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若手主導のイノベーション! 創業270年を超えるタキヒヨーが挑む AI・VR活用のファッションテック最前線【AILイノベーションノートVOL.17】

AIL編集部
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 会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。

 第17回でご紹介するのは、創業270年を超える繊維・アパレル総合商社、タキヒヨー。アパレル商品の企画・生産・物流までを一貫して手掛け、ODMやライセンス事業など幅広いファッション流通ビジネスをリードしてきました。

 同社はいま、未来に向けたDX戦略の一環として、「AI需要予測」「3Dアバター」「AIアパレル」といった最新技術を活用した新規事業創出に挑戦しています。若手社員が主体となって取り組むサービス企画開発や展示会での成果、その舞台裏を、同社マーケティングチーム 前岨 瞭吾氏、山口 比奈子氏、志村 善治氏の3名にお聞きしました。

前岨 瞭吾氏(画像左)
タキヒヨー株式会社 マーケティングセクション マーケティングチーム


まえそわ りょうご●2023年タキヒヨー株式会社へ入社。SNSマーケティング事業・BI開発・AIエージェント開発に従事。現在はAI・BIを活用した社内業務の効率化・高度化を推進。マーケティングで培ったデータ活用ノウハウを実務フローへ落とし込み、現場レベルでの課題解決と組織的なパフォーマンス向上に尽力している。

 

山口 比奈子氏(画像中央)
タキヒヨー株式会社 ガーメントディレクションセクション EC販売チーム 兼
マーケティングセクション マーケティングチーム 兼 DX推進チーム


やまぐち ひなこ●1995年生まれ。16年間体操競技に打ち込み、国体優勝の経験を持つ。2018年、タキヒヨー株式会社へ事務職として入社。2020年、自社ECブランドの運営に携わる。2023年、総合職へ転換。独学、プログラミングスクール、Udemy Business等でスキルを習得しAWS認定資格を取得したことが評価され、2024年、Benesse Reskilling Award 2024のLearning Hero Awardを受賞。現在はAWSやGoogle Cloud等で生成AIを活用したBI環境構築や新規事業開発を担当。

 

志村 善治氏(画像右)
タキヒヨー株式会社 マーケティングセクション マーケティングチーム 兼 新規ビジネス創出チーム


しむら ぜんじ●2003年、東京都出身。文化服装学院卒業後、2025年にタキヒヨー株式会社へ入社。VR・メタバース領域を中心にファッション×テクノロジーを掛け合わせた事業開発に携わる。
 
タキヒヨーコーポレートサイト https://www.takihyo.co.jp/

>>>その他のイノベーションノートトピックはこちら<<< #AIL編集部独自取材

タキヒヨーが提供する「AI需要予測」「3Dアバター」「AIアパレル」のサービスを活用して表現した
2026SSシーズン向けのアバター(タキヒヨー提供)

 

「人の知見×AI」で“タキヒヨーらしい”新ビジネスを創る

はじめに、マーケティングセクションの社内での役割・ミッションについて教えてください。

前岨氏:

 マーケティングセクションは、6年間にわたるSNSマーケティングへの取り組みを通じて培った、「消費者視点」の概念を核とする考えを持つ組織です。役割は大きく3つあります。1つ目は、クライアントとの関係構築支援。クライアントの課題抽出・分析、および市場ニーズの発掘を通じて最適な解決策を策定。この解決策を営業メンバーと連携して提案することで、長期的な関係構築と信頼獲得の強化を実現します。2つ目は、部署を横断した施策づくりと企画推進のためのチームマーケティングです。そして3つ目が最も重要となるプロモーション活動です。販売と同様に販促の重要性が高まる中で、消費者の認知度をいかにして拡大するかを、営業部と連携して日々取り組んでいます。

自社展示会を起点に、ファッションテック事業の“拡大・成長”に挑む前岨氏

 

なぜ、ファッションテック領域に挑んだのでしょうか?

前岨氏:

 アパレル産業において「作って売る」というビジネスモデルはベースですが、今後は在庫を持たない仕組みを構築し、新たな価値を創出して消費者に届けるモデルが求められていくと考えています。AIやVRなど先端技術は日々進化していますが、単に“技術ありき”で打ち出すのではなく、そこに人間の知見や経験を融合させてこそ、アパレルらしい、そして“タキヒヨーらしい”新たなビジネスにつながるのではと考えています。

 また、AIやVRを活用した施策は、新規顧客の獲得にも有効な手段だと捉えています。こうした考えから、「AI需要予測」「VRアバター」「AIアパレル」の3つのビジネスモデルの模索を始めました。

未来の需要予測からアバターファッション、アパレルAI生成まで――若手社員の挑戦とその裏側

AWS認定資格などを活かしシステム開発に携わる山口氏

 

まず「AI需要予測」について、サービス概要と、どのような価値提供を目指しているかを教えてください。

山口氏:

 AI需要予測の「FTF System(FTFシステム)」は、商品企画や販売提案の精度向上を目的に開発しています。特徴は、外部ベンダーが提供する「予測」「実績」「コレクション」の3種のデータを一元管理し、誰でも簡単に市場データに基づく需要予測を得られる点です。現段階では社内展開をベースに、AIを身近に積極活用してもらえるよう、エンジニアや外部ベンダーと連携してシステムの操作性の向上を図っています。

 需要予測データは現在、アイテム単位で「3か月ごと・1年先まで」の抽出が可能ですが、近い将来には単月単位まで細分化したデータ提供にも取り組んでいます。また今後は「AI画像生成」や「天候予測」などの機能を統合させることで、アパレル業界における高精度な予測データに加え、クリエイティブ視点や消費者視点といった多角的なインサイトも組み合わせ、より精度の高い未来トレンド予測の実現を目指しています。

 

システムの新規開発にあたって、乗り越えてきた“壁”は何でしたか? 

山口氏:

 私は以前、プログラミングスクールで学び、これまで自身が使用するシステム開発経験はありましたが、全社向けの開発は今回が初めてでした。そのため、営業担当者などエンドユーザー視点に立ちUI設計や使い心地を考慮しながら開発する点に非常に苦労しました。特に、複数の複雑なデータを分析に適した形へ統合する作業では、社内エンジニアやチームで何度も綿密な調整を重ねてきました。また、自身でもSQLやG検定の学習、生成AIを活用した開発、誰もが理解できる設計書作成、スクラム開発の実践といった工夫に努めました。

 非エンジニアでありながら、データ基盤構築やプロジェクト開発に取り組む中ではチームの連携が大きな支えとなりました。また、リスキリングを通じて必要な知識やスキルを習得するうちに、「できないことはない」という前向きな姿勢や自己効力感が高まり、自身の成長を実感しています。こうした挑戦を促す社風のもと、周囲にも良い影響を与えられる存在になりつつあると感じています。

 

「VRアバター」「AIアパレル」では、どのようなターゲットに向けた活用イメージを描いていますか?開発過程で苦労した点も踏まえてお聞かせください。

志村氏:

 VRアバター事業では、既存顧客だけでなく新規顧客にもアプローチすることを目的に、リアルとデジタルを融合した商品販売モデルの構築を目指しています。また、「デジタルネイティブ世代のファンを獲得したい」というクライアントの課題を解決する狙いもあります。

 10月の自社展示会では、アバターに着せる衣装を制作し、サービスを初披露しました。最も苦労したのは、生地の質感や色の風合いをリアルに再現するためのテクスチャリング(質感付け)作業です。3D衣装の制作フローには、デザイン、3Dモデリングなど複数の工程があり、それらを一人で担うのは大変でしたが、自身の技術不足と向き合いながら積極的にスキルを磨けたことは大きな収穫です。将来的には、企業やブランドのイメージを体現したアバターを制作し、店頭での案内・接客への活用や、インフルエンサーの分身としてSNSで販促活動を行うなど、ビジネスモデルの可能性をさらに広げていきたいと考えています。

2026年度SSシーズンより、露出が高まるアイテムを需要予測システムより抽出し
デジタルウェア化しアバターとして表現したもの(タキヒヨー提供)
 
自社展示会では「3Dアバター」サービスを初披露した(編集部撮影)

 

 一方、「AIアパレル」は、クリエイティブ力・企画力の強化や商談の効率化を図り、組織全体の生産性の底上げを目的とした社内向けシステムです。商品画像をもとに、AIがリアルな人物着用コーディネート画像を自動生成することで、従来必要だったモデル撮影のコストや時間を大幅に削減できる点が特徴です。導入当初は社内からAI活用に抵抗を示す声もありましたが、現在では、デザイナーが企画書作成時にAI生成の着用イメージ画像を挿入するなど利用が増加し、「提案イメージの幅が広がった」と反響も寄せられています。

社内で唯一の3Dモデリスト、志村氏

“ストーリー性”で3つの異なる領域を訴求――展示会で得た手応えと見えた課題

今回の自社展示会は、AI・VR活用サービスの発表の場として大きなマイルストーンとなりました。準備段階で特に意識した点や、当日の来場者の反応はいかがでしたか?

前岨氏:

 「AI需要予測」「VRアバター」「AIアパレル」はそれぞれ異なる領域のデジタル技術のため、展示に一貫性を持たせることが難題でした。そこで、商品企画のプロセスに沿って展示ストーリーを設計し、“AIで需要を予測➔AIアパレルで商品を企画➔VR空間で販促”という一連の流れとして体験いただけるよう意識して構成しました。来場者からは、「予測と画像生成が連動するとより良い」「(パントーンカラーなど)デザインの共通言語と連携できると便利」など、具体的なアイデアも多く頂戴することができ、今後の開発課題がより明確になったと感じています。

山口氏:

 「AI需要予測」の展示は3度目でしたが、今回は特に複数の複雑なデータを統合した社内向けBIを構築し、さらにAIチャット開発と連動させることで、視覚的なユーザー体験を重視しました。「社内の誰もが使い易い」という視点で、従来の外部ベンダーのデータをそのまま利用するのではなく、UI/UXを考慮し、データクレンジングから結合、安定性ある設計、視覚化までを内製で構築した点が大きな進化です。こうした一連の改善により、チーム全員が自信を持って展示に臨むことができました。その結果、「使ってみたい」などのお声を多くいただき手応えを感じています。

 一方で、データを深く読み込む方からは「企画に利用するにはまだサポート程度にしかならない」といった指摘もあり、データ粒度や分析根拠の言語化には改善の余地が残ります。今後は、実際に企画で使う場面を想定し、AIの分析と企画者の感性の間のギャップを埋められるよう、データの解像度を高めながら開発を強化していく必要があると痛感しています。

自社展示会では、実際にデモ画面で「AI需要予測」の試用体験を提供。
トレンドの予測期間、テイストなどをチャット質問形式で選択していくと、
市場分析やトレンド予測データ結果が数秒で得られた(編集部撮影)

志村氏:

 入社して半年で迎えた展示会は、「誰もやったことがない新たな挑戦をする」という入社時の目標を形にする場でもありました。アバター衣装制作の全工程を一人で担当したため、技術面で相談できる相手がおらず、想像以上に苦労する場面もありました。しかし、経験を積めたことはもちろん、楽しみながら挑戦できた充実した準備期間だったと感じています。展示会では「よくここまで作った」「アバター活用に興味がある」といったお声をいただいた一方、専門知識を持つ方からはクオリティへの指摘もありました。自身でも技術面の課題を自覚しているため、今後はさらに作品の完成度を追求し、お客様のビジネスに貢献できるレベルを目指したいと考えています。

チームワークで自社展示会での新サービス披露を叶えた
マーケティングセクションメンバー(タキヒヨー提供)

 

サービス開発過程では、データで図りにくい「データ」と「感性」の間にあるギャップについて、どう捉えていますか?

山口氏:

 双方のギャップは可能な限り埋めたいと考えていますが、クリエイティブ領域の意思決定にAIの数値分析を100%活用できるかというと、依然として高いハードルがあります。一方で、私たち自身が「AIに飲み込まれない」姿勢を持つことも重要です。以前、お客様から「同じトレンド予測データを使うと他社と同じ提案になるのでは?」と指摘され、「人の感性の重要性」を再認識したことがありました。とはいえ、企画面においてもAIを積極的に活用してほしいという強い思いがあります。企画担当者にも、これまでの知見や感性を土台にしつつ、使いやすさにこだわって開発したAI需要予測システムを活用いただき、AIを“プラスアルファ”として取り入れることで、データドリブンな視点を意思決定や企画提案に活かしてもらいたいと考えています。

主体的に学び、挑戦を楽しむ――チームで創る新たなビジネス価値

展示会を終えて得た学びと、今後の意気込みを教えてください。

山口氏:

 システムは「作って終わり」ではなく、エンドユーザーの声を多角的に反映し、セキュリティや操作性のアップデートを継続的に重ねることで、「現場で活用される」価値あるツールへと育てたいと強く思っています。第4次AIブームでAIエージェントが主流になりつつある中、当社の企画でもAIを積極的に活用し、社内外や消費者に目新しい付加価値を届けたい。そのための基盤となるシステム開発に真摯に取り組んでいきます。

 今後も、急速な時代変化に取り残されないよう学習と実践を重ね、システム開発とビジネスの両視点でスキルを磨きながら最新技術を取り入れたプロジェクト開発に挑戦していきたいと思います。将来的には「タキヒヨーには最先端の技術がある」と評価いただけるよう、自ら学ぶ楽しさを分かち合える仲間とともに、アパレル業界に貢献していきたいです。

志村氏:

 現在、ファッション業界で3DやVRを本格的にビジネスとして成立させている事例はまだ多くないと感じています。「誰もやっていない」領域だからこそ、自身の技術を磨き、ビジネスとしての成果を上げていきたいと思います。

前岨氏:

 サービスをマネタイズするには、技術の改善と社内外での活用拡大が不可欠です。展示会を通じて自身の知識不足を痛感し、課題も明確になったため、今後はさらに学びを深め、将来的には開発にも携われる力を身につけたいと考えています。主体性のある勉強熱心なメンバーが揃う今こそ、ナレッジを高め合い、チームワークで新たなビジネス価値を創出していきたいです。

【編集後記】おわりに

 今回は、取材前にタキヒヨーが開催した自社展示会に訪問させていただきました。エントランスを抜け目の前に広がるメインスペースにて、今回取材した3つの新しいファッションテック事業が堂々とお披露目されていました。印象的だったのは、同社の「若手社員のチャレンジを積極的に応援する社風」と、若手社員の一人ひとりが、先頭に立ってお客様を迎え、サービス説明を丁寧に行っている姿です。アパレル総合商社が展開する多種多様な企画やサービスが集う会場に、活気と一体感が生まれていました。

 取材の中でも、3名がそれぞれご自身の言葉で、真剣にサービスへの思いを紡いでくださいました。共通していたのは「ファッション業界を支える商社として、新規事業を成功させ、お客様のビジネスに貢献したい」という使命感です。その主体性溢れるエネルギーに、編集部もたくさんの刺激をいただきました。今後、AIの発展とともにさらに進化していく同社のファッションテック事業が、業界にどのような変革をもたらしていくのか、期待と注目です。 《AIL編集部 小川》


取材協力

タキヒヨー株式会社
コーポレートサイト https://www.takihyo.co.jp/

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執筆者

  • 小川 祐佳|Yuka Ogawa

    APPARELWEB INNOVATION LAB. コンテンツディレクター

    おがわ ゆか●1990年、北海道出身。横浜市立大学国際総合科学部卒。繊維専門商社、PR・広告企業での法人営業職を経て2020年アパレルウェブ入社。企業経営層に向けビジネスヒントを発信する法人会員制サービス「アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)」にて、セミナーイベント、オウンドメディア編集、企業取材など、コンテンツ企画運営業務全般を担う。

  • APPARELWEB INNOVATION LAB.|アパレルウェブ・イノベーション・ラボ

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