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設立50周年のシップス、次なる航海へ “編集力”で切り拓くオウンドリセールの可能性「SHIPS CYCLE MARKET(シップス・サイクルマーケット)」【AILイノベーションノートVOL.15】

会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。
第15回でご紹介するのは、今年設立50周年を迎えた、日本を代表するセレクトショップ「SHIPS(シップス)」を展開するシップス。同社が次なる航海図に描き加えた新たな挑戦の一つが、RaaSモデルを活用した公式オウンドリセール(自社二次流通)事業「SHIPS CYCLE MARKET(シップス・サイクルマーケット)」です。2025年7月1日(火)より運営を開始し、公式サイトでのリユース商品販売をスタートしています。
ファッションの“プロ”が展開するオウンドリセールは、私たちにどのような新しいファッションの楽しみ方をもたらすのでしょうか。事業立ち上げの背景にある勝算や課題、そして今後の展望について、プロジェクトの舵取り役である執行役員 経営企画室 DX本部 本部長の大塚 祐史氏にお聞きしました。
関連トピック:イベントアーカイブはこちら 『ファッション二次流通の新常識!SHIPSと考えるRaaSを活用したオウンドリセールの成功ポイント(2025/5/21開催)』
大塚 祐史氏
株式会社シップス 執行役員 経営企画室 DX本部 本部長
おおつかゆうじ●1996年アルバイトで株式会社シップスへ入社、物流部門に従事。2000年より情報システム部責任者として、基幹MDシステム・CRMシステム・RFID等のシステム導入を牽引。2017年3月より新設の営業推進本部の本部長として、情報システム部・デジタルマーケティング部・CS部を管掌し、自社サイト統合を含むオムニチャネル施策を推進。2022年9月より現職。
「SHIPS」50周年記念特設サイト https://www.shipsltd.co.jp/pages/sp_50th_anniversary.aspx
「SHIPS CYCLE MARKET」公式サイト https://ships-cycle-market.jp
<プレスリリース(シップス)> 公式リユースECサイト「SHIPS CYCLE MARKET」をオープン
<プレスリリース(アパレルウェブ)>「SHIPS」の公式リユースECサイトを株式会社アパレルウェブが構築支援
>>>その他のイノベーションノートトピックはこちら<<< #AIL編集部独自取材
シップスによる公式リセールサイト「SHIPS CYCLE MARKET(シップス サイクル マーケット)」
シップスによる本取り組みのきっかけは、2024年10月、同社代表取締役社長 原氏から「実際に現場を見てきてほしい」と託され、大塚氏がAIL主催のニューヨーク視察研修を通じてオウンドリセールを展開する複数の店舗を訪れたことでした。帰国後、2025年1月にリセールの事業化を決定。4月には従業員から商品回収を開始し、7月1日には公式ECサイトをローンチ。「SHIPS CYCLE MARKET」として、本格的にオウンドリセール事業をスタートしました。本取材では、シップスが描く“ファッションリセール”の未来像に迫ります。
ニューヨーク現地を訪れ見出した、ファッショリセールを手がける意義
オウンドリセール事業を本格化するに至った経緯と、ニューヨーク視察研修で特に印象に残っているエピソードをお聞かせください。
大塚氏:
実は2~3年程前に、一度オウンドリセールの導入を本格的に検討したことがありました。ビジネスとしての重要性は理解していたのですが、当時は私自身の熱量があまり高くなかったことに加え、試算結果も収益性が高いとはいえず事業化を見送った経緯があります。実際、昨年ニューヨークを視察するまでは、リセールに対する印象はその頃のままでした。
しかし、現地の店頭で「ファッションの視点」でリセールが表現されているのを目の当たりにし、古着と新品がミックスされたVMDの楽しさを自身で体感したことで、私の中で一気にマインドが変わったのです。リセール商品が“当たり前”のようにブランド店舗で展開されている様子に強く刺激を受け、「シップスでも取り組むべきではないか」という思いが高まりました。帰国後は、代表の意思と私自身の熱量が相まって、事業化へと踏み切ることができました。
米国のリセール市場を視察する中で、シップスならではのビジネスの勝機や意義をどのように見出されたのでしょうか?
大塚氏:
驚いたのは、米国のリセール店舗では、日本の二次流通業者のように過度な付加価値をつけていなかったことです。いわゆる「プレミア価格」ではなく、当時の販売価格に近い値付けがなされていました。日本では希少性や販売終了品という事実に基づいて高値が付く傾向がありますが、私はその価値基準に疑問を抱いていました。そんな中、米国視察を通じて、「適正な価格で良いものを届ける」ことこそがオウンドリセールの本質的な価値であり、そこに大きな意義があると気付き、非常に腑に落ちたのです。
シップスが手掛けるリセール事業では、大手二次流通業者の手法ではなく、50年間かけて培ってきた“ファッションの価値”を、私たちのフィルターを通じて再定義し、お客様に新たな楽しみ方として再提案していきます。ブランドが設定する適正な価格でお客様にリセール品を届けられるというのは、自社で手掛けるからこそ実現できる一つの大きな意義だと考えています。
画像左:今年設立50周年を迎えた「シップス50周年」ロゴ
画像右:公式リセールサービス「SHIPS CYCLE MARKET」ロゴ
RaaSモデル活用で最少人数かつスピード感ある展開が可能に
事業化を決めてからわずか約6か月でローンチに至った「SHIPS CYCLE MARKET」。スピード感ある事業推進において、特に重要なポイントは何でしょうか?
大塚氏:
最も重要なのは、経営トップの事業に対する向き合い方です。このプロジェクトは単なる損益ではなく、CSR(企業の社会的責任)を含む非財務的な価値―つまり経営者の意思を色濃く反映した事業として位置づけています。そのため、経営陣がその本質的な意義を的確に理解していることが、推進の鍵となりました。
もう一つは、RaaSモデルの活用です。自社にリセールのリソースやノウハウがない中で、Free Standard社による商品回収・査定・値付け・メンテナンス・在庫管理の機能と、アパレルウェブによる販売専用サイトの構築サービスを導入。外部パートナーとの連携によりわずか3ヶ月で社内決裁に至ることができました。
リセールに参入する企業は近年増えていますが、重要なのは「どのようなリセール事業を目指すか」だと考えます。シップスでは、単なる再販にとどまらず「50年のアーカイブを再編集し、ファッションとしてもう一度お客様に楽しんでもらう」ことに重きを置いています。その核を理解・共有できるパートナーと事業を共創できたことも、事業を推進する上での大きなポイントだと感じています。
Free Standard 社の倉庫の様子。プロジェクト担当メンバーで見学を行った(シップス提供)
安心と信頼感が鍵 シップスならではのファッションリセールとは
一方で、社内の巻き込みや体制づくりはどのように進めましたか?
大塚氏:
まず幹部社員や店長に対しては、アパレルウェブ千金楽会長による訪問セミナーを実施し、「なぜオウンドリセールを行うのか」という意義を直接伝えていただき、全員の目線を揃えることを行いました。体制面では、先述したRaaSモデルの活用により、私を含む5名体制でスムーズに立ち上げが可能に。自社の「ささげ」データを有効活用するという観点からDX責任者、EC担当者、サイト開発・運用責任者の3名をアサインしました。さらに現場視点も重視し、自薦の店長スタッフも参加。部門を横断しての体制構築により、それぞれが普段直接関わる機会の少ないメンバーから刺激を受けながら取り組めています。今後は私と店舗責任者の2名で運用フェーズをリードしていく予定です。
回収した商品のメンテナンス(クリーニング・プレス・しみ抜き)のイメージ(シップス提供)
ささげ(撮影・採寸・原稿)と商品査定のイメージ(シップス提供)
「いかに在庫を確保するか」という商品回収は、リセール事業において重要なステップの一つですが、どのようなアプローチで取り組まれていますか?
大塚氏:
弊社独自の基準に基づき「商品買取」と「委託出品」の二軸で進めています。特に委託出品については従業員を対象とし、商品の市場価値を熟知している従業員自らが納得できる販売価格を設定。販売成立時には「委託者へ販売価格の8 割を還元、残りの2 割を企業収益」とするモデルを想定しています。
回収は不特定多数でなく、従業員やメンバーズクラブ会員といった“ 顔の見える” 範囲で行い、丁寧なメンテナンスを経て次のお客様へ届けることを前提としています。プロジェクトの意義をしっかり理解いただいた上で「不要になったアイテムがあれば、私たちにお預けください」とご案内していきます。周知は、上位4ランクの会員へのメルマガ配信のほか、店頭での声かけや告知も実施。お客様にとっても、安心感や信頼性のある回収ルートの提供は、他社との差別化につながると考えています。
商品一覧ページ
「A:未使用に近い」「B:目立つ使用感なし」といったコンディションの良い商品が多数販売されている
(「SHIPS CYCLE MARKET」公式サイトより)
商品のコンディションは、S・A・B・C・Dのシップス独自の5段階ランクで区分されている
(「SHIPS CYCLE MARKET」公式サイトより)
初年度の売上目標や一定数発生するリユース残在庫への対応については、どのように想定していますか?
大塚氏:
初年度は売上2,500 万円、年間1 万点の商品回収をKPI に設定しています。損益分岐点は2,000 万円と見込み、中長期的に継続可能な経済合理性を重視したラインとなっています。一方で、販売可能率・消化率はいずれも60%と試算。つまり、回収したうちの40%が販売不可、さらに販売可能な品のうち40%が売れ残る計算となり、残在庫は自社でリユース対応する必要が出てきます。小売業にとって在庫問題は生命線であり、経営層も厳しく見る領域ですので、徹底したコントロールは欠かせません。
リサイクルコスト等のリスクがある一方で、売上拡大には、継続的な商品回収が不可欠です。初回は4 月に従業員向けに現金買取を実施したところ、91 件の申込があり、年間目標としていた全体社員の20%である200 名の参加に対し、SS(スプリング&サマー)商品限定だったことを踏まえると良好な滑り出しでした。一人当たりの平均回収数は10 ~ 15 点。今後はスケールアップを図るにあたって、“ ファッションを楽しむ” 体験価値を保ちながらいかに継続的な商品回収を行えるかが課題になっていくと考えています。
50%の新規顧客にリーチできる可能性 “編集力”を強みに新鮮なブランド体験を提供
販売戦略については、どのような顧客ターゲットやアプローチで“リセールの楽しみ方”を伝えていくのでしょうか。
大塚氏:
Free Standard 社の試算によれば、リセールにおける新規顧客の割合は50%に達する可能性があるとされ、これはブランドにとって新たなマーケットにアプローチできる大きなチャンスだと捉えています。
主なターゲットは、プロパー商材と同様の30 ~ 40 代を想定していますが、実は社内向け買取募集では女性従業員の参加率が高く、リセール事業では特に女性顧客を意識した施策が一つの鍵になると考えています。また、販売アプローチでは、単品の訴求ではなく、さまざまな要素を組み合わせたトータルスタイリングがシップスの強みを活かせる手法です。そのため、オンラインではスタイリング要素を盛り込んだコンテンツ展開を行い、店頭では、まさにニューヨーク視察で「BANANA REPUBLIC(バナナリパブリック)」にみた、リッチな空間に古着をさりげなく織り交ぜるといったセンスの光る空間演出を目指していきます。
リセールであっても、シップスならではの“ 編集力” で個々の商品の魅力を引き出し、オンライン・オフラインの両面から丁寧に訴求することで、新鮮なブランド体験を提供していきたいと考えています。
従業員からの製品の買取状況(2025年5月現在、大塚氏登壇資料参照)
シップスが定義するファッションリセールとは?「SHIPS CYCLE MARKET」事業の展望をお聞かせください。
大塚氏:
私たちが目指すファッションリセールは、50 年間培ってきた商品の価値を“ 編集力” で再定義し、新たなファッションの楽しみ方としてリバイバルさせることです。丁寧なメンテナンスや目利きによって、古着に馴染みのない方にも魅力を感じてもらいたい。今後は実店舗やポップアップ展開も視野に入れ、より多くのお客様との接点を醸成し、ブランドの世界観を直接届けていきたいと考えています。
【編集後記】おわりに
2024年10月、AIL主催のニューヨーク市場視察研修で「BANANA REPUBLIC(バナナ・リパブリック)」のソーホー旗艦店を一緒に訪れた際の、大塚さんのショッピングシーンを良く覚えています。店内に入り、新品と中古品がミックスされたコーナーへ訪れるやいなや、率先してビンテージTシャツを手に取り、真剣モードで状態やラベルを吟味されていた大塚さん。その後、実際にそのTシャツを購入し、本取材の際にはジャケットの中に着用してきてくれました!
古着の魅力は、新品にはない「表情」で、“良いものづくりをしていた時代の古着が持つ、今見ても魅力的なデザインや素材の良さ”が発掘の楽しさだと話してくれた大塚さん。“高校生の頃から古着が好きで、現在も古着探しは習慣。特に、「BANANA REPUBLIC」の80~90年代の「サファリ&トラベル」ラインのTシャツのデザインが好きで収集しており、20~30枚くらいは持っている”と、“バナリパ愛”を語ってくれました。実は、大塚さんがニューヨークで購入したTシャツは、すでに持っているデザインとのこと。それでも、古着一つ一つが持つ異なる「表情」や、今の気分にマッチする「サイズ感」に巡り合えた時には購入し、実際に着用して楽しんでいると教えてくれました。
“商品と出会った時の高揚感”や“ファッションのワクワク感”。ニューヨークのリセール売り場で目にした、ファッションのプロが中古品に熱狂するライブ感溢れる様子は本当に印象的でした。「SHIPS CYCLE MARKET」を通じて、そうしたファッションの“原点”ともいえるような喜びやワクワクが実現され、新たな顧客接点・顧客体験が醸成されていくことに期待します。《AIL編集部 小川》
米ニューヨーク「BANANA REPUBLIC」旗艦店のビンテージミックス売場を視察した際の様子(編集部撮影)
取材協力
株式会社シップス
「SHIPS」50周年記念特設サイト https://www.shipsltd.co.jp/pages/sp_50th_anniversary.aspx
「SHIPS CYCLE MARKET」公式サイト https://ships-cycle-market.jp
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