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カテゴリー:小売
「世界で最も面白いお店」をコンセプトとして注目を集めていた米商業施設「SHOWFIELDS(ショーフィールズ)」がチャプター11(米連邦破産法11条)を申請していたことが海外メディアで報じられました。
同社は今年に入り、7月と10月上旬にマイアミ店とニューヨークマンハッタン店(第一号店)を閉店しています。今後は、残るブルックリン、ワシントンD.C、ロサンゼルスで展開する3店舗に経営資源を集中するといいます。
なぜ今? 遅れてやってきたパンデミックの“後遺症”
チャプター11とは、日本の民事再生法と類似しており、米国では代表的な再建型の倒産法制です。経営破綻となった企業はチャプター11に申請することによって債権の取り立てが停止され、経営陣は債権者と負債の整理や契約の見直しを協議しながら経営再建に集中できます。
かつて「世界で最も面白いお店」と称され、さらに昨年秋には日本上陸まで予定されていた同社はなぜ経営破綻に迫られたのでしょうか?マクロ経済環境の変化と同社のビジネスモデルの関係性の二側面からみていきます。
「SHOWFIELDS」ワシントンD.C.店(公式サイトより)
「SHOWFIELDS」ブルックリン店(公式サイトより)
マクロ経済環境においては、過去3年間に及んだパンデミックがリアル店舗展開を中心とする同社のビジネスモデルに多大なダメージを与えました。昨年からようやく米国消費市場が回復しつつある中で店舗再開したとはいえ、なかなか改善の目途が立たない高インフレーションの下では、消費者の消費マインドは鈍化。それ故、同社が想定していた売上目標に対し、収益の改善スピードが追いつかないという事態に陥ってしまいました。
また、売上改善が見込めない中、ビジネスを存続させるために過去に実施したパンデミック時の複数の借り入れがキャッシュ・フローを徐々に圧迫し、結果として経営破綻を招いたといえます。
「SHOWFIELDS」のようなケースは決して珍しいことではありません。American Bankruptcy Institute(米国の破産専門組織)の最新のデータによると、2023年10月の時点で、米国小売企業によるチャプター11申請案件数は、昨年同時期に比べて61%も増加しました。
たとえパンデミックを乗り越えたとしても、急激に増える債務負担や改善しない売上状況が重なり、遅れてやってくる「パンデミック倒産」が急増。これは「SHOWFIELDS」を含め、米国小売業界全体が直面している難題です。
「SHOWFIELDS」ブルックリン店の店内の様子(公式サイトより)
D2Cブランドが卸事業の開拓に移行している現実
「SHOWFIELDS」はRaaS(Retail as a Service)というビジネスモデルの先駆的な企業として事業展開してきました。ビジネス規模などの要因により実店舗を持たないD2Cブランドに対して同社は、POSシステム、販売スタッフ、売場など小売ビジネスの運営に欠かせない要素をサブスクリプション形式で提供しています。
「SHOWFIELDS」はこれまで、独自のキュレーション力、店舗デザインへのこだわりなどが評価され、全米で5店舗を展開していました。
一方、同社が対象とするD2Cブランド界隈では近年、「Walmart(ウォルマート)」や「Macy’s(メイシーズ)」といったレガシー小売企業との卸提携に注力することがメインストリームとなりつつあります。その結果、「SHOWFIELDS」を利用する新規ブランドが減少する傾向にシフトしてきています。
その背景には、立ち上げ間もない新興ブランドにとって、特に早期の黒字化達成が最優先事項であるものの、集客に苦戦するケースが多くみられ、自社直営店とECのみでビジネスを成立させることが難しいという現状があります。この側面からみると、昨今の経済環境や消費マインドにおいては、D2Cビジネスモデル自体の実効性が問われているともいえます。
速やかな経営再建が求められている「SHOWFIELDS」。そのためには、経営コストの削減と新規財源の開拓、あるいは捻出が急務です。例えば、残存する既存店舗の運営の見直しや、新たな出資企業の獲得が挙げられます。引き続き、アップデートがあり次第、最新状況をお届けしていきます。