啓蒙活動としての効果も期待できるプロジェクトだったといえます。
「ANREALAGE DIGITAL SHOP」ではデジタルファッションをリアルで再現した衣裳の展示も
さらに「ANREALAGE」が「Metaverse Fashion Week」で発表したデジタルファッションの“本物”を展示。来店したお客様にデジタルとリアルの両面からファッションを体験してもらうことで、ブランドの世界観に対する深い理解を訴求できる場ともなりました。
CACE 2 阪急メンズ東京
店舗での“対面”を重視する「プロフェリエ」×「阪急メンズ東京」の「パーソナルコンサルティングサービス」
2022年3月下旬、パソナグループで個人向けマンツーマン・プロフェッショナル・マッチングサービスを提供する「プロフェリエ」が「阪急阪神百貨店」と業務提携。「阪急メンズ東京」のパーソナルサービスにて、ファッションスタイリング、健康管理、ファイナンシャルアドバイスなど顧客の生活全体をサポートする「パーソナルコンサルティングサービス」を打ち出しました。
阪急メンズ東京「パーソナルコンサルティングサービス」公式サイトより
この取り組みのポイントは、外見の改善を促すことに加え、食事改善、メンタルトレーニング、美容など内面磨きも提案することで、顧客の“なりたい自分”を実現するサポートにあります。最たる特徴は対面を通してのサービス提供を重視している点です。近年オンラインのスタイリングサービスは多数登場していますが、実際に来店してもらうことで得られるメリットは多く、たとえばファッションスタイリングのサービスでは、髪型、体型、雰囲気など全体のイメージを総合的に判断し、最も相応しいスタイリングが提案されることになります。
また外見や体型には食事をはじめとした生活習慣が反映されていると捉え、食事改善コーチングや睡眠マネジメント術といったメソッドも提供。「自分に自信が持てない」という悩みを抱えている場合にはメンタルトレーニングのメニューを用意し、根本からの改善を狙います。
このように洋服のスタイリングだけにとどまらず、生活全般において個々の顧客が抱える悩みにスペシャリストがアプローチし、総合的に解決する本サービスは、店舗での対面・対話があってこそ実現できたものなのです。
内面の改善を重視したサービスが充実(公式サイトより)
まとめ: 「ここでしか得られない体験」で差別化を
今回紹介した2つの事例の共通点は、実店舗だから実現できた「ここでしか得られない体験」「オンラインだけでは完結しない体験」であることです。「渋谷パルコ」の取り組みは、同社が展開するさまざまな斬新な取り組みの一部であり、数多くの「ここでしか得られない体験」を手掛ける姿勢は、来店を促す仕掛けづくりの重要性を考えるヒントとなります。
一方の「プロフェリエ」と「阪急メンズ東京」による試みは現時点の百貨店業界における唯一無二の取り組みです。対面だから実現可能な外と内の両面に対するサポートは、顧客にとって類を見ない体験となり、いっそうの満足感を生むきっかけとなりそうです。