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【本日発売開始!】 “A Little Better, Never Perfect”「CAMPER」が切り拓く地球環境課題への新たなアプローチ プレイフルな新カスタマイズシューズ「ROKU」【AILイノベーションノートVOL.10】

AIL編集部
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 会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。

 第10回でご紹介するのは、スペイン、マヨルカ島発の老舗シューズ・バッグブランド「CAMPER(カンペール)」の国内販売・マーケティングを手がけるカンペールジャパン。同ブランドでは「A Little Better, Never Perfect(少しずつより良く、でも完成のしない旅)」をスローガンに、地球環境に最大限配慮したデザイン性の高いオリジナル製品を展開しています。

 今回は、2024年3月8日(金)に新たにローンチしたカスタマイズシューズ「ROKU(ロク)」のブランド誕生背景と狙い、そして創業時から地球環境と向き合ってきた同社のサステナビリティに関するアプローチについて、EコマースDiv. EコマースTeamマネジャー 加藤 謙介氏にお話を伺いました。

 

新作カスタマイズシューズ「ROKU(ロク)」を手にする加藤氏

加藤 謙介氏
カンペールジャパン
EコマースDiv. EコマースTeamマネジャー


かとうけんすけ●1979年、岐阜県出身。神奈川大学外国語学部スペイン語学科卒。学生時代よりスペインに興味を持ち、「CAMPER」が2003年にアジア初の直営店を、日本の旗艦店としてオープンする際にオープニングスタッフとして入社。店舗を経て2011年より現E-Commerce Div.に所属。

 

「CAMPER」公式サイト https://www.camper.com/ja_JP
「ROKU」日本公式ページ https://www.camper.com/ja_JP/roku

  >>>その他のイノベーションノートトピックはこちら<<< #AIL編集部独自取材

日本とヨーロッパの差を痛感

1975年の創業以来、「CAMPER」では数多くのサステナブルなアプローチを行っておりますが、カンペールジャパンのこれまでの取り組みで印象的なことは何でしょうか?

加藤氏:

 「CAMPER」はこれまで、ブランド発祥の地であるスペインのマヨルカ島に広がる豊かな自然環境と共生し、その変化や環境問題に対する危機感と当たり前に向き合う中で成長してきました。今でも創業の地であるマヨルカ島に本社を構えながら、世界中のさまざまなマーケットで「CAMPER」のプロダクトを販売しています。ヨーロッパは日本と比べて環境問題への意識が非常に高いですが、その中でも弊社は先駆的な企業であり、一昨年にB Corp認証も取得しています。

 我々が日本でカンペールジャパン社(旧ピナ社)をスタートしたのは2005年ですが、サステナビリティに関する大きな転機は2015年の「国連持続可能な開発サミット」直後でした。サミットでの「持続可能な開発目標(SDGs)」策定を受けて世界全体が地球環境へ大きな関心を寄せるきっかけになったタイミングですが、同年、スペイン本社も将来的なサステナブルアプローチの目標となる『5か年計画』を策定しさまざまな取り組みを活性化させました。同時に、そこからカンペールジャパンとしての挑戦も始まりました。

「CAMPER」が掲げるビジョン“A Little Better, Never Perfect”

 

 弊社ではバッグの企画生産を行っていますが、ヨーロッパと違って当時の日本では「サステナビリティ」という言葉すらほとんど認知されていませんでした。そのような状況下で、カンペールジャパンにおいてもスペイン本社と同様のプロダクト開発方針に則ることとなり、エコ素材への全面切り替えや、遵守すべき環境ガイドラインが次々と課されました。それにより、国内の企画生産における素材の選択肢やクリエイションの幅が一気に縮小し、生産コストは上昇。サステナビリティに関する知識を猛勉強しながら、まずは素材屋を巡り素材選定を一から見直すところから取り組みました。その間も基準やゴールはかなりのスピードでより高い設定へと変更されます。

 ヨーロッパと日本のサステナビリティに関する意識差を実感しながら試行錯誤をして取り組んだ『5か年計画』ですが、特に最初の1年は課題が山積みで非常に骨の折れる期間だったことを覚えています。

 

なるほど。一方で、日本のマーケットに対しては「CAMPER」の考えるサステナビリティの方針をどのように落とし込んでいったのでしょうか?

加藤氏:

 すごく難しい質問ですね。日本のマーケットではここ2~3年でサステナビリティという言葉が急速に浸透してきましたが、本質的な理解はヨーロッパ諸国に比べまだまだ遅れていると感じます。「CAMPER」がヨーロッパのシューズブランドで初めてエコ・ラベル認証(注1)を獲得したのが1999年で、翌年に「WABI(ワビ)」というモデルを発表しました。ミニマルな概念に近しい日本の「侘び、寂び(わび、さび)」という美意識にインスピレーションを受けた、「構成するパーツを最小限に減らしてモノづくりによる環境への影響や廃棄物を最小限にする」というコンセプトのモデルです。

 現在でこそ、このような考え方は一般的なものになりつつありますが、当時は考え方自体が斬新でした。サステナビリティの本質は非常に奥深く、私自身も日々勉強中ですが、「CAMPER」にはこうした過去の経験とカルチャーが有ります。お客様には店頭やECで製品を通じてブランドの姿勢をお伝えし、「CAMPER」が目指すゴールへと向かう一助を担うことがカンペールジャパンのミッションだと考えています。


(注1)その製品が環境保全の要求事項に適合しているがどうかをラベル表示することにより、明確化するもの。EUの場合、製品がどれだけ環境に優しいかという度合いを評価し、定義された基準を満たす製品に対して特別なラベルを表示することを認めるスキームのことを指す(JETRO参照:https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/05000390/05000390_001_BUP_0.pdf

“A Little Better, Never Perfect”の精神で、小さな一歩でも取り組む

カンペールジャパンの社内では、サステナビリティに関するリテラシー向上やスタッフ教育をどのように進めているのでしょうか。

加藤氏:

 社員や店舗スタッフへの教育も常に取り組むべき課題ですが、まだまだ不十分だと考えています。お客様に自分の言葉で製品を説明するためには、製品知識に加え、環境問題に対する理解も必要です。加えて、スペイン本社の取り組みや基準は年々アップデートされ、そのスピードも非常に速い。これを各スタッフレベルにまで浸透させるという点は、今後の我々の大きな課題でもあります。

 現在はシーズン毎の新商品が発売されるタイミングで、社員や店頭スタッフに向けて動画で製品やサステナビリティの重要なポイントを解説しています。また、コロナ禍で店舗接客が制限された際には、「CAMPER」の取り組みや環境問題についてまとめた資料を作成して店舗スタッフへ配布したり、本社で小規模プロジェクトを立ち上げてごみ箱の削減やペーパーレス化なども推進しました。小さな事ではありますが、ごみの廃棄問題と日頃から向き合う意識を持てるような環境を整える事によって、スタッフのちょっとした意識変化が生まれたと思っています。

 もちろん、スペイン本社では製品以外の分野でも大規模な取り組みが進んでいます。例えば、スペインとドイツの店舗及びオフィスのエネルギーはグリーンエネルギーへ切り替えが完了していますが、それ以外にも2010年から行っている風力発電と太陽光発電への投資によってスペインの2,000世帯に電力を供給しています。「CAMPER」では、“何も行動を起こさないより、まずは一歩ずつ前進”という精神で、現在も継続してさまざまな取り組みを行い、地球環境問題の改善に取り組んでいます。

「CAMPER」の風力発電

靴の廃棄問題への新たなアプローチ「ROKU」

新たなカスタマイズシューズラインの「ROKU(ロク)」が企画された背景には、どのような環境課題があるのでしょうか。

加藤氏:

 環境問題に対する我々の取り組みは非常に多岐に渡りますが、その一つに「ウェイスト(廃棄)マネジメント」があります。具体的には、靴は世界中で年間約240億足生産され、廃棄時にはその大部分が正しい処理をされずに埋め立てられているという廃棄問題があるのですが、「CAMPER」ではその根本原因となる「分別」にアプローチ。一般的に靴は複数のパーツを組み合せて完成しますが、特に靴底は最も力がかかる箇所のため、アウトソール(注2)とアッパー(注3)が強力な接着剤で接合されているケースがほとんどです。そのため、靴を廃棄する際はそう簡単に剥がして分解することができません。

 本来ならば単一素材としてリサイクルできるパーツが、分解できないがゆえに焼却か埋め立てにより処分されてしまう。これらの現状と靴の廃棄課題に対して警鐘を鳴らし、課題解決へのアプローチを示す我々の一つの提案が「ROKU」です。


(注2)「ソール(底)」とは、足を支える土台部分の総称で、中でもアウトソールは靴底の地面に着く、靴の底部を保護する部分を指す
(注3)「アッパー(甲)」とは、靴底を除いた上部分を指す。甲、腰、かかと部分の総称

 

カスタマイズシューズ「ROKU」のイメージ

 

なるほど。課題解決に向けた具体的なアプローチを含め、「ROKU」の特徴をお聞かせください。

加藤氏:

 「ROKU」は日本語の数字の「6」から着想した商品名で、リサイクル素材を使用しつつ、かつ使用後にさらなるリサイクルが可能なように6つの単一素材によるパーツで構成されているシューズです。製造工程においては、CO2(二酸化炭素)の排出を最大限削減するとともに、各パーツの型に樹脂を流し込み成型する技法を採用しており、素材のロス(廃棄物)を出すことなく製品生産を実現しています。

 最大の特徴は、6つのパーツを組み合わせる最終段階において、靴の廃棄課題の原因となる接着剤を一切使用せず、ロープとゴムで組み上げるシステムを採用していることです。それにより、6つの全てのパーツを分解し、単一素材としてリサイクルに回すことを可能にしています。このパズルのようなシューズデザインにより、パーツごとに色や柄をカスタマイズしてオリジナルの一足を楽しめます。また、デザイン性だけでなく、一部のパーツに故障や汚れが生じた場合にはそのパーツを交換することで永く着用いただけます。

 「ROKU」には、前述した人気シリーズ「WABI(ワビ)」のコンセプトや形状が反映されています。新進気鋭のチェコ出身のデザイナーによる企画で、単なる靴屋としてではなく、「CAMPER」が見据えるブランド方針を製品に落とし込んだ、プロダクトデザイナーならではの新鮮で素晴らしい発想だと思います。従来は当たり前に使用されていた靴の接着剤による廃棄問題に対して根本からアプローチし、靴としての機能はキープしながらも、カスタマイズという形で「CAMPER」が大切にする「プレイフルさ」を実現しています。「ROKU」を通じて、一人でも多くの方に靴の廃棄問題を知っていただき、課題解決への一歩を積み重ねていければと思います。

「プレイフル」と「コンフォート」の両立を強みに ブランドの魅力を“正しく”日本に広める

ローカライズの観点を含めて、今後のブランド展望をお聞かせください。

加藤氏:

 日本のマーケットへのローカライズは重要であり日本独自のコラボ企画等もありますが、大きな方針としては、スペイン本社が先導する新しい取り組みをまずは“正しく”日本のマーケットに伝えることを最重要視しています。「CAMPER」の強みと魅力は「プレイフル」と「コンフォート」の両立です。特に「プレイフル」という言葉はブランド創業時から大切にしてきたもので、毎シーズンリリースされる靴やバッグのプロダクトデザインには、ウィットに富む遊び心を散りばめています。機能的なシューズブランドは多くありますが、「プレイフルさ」を併せ持っている所は多くない。それが我々「CAMPER」の強みだと思っています。オンライン展開に関しても、本国が発信するサステナブルな取り組みを、日本で未実施の場合でも「CAMPER」の取り組みとして紹介していきたい。また、商品切り口でも同様に「CAMPER」が目指す方向を示していきたいと考えています。

 また、もちろんですが、売上も追求していかねばならない。売上拡大には認知拡大が必要ですので、まずは「CAMPER」を知っていただき、「CAMPER」が目指すストーリーをお客様へ伝達することに注力していきたいと思います。

 私たちのサステナビリティに対するアプローチは、「A Little Better, Never Perfect(少しずつより良く、でも完成のしない旅)」という観点に基づいています。少しずつ改良し、前進し続けることに意義があるという信念です。『5か年計画』は2021年を最初の目標として掲げていましたが、同時に継続的なアプローチを追求し続けるという企業姿勢を意味しており、現在も新たなゴールに向けて取り組みが続いています。スペイン本社との懸け橋として、環境問題に対する「CAMPER」の方針や意識を日本国内に向けて正しく伝えていくことが、今後もカンペールジャパンの使命だと考えています。

【編集後記】おわりに

 新カスタマイズシューズ「ROKU」の日本発売日と同時に取材トピックを公開しました! 皆様、「ROKU」公式ページは必見です! 仕掛けがふんだんに散りばめられ思わずスクロールせずにはいられない、しかし、しっかりとブランドコンセプトが伝わってきます。スクロールする度にまるでオンライン上でシューズをカスタマイズしているような疑似体験ができます◎

 今回は、カンペールジャパン本社のショールームの一角で、代表取締役社長の坂下氏とEコマースマネージャーの加藤氏にお話を伺いました。スペイン本部の先駆的なサステナビリティ方針が日本に求められるようになってから約9年目を迎える同社。素材集めにゼロから尽力し、現在に至るまで、日本におけるサステナビリティの浸透の礎を築くために奮闘してきた坂下氏。そしてその右腕として、店舗やEC事業を支える”ミスターカンペール”こと加藤氏。お話を聞く中で印象的だったのは、前向きでフレンドリーな社風と、”カンペール愛”。まさにブランドビジョンの「A Little Better, Never Perfect(少しずつより良く、でも完成のしない旅)」を体現している、そんな集団だと感じました。

 一方、スペイン本社のあるマヨルカ島は豊かな自然に溢れ、時間がすごくゆったりと流れる良いところですよ、とお聞きしました。「CAMPER」は島や住民とともにグローバルに成長し、コロナ禍では休止してしまったものの、世界中でワークショップを開催し、次世代のデザイナーの育成にも取り組む企業だといいます。優秀者はマヨルカ島に招待してもらえるそう。サステナビリティとは決して一時のトレンドではなく、生活に根付かせるべきもので、かつ次世代に向けてあらゆる形で継承していくための重要な概念なのだと「CAMPER」のストーリーを聞いて再確認した取材でした(AIL編集部 小川)

 


取材協力


カンペールジャパン
EコマースDiv. EコマースTeamマネジャー 加藤 謙介氏
https://www.camper.com/ja_JP
 

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