会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。
第16回でご紹介するのは、“誰もが一度は履いたことがある”年間1億足のレッグウェアを生産する、富山発の靴下メーカー、助野。OEM供給にとどまらず、漁師向けの靴下や「寿司そっくす」など、実用性とユニークさを兼ね備えた商品開発や課題解決に取り組んできました。2023年には「それはほんとうに不可能か。」という新スローガンを掲げ、リブランディングを本格始動。“消耗品”から“選ばれるモノ”へ――リブランディングと商品開発の両輪で、靴下の新たな市場創造に挑みます。
創業70周年を目前に、新たなステージへと踏み出す同社の挑戦の背景や想いについて、2025年5月に代表取締役社長に就任した小野剛司氏と、取締役 商品副本部長 兼企画部長の松本 崇氏にお聞きしました。
小野 剛司氏(画像右)
助野株式会社 代表取締役社長
おの つよし●1975年、富山県出身。1998年、助野株式会社へ新卒入社。専門店向け営業業務に長く従事し、東京支店長を歴任。現在はデジタル技術を活用し、業務効率化や組織変革を推進。2025年5月より現職。
松本 崇氏(画像左)
助野株式会社 取締役 商品副本部長 兼企画部長
まつもと たかし●1974年、富山県出身。1997年入社後、本社工場に一年間勤務し靴下製造技術を習得。その後東京店で営業・企画の経験を積み、2009年より東京・富山二か所を拠点として活動。国内外の企画・開発・販売をリンクさせ、新商品開発・イベント対応・販売促進等新たなビジネスを構築すべく活動中。
「SUKENO」コーポレートサイト https://www.sukeno.co.jp/
「SUKENO」公式オンラインショップ https://store.sukeno.co.jp
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「世界を狙うのは不可能か?」―― チャンスを掴むためのリブランディング戦略
助野の新コーポレートスローガン(助野提供)
2024年11月11日、日本靴下協会が設定する「くつしたの日」に、コーポレートサイトのリニューアルを行い、新たなスローガンを掲げています。大々的なリブランディングの推進には、どのような経緯や想いがありましたか?
小野氏:
一見“夢物語”と思われるかもしれませんが、私たちの最大の目標は「SUKENO」ブランドを世界に浸透させることです。現時点では、助野という企業名は業界外では十分に認知されていません。しかし、自動車業界における「TOYOTA」のように、将来的には「レッグウェアといえばSUKENO」と、世界中で誰もが知るブランドにまで成長させていきたいと考えています。今回のリブランディングは、その目標に向けた重要な第一歩と捉えています。
松本氏:
ここ数年、消費者の価値観の多様化や購買行動の複雑化、さらには原材料価格の高騰など、市場環境は大きく変化しています。そうした中で、「果たして助野は世の中の変化に適応できているのか?」という懸念が社内で生まれていました。2025年には新社長が就任し、2026年には創業70周年を控えています。そうした重要な節目がいくつも重なる今こそ、企業として新たな方向性を打ち出すチャンスと捉え、リブランディングに踏み切りました。
目標の設定にあたって、部署横断型の分科会を立ち上げ、約半年かけて各部署から「SUKENOの強み」に関する多角的な意見を集めるプロセスを踏みました。それらを世の中に伝えるメッセージとして表現したのが新スローガン「それはほんとうに不可能か。」です。この取り組みを通じて再認識できたのは、弊社が「多くの価値ある資産を有している企業」だという事実です。特に、揺るぎない自信のある4本の柱(生産力・品質・技術・営業力)は、社員間のディスカッションから生まれた、今の助野を象徴する要素です。これらを、さらに磨いて広げ、社会・世界へと発信していく。そして、選ばれる企業になる。そんな助野の前向きな変化や新たな挑戦が、社会に対する志として共感を呼び、広がっていくことを願っています。
リブランディングの目的は定めていますが、いわゆる「明確なゴールは存在しない」――常に限界に前向きに挑戦し続ける姿勢こそが“助野らしさ”であり、その想いをスローガンにも込めています。
変革を社内に浸透させる インナーブランディングと社員の巻き込み
今回、創業以降初めて企業方針を大きく刷新されたとのこと。転換期を迎える中で、社内への浸透や社員の巻き込みはどのように進められましたか?
小野氏:
正直に言えば、当初は私自身、リブランディングに対して懐疑的でした。というのも、経営幹部や事業部門だけが会社を変革しようと盛り上がり、現場や一般社員との間に温度差が生じているように見えたからです。そこで、年2回の全社会議などを通じて幹部社員から一般社員へ丁寧に説明を行い、粘り強く取り組みを浸透させていきました。すると次第に、社内の会話や報告書にスローガンを意識した言葉が現れるようになり、社員一人ひとりがその想いを理解し、日々の業務の中で体現してくれるようになりました。このような社内の変化を内側から実感できたことは、私にとって非常に大きな喜びであり、組織変革において重要な成果だったと考えています。
松本氏:
2024年には、複数部門の次世代を担う社員がキャスト出演するコーポレート動画を制作しました。出演者自身の言葉で想いを語り、「SUKENO」というメーカーのキャパシティを表現するため、自社工場、ラボ、配送センターなどをドローンで撮影しています。動画をお披露目した社内での事前試写会では、インナーブランディングの一環として国内外の全ての拠点の社員が参加し視聴しました。企画から撮影当日まで苦労も多かったですが、関わった社員全員が喜びと達成感を感じてくれましたし、「SUKENOらしさ」がしっかり表現できたと自負しています。
コーポレート動画視聴はこちら(助野コーポレートサイトより)
ニッチな領域でも挑戦する意義――“本当に必要としている人”に届ける
コーポレート動画からも、モノづくりへの想いやメーカーとしての底力が感じられます。これまで地元・富山の企業と共同開発してきたオリジナル商品についてお聞かせください。
松本氏:
世の中の一歩先を行くには、“すでにあるもの”ではなく、“まだないもの”を生み出す必要があります。弊社では「助野LAB(以下、ラボ)」という研究開発機関を設け、技術担当に加えて企画担当も交え、多角的な視点で商品開発に取り組んでいます。ラボでは各部署、工場、営業の視点から生まれたアイデアを企画に落とし込み、開発から生産までを一貫して行っています。
ラボ企画のオリジナル靴下「寿司そっくす」。
インバウンドや手土産としても人気(助野提供)
代表的なラボ企画が、オリジナルブランド「PESCALLY(ペスカリー)」の開発です。きっかけは「最も過酷な“足元環境”で働く職業は何か?」という問いでした。
富山県は全国有数の漁業県であることから、漁師という職業に着目。そこから富山の新湊漁協のプロジェクトチーム「富山湾しろえび倶楽部」の皆様にご協力いただき、漁師のリアルな足元の悩みを伺ったところ、想像以上の課題がありました。船上では、夏は体感で40度を超え、冬は厳しい寒波に見舞われます。さらに、長靴内が蒸れると「汗冷え」に繋がり、長時間の立ち作業による「足の疲れ」も蓄積。漁業における足元の環境は過酷そのものだったのです。
ラボ企画のオリジナル靴下「PESCALLY」。
スペイン語で“漁業”を意味する“PESCA”と、“味方”を意味する“ALLY”を組み合わせ、
“漁師を助ける”という意が込められている(助野提供)
「登山用など、市販されている機能性靴下は全部試したがだめだった」――それであれば、「世の中にまだ存在しない “最強の靴下”を開発しよう」と挑戦を決めました。実際に早朝3時から漁船に同乗し、漁師の皆様と何度も商品の試作や船上テストを重ねました。そうして完成したのが、サラっとした履き心地で吸水速乾性に優れた、和紙製の「PESCALLY」です。「無理な要望もすべて一緒に実現してくれた」と漁師の皆様から感謝の言葉を貰った時は、船上や開発過程での経験が報われた瞬間でした。
合同企画開発を行った「富山湾しろえび倶楽部」の漁師の皆様が
「PESCALLY」を着用して撮影(助野提供)
“不可能”に挑む開発力――必要とされる限り、つくり続ける
まさに“不可能”に挑戦し、「ニッチな分野でも、必要な人がいる限りつくる。」というスローガンを体現されています。現在開発中のプロダクトにはどのようなものがありますか?
松本氏:
主力商品の一つである着圧ソックス「らく圧」は、開発を開始してから約8年が経ちますが、今もなお進化を続けています。この商品は元々、東京科学大学 臨床解剖学分野 教授の秋田 恵一(あきた けいいち)氏の契約に基づく学術的な指導の下、生まれました。
私たちの商品開発の根底には、「困っている人」「悩んでいる人」「本当に必要としている人」に妥協のない商品を届けたいという強い想いがあります。時代や現場が変われば悩みや課題も変化します。ゴールを一緒に探しながら、常に挑戦し続けること。「らく圧」は実際に使用したお客様から「すごい」「助かった」といったレビューが本当に多く寄せられます。社内でもここまで開発を追求し進化し続けている商品は他にありません。
「履くのは6秒!脱ぐのは3秒!」
足首部分の圧を弱めた構造で楽に脱ぎ着が叶う「らく圧」。
仕事や趣味など日常履きとして着用可能(助野提供)
お客様の声が開発者や営業に限らず会社全体にとって非常に大きなやりがいとなり、次の改良に繋がる好循環が生まれています。そこに辿り着くまでには、「とにかく商品を履いてもらう」ことで地道に実績を積み重ねてきました。看護師や美容師、着圧ソックスに縁のなかった男性作業員など、立ち仕事や足を使うあらゆる職種の方に「らく圧」を試してもらい評価をいただいています。現在では企業単位での導入も進んでいます。
小野氏:
「らく圧」は私にとっても、“当たり前に履くもの”という靴下の概念を変えた特別な商品です。ただ、現時点での最大の課題は、認知が地方に限定されてしまっていることです。高品質な商品開発をしても、都市部ではまだ認知度が上がっていません。だからこそ「本当に必要としている人に届ける」ために、さらなる発信が必要だと強く感じています。今後は認知度向上を最優先事項として注力していきたいと考えています。
美容師コラボの「らく圧」では豊富なカラー展開で
“お洒落と足のケアの両立”が可能に(助野提供)
“常識も、限界も、越えていく” 「靴下」の概念を超える新しい市場創造を目指す
最後に、お二人が描く今後のレッグウェア事業の可能性や展望についてお聞かせください。
松本氏:
これからは、新たな市場の創造を目指しています。ファッション性と機能性を融合させることで、“レッグウェアの域を超えて”新たな付加価値を創出していきたいと考えています。機能性に優れた製品の開発技術や多方面へ展開する製造ラインは整っているので、そうした魅力の発信を強化し、新たなチャネルやアプローチで挑戦を加速させていきます。「限界」も「ゴール」も存在しない――現状に満足することなく、常に時代や社会の一歩先へ挑戦し続けていきたいと思います。
小野氏:
私の原点は「良い商品を必要とする人へ確実に届けたい」という想いに尽きます。「らく圧」の商品開発の一環として実施したアンケート調査では、日本全国から700名もの回答が寄せられ、想像以上に多くの方が「着圧」に興味・関心を持っていることが明らかになりました。こうしたお客様の声を真摯に受け止め、期待に応えるだけでなく、「靴下」の常識を変えていくようなリーディングカンパニーであり続けたいと考えています。
取材にご協力いただいた松本氏(画像左)と小野社長(画像右)
助野が手掛けるさまざまなレッグウェアが並ぶショールームにて(助野提供)
【編集後記】おわりに
今回の取材では、小野社長と松本さんが、ここ数年における助野の変化と進化について“満を持して”語ってくださいました。リブランディングではコーポレート動画の制作や、創業以来初となる企業ロゴの大幅刷新などを実施。今年は小野新社長が就任され、さらに来年度は創業70周年を迎えます。目まぐるしい変化の中で、「大変だった」と率直に裏話を交えつつも、一つひとつの言葉を丁寧に紡ぐお二人の姿勢から、「すべてをチャンスと捉え、立ち止まらず進む」という強い意志が伝わってきました。
コーポレート動画ではドローン撮影を用い、富山の自社工場をはじめとする生産拠点の様子を収録。動画のラストには「奇跡的に撮影に成功した」という本社上空に広がる青空が収められています。“富山から世界へ”と広がっていく、新生SUKENOの挑戦を象徴するような映像が印象的でした。ぜひ皆様もコーポレート動画をご覧ください。快進撃を続けるSUKENOを、アパレルウェブ・イノベーション・ラボは今後も応援し、注目してまいりたいと思います。《AIL編集部 小川》
本社上空に広がる青空が、新生SUKENOの挑戦を映し出す――
ぜひコーポレートサイトからご視聴ください。[動画視聴はこちら]
取材協力
助野株式会社
「SUKENO」コーポレートサイト https://www.sukeno.co.jp/
「SUKENO」公式オンラインショップ https://store.sukeno.co.jp
「PESCALLY」公式サイト https://store.sukeno.co.jp/pages/pescally
「らく圧」公式サイト https://store.sukeno.co.jp/pages/rakuatsu_detail
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小川 祐佳|Yuka Ogawa
APPARELWEB INNOVATION LAB. コンテンツディレクター
おがわゆか●1990年、北海道出身。横浜市立大学国際総合科学部卒。繊維専門商社、PR・広告企業での法人営業職を経て2020年アパレルウェブ入社。企業経営層に向けビジネスヒントを発信する法人会員制サービス「アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)」にて、セミナーイベント、オウンドメディア編集、企業取材など、コンテンツ企画運営業務全般を担う。