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“ライブ感”ある接客でタッチポイントを増強 アルビオンが実践する次世代のAIオンライン接客【AILイノベーションノートVOL.13】

AIL編集部
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 会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。

 第13回でご紹介するのは、「PAUL&JOE(ポールアンドジョー)」「ANNA SUI (アナスイ)」の公式オンラインストアを運営する、化粧品メーカーのアルビオン。2022年より1to1接客をECで実現させるチャットツール「チャネルトーク」をオンラインストアに導入し、さらに今年4月には同サービスに実装された生成AI 「ALF(アルフ)」の活用を開始。オンライン接客におけるAI活用の成果や展望について、同社の国際ブランド営業部 国内推販グループ グループ長の榊原 隆之氏にお聞きしました。

榊原 隆之氏
株式会社アルビオン
国際ブランド営業部 国内推販グループ長


さかきばらたかゆき● 1967年、愛知県出身。南山大学イスパニア科卒。1991年入社以来営業として全国の化粧品専門店、百貨店の営業を担当。現在は「アナスイコスメティクス」「ポール&ジョーボーテ」の国内販売の責任者。2018年から同ブランドのブランドサイトの立ち上げから運営も担当し、コスメのみならずファッション、ファッション小物までも販売している。現場営業、EC の組立、CS まで担当は幅広い。
 
アルビオン コーポレートサイト https://rashisa.albion.co.jp/
「PAUL&JOE」公式オンラインストア https://www.paul-joe-beaute.com/
「ANNA SUI」ジャパン公式オンラインストア https://annasui.co.jp/

 

>>>その他のイノベーションノートトピックはこちら<<< #AIL編集部独自取材

 

2024年下半期に数々のベストコスメを受賞した「PAUL&JOE(ポール&ジョー)」の人気商品
「モイスチュアライジング プライマー」(「PAUL&JOE」公式オンラインストアより)

効率化よりも気軽なタッチポイント増加を目指す

オンライン接客において、チャットツールを導入した前後では、お客様からの問い合わせ内容や顧客満足度においてどのような変化がありましたか?

榊原氏:

 従来は電話とメールで問い合わせ対応を行っていましたが、2年程前にチャットツールを導入し、お客様とよりカジュアルなコミュニケーションが取れるようになりました。中でも、圧倒的な変化としては、商品の「購入前」の相談件数が増えたことです。従来、メールによる問い合わせでは、商品に対する具体的な質問が多かったのですが、チャットでは、購入したい商品が定まっていない方からもよく質問をいただきます。メールや店頭での相談には一定の心理的ハードルを感じる方もいますが、チャットは必ずしも購入を前提としない”気軽さ“が好まれていると捉えています。自動化や効率化が当初の導入目的ではなく、お客様とのタッチポイントの増強を重要視していましたが、結果的に、問い合わせ件数は大幅に増加。現在では、問い合わせの大半をチャット経由が占め、新規顧客層の開拓や販売促進にも繋がっています。

 一例を挙げると、漠然とした興味でチャット問い合わせを利用したお客様が、スタッフとの対話を重ねる過程で購買意欲が高まり、「今から店舗へ行って購入します」という展開に発展したこともありました。

チャットツールの効果測定にあたっては、どのような要素や指標(KPI)、評価基準を設けていますか?

榊原氏:

 定性的にはなりますが、チャットツールに対して最も導入価値を感じている点は、お客様とブランドの距離感が格段に縮まったという実感です。評価に関しては、対応件数などの数値的なKPIは重視していません。現在は2名のスタッフで時系列順に問い合わせに対応している状況で、個々の対応件数にさほど差異は生じていないため、個別の対応件数ではなく、オンライン売上全体を評価指標として採用しています。チャットサポートを担当するスタッフは、全員が店頭での販売経験を持つ美容部員です。そのため、チャットを通じてお客様の購入に繋がった際は、何よりも大きな喜びを感じております。

お客様の“購買熱”を冷まさない AIが拓く新たな接客の形

 

10:00-17:00 の有人対応チャットには「AI に聞いてみる」という選択肢が登場(「PAUL&JOE」公式オンラインストアより)

 

これまで、“実店舗のようなオンライン接客を目指してきた”中で、なぜAI 導入に至ったのでしょうか?

榊原氏:

 当初は CS担当スタッフや私自身、現場での効率化を目指してはいなかったため、AI導入にはどちらかというと否定派でした。ただ、スタッフと話す中で、実際は夜間にオンラインで買い物をする人が多いのではないか、という話題が上がりました。一方で、仕事や家事が終わった後のリラックスタイムは有人チャットの営業時間外であることが多く、仮にお客様がオンラインで商品に関する質問をしたいと思った場合、回答に時間がかかってしまうという課題もありました。そこで、24時間問い合わせ対応をすることで、お客様の「熱量が高まっている瞬間」を逃さず、コミュニケーションの空白時間を解消できるのではないかと考え、AI導入に至ったのです。問い合わせ対応においては「ライブ感」を重要視していますので、そうした意味で、AI活用は最適解の一つではないかと考えています。

実際のお客様の AI チャットの活用状況はいかがでしょうか?

榊原氏:

 現在導入して3か月程が経ちますが、問い合わせの6割の方が回答者にAIを選択しています。さらに、AIを選択するお客様が増えた結果、AI導入前と比べ、問い合わせ件数は倍増しました。それにより、お客様とのタッチポイントは好調に増加しながらも、有人対応件数は減少しているため、AIはCSスタッフの一員という位置付けで良いサポート体制を築けています。

 さらに特徴的な変化は、お客様ご自身が「AIに聞いてみる」という選択肢を選んでいることです。ここ最近のAI技術の浸透により、AIに対する抵抗感の少ない方が増え、より気軽に問い合わせができる選択肢として、メリットを感じてもらえているのかもしれません。また、質問内容や時間帯によっては、AIのほうが有人回答よりも圧倒的に早い場合がある、というのも選択理由の一つだと思います。

■AI チャットへの実際の問い合わせ例①
「購入前」の質問が寄せられている

■AI チャットへの実際の問い合わせ例②
AI による人間味溢れる表現での回答が見受けられる

                               (アルビオンより提供)

評価は100点満点! CSにおける生成AIの良さとは?

一方で、AI導入後の課題があれば教えてください。

榊原氏:

 サービス提供元であるチャネルトークには、AI利用後のコンバージョンを可視化させたいということを依頼しています。AIを利用したお客様のその後の動きをもっと知りたいからです。また本来、真のコミュニケーションとは人と人との間で交わされるべきものだという意見もあります。

 しかし、今回のAI導入を通じて、ブランドとお客様との関係性という観点から見ると、より有効的なコミュニケーションが図れていることを実感しています。かつては、同品質で画一的な接客サービスが重視されていた時代もありました。しかし現在は、同一のお客様であっても、例えば、銀座で買う場合とオンラインで買う場合では異なるニーズをお持ちの可能性があり、それぞれの状況に応じた柔軟な対応が求められています。あらゆるフェーズやチャネルにおいてお客様に満足していただくため、チャットやAIにおいても、そのための仕掛けや仕組みは今後もアップデートしていきたいと思います。

実際にAIを導入してみて、現時点で総合的な評価はいかがでしょうか?

榊原氏:

 先述した課題面などはありますが、AIに対しては100点満点です。特に、法的な制約がある表現をしなくてはいけない場合は、人間が回答するよりもAIの方が安心感があります。逆に、AIの回答に驚かされることが多々あります。

 例えば、先日1年で一番賑わう、クリスマスのアドベントカレンダーの販売イベントがあり、例年、即完売で問い合わせの特に多い時期となっています。そこで、今年は事前にAIでの対応も準備をしておりました。すると、ほとんどのお客様がAIチャットを利用し、有人チャットへの問い合わせが少なかったため、少々寂しく感じたほどです。さらに驚いたのは、有人回答の場合は定型文で回答することも多いですが、AIの場合、内容は同様でも毎回少しずつ表現のニュアンスを変えて回答をしている例が見受けられたことです。ある種、人間より丁寧で、生成AIの良い部分が活きていると思います。有人対応でも瞬時には出てこないようなAIならではの回答を見受けると、AIに学ぶところも大いにあります。

AI チャットへの問い合わせも多かった毎年人気のアドベントカレンダー商品(アルビオンより提供)

 

今後のオンライン接客の展望についてお聞かせください。

榊原氏:

 常にお客様の声に耳を傾けることが重要だと考えています。今回AIを導入し、多くのお客様がAIを選択していただいているという実績から、AIが人から学習することで、最前線で活躍していくような時代がすぐ近くまで来ていることを実感しています。数年後には、あらゆるシーンでAI活用が当たり前となる時代が訪れると思いますし、接客においても、AI利用は広がっていくと思います。チャットやAIを活用し、お客様の想いに寄り添って、より的確なサービスや商品を提供できるよう努めていきたいと思います。

【編集後記】おわりに

 「生成AIで作成してみました!」と、プロフィール画像もAIを活用し提供してくださった“AI高感度”な榊原氏。近年は、生成AIの代表例である「ChatGPT(チャットGPT)」を中心に、AIのB2B・業務利用が進んでいると各方面で耳にします。そうした中で、今回はB2Cにおける生成AI活用の成功例について具体的にお聞かせいただきました。筆者も取材の傍ら、「PAUL&JOE」のAIチャット「ALF」に質問をしてみましたが、気の利いた回答が数秒と待たずに返ってくることはもちろん、その細やかさや質にはかなり感心しました! 榊原氏はじめCSスタッフの方が日頃からAIをチームの一員として、しっかりと”教育している(学習させている)”賜物だと思います。

 榊原氏の取材の中で特に印象的だったのが、導入して数か月の間に、お客様による「問い合わせの6割」で「AIに聞いてみる」が選択され、AIへの問い合わせ件数が全体の問い合わせ件数を底上げしている、という事実。同社の「PAUL&JOE」ブランドが比較的若年層をターゲットとしていることにも起因しているかもしれませんが、AI活用によって、お客様との接点増強だけでなく、問い合わせ内容や対話からお客様の消費行動のヒントが見えてくるという点においても、非常に有効な効果ではないでしょうか。

 一方で、榊原氏が後半で課題として挙げたように、「AI利用後の追客」については、顧客管理全体に関わる改善点として今後の発展が期待できる点です。来店履歴やオンライン購入履歴といった顧客IDとAIチャットツールの利用歴が一元化されることで、さらにお客様一人一人に寄り添った提案やコミュニケーションが実現できるでしょう。そうした最新ツールの導入を通じて、「メールからチャットへ」「有人チャットからAIへ」と、常に顧客目線に立って時代に即した選択肢を用意し、お客様対応の質・スピードの向上にトライし続ける同社や榊原氏の姿勢には、学ぶべきところが多くありました。

 皆様もぜひ、ギフト相談をしてみたい時に、「PAUL&JOE」が展開する「AIチャット」を試してみてください。《AIL編集部 小川》


取材協力

株式会社アルビオン
アルビオン コーポレートサイト https://rashisa.albion.co.jp/
「PAUL & JOE」公式オンラインストア https://www.paul-joe-beaute.com/
「ANNA SUI」ジャパン公式オンラインストア https://annasui.co.jp/

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