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自然派アクティブウェア「Vuori(ヴオリ)」 なぜ支持される?創業者の逆転戦略|米国開催 CommerceNext2025(コマースネクスト)取材レポート

RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー
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 ニューヨークに暮らしていると、日常的にさまざまなチャンスが訪れることを実感します。ビジネスにおいては刺激的な出会いがあり、プライベートにおいてはポップアップショップや音楽イベント、趣味を通じたコミュニティの集いなどがめまぐるしく開催されています。圧倒的なスピード感ある日々の中では、自ら意識して休息を取らなければ、心身をリセットするタイミングすら見失ってしまうほど。

 そんな“常に何かが起こっている”ニューヨークにおいて、筆者は日頃から「食生活で気をつける」「運動をする」「しっかりと睡眠をとる」などを心がけていますが、そうした中で6月に参加したビジネスカンファレンス「CommerceNext(コマースネクスト)」では、ライフスタイル訴求やコミュニティ形成に定評あるアクティブウェアブランド「Vuori(ヴオリ)」が登壇したキーノートセッションが印象的でした。 「Vuori」の創業者兼CEO、Joe Kudla(ジョー・カドラ)氏による最新セッションの模様をレポートします。


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カルフォルニア発・アクティブウェアブランド「Vuori(ヴオリ)」

 「Vuori」は、2015年春にローンチされたカルフォルニア発のアクティブウェアブランドです。フィットネス、探検、冒険、マインドフルネス、自然とのつながり、そして海を取り巻くライフスタイルやコミュニティから深くインスピレーションを得ているブランドです。

 ブランドの創業者であるJoe Kudla(ジョー・カドラ)氏は、カリフォルニア州エンシニータス出身。同地域は、プロサーファーやトライアスリート、若いクリエイターなどが集う街として知られ、「Vuori」にとって理想的なインスピレーションの源であると話しました。こうした創設者の生い立ちの一面を知るだけでも、ブランドの背景や世界観が伝わってきます。

創業のきっかけ--“自分が着たいと思えるウェアがなかった”

画像左:「Vuori」の創業者兼CEO、Joe Kudla(ジョー・カドラ)氏(筆者撮影)

 

 Kudla氏は、若い頃にスポーツで腰を痛めたことがきっかけでヨガを始めたといいます。その際、“男性はヨガをするときに何を着ればいいのか?”という疑問を抱くようになり、市場を見渡すと、男性向けのヨガウェアには選択肢がほとんどないことに気づいたと語りました。

 当時、スタジオフィットネスやヨガ市場は急成長しており、ヨガ人口は3,000万人に達していたといいます。そのうち約30%が男性だったにもかかわらず、ライフスタイルに寄り添った共感できるメンズ向けのアクティブウェアブランドは皆無に近かったとのこと。この市場ギャップに着目し「Vuori」はまずメンズコレクションからブランドをスタートさせることを決断したのです。

 Kudla氏は実体験として、ウェアを探しに奥様と「Lululemon(ルルレモン)」へ訪れた際のエピソードも紹介。当時、店内の隅に小さく設けられていたメンズ売り場を見て、「そこには自分にとってのブランド体験がなかった」と振り返り、満足できなかった顧客体験もまたブランド創設の大きな動機になったことを明かしています。

「Vuori」のメンズライン 米ニューヨーク・ソーホー店舗(編集部撮影)

プロダクト思想と差別化

 「Vuori」の核となるのは、「製品の品質」です。同社は素材主導のブランドとして知られ、肌に触れた瞬間に分かるような「柔らかな素材(質感・軽さ)」を追求し、色合いにおいても、まるで“太陽に軽く照らされたような”淡く穏やかなトーンでブランド全体をまとめあげているのが特徴です。しかし、小売業界で突き抜けるためには、品質だけでなく、高い実行力、魅力的なマーケティング、そして良質なカルチャーを築くことも重要だと、Kudla氏は語ります。

 同じアクティブウェア市場の競合ブランド「Lululemon」との違いについて、Kudla氏は、流通チャネルやブランドの個性という側面を挙げています。「Lululemon」は直営店・オンラインの両面で強力なリテール網を構築しているのに対し、「Vuori」では、D2Cを起点としながらも、選定されたホールセールパートナーとの協業によって成長を加速させています。

 競合と聞くと、差別化された部分にフォーカスされがちですが、筆者がこの二つのブランドから受ける印象としては、「Lululemon」が「パフォーマンス+マインドフルネス」の精神を軸にコミュニティを築いているのに対し、「Vuori」は「カリフォルニアのライフスタイル+自然体」で共感を生むコミュニティを形成。競合でありながら、それぞれが明確なブランドらしさを持ち、“健全な”競争のもとアクティブウェア市場の魅力を押し上げている、どちらも素晴らしいブランドだと思うのです。

「Vuori」米ニューヨーク・フラットアイアン店の外観

「Vuori」の成長の軌跡--初期時代の苦戦、ピボット、そして逆転ストーリー

  キーノートセッションでは、Kudla氏が立ち上げ初期に経験した印象的なストーリーも赤裸々に語ってくれました。

 「Vuori」は当初、D2C(直販)に限定するビジネスモデルは考えておらず、ホールセールの売上を軸にブランドを育てていく構想を描いていたといいます。ところが、ニューヨークでバイヤーに製品サンプルを見せた際に、“これはニューヨークでは売れない”という厳しいフィードバックを受けることに。バイヤーにとって「Vuori」の商品は、「ビーチブランドなのか?スポーツウェアなのか?それともアクティブウェアなのか?」ブランドのジャンルやポジショニングが定義しづらい印象を与えてしまったといいます。

 この経験から、Kudla氏はどんなに素晴らしい製品を作るブランドであっても、ホールセールビジネスで成功するためには、コミュニティの形成やブランドの独自性が非常に重要だと学んだのでした。

「Vuori」はこうした経験を前向きに捉え、D2C戦略を強化。顧客接点を重視してコミュニティを着実に築くことで、現在では、かつて“売れない”と一蹴したバイヤーが今も働く店舗に対して正式に商品を卸しアクティブウェアNo.1ブランドの地位を獲得。まさに逆転劇で注目されるブランドへと成長したのでした。

 キーノートセッションの中でKudla氏は、ブランドの信頼醸成においては「馴染みのある場で商品と出会う」ことが重要だと語りました。「Instagramで広告を見たとしても、多くの場合、“インスタ系”ブランドに対して、初めは慎重になる人が多い。しかし『Nordstrom(ノードストローム)』や『REI(アールイーアイ)』、フィットネスジムの『Equinox(エクイノックス)』といった、人々に馴染みのある場所で商品を目にすることで、ブランドへの信頼感が格段と増す」。つまり、「Vuori」は、D2Cとホールセールの両輪でビジネスを築くことで、認知度を高めただけでなく信頼構築を実現し、ビジネスとして成功していったといえるのです。

今後の展望とグローバル戦略

 「Vuori」は今、プライベート・エクイティからの出資も受け、企業評価額は55億ドル(約8,000億円)にまで成長しています。初期はメンズウェアからスタートしつつも、現在はウィメンズラインも大きく成長。全体の売上構成は、メンズ・ウィメンズで50 : 50と、ジェンダーバランスの取れたブランドへと進化しています。今秋には、特にアウターを中心としたラインアップの拡充を予定し、2025年には米国内でさらなる店舗拡大を見込んでいます。加えて、グローバル展開にも積極的で、これまでロンドンと上海に3店舗目を出店。2025年年末にかけ、中国・北京への出店も控えています。さらに韓国・ソウルでは今年後半に初の路面店のオープンを予定しています。

 かつてバイヤーに“売れない”といわれた過去から一転、プロダクト主義とコミュニティ形成、そしてD2Cとホールセールの最適なバランス戦略によって、アクティブウェア市場で新たなポジションを確立しつつある「Vuori」。今後もその成長は目が離せません。


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執筆者

  • RINA Yoshikoshi|AILメディアパートナー

    NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント

    NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
    関心: #ファッション #フィットネス #ウェルネス #スーパーマーケット+CPG