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AILイノベーションノートVOL.3|”王道かつ斬新” 機能性と美しさでジャパニーズ・スタイルを革新する ”MATCHA”で世界へ「nana’s green tea」

AIL編集部
AIRVol.65連携記事
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 会員企業様のイノベイティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。

 第3回でご紹介するのは、日本発祥の抹茶を使ったフード&ドリンクの専門店「nana’s green tea(ナナズ グリーンティー)」を運営する「七葉」。

 日本では鎌倉時代から親しまれてきた伝統的な飲み物「抹茶」。2000年頃から、従来は「Japanese Green Tea」として日本茶や煎茶とひとまとめにされていたものが「MATCHA」と英語表記され、2005年には、「STARBUCKS(スターバックス)」が本国アメリカでも抹茶のフレーバーティーラテを発売。健康志向の高まりとともに、現在は世界中で安定した人気を誇っています。

 「nana’s green tea(ナナズ グリーンティー)」は2001年にオープンして以来、代表的メニューの抹茶ラテをはじめ、抹茶スイーツや和風フードメニューなど幅広く提供し、現在国内では約80店舗を展開。2023年1月には、米国シアトル店に続くワシントン州2号店のベルビュー店をオープンし、現在海外では5カ国8店舗を展開する抹茶専門店として世界中で愛されています。

 創業以来、「七葉」が変わらず目指すのは、世界で通用する「ユニバーサルデザイン」。お茶知識ゼロから築き上げたブランドや店舗のこだわりと、今後のデジタル×海外戦略について、代表取締役の朽網(くたみ) 一人氏、営業推進部リーダーの井上 靖子氏、海外事業部のエミー・トン氏に話を伺いました。

 

朽網 一人氏 株式会社七葉 代表取締役

「nana’s green tea」公式サイト https://www.nanasgreentea.com/

―「nana’s green tea(ナナズグリーンティー)」のブランドストーリーとこだわりについて教えていただけますか?

朽網氏:

 お茶に関しては、自分の目で見て舌で確かめ、本当に心から美味しいと思うものを選ぶことを大事にしています。創業当初は、日本茶業界とコネクションがあったわけではなく、京都や静岡中の茶屋を片っ端から回り、関係値を一つ一つ深めながら、自分が納得できるお茶を探してきました。また、「誰もが美味しく飲める抹茶」を展開したいという思いで、生産者や茶屋の方と数十種類もの茶葉や砂糖などのブレンドを試行錯誤し、抹茶ラテを開発するなど、新しい取り組みを行ってきました。生産者や茶屋とともに作り上げてきたのが「nana’s green tea」ですね。

 

春の期間限定商品「桜ストロベリー白玉ラテ」(2023年3月掲載時点)

 

「オンライン限定 桜ギフトボックス」など期間限定フードも展開(2023年3月掲載時点)

”人と人を繋ぐ一番の発信地”である店舗は、社員全員で楽しみながら創る

―「nana’s green tea」では、店舗ごとに外観が異なり、一つとして同じデザインの店舗がないことも特徴的ですよね。店舗や顧客体験へのこだわりをお聞かせください。

朽網氏

 そうですね。スタイルに関していえば、私たちは「変わるもの」「変わらないもの」「徐々に変わってもいいもの」という3つの共通ルールを設けています。例えば、ブランドロゴは「変わらないもの」。しかし、ブランドグラフィックにしている「茶鶴(ちゃつる)」は店舗ごとに少しずつ変えています。

 そして、店舗はその土地の特徴的な景観、橋、建物など地域に根差したさまざまなモチーフを取り入れお店ごとに異なるデザインをしています。“現代の茶室”という一貫したコンセプトのもと、一目見て「nana’s green tea」だと分かってもらえる空間づくりを目指しています。お客様に楽しんでいただくのはもちろんですが、私自身や社員も楽しんで“現代の茶室”づくりに取り組んでいます。

 

ブランドグラフィックの「茶鶴(ちゃつる)」

 

 また、店舗の位置付けとしては、”人と人とを繋ぐ”一番の発信基地だと考えています。顧客体験を向上させていくためには、お客様とのやり取りやコミュニケーションしかない。商品だけではなかなか感動は生まれません。涙が出るほど美味しいものはなかなか出会えないですが、人の言葉は一言で泣けてくることがありますよね。スタッフ一人一人が、店舗空間や商品を通じてお客様に喜んでもらいたいという気持ちをどこまで高められるかが重要で、そのような人材育成を心掛けています。

 

東京・新宿ルミネエスト店の内観

 

埼玉県・グランエミオ所沢店の内観

 

千葉県・ららぽーとTOKYO-BAY店の内観

“海外展開をしていく上での軸はデジタル” 個人の能力を高められる組織を目指す

2023年春にオンラインショップをオープンされますが、DX戦略はどのような構想を描いていますか?

朽網氏

 これだけ情報量が多い時代において、ただ良いものを売っているだけでは生き残れません。コロナ禍の影響もありますが、やはりお客様に届く情報をしっかりと発信しているところにお客様はついてきます。私たちは本物を作っている自信があるので、それをきちんとお客様に伝える活動の一環としてDX戦略を置いています。

 中でも特に、組織づくりを重要視しています。技術はあっても、個人の能力を含めて考えることができる組織体制がなかったら、完遂できない。現場とデジタル部門とを一気通貫させ、チームとして機能させていくことを、私たちのDXの軸としています。海外展開とともに、ようやく今少しずつDX戦略の方向性が見え始め、組織再編に向けて一歩踏み出したところですね。

―いまお話に出ました、「nana’s green tea」の海外展開とデジタル活用について、現場ではどのように取り組んでいるのか具体的に教えていただけますか?

井上氏:

 DX推進という言葉が社内で使われる以前、弊社では2019年から「情報発信」をテーマに業務推進していました。ウェブサイトの変更から始まり、各種SNSアカウントの作成、発信と進めていた矢先にコロナ期に突入し、店舗での対応はもちろんあらゆる変化が求められました。そしてコロナ収束が進む中で、いち早く回復を見せたのが海外店舗だったのです。既存店の売上も非常に良く、また新店も素晴らしい数字を上げています。

 しかし、そこで対応できていなかったのが、日本本部発の海外への情報発信でした。折角「MATCHA」を軸に海外展開できる好機となっていたけれど、言語やスピードが障壁となり“発信していこう”と意気込んだもののなかなかうまくいきませんでした。そこで参画したのがエミーです。彼女とはデジタル発信する情報を一緒に取りまとめ、それを国内外へ分担して発信しています。

 具体的には、海外向けにはエミーが現地の担当者と内容を調整し、国内向けには私のチームでメディアリリースや公式サイト、TwitterやInstagramの各SNS向けに最適化しています。また、海外のオーナー様のケアもエミーが細やかに行い、国内外問わず情報連携ができるようになりました。

 今まではどうしてもデジタルを国内向けとして考えがちだったのですが、海外展開したことで視野が一気に世界に広がり、さらにデジタルとの相性の良さも実感しています。ですので、今後は“海外展開をしていく上での軸はデジタル”となるよう注力していきたいと考えています。

 

米国・シアトル店/ベルビュー店の共通公式インスタグラムより(@nanasgreenteawa

エミーさんという海外視点をお持ちの方が参画したことで、海外展開とデジタル活用の歯車がうまく回りだしたのですね。海外向けの発信やコミュニケーションで大事にしていることは何でしょうか。

井上氏:

 エミーが加わったことにより変化した最大のポイントは、一気にセールスとブランディングの対象が全世界へ広がったことです。今までは「国内でどう売っていくか」に始終していましたが、それが北米、アジアを核とした世界戦略へと変化しました。また、コロナ収束の兆しの中で海外での新規出店の話も増えてきており、エミーが活躍してくれています。

 ECサイトに関して言えば、「店舗での体験を、自宅で再現」という国内のコンセプトをどのように海外店舗のオーナー様へ伝えればよいか、という課題に対しても、エミーが海外オーナー様とのコミュニケーションを円滑に行い、ヒアリングを重ねることで、国内外で一貫したコンセプトの実現が見えてきています。

エミー氏:

 現在、海外はアメリカ、カナダ、シンガポール、台湾、オーストラリアの5か国8店舗を展開していますが、海外のオーナー様とは頻繁にビデオ通話でコミュニケーションを取っています。遠隔でのコミュニケーションだけでなく、海外事業部のチームメンバーが定期的に訪問して現場メンバーの育成とアドバイスしたりすることが大事だと考えています。海外店舗では、SNSの情報発信は基本的に現地スタッフが行っていますが、今春からはコンテンツによりストーリー性を持たせ、ブランドがより伝わる方向性にシフトすべく国内外で一貫して取り組んでいきます。

朽網氏:

 DX戦略はインバウンド施策としての側面も担っています。海外の方が来日した際には「nana’s green tea」に来店する、というポジションを取っていくためにもデジタルを活用した情報発信はとても重要視しています。

「MATCHA」がもつポテンシャルと、ブランドを理解してくれるパートナーの存在を強みに挑む海外展開

―海外展開は、国ごとのリサーチや現地の文化理解が必要で困難なことも多いかと思います。朽網社長が考える成功のポイントはなんでしょうか。

朽網氏

 ほぼ100%の割合でパートナー選びが重要だと言っても過言ではありません。理解あるパートナーと繋がることができれば、ある程度のサポートだけで現地で自走してくれます。もちろん人同士なので、フィーリングも非常に重視しています。例えば、2023年秋にオープン予定の米国・ニューヨーク店は、パートナーのブランドに対する理解がとても深く、会った際にすごく心地良さを感じました。相性の良さを実感できると大体上手くいきますね。

 また、海外における抹茶人気もポイントだと思っています。抹茶は味も美味しく、栄養価も高い。アメリカでは保険料や医療費が高額のため健康に対する意識が高く、予防医学の考え方が日常的にあります。例えば週に1度、コーヒーの代替として抹茶を飲む、という提案だけでも莫大なポテンシャルがあると思います。美味しくて体に良い「MATCHA」としてブランディング展開ができたら面白いですよね。

 

米国・シアトル店の内観

 

米国・ベルビュー店の内観

朽網氏が考える“王道かつ斬新”なジャパニーズスタイル

―アジア、欧米と幅広く店舗展開されていますが、海外マーケティングにおいて特に重視していることは何でしょうか?

朽網氏

 抹茶の茶葉は伝統的な日本の茶葉を使用します。ただ、スタイルは革新的なものにしたいですよね。海外のお客様には「nana’s green tea」が手掛けると、急須や飲み方が格段に変わるんだ、という体験をしてほしい。海外発信を強化していくにあたっては、日本のコンテンツはコンセプトとして持ちながらも、そのまま転用するのではなく、世界中の人たちの共感を生むような革新性を落とし込めないかなと考えています。

―「ユニバーサルデザイン」ということですよね。

朽網氏

 その通りです。実際にお店に訪れたお客様から“これ、ジャパニーズ・スタイルではないじゃないか”と言われるくらいの革新性を目指したいと思っています。そこに機能性と美しさがあればいい。それが“王道かつ斬新”だと考えます。例えば、急須としての役割は果たすけれど美しく革新的な形だとか、紅茶や中国茶、日本茶など何を使っても美味しいお茶が淹れられるという、そういう意味でのユニバーサルさを追求したいと考えています。

 

カナダ・バンクーバー店の内観

―さいごに、朽網代表が描く今後の海外戦略やブランドの展望について教えてください。

 朽網氏

 ECショップ、DXやインバウンド施策は当然進めていきますが、店舗展開も重要な位置づけとしています。今後は、地方の郊外でロードサイド型店舗の展開に注力する予定です。関東近郊でもロードサイド型の店舗展開はやっていきたいですね。

 もう一つの重要軸としては、海外30店舗展開の構想があります。実は、海外1店舗で日本の3〜4店舗分ぐらいの売上があるのです。海外では予算比で約120~125%を売り上げる店舗もある一方で、国内店舗は平均80~90%程度といまだ足踏みしています。この現状を受け止め、先述したロードサイド店といった国内展開を進めつつ、海外展開の両輪で経営を支えていくことを考えています。そして、海外店舗の収益を社員の給与や報酬に結びつけていきます。働く喜びと経済的な喜びの二つがきちんと回らないと、幸せとは言えませんから。

【編集後記】おわりに

 今回は「nana’s green tea」自由が丘店に併設するオフィスにて対面取材させていただき、「七葉」のブランド・店舗へのこだわりや、デジタル×海外展開について「七葉」代表の朽網氏、井上氏、エミー氏にお話をお聞きしました。商品の「本物」を追求し、日本の古き良き伝統を世界で通用する現代の「ユニバーサルデザイン」へと革新していく、”王道かつ斬新”のスタイル。国や文化を越えて「nana’s green tea」が愛される理由には、”本物の味”や”抹茶の美味しさ”といった「七葉」がこれまで一貫して築き上げてきた共感があると、取材を通して分かりました。それはお客様に限らず、生産者や茶屋の方々をはじめ国内・海外の店舗オーナーやスタッフの方々など「七葉」に関わるすべての人たちに根付いているものです。

 2023年春には新たにオンラインショップを、そして秋には米国・ニューヨーク店舗をオープン予定の同社。今後も、海外店舗や国内における「ロードサイド型店舗」という現代のニーズに沿った店舗展開、そしてデジタルを掛け合わせたグローバルな仕掛けに期待していきたいと思います。

 本編では触れられなかった、「nana’s green tea」が誕生するまでの朽網氏の起業ストーリーは後日アナザーストーリーとして更新予定。乞うご期待!


取材協力

株式会社七葉
代表取締役 朽網 一人氏
営業推進部 リーダー 井上 靖子氏
海外事業部 エミー・トン氏
https://www.nanasgreentea.com/

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