中国では、2021年から一人っ子政策が廃止となり、キッズビジネス市場の拡大に大いに期待が寄せられています。現地のメディアによると、キッズビジネス関連企業が約230万社になり、そのうちの約50万社は2021年に誕生した新興企業で市場が活気を見せています。この注目の市場で10月に中国深圳取引証券所で上場を果たしたKidswantを今回はご紹介します。Kidswantはキッズ用品の販売、関連サービスを提供している企業で、上場時の公開株式価格はアナリストの予測より300%上回り、時価総額は230億人民元(約4,000億円)にものぼる大手企業です。市場が期待する同社の教育・育児支援サービスについて深堀していきます。
ライバル企業、育児教育支援の専門企業を凌ぐ6000人の専門チーム
Kidswantに在籍する育児コンサルティングの国家資格の所有者の専門スタッフ
Kidswantは2009年に中国の南京で創業。当初はキッズ関連用品の百貨店を謳っていましたが「0~14歳の子供とママのあらゆる悩みを解決するワン・ストップ・プラットフォーム」へとコンセプトをシフトしたことで、事業を徐々に軌道に乗せてきました。
現在では、約500の実店舗とECを運営しており、利益の60%が物販、40%が提供しているサービスから成り立っています。そして、今回AILが注目したのが、VIP会員のアクティブ率です。同社の自社アプリやWeChatなど、デジタルアカウント会員数は3,300万人、そのうち月間アクティブユーザーは約200万人、更に200万人のうち、年間購入金額が一般会員の10倍となる「ブラックゴールド会員(VIP会員)」は約70万人にもなります。つまり、アクティブ会員の約35%をVIP会員が占めているということです。
同社では、対象ユーザーのニーズ、悩みに徹底的に寄り添うサービスに力を入れて、差別化を図ろうとしています。例えば、同社は「育児コンサルティングの国家資格の所有者」を約6,000名抱えており、赤ちゃんへの食事のアドバイスから、子どもの学力に沿った適性、どの学科・学校へ行くべきかなど育児に関するあらゆる悩みに応えてくれます。
中国の育児、教育関連の専門市場においては、2,000人の国家資格所有者を持つ大手企業が業界トップと言われている中、Kidswantは小売企業でありながら、専門企業を遥かに凌駕する専門人材数とノウハウを持ち合わせています。物販に加え、徹底した育児・教育サービスの両方を展開しており、競合他社とは一線を画す存在といえます。
専門スタッフの配置、カルテのデジタル化金融サービスなど色々な角度のサービス
Kidswantの強みは、6,000人の国家資格所有スタッフがいるだけではなく、ユーザー体験へのこだわりにもあります。同社は、自社アプリやWeChatのミニプログラムなどを活用し、デジタル会員の連携基盤を築いています。そして会員ごとにカルテを作成し、自社アプリ、WeChatのミニプログラム、店舗の3つのタッチポイントでコミュニケーションを図る体制を整えています。例えば店舗では、顧客が来店時に専用のデバイスで会員アプリまたはミニプログラムのQRコードでチェックインすることで、店舗スタッフは顧客の購入履歴やサービス利用履歴などの情報を把握することができます。事前に情報をしっかり把握することで、顧客のニーズに沿ったスムーズな商品やサービスの案内ができるといいます。
自社アプリとWeChatで専門家へ直接相談することが可能
さらに店舗では、育児教育レッスン、子供向けの楽器、プログラミングなど各種のワークショップ、中学進学向けの塾、保育園サービスなど教育、育児支援に特化したサービスを中心に展開しています。会員の利用履歴を専門スタッフが把握することで提供されるパーソナライズされたKidswantの店舗体験は、多くの新米パパ、ママに受け入れられています。
一方、デジタル上(EC、会員アプリ)では、GPSを活用したプッシュ通知(ユーザーの最寄りの店舗のキャンペーン、店舗内のイベント、催事情報の配信、クーポン券の発行など)があります。また、顧客間のコミュニティ形成にも注力しています。例えば、WeChatのミニプログラムでは、ユーザーの悩みを集める相談フォーラムが設置され、その中から特にリクエストの多い悩みを専属スタッフがピックアップ。その悩みに対し、会員ユーザーを招いたライブ配信を実施して、同社の育児コンサルティング資格保有スタッフのみならず、小児科の専門家、児童心理学など各分野の専門家を招いた座談会を開催するといった取り組みをしています。
店舗内の様子
最後に、育児に関するあらゆる悩みを解決する同社のコンセプトに沿った、独自のアプローチを紹介します。それは、会員ユーザー向けの低金利教育ローンです。子供服を始め、習い事、塾などには多くのお金が必要となります。特に若くして親となった世代にとっては、経済的な負担にもなります。こうしたターゲットに向けて、低金利教育ローンなどの金融サービスも展開しています。
実際に冒頭で紹介した、ブラックゴールド会員(VIP会員)の約40%が低金利教育ローンの利用者となっています。今回取り上げたKidswantの事例は、単なる資本力や人海戦術で多種多様なサービスを展開しているのではなく、デジタルと店舗のサービスをプラットフォーム上で連携することで実現し、同時に、ユーザーに寄り添う姿勢をサービスに反映させているといえます。